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逆ファザコンの呪い

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 くどいようだがフェンガリの本業は研究職である。よろず請負過ぎていて正直自分でもあやしいが、本業はそっちなのである。

 貴族の子弟ならば王都の幼年学校に入る歳に、フェンガリ達姉弟は神殿の学舎行く事を選んだ。姉は嫡子である事を放棄していたし、母もフェンガリも貴族として生きるつもりが一ミリも無かったからだ。

 学舎を終えてからそのまま、フェンガリは女神様の聖神殿に所属して、付属する研究室で魔法陣からポーション、魔道具や御神器まで幅広く修理やら改良とか開発とかする仕事をしてる。

 幼い頃、大嫌いな父親の血を抜きたいと姉と二人で本気で方法を探して、副産物として色々作ってしまった。

 本懐は全く遂げられなかったけど、それらを採用もされた実績のおかげて、フェンガリは今わりと自由に研究開発させてもらえている。とても楽しく趣味と実益をかねた仕事とか天職かもしれぬ。

 そんな姉は、法務局で最年少の風紀課長に就いている。
 たまに監査に同行させて貰えたりすると、めちゃくちゃ男前で格好良い姉上を堪能させて頂けるので、とても嬉しい。

 フィールドワークも嫌いじゃない。ていうか好きだ。正直デスクワーク三日でお外二日週休二日がフェンガリの理想のライフスタイルである。だって飽きるから。

 今回は姉が課長を務める風紀課も参加する、それもあって来月予定の査察の下見の依頼を受け、この辺境の砦まできているのであった。シスコンである。


 フェンガリの家族はちょっとだけ特殊だ。

 最愛の母と姉の三人家族。
 それに母方の祖父母や伯父や叔母夫婦に従兄弟従姉妹と、親族の仲はとても良い。フェンガリ姉弟は、間違いなく愛されて育った。

 特殊なのは父方で、あちらの実家とは絶縁済だ。

 特に父親は五つの時に死んだと思っている。フェンガリの心の中の概念的な父である。

 奴の肉体はまだ生存しているらしいけれど、その実の父親により植え付けられた精神的瑕疵により、出会った瞬間に内臓まで吐くような発作が起きる。

 そんな存在はもはや親とは呼びたく無いだろう。そうなったきっかけのせいで、父方の親族とは絶縁する事になったが、その決断をした母には感謝しかないフェンガリであった。


 今回は調査とはいえ、空いた時間は森に採取に出ていいと言われて、趣味と実益をかねられて最高じゃん、と割とうきうきでやってきたフェンガリである。
しかし。

「想定外です」

 多少の予想はしていたが、なんかそれ以上に酷かった。

 ここ、なんで大っぴら噂になってないの? ああ、優先度下だからか、でもやばいよね、と同行の二人と目を合わせて真顔になる程度に色々と手遅れ感が酷かった。

 フェンガリと共に派遣されたのは二名、それぞれ執行部に騎士団、それからフェンガリの神殿と各部門よりざっくり任務を振られてやって来たのは同じらしい。

 道中宿に泊まれる時ばかりでなかったので、野営の中で同じ釜の飯を囲む感じで親しくなった。二人ともフェンガリより一回りは歳上で家庭を持って子どももいる、良き夫で父親だった。

 父親という響きにフェンガリのトラウマは疼きかけて、二人の善人オーラの前で霧散した。なんというか、今はもうフェンガリの嘔吐スイッチと化した奴と、この人たちを同列に語ってはいけない気がする。

 この他人なのに「お父さん」って呼びたい感じの包容力凄い。

 騎士のカルロは稲穂のような淡い金の髪と優しい茶色の瞳をした、大柄な男で、鍛えられた肉体に少し垂れ目気味の穏やかな目をしている熊みたいな人だったので、フェンガリはすぐに仲良くなった。

 執行部からきたマッツは、昔は大臣の秘書官も務めた事もあるという切れもので、魔術師としての腕もかなりな物らしい。

 短く整えられた黒髪の、文官らしい細身の男だ。落ち着いた見かけに寄らず短気で口が悪い。しかし言葉尻がきついせいで、悪気は無いのがわかればマッツともほどなく打ち解けた。

 マッツの息子はフェンガリと同じ年位だと、道中あれこれ世話を焼いてくる。学園に通う息子と同じ歳のわけないんだけどねーと思いつつ、世話を焼かれるのが意外に楽しくて、あえて訂正しないフェンガリだった。

 そもそも過保護な神殿の皆様が手を回してのフェンガリシフトな人選なのだ。知らぬはフェンガリばかりなのだった。

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