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せっかく用意してくれた食事も、結局全部は食べられなかった。
ケーキも用意してあるって東条さんは言ってくれたのに、箱から出される事もなく、冷蔵庫に入ったままだ。
「う、っん……まだ全然、症状軽いから。こんな、いいです……、っあ、りゅ、隆一さんは……リビングでゆっくりしてっ、ひぁ……」
「放っておかないよ。馬鹿だな」
夜が深くなるにつれて症状が出始め、最後まで食べ切る前に限界を感じてベッドに逃げた。まだ一人で大丈夫ですと言っておいたのに、私が部屋に戻った数分後に隆一さんも部屋に来る。
タオルと水と着替え。それから軽く食べられる物を、まとめて持ってきてくれたらしい。
いつも通り用意されたものが近くの棚に置かれ、そのまま隆一さんもベッドに上がった。
「ごめんなさ……っん、本当に、ごはんとか、いっぱい準備してくれたのにこんな……残しちゃって……」
「いいよ別に。気にしてない」
「あっ……」
ブラウスの中に差し込まれた手に胸を揉まれ、音を流し込まれるように耳の中を舐められる。
擽ったくてゾクゾクして、クチュクチュと音が響くだけで力が抜けていく。
どんどん息が上がって、夜はまだ肌寒い季節のはずなのに身体が熱い。
「も、脱ぎたい……、あつくて、やだ……っん」
「分かった、脱がせるよ」
「あ……ふっ、んんぅ……」
「かーわいい。まだ胸だけなのに、凄い腰揺れてる」
「だ、って……触り方やらし、も、きもちいい触り方する、っから……」
「は……そうだね」
下から持ち上げるように胸を揉まれ、片胸の先端が指で挟んで転がされる。もう片方の胸は焦らすように先端の周りだけを舐められ、同じように触って欲しくて自分から身体を動かしてしまう。
「も、ちゃんと舐めてほし……いじわるや、だ……おねが、隆一さ、っんや、あ、ひぅ!」
「えっろい顔。こうやって少し焦らされてから舐められる方が好きでしょ」
「あ、ん……っ、う、好き、です……これすき、もっと、っあ、ひぁっ!」
アルファの匂いに頭がくらくらする。
どんどん理性が溶けていく感覚はあるのに止められなくて、恥ずかしい言葉が連続で口を衝いた。
「気持ち、けど、たりない……っも、おなか切な……くて、ほ、ほしいの……」
「ん、もう下いっぱい濡れてる」
「っあ、そこもだけど……でも」
「うん? ここ触って欲しいんじゃないの?」
どうしようどうしようどうしよう。
なんだかいつもより声色が甘い気がして、変な事を口走りそうになる。
私の誕生日だから、多少はサービスが含まれているのだろうか。いつも以上に優しくされている気がして、心臓がずっとバクバクと騒がしい。
「ん……っん、あ、隆一さん……っひぁ、あ」
「うん、何?」
「足りな、っさみしい……なんで」
「なに、どうし……」
「く、びわ……取りたい、くるし、っです」
「は……」
噛んでほしい。
ちゃんと番にしてほしい。
そんな甘ったれた思考で頭が埋め尽くされて、ボタボタと涙が落ちる。
一瞬驚いたように東条が息を呑み、胸に触れていた手が一旦離れた。そのまま親指で由莉の目尻を拭い、涙で濡れた指先で由莉の唇を優しく撫でる。
「して欲しいこと言って、早く」
「っん……」
「欲しいって、君から言ってくれたらなんでもする」
「え……」
東条が由莉の顔の真横に手をつく。そのままぎゅうっと、何かを逃すように強い力でシーツを握りしめた。
まるで今にも泣き出しそうな、必死に何かを食いしばっている表情。
至近距離でそんな顔を向けられ、自分の事しか考えられなかった頭が少しだけ冷静になっていく。
オメガがヒート中に発してしまうフェロモンが、今日は珍しく隆一さんに効いている。
経験したことがないから分からないけれど、噂によるとそれは、何事にも抗えなくなってしまうくらいの破壊力があるらしい。
今ここで番になりたいと。そう言って、本当にさせてしまったらどうしよう。
二年間ずっと嫌がられ、最初のヒートの際に項を隠せとカラーまで贈られたのだ。偶然効果のあった、たった一回の誘惑で、そういう苦労を全部壊してしまったらどうなると思う?
───ちゃんと番になれたとしても、ただそれだけ。
そんなの、更に嫌われる原因にしかならない。
理性なんてほとんど残っていないけれど、欲に任せてなんでも言っていいわけがないのだ。
「りゅ、いちさんの……いれて、ほしい……」
「……俺の、挿れて欲しいの?」
「うん、欲しい……」
「それだけ? 他にはない?」
私が変な事を口走る前に止めて欲しい。もうこれ以上は何も言いたくなくて、ぐっと口を引き結んで何度も頷いた。
今日だけでも、そのまま挿れてくれたら嬉しい。
由莉のフェロモンが効くことなんて、もうないかもしれないのだ。フェロモンが効いているということは東条だって辛いだろうし、セックスしてしまった方がお互い楽になる。
番になりたいって我が儘は我慢したから、このくらいは許されるはずと、そんな言い訳を頭の中で並べたところで東条が口を開く。
「……駄目だ。ごめんね、出来ない」
てっきり、今日は初めて受け入れてもらえるのだと思っていた。
甘い期待をしていただけにダメージが大きくて、思わず大声を出して反発してしまう。
「……っなんでもしてくれるって、言った!」
「挿れて欲しいとか、ヒートで頭働いてないだけだよ。駄目」
「なんで駄目なの? そのくらい、私だって欲しいよ……!」
痴女のような事を言っていると、冷静な状態だったら気付けたはずだ。
しかし今はヒート中で、期待させておいて一気に突き落とされたような状態だった。冷静とは程遠い。
頑なに「駄目」としか言ってくれない事にどんどん腹が立っていき、悲しさと情けなさでボロボロ涙を流しながら東条に縋り付く。
「じゃ、も、キスだけでいいから、して……」
セックス同様、キスだって今まで一度も経験のないことだ。
半分自棄になって出た言葉ではあったが、キスがしたいというのも由莉の本音であることに間違いはなかった。
東条が折れたのか、セックスよりはマシだと思ったのかは分からない。
しかし唇が触れたのは紛れもない事実で、息が触れた瞬間に心臓が騒がしく動き出す。
柔らかく潰されただけで、直ぐに離れた。たった一度押し当てられただけの行為なのに、じわじわと心臓の辺りが切なく締まっていく。
どれだけ機械で掻き回されるよりも、ずっと凄い。時間をかけて乱されるいつもの行為よりも、今の一瞬の方が嬉しくて、ずっと、ずっと満たされる。
「……き、気持ちい」
「は……」
「どうしよ、今のすごい……うれし、」
「っ、黙って」
「え……」
「っ、あー……くっそ、頭おかしくなりそう」
早く一回終わらせよ。
冷たく言い放たれたその言葉に、自分の指先まで一気に冷たくなった気がした。
それ以上ねだっても、もうキスなんてしてもらえず。
ぐちゃぐちゃに濡れた場所に玩具を突っ込まれて何度もイカされ、限界を迎えたと同時に、ぐらりと揺れて意識が沈んだ。
ケーキも用意してあるって東条さんは言ってくれたのに、箱から出される事もなく、冷蔵庫に入ったままだ。
「う、っん……まだ全然、症状軽いから。こんな、いいです……、っあ、りゅ、隆一さんは……リビングでゆっくりしてっ、ひぁ……」
「放っておかないよ。馬鹿だな」
夜が深くなるにつれて症状が出始め、最後まで食べ切る前に限界を感じてベッドに逃げた。まだ一人で大丈夫ですと言っておいたのに、私が部屋に戻った数分後に隆一さんも部屋に来る。
タオルと水と着替え。それから軽く食べられる物を、まとめて持ってきてくれたらしい。
いつも通り用意されたものが近くの棚に置かれ、そのまま隆一さんもベッドに上がった。
「ごめんなさ……っん、本当に、ごはんとか、いっぱい準備してくれたのにこんな……残しちゃって……」
「いいよ別に。気にしてない」
「あっ……」
ブラウスの中に差し込まれた手に胸を揉まれ、音を流し込まれるように耳の中を舐められる。
擽ったくてゾクゾクして、クチュクチュと音が響くだけで力が抜けていく。
どんどん息が上がって、夜はまだ肌寒い季節のはずなのに身体が熱い。
「も、脱ぎたい……、あつくて、やだ……っん」
「分かった、脱がせるよ」
「あ……ふっ、んんぅ……」
「かーわいい。まだ胸だけなのに、凄い腰揺れてる」
「だ、って……触り方やらし、も、きもちいい触り方する、っから……」
「は……そうだね」
下から持ち上げるように胸を揉まれ、片胸の先端が指で挟んで転がされる。もう片方の胸は焦らすように先端の周りだけを舐められ、同じように触って欲しくて自分から身体を動かしてしまう。
「も、ちゃんと舐めてほし……いじわるや、だ……おねが、隆一さ、っんや、あ、ひぅ!」
「えっろい顔。こうやって少し焦らされてから舐められる方が好きでしょ」
「あ、ん……っ、う、好き、です……これすき、もっと、っあ、ひぁっ!」
アルファの匂いに頭がくらくらする。
どんどん理性が溶けていく感覚はあるのに止められなくて、恥ずかしい言葉が連続で口を衝いた。
「気持ち、けど、たりない……っも、おなか切な……くて、ほ、ほしいの……」
「ん、もう下いっぱい濡れてる」
「っあ、そこもだけど……でも」
「うん? ここ触って欲しいんじゃないの?」
どうしようどうしようどうしよう。
なんだかいつもより声色が甘い気がして、変な事を口走りそうになる。
私の誕生日だから、多少はサービスが含まれているのだろうか。いつも以上に優しくされている気がして、心臓がずっとバクバクと騒がしい。
「ん……っん、あ、隆一さん……っひぁ、あ」
「うん、何?」
「足りな、っさみしい……なんで」
「なに、どうし……」
「く、びわ……取りたい、くるし、っです」
「は……」
噛んでほしい。
ちゃんと番にしてほしい。
そんな甘ったれた思考で頭が埋め尽くされて、ボタボタと涙が落ちる。
一瞬驚いたように東条が息を呑み、胸に触れていた手が一旦離れた。そのまま親指で由莉の目尻を拭い、涙で濡れた指先で由莉の唇を優しく撫でる。
「して欲しいこと言って、早く」
「っん……」
「欲しいって、君から言ってくれたらなんでもする」
「え……」
東条が由莉の顔の真横に手をつく。そのままぎゅうっと、何かを逃すように強い力でシーツを握りしめた。
まるで今にも泣き出しそうな、必死に何かを食いしばっている表情。
至近距離でそんな顔を向けられ、自分の事しか考えられなかった頭が少しだけ冷静になっていく。
オメガがヒート中に発してしまうフェロモンが、今日は珍しく隆一さんに効いている。
経験したことがないから分からないけれど、噂によるとそれは、何事にも抗えなくなってしまうくらいの破壊力があるらしい。
今ここで番になりたいと。そう言って、本当にさせてしまったらどうしよう。
二年間ずっと嫌がられ、最初のヒートの際に項を隠せとカラーまで贈られたのだ。偶然効果のあった、たった一回の誘惑で、そういう苦労を全部壊してしまったらどうなると思う?
───ちゃんと番になれたとしても、ただそれだけ。
そんなの、更に嫌われる原因にしかならない。
理性なんてほとんど残っていないけれど、欲に任せてなんでも言っていいわけがないのだ。
「りゅ、いちさんの……いれて、ほしい……」
「……俺の、挿れて欲しいの?」
「うん、欲しい……」
「それだけ? 他にはない?」
私が変な事を口走る前に止めて欲しい。もうこれ以上は何も言いたくなくて、ぐっと口を引き結んで何度も頷いた。
今日だけでも、そのまま挿れてくれたら嬉しい。
由莉のフェロモンが効くことなんて、もうないかもしれないのだ。フェロモンが効いているということは東条だって辛いだろうし、セックスしてしまった方がお互い楽になる。
番になりたいって我が儘は我慢したから、このくらいは許されるはずと、そんな言い訳を頭の中で並べたところで東条が口を開く。
「……駄目だ。ごめんね、出来ない」
てっきり、今日は初めて受け入れてもらえるのだと思っていた。
甘い期待をしていただけにダメージが大きくて、思わず大声を出して反発してしまう。
「……っなんでもしてくれるって、言った!」
「挿れて欲しいとか、ヒートで頭働いてないだけだよ。駄目」
「なんで駄目なの? そのくらい、私だって欲しいよ……!」
痴女のような事を言っていると、冷静な状態だったら気付けたはずだ。
しかし今はヒート中で、期待させておいて一気に突き落とされたような状態だった。冷静とは程遠い。
頑なに「駄目」としか言ってくれない事にどんどん腹が立っていき、悲しさと情けなさでボロボロ涙を流しながら東条に縋り付く。
「じゃ、も、キスだけでいいから、して……」
セックス同様、キスだって今まで一度も経験のないことだ。
半分自棄になって出た言葉ではあったが、キスがしたいというのも由莉の本音であることに間違いはなかった。
東条が折れたのか、セックスよりはマシだと思ったのかは分からない。
しかし唇が触れたのは紛れもない事実で、息が触れた瞬間に心臓が騒がしく動き出す。
柔らかく潰されただけで、直ぐに離れた。たった一度押し当てられただけの行為なのに、じわじわと心臓の辺りが切なく締まっていく。
どれだけ機械で掻き回されるよりも、ずっと凄い。時間をかけて乱されるいつもの行為よりも、今の一瞬の方が嬉しくて、ずっと、ずっと満たされる。
「……き、気持ちい」
「は……」
「どうしよ、今のすごい……うれし、」
「っ、黙って」
「え……」
「っ、あー……くっそ、頭おかしくなりそう」
早く一回終わらせよ。
冷たく言い放たれたその言葉に、自分の指先まで一気に冷たくなった気がした。
それ以上ねだっても、もうキスなんてしてもらえず。
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