7 / 7
第七章
朝の贈り物
しおりを挟む
兄弟達が次々と巣立ち、とうとう床のひなだけになってしまいました。
やはり高く舞い上がる事が出来ず、どうしても壁の上の手すりへ届かないのです。
親スズメは毎日来ていますが、ひなを呼び続ける事しか出来ません。
「何か自分にお手伝い出来ないだろうか…。」
いまさらひなを巣に戻す事は出来ません。
ならばせめて巣の近くにひなを連れて行けたら他の子スズメのように簡単に手すりに飛び移れるのでは?と男は考えました。
そしてこれが本当に最後だともう一度ひなを保護しました。
夜が明け始めたので段ボールの巣箱を本来の巣の下、どうしても届かなかった手すりと同じくらいの高さの所に置きました。
本物の巣よりはかなり低い位置ではありますが、今まで隔てていた障害物となる壁はない高さです。
巣箱の中でひなが鳴き始めると親スズメがすぐに飛んできて巣箱のふちにとまり、ひなを呼びます。
ひなも羽をはばたかせて巣箱のふちへ登ろうとします。
一度よろめいて中へ落ち戻ってしまいましたが、すぐにふちへ飛び移りました。
すると次の瞬間、親スズメが壁の上の手すりに飛び乗るとひなもパタパタっと手すりに飛び移ったのです。
(やった!!今度こそホントにやったぞ!!)
男は心の中で叫びました。
その後は工事の足場の階段を親スズメに導かれながら飛んだり登ったり降りたりと同じ動きをしています。
まるで今までの遅れを取り戻すかのように自由に飛んでいます。
男の目に映るその姿は親子でダンスをしているようにもみえました。
「わぁ…やったな…すごいぞ。本当にすごい…」
ひな、いや子スズメの姿に男は思わず声が出て感動を覚えました。
愛情いっぱいのこの親子の姿を見ることが出来た人間は自分しかいないのだと思うとなんて素晴らしい贈り物を自分に与えてくれたのだろうかととても幸せな気持ちになりました。
人間の時間にすればほんの一、二分の出来事でした。
それでも男の心には先程見られた光景が一生心に刻まれていつまでもそれを思い返すと幸せな気持ちが甦ります。
(ありがとう。素晴らしい朝の贈り物だ。)
それから間もなく親子のスズメは一緒連れ立って元気に空へと飛んで行きました。
それから毎年、春から夏にかけてこのベランダにはスズメが赤ちゃんを産みにやって来ます。
そして今年も元気に巣立っていくひな達を男は幸せな気持ちで見守っています。
完
やはり高く舞い上がる事が出来ず、どうしても壁の上の手すりへ届かないのです。
親スズメは毎日来ていますが、ひなを呼び続ける事しか出来ません。
「何か自分にお手伝い出来ないだろうか…。」
いまさらひなを巣に戻す事は出来ません。
ならばせめて巣の近くにひなを連れて行けたら他の子スズメのように簡単に手すりに飛び移れるのでは?と男は考えました。
そしてこれが本当に最後だともう一度ひなを保護しました。
夜が明け始めたので段ボールの巣箱を本来の巣の下、どうしても届かなかった手すりと同じくらいの高さの所に置きました。
本物の巣よりはかなり低い位置ではありますが、今まで隔てていた障害物となる壁はない高さです。
巣箱の中でひなが鳴き始めると親スズメがすぐに飛んできて巣箱のふちにとまり、ひなを呼びます。
ひなも羽をはばたかせて巣箱のふちへ登ろうとします。
一度よろめいて中へ落ち戻ってしまいましたが、すぐにふちへ飛び移りました。
すると次の瞬間、親スズメが壁の上の手すりに飛び乗るとひなもパタパタっと手すりに飛び移ったのです。
(やった!!今度こそホントにやったぞ!!)
男は心の中で叫びました。
その後は工事の足場の階段を親スズメに導かれながら飛んだり登ったり降りたりと同じ動きをしています。
まるで今までの遅れを取り戻すかのように自由に飛んでいます。
男の目に映るその姿は親子でダンスをしているようにもみえました。
「わぁ…やったな…すごいぞ。本当にすごい…」
ひな、いや子スズメの姿に男は思わず声が出て感動を覚えました。
愛情いっぱいのこの親子の姿を見ることが出来た人間は自分しかいないのだと思うとなんて素晴らしい贈り物を自分に与えてくれたのだろうかととても幸せな気持ちになりました。
人間の時間にすればほんの一、二分の出来事でした。
それでも男の心には先程見られた光景が一生心に刻まれていつまでもそれを思い返すと幸せな気持ちが甦ります。
(ありがとう。素晴らしい朝の贈り物だ。)
それから間もなく親子のスズメは一緒連れ立って元気に空へと飛んで行きました。
それから毎年、春から夏にかけてこのベランダにはスズメが赤ちゃんを産みにやって来ます。
そして今年も元気に巣立っていくひな達を男は幸せな気持ちで見守っています。
完
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
ヒメゴト
砂部岩延
ライト文芸
旅先で怪我した鶴を救ったが、代わりに財布を失った。
後日、失くした財布を届けに見知らぬ美女がやってきた。
成り行きから始まった共同生活は順調だ。
しかし、俺はどうしても彼女への疑心暗鬼を拭い切れず――
猫がいた風景
篠原 皐月
ライト文芸
太郎が帰省した実家で遭遇した、生後2ヵ月の姉妹猫、ミミとハナ。
偶に顔を合わせるだけの準家族二匹と、彼のほのぼのとした交流。
小説家になろう、カクヨムからの転載作品です。
陽だまりカフェ・れんげ草
如月つばさ
ライト文芸
都会から少し離れた、小さな町の路地裏商店街の一角に、カフェがあります。 店主・美鈴(みすず)と、看板娘の少女・みーこが営む、ポプラの木を贅沢に使ったシンプルでナチュラルなカフェには、日々ぽつりぽつりと人々がやって来ます。 いつの頃からそこにあるのか。 年齢も素性もわからない不思議な店主と、ふらりと訪れるお客さんとの、優しく、あたたかい。ほんのり甘酸っぱい物語。
九龍城砦奇譚
菰野るり
ライト文芸
舞台は返還前の香港九龍城。
極彩色の洗濯物なびかせながら
飛行機が啓徳空港へ降りてゆく。
何でも屋のジョニーに育てられたアンディは10才。国籍も名字もない。
少年と少女の出逢いと青春を
西洋と東洋の入り混じる香港を舞台に
雑多な異国の風俗や景色
時代の波と絡めながら描く
じゃけぇ
転生新語
ライト文芸
広島の姉弟の話。姉は西暦二〇〇〇年生まれ、弟は七才年下。二〇一一年に両親が死亡。東京に居た姉弟は、広島の親戚に預けられる。その親戚も姉が高校を卒業する頃に死亡。
姉は高校卒業後、就職して弟を育てる。姉は同性愛者。姉から見て弟は、いつも我慢をして何も言わない子だ。姉は弟のために、経済力のある男性との結婚を考えて……
なおアルファポリス掲載に際し、感染病に関する記載を一部、変更しています。この作品は「小説家になろう」とカクヨムで、2022年5月に完結しています。
小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5610hq/
カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817139555055635858/episodes/16817139555055800648
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる