3 / 30
逆ファザコンの呪い
1.
しおりを挟むくどいようだがフェンガリの本業は研究職である。よろず請負過ぎていて正直自分でもあやしいが、本業はそっちなのである。
貴族の子弟ならば王都の幼年学校に入る歳に、フェンガリ達姉弟は神殿の学舎行く事を選んだ。姉は嫡子である事を放棄していたし、母もフェンガリも貴族として生きるつもりが一ミリも無かったからだ。
学舎を終えてからそのまま、フェンガリは女神様の聖神殿に所属して、付属する研究室で魔法陣からポーション、魔道具や御神器まで幅広く修理やら改良とか開発とかする仕事をしてる。
幼い頃、大嫌いな父親の血を抜きたいと姉と二人で本気で方法を探して、副産物として色々作ってしまった。
本懐は全く遂げられなかったけど、それらを採用もされた実績のおかげて、フェンガリは今わりと自由に研究開発させてもらえている。とても楽しく趣味と実益をかねた仕事とか天職かもしれぬ。
そんな姉は、法務局で最年少の風紀課長に就いている。
たまに監査に同行させて貰えたりすると、めちゃくちゃ男前で格好良い姉上を堪能させて頂けるので、とても嬉しい。
フィールドワークも嫌いじゃない。ていうか好きだ。正直デスクワーク三日でお外二日週休二日がフェンガリの理想のライフスタイルである。だって飽きるから。
今回は姉が課長を務める風紀課も参加する、それもあって来月予定の査察の下見の依頼を受け、この辺境の砦まできているのであった。シスコンである。
フェンガリの家族はちょっとだけ特殊だ。
最愛の母と姉の三人家族。
それに母方の祖父母や伯父や叔母夫婦に従兄弟従姉妹と、親族の仲はとても良い。フェンガリ姉弟は、間違いなく愛されて育った。
特殊なのは父方で、あちらの実家とは絶縁済だ。
特に父親は五つの時に死んだと思っている。フェンガリの心の中の概念的な父である。
奴の肉体はまだ生存しているらしいけれど、その実の父親により植え付けられた精神的瑕疵により、出会った瞬間に内臓まで吐くような発作が起きる。
そんな存在はもはや親とは呼びたく無いだろう。そうなったきっかけのせいで、父方の親族とは絶縁する事になったが、その決断をした母には感謝しかないフェンガリであった。
今回は調査とはいえ、空いた時間は森に採取に出ていいと言われて、趣味と実益をかねられて最高じゃん、と割とうきうきでやってきたフェンガリである。
しかし。
「想定外です」
多少の予想はしていたが、なんかそれ以上に酷かった。
ここ、なんで大っぴら噂になってないの? ああ、優先度下だからか、でもやばいよね、と同行の二人と目を合わせて真顔になる程度に色々と手遅れ感が酷かった。
フェンガリと共に派遣されたのは二名、それぞれ執行部に騎士団、それからフェンガリの神殿と各部門よりざっくり任務を振られてやって来たのは同じらしい。
道中宿に泊まれる時ばかりでなかったので、野営の中で同じ釜の飯を囲む感じで親しくなった。二人ともフェンガリより一回りは歳上で家庭を持って子どももいる、良き夫で父親だった。
父親という響きにフェンガリのトラウマは疼きかけて、二人の善人オーラの前で霧散した。なんというか、今はもうフェンガリの嘔吐スイッチと化した奴と、この人たちを同列に語ってはいけない気がする。
この他人なのに「お父さん」って呼びたい感じの包容力凄い。
騎士のカルロは稲穂のような淡い金の髪と優しい茶色の瞳をした、大柄な男で、鍛えられた肉体に少し垂れ目気味の穏やかな目をしている熊みたいな人だったので、フェンガリはすぐに仲良くなった。
執行部からきたマッツは、昔は大臣の秘書官も務めた事もあるという切れもので、魔術師としての腕もかなりな物らしい。
短く整えられた黒髪の、文官らしい細身の男だ。落ち着いた見かけに寄らず短気で口が悪い。しかし言葉尻がきついせいで、悪気は無いのがわかればマッツともほどなく打ち解けた。
マッツの息子はフェンガリと同じ年位だと、道中あれこれ世話を焼いてくる。学園に通う息子と同じ歳のわけないんだけどねーと思いつつ、世話を焼かれるのが意外に楽しくて、あえて訂正しないフェンガリだった。
そもそも過保護な神殿の皆様が手を回してのフェンガリシフトな人選なのだ。知らぬはフェンガリばかりなのだった。
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
本日のディナーは勇者さんです。
木樫
BL
〈12/8 完結〉
純情ツンデレ溺愛魔王✕素直な鈍感天然勇者で、魔王に負けたら飼われた話。
【あらすじ】
異世界に強制召喚され酷使される日々に辟易していた社畜勇者の勝流は、魔王を殺ってこいと城を追い出され、単身、魔王城へ乗り込んだ……が、あっさり敗北。
死を覚悟した勝流が目を覚ますと、鉄の檻に閉じ込められ、やたら豪奢なベッドに檻ごとのせられていた。
「なにも怪我人檻に入れるこたねぇだろ!? うっかり最終形態になっちまった俺が悪いんだ……ッ!」
「いけません魔王様! 勇者というのは魔物をサーチアンドデストロイするデンジャラスバーサーカーなんです! 噛みつかれたらどうするのですか!」
「か、噛むのか!?」
※ただいまレイアウト修正中!
途中からレイアウトが変わっていて読みにくいかもしれません。申し訳ねぇ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる