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アンラッキースケベの呪い

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 お出かけ前につけていけと上司から渡された、ごつい黒縁眼鏡が耳に重い。

 フェンガリの素顔を見た奴は色んな意味で不幸になるから、とか失礼なことを言われて渡されたそれは、紫外線から認識まで阻害できるという地味に優秀な魔道具らしい。

 とにかく色々仕込んであるから絶対はずすな、と上司はともかく姉からもきつく言わているので、くそ邪魔と思いつつ寝る時と入浴以外素直につけていた。

 姉上が言ってたから仕方ないとか。
 シスコンである。

 確かに優れものらしく今も地味に発動しているようだが、フェンガリの存在までは消せてはいない。

 だって、ちんこ立てた男たちが一斉にこっちみてますし、ばっちり合ったままの従兄弟のうつろな目が本気で怖いです。

 え、これ合意だよね?
 合意ならもう俺帰ってよくない?

 虚空に問いかけても帰ってくるのは、男たちの洗い息遣いだけである。うちの女神様は優しいけどスパルタなのだ、知ってた。

 フェンガリはやっぱり無表情のまま、だらだらと汗を流しつつ内心で号泣した。

 埃だらけで半ば物置と化している祈祷室は、最後の司祭が神殿を去るときに、神聖な場を穢されぬように封印を施すきまりの為、女神様の気配は今はないのだが、常なら静謐であるべき空間なのに。

 なんでわざわざここでするのか。
 神聖な場を穢す冒涜的な快感とかそういうプレイなら、あまねくもげれば良いと本気で思う。

 締め切られた室内には、下半身だけ脱ぎ捨てた屈強な男たちの熱気がむんむんと充満して息苦しい。

 宴もたけなわというところらしい、でもこいつらまだ勤務時間内なんですけど注意すべきですか女神様、助けて。でもでもだって、それ俺の仕事じゃなくないですよね? 

 かわらぬ無表情のまま、止まらない汗を拭もせずに、荒れ狂う内心では女神様に泣き縋りついている青年の葛藤は、本能にぎらぎらぬらぬらしている室内の雄の群れには一ミリも伝わっていないようだ。

 このまま目の前に挿入なんて事になったら、どうしたらいいというのか。
 心底見たくないです。

 ああ絶叫したい。

 女神様、もう泣きわめいてもいいですよね、これ。

 本当に常日頃から、よその人の前では表情くずすなと家族、友人、職場の上司はては同僚にまで厳しくしつけられているフェンガリの表情筋は優秀である。

 不必要に大きな黒縁の眼鏡をかけた顔は、幾分青ざめているが、ちょっと顔色悪いですかね、汗ひどくないですか? ぐらいでフェンガリ内心の動揺を隠して凍り付いたままである。

―― 俺頑張ってますよ、女神様。

 その指示は女神様からでなくて、日ごろからとくに煩いのは、魔王より怖いですと恐れられている神殿技術部統括職の部門長からなのだが、今フェンガリの心の拠り所は女神様なのでひたすら女神様を呼んでいた。
 彼にとって日々の祈りの中で、妄想の女神様によしよしされるのは定番の癒しだからである。

―― しかし、これどうしたら正解ですかね、女神様。

 フェンガリは業務遂行の難しさに途方にくれていた。

 つまりこいつらがいる限り、フェンガリの最優先任務である、この祈祷所の開祀ができないからである。

 そろそろ内心で叫ぶのもめんどくさくなってきたフェンガリは、いっそ魔術で追い出すか…… それとも、このまま踵を返して大隊長にちくりに行くかと迷うが、正直どっちもメンドクサイ。

 言っても無駄だしなここのトップ。

 それにしても、ぎんぎんに勃起してしてぐしょぐしょなちんこがひーふー、やだ五本もありますよ。

 その中でも特別でかい一本が、従兄弟の尻の穴に狙いつけてるんですけど、日ごろ付き合いがないとはいえ、血縁の爛れた性生活とか知りたくない。

 しかし姉ともども幼少の頃より望んでもいないこの手の場面での遭遇率は割と高い自覚はある。

 呪われた家系のせいなのか。と心当たりのありすぎる両親の顔が浮かび遠い目をしていたのがいけなかったようだ。

(あ、)

 従兄弟の潤んだ碧眼が、焦点を合わせてこっちを見ている。

――ばっちり目が合っちゃってるんですけど、女神様本当に助けて。
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