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「由莉、24歳の誕生日おめでとう」
「はい、ありがとうございます。なんか、今年は無理かなって思ってたから、普通にお祝いしてもらえて嬉しいな……」
どうしても顔が緩んでしまって、恥ずかしくなった由莉は、表情を隠すように少しだけ俯く。
シャンパンの入ったグラスを持ち上げて乾杯し、お礼を言ってからそれに口をつけた。
あまりアルコールが強くなく、甘くて飲みやすい。
思わず「おいしい」と、思ったことをそのまま口にすると、東条も嬉しそうに表情を緩める。
「良かった。本当は良い店連れて行きたかったけど、仕方ないしね。また日を改めて出掛けようか」
「それも嬉しいけど、誕生日のお祝いなら本当にこれで十分ですよ。むしろ私の都合でこうなったのに、こんなに色々考えてくれて用意してくれたの、凄く嬉しいです」
「それならいいけど。まぁ、せっかくだから近場で何か計画はするか。最近忙しかったから息抜きもしたいし」
その言葉に笑いながら頷き、「それならゆっくりできるところがいいですね」と返事をしてから、前菜のテリーヌを口に運ぶ。
ほとんど取り寄せて温めただけだと東条は言っていたが、十分に美味しくて贅沢な食事だと思う。
今年の由莉の誕生日は、ヒートがくる予定の前日だった。
去年は旅行も兼ねて遠出して誕生日を祝ってもらったが、ヒート期間に外へ連れ出すのは心配だからと言われ、今年はこうやって東条の家でお祝いしてもらうことになったのだ。
誕生日にヒートが被る可能性だってあったし、色々用意しても無駄になったかもしれないのに。
それでも真剣に考えて用意してくれたことが嬉しくて、なんだか少し泣きそうになった。
正式な恋人でもないし、こうやってお祝いすることは義務じゃない。
私を喜ばせても利益になるようなことは何もないのに、婚約者だからと東条さんは色々考えてくれるのだ。真面目で、本当に良い人だなと思う。
これ以上、私から想いを寄せられても困るだけだろうに。恐らく今のところは、取引先への接待と同じような感覚なのだろう。
東条さんは私の好意なんて全く知らないから、こうやって優しく、大事に扱ってもらっている。
いつか終わる関係だとしても、現状これだけ丁重に扱われているのだからもう十分だ。
これ以上を望むのは烏滸がましい。
ここまで重たくなってしまった気持ちを、東条さんに気付かせないようにしっかりと蓋をする。
こんなに良くしてもらっているのに、ここからまたヒートという不快な期間に付き合わせることになってしまうのだ。
してもらうばかりで、本当に何も返せる気がしない。
ヒートなんて迎えずに、このままこうして食事を続けていられたら、東条さんは笑っていてくれるのだろうか。
東条さんのことを考える度、なんだか泣きそうになって、薄っすらと視界が滲む。
予定日は明日だけど、いつ次のヒートがきてもおかしくない。せめて今日くらいは、保ってくれないと困る。
だからヒートになりかけてるなんて、気付きたくないのになぁ。
少しずつ身体が熱くなっているのが、全部アルコールのせいだったらいいのに。
「はい、ありがとうございます。なんか、今年は無理かなって思ってたから、普通にお祝いしてもらえて嬉しいな……」
どうしても顔が緩んでしまって、恥ずかしくなった由莉は、表情を隠すように少しだけ俯く。
シャンパンの入ったグラスを持ち上げて乾杯し、お礼を言ってからそれに口をつけた。
あまりアルコールが強くなく、甘くて飲みやすい。
思わず「おいしい」と、思ったことをそのまま口にすると、東条も嬉しそうに表情を緩める。
「良かった。本当は良い店連れて行きたかったけど、仕方ないしね。また日を改めて出掛けようか」
「それも嬉しいけど、誕生日のお祝いなら本当にこれで十分ですよ。むしろ私の都合でこうなったのに、こんなに色々考えてくれて用意してくれたの、凄く嬉しいです」
「それならいいけど。まぁ、せっかくだから近場で何か計画はするか。最近忙しかったから息抜きもしたいし」
その言葉に笑いながら頷き、「それならゆっくりできるところがいいですね」と返事をしてから、前菜のテリーヌを口に運ぶ。
ほとんど取り寄せて温めただけだと東条は言っていたが、十分に美味しくて贅沢な食事だと思う。
今年の由莉の誕生日は、ヒートがくる予定の前日だった。
去年は旅行も兼ねて遠出して誕生日を祝ってもらったが、ヒート期間に外へ連れ出すのは心配だからと言われ、今年はこうやって東条の家でお祝いしてもらうことになったのだ。
誕生日にヒートが被る可能性だってあったし、色々用意しても無駄になったかもしれないのに。
それでも真剣に考えて用意してくれたことが嬉しくて、なんだか少し泣きそうになった。
正式な恋人でもないし、こうやってお祝いすることは義務じゃない。
私を喜ばせても利益になるようなことは何もないのに、婚約者だからと東条さんは色々考えてくれるのだ。真面目で、本当に良い人だなと思う。
これ以上、私から想いを寄せられても困るだけだろうに。恐らく今のところは、取引先への接待と同じような感覚なのだろう。
東条さんは私の好意なんて全く知らないから、こうやって優しく、大事に扱ってもらっている。
いつか終わる関係だとしても、現状これだけ丁重に扱われているのだからもう十分だ。
これ以上を望むのは烏滸がましい。
ここまで重たくなってしまった気持ちを、東条さんに気付かせないようにしっかりと蓋をする。
こんなに良くしてもらっているのに、ここからまたヒートという不快な期間に付き合わせることになってしまうのだ。
してもらうばかりで、本当に何も返せる気がしない。
ヒートなんて迎えずに、このままこうして食事を続けていられたら、東条さんは笑っていてくれるのだろうか。
東条さんのことを考える度、なんだか泣きそうになって、薄っすらと視界が滲む。
予定日は明日だけど、いつ次のヒートがきてもおかしくない。せめて今日くらいは、保ってくれないと困る。
だからヒートになりかけてるなんて、気付きたくないのになぁ。
少しずつ身体が熱くなっているのが、全部アルコールのせいだったらいいのに。
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