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「っは……あ、ぅ」
「由莉ちゃんすぐイクね。気持ち良い?」
「んっ、ん……っは」
「ねぇ、僕だけになった? 由莉ちゃんの好きな人だれ?」

 耳元で落とされた声に、力無く首を振って否定する。
 何をされても気持ち良いし、何回イッたのかなんて自分でも分からない。
 それでも凪くんは私がイッただけでは満足しないようで、「気持ち良いよね?」「好きな人だれ?」と確認するように何度も聞いてくる。

 連続でイカされても達する直前で寸止めされても、私は同じ答えしか返せないのに。
 そう思いながら私が毎回同じ返事をする度に、凪くんの表情が曇っていった。

「ここまで僕の方に靡く条件揃えたのに、どうしてそこまで頑ななの」
「あ、も……出すのやだ……っんぁ」
「嫌がるのやめて。僕以外求められないようになってるはずなのに、なんで?」
「あ、の時……首輪外して、んっ、気持ち固まってないのに凪くっ……あ、のこと、巻き込んで、ごめんなさ……っ」
「違うんだよ。そういう返事が聞きたくてこんな事してるわけじゃない」
「……っふ」

 言葉を封じるように唇が塞がれて舌が取られる。
 角度を変えて何度も呼吸ごと奪われ、ようやく離れたと思うと同時に、今にも泣きそうな声が目の前で落とされた。

「……好きになってくれないなら、番った意味がない」

 由莉の腕を押さえ付ける手に力が籠り、ぎちりと痛んだ。
 だけど腕なんかよりも、こんな事を言わせてしまった事の方がずっと痛い。

「……ごめん」
「嫌だ、謝らないでよ。僕も謝らない」

 誘発剤を使った事もホテルに連れ込まれた事も、別に謝って欲しいなんて思ってない。
 ただ、私があの時もっとしっかり考えていたらと、そういう後悔は何度もしたから。中途半端な気持ちで巻き込んでしまったことは、謝らないとだめだと思う。
 そう思って何度目になるか分からない謝罪の言葉を口にした瞬間、また律動が再開される。

「あっ、ぅ……はっ」
「謝って欲しいわけじゃない。好きって言って」
「凪く、っん、ぁ」
「早くして。ねぇ、なんで。こんなに出してるのに。まだ僕のこと好きにならないの?」
「わた、わたし、隆一さんと……」
「由莉ちゃん、僕それ本当にいや。やめて。僕だけ好きでいて。なんで駄目なの? 他の男の名前呼ばないで」
「ひぁっ……、ンッ、も……凪くんが満足したら帰……っう、約束……! まだ三ヶ月ある……」

 必死にそう声を出すと、ピタリと凪が動きを止める。
 短い呼吸を繰り返す由莉を見下ろしながら、凪の眉間にぐっと皺が寄った。

「ここで一旦帰ってもまた三ヶ月痛い思いするだけでしょ。そうなるの分かってて、アイツに触られるだけで由莉ちゃんが苦しむだろうなって思って出した条件だよ。なんでまだ続けたがるのかな」

 嘲るように言われた事が、凪の本心なのだろう。
 由莉が苦しめばいいのにという意味ではなく、触られる事を苦しく感じるのだと知ってくれればいいのにと、そういう意味。

 ただ苦しくて痛いだけだったら、凪の言う通りに思ったのだろうか。

「……してる時は痛くても、終わってから思い出したら嬉しくて……もっと、触って欲しいって思った」
「は、なにそれ」
「……うん、なんだろう。上手く言えないんだけど、でも、好きな人が触ってくれなくなるのが、私は一番痛かった」

 言った瞬間、凪の表情が苦しげに歪む。
 深く息を吐いたかと思うとナカにあったモノがずるりと引き抜かれ、伸ばされた親指が優しく由莉の唇に触れた。

「……あんな形で襲ったりしなかったら、もっと違った?」
「へ……」
「別の形で再会して、ちゃんと告白して君の許可取って番ってたら僕のこと選んでくれたの?」

 苦しそうな声で問われて一瞬言葉に詰まったけれど、別の形での再会を考えてみてもやっぱり答えが変わらない。

 隆一さんと出会った後だったら、同じ結果になったと思う。
 好きな人が喜んでくれることがしたいって、私の根底にあったのは、多分ずっとそれだけだった。


 
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