朝の贈り物

ソウゴ

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第七章

朝の贈り物

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兄弟達が次々と巣立ち、とうとう床のひなだけになってしまいました。
やはり高く舞い上がる事が出来ず、どうしても壁の上の手すりへ届かないのです。
親スズメは毎日来ていますが、ひなを呼び続ける事しか出来ません。

「何か自分にお手伝い出来ないだろうか…。」

いまさらひなを巣に戻す事は出来ません。
ならばせめて巣の近くにひなを連れて行けたら他の子スズメのように簡単に手すりに飛び移れるのでは?と男は考えました。
そしてこれが本当に最後だともう一度ひなを保護しました。

夜が明け始めたので段ボールの巣箱を本来の巣の下、どうしても届かなかった手すりと同じくらいの高さの所に置きました。
本物の巣よりはかなり低い位置ではありますが、今まで隔てていた障害物となる壁はない高さです。

巣箱の中でひなが鳴き始めると親スズメがすぐに飛んできて巣箱のふちにとまり、ひなを呼びます。
ひなも羽をはばたかせて巣箱のふちへ登ろうとします。
一度よろめいて中へ落ち戻ってしまいましたが、すぐにふちへ飛び移りました。

すると次の瞬間、親スズメが壁の上の手すりに飛び乗るとひなもパタパタっと手すりに飛び移ったのです。

(やった!!今度こそホントにやったぞ!!)

男は心の中で叫びました。


その後は工事の足場の階段を親スズメに導かれながら飛んだり登ったり降りたりと同じ動きをしています。
まるで今までの遅れを取り戻すかのように自由に飛んでいます。
男の目に映るその姿は親子でダンスをしているようにもみえました。

「わぁ…やったな…すごいぞ。本当にすごい…」

ひな、いや子スズメの姿に男は思わず声が出て感動を覚えました。
愛情いっぱいのこの親子の姿を見ることが出来た人間は自分しかいないのだと思うとなんて素晴らしい贈り物を自分に与えてくれたのだろうかととても幸せな気持ちになりました。

人間の時間にすればほんの一、二分の出来事でした。
それでも男の心には先程見られた光景が一生心に刻まれていつまでもそれを思い返すと幸せな気持ちが甦ります。

(ありがとう。素晴らしい朝の贈り物だ。)

それから間もなく親子のスズメは一緒連れ立って元気に空へと飛んで行きました。


それから毎年、春から夏にかけてこのベランダにはスズメが赤ちゃんを産みにやって来ます。
そして今年も元気に巣立っていくひな達を男は幸せな気持ちで見守っています。



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