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 三回目のセックスをした四日後に生理がきて、全てを無駄にしてしまった事がやっぱり凄く苦しかった。
 しばらく何も出来なくなるし、報告しなくてはいけないと分かっているけど気が重い。
 頑張って抱いてくれたのにごめんなさい。また引き続きお願いしますって、どういう顔をして伝えればいいんだろうか。

(……おなか痛い)

 生理中特有の鈍痛でお腹が重たい。だけどこの程度の痛みなら、東条さんが辛そうな顔をしているのを見るよりも全然マシだと思う。
 思い返せば、私はずっと東条さんにそういう顔ばっかりさせていた。

 凪くんと番う前の、ヒートに付き合わせていた時から何も変わらない。
 抑制剤を飲んで、本能に抗いながら私のヒートに付き合ってくれていた時もずっと苦しそうな顔をしていたけれど、普通に抱いてもらっている今も同じだ。
 同じどころか、私の反応が悪くなった分、確実に東条さんの精神的な負担は増しているだろう。
 その負担になる行為に、また引き続き付き合ってもらわなくてはいけない。

 深い溜息を落としながら、由莉はトボトボと東条の寝室に向かう。
 由莉が東条の部屋で一緒に眠ったのは、結局一回だけだ。
 事後に触れると由莉の症状が悪化すると知った日から、行為をするしない関係なく別の部屋で寝ることになっている。

 セックスした後じゃなければ、一緒に寝てもそこまで苦しくなったりしないのに。そうは思うけれど、東条なりに気を使っての行動だと知っているから由莉は何も言えない。
 今日寝室に行って伝えることも、生理になってしまったという報告だけだ。

「東条さん、今いいですか?」

 扉越しに声を掛けると「どうぞ」と返事があり、由莉は恐る恐る部屋に入る。
 椅子に掛けたままの東条が顔だけをこちらに向け、触っていたスマートフォンを卓上に置いた。

「何かあった?」
「あ、えっと……生理になったみたいで……」

 それだけで由莉が言わんとしている事は伝わったのだろう。
 本当に申し訳なさそうに報告をする由莉を見ていれば、何を気にしているのかも当然分かった。
 責めるつもりなんてないのになぁと、東条は優しく声を掛ける。
 
「そっか。体調は?」
「え? あ、体調は平気だから、そういう心配をしてほしかったわけじゃなくて……。生理きたって事はできなかったって事だから、終わったらまたしてもらわないといけなくて、その報告です。……ごめんなさい」
「別に由莉が謝ることなんて何もないよ。俺の方こそ、気にさせてごめんな」
「え? ち、ちがいます。東条さんが謝ることじゃない……!」

 そんな返事が欲しかった訳じゃないのに、どうして気にさせるような言い方をしてしまったんだろう。
 慌てて声をあげた由莉に東条は優しく声をかけてくれるだけで、その事が更に罪悪感を募らせた。気を使わせてしまっていると、自分でも痛いほどに分かる。
 
「ねぇ、由莉。少しだけ触っても平気?」
「え、さわっ……?」
「手繋ぐとか、その程度でいいんだけど。いい?」

 じっと見つめられ、その問い掛けに小さく頷く。
 わざわざ聞かれたから、もっとエッチな意味かと思ってしまった。
 手を繋ぐだけでいちいち確認する必要なんてないのに、東条さんは私に対する扱い方が丁寧すぎる。

 指を絡ませてから隣に座るように促され、由莉はそのまま東条の隣に腰を下ろす。
 たったこれだけの接触にも許可がいると思われている自分が面倒臭すぎて、なんだか泣きそうになった。

 こんなに気を使ってくれなくてもいい。
 セックスしている時も、どうせ私は嫌だと感じる事しかできないのだから、もっと適当に扱ってくれたらいいのに。
 丁寧に慣らされても直ぐに挿れても痛いのは変わらないし、一方的に優しくしてもらうだけなのは申し訳なく思ってしまう。
 どうせ善くなれないなら、せめて東条さんだけでも気持ち良くて楽しい方がいい。面倒な前戯は無くして、激しく動いて直ぐにイケた方が東条さんも楽なはずだ。

「あの……」
「うん? なに?」
「あ……その、こんなの確認とる必要ないので、東条さんがしたいと思った事は全部、本当に気にしないでもっとしてください」
「……俺がしたいと思う事なんて、今の由莉には負担になることばっかだよ」
「し、したいと思う事があるなら全然してくれて良いです! 東条さんいつも優しいけどそんなの必要ないから……エッチする時も、あんな丁寧にしてくれなくてもいいです」

 言った瞬間、繋いでいた手が微かに揺れたのが分かった。
 触れたままの東条の手が、離したくないとでも言いたげに先程より強く由莉の手と絡む。

「なんで? 無理させてる事なんて分かってるんだから、せめて優しくしたいって思うのは普通だろ。一回襲った俺が言うのもおかしいけど、好きな子のトラウマになりたくない」
「え……? あの、でも、どういう触り方でも私は変わらないから。せめて少しでも東条さんが気持ち良いやり方の方が嬉しいし、罪悪感少なくて」
「君が罪悪感なんて感じる必要ないし、俺の方はいつも普通に気持ち良いよ。気持ち良くなかったら勃たないし出ない」

 直接的な言い方に納得しそうになるが、面倒な手順を無くした方が絶対に気持ち良いと思う。
 勃たせて出すだけなら、それこそ由莉を慣らす必要なんてない。

「……私は、もっと東条さんが嬉しい事だけしたい」
「じゃあ名前で呼んで」
「へ……?」
「俺は、由莉が恋人っぽいことしてくれるのが一番嬉しい」

 一体何を言ってるんだろうかと思う。
 名前で呼んだところで、別に何かが変わる訳ではないのに。

「出来ない事とか嫌がる事は無理強いしたくないけど、名前呼ぶくらいなら問題ないよね。呼び方変えて?」
「い、今から……?」
「そう、今からずっと。ヒート中にしてた時は俺から言わなくても呼んでくれてたのに、なんでもう呼ばないの?」

 指摘された事が恥ずかしくて、由莉の顔に熱が溜まっていく。
 特に何も言われないから、東条さんにとっては大したことでもなく、何も気にされていないと思っていたのに。
 呼んで欲しいって言われる程度には、している最中に名前を呼ぶことで、少しでも何か感じてくれていたんだろうか。

「……りゅ、いちさん」
「うん、ありがと。それだけで俺は嬉しい」

 そんなわけないって分かってるのに、優しく囁かれた声が脳に届いて溶ける。
 指が絡んだ状態で隣に座っているだけで幸せで、嬉しそうに目を細められるとおかしくなりそうだ。

 隆一さんのためにできる事が何も見つからないまま、また、私だけが嬉しい。

 


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