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婚約して初めてのヒートを迎えてから、早いものでもう二年が経った。
仕事にも慣れて後輩だって出来たが、由莉と東条の関係は相変わらずである。
二年の間に大きく変わったことはなく、未だに一度も東条のモノを挿れられたことなんて無いし、最中にキスさえされた記憶がない。
一番汚いところを舐めてはくれるのに、キスは嫌がるのだから悲しくなる。
嫌なら全部やめてしまえばいいのにと思うこともあるけれど、この歪な婚約関係は今でも変わらず続いていた。
近況報告を兼ねた週二回の食事は今でも欠かさず行われているし、ヒート期間は東条の家で過ごす。
ヒートの時に挿れてもらえるのは変わらず玩具と指くらいだが、その扱いに慣れてしまったのか、最初の時ほど東条を求めるような疼きは少なくなった。
いつか我慢ができなくなって、東条の服を無理矢理剥ぎ取り、そのまま自分から上に乗って襲うような真似をしたらどうしようと不安だったから、これは確実に良い変化だと思う。
小さな変化に付け加えると、行為中だけは「東条さん」ではなく「隆一さん」と呼ぶようになった。
外で会う時は相変わらず「東条さん」なのだが、ヒート中は勝手にそう口にするようになってしまったのだから仕方ない。
媚びているようで恥ずかしいのだけど、東条が嫌がらないのでヒート中だけ甘えさせてもらっている。
しかし、これは悪い変化だ。甘えていい関係じゃないのだから、こんな馴れ馴れしい呼び方は本当ならするべきではない。
歪な関係だと、由莉も自覚はしている。
婚約して二年経つのにどうして結婚をしないんだろうとか、まだ番にもなってないなんておかしいとか、色々噂されている事だって知っていた。
由莉だけでなく、東条の方も変に勘ぐられることが増えただろう。
結婚する気がないのなら、早々にこんな関係はやめてしまった方がいい。
そんな事はちゃんと分かっているし、由莉から「婚約やめましょう」と提案した方が、東条も色々と進めやすいのかもしれない。
分かっているけど、それでも。
どうしても、自分からは、手放す勇気が出なかった。
この二年間、好きになっても意味がないと分かっているのに、東条への気持ちが消えることはなかった。
それどころか、少しずつ少しずつ想いは募っていくし、一センチでもいいから私の事を好きになってくれないかなとか、そんな厚かましい事まで考えてしまう。
ヒート中でない時は、一緒にいて楽しいのだ。
東条さんはずっと優しいし、普通に話しているだけで嬉しくて自然と笑ってしまう。
デート中に手を繋いで歩くことも増え、そのくらいの接触なら平常時でも受け入れてくれるのだと思うと、少しは安心した。
人前ではあまりしない、二人きりの時にだけ見せてくれる緩んだ表情が物凄く好きだし、そういう顔を見せてくれる事が純粋に嬉しい。
一応婚約者だからと理由をつけて、誕生日もクリスマスも、イベントごとは東条さんと一緒に過ごしている。
問題なのは、本当にヒート期間だけなのだ。
私は理性が飛んで、東条さんがしてくれる事を受け入れるだけになるし、それに付き合ってくれる東条さんは、ずっと嫌悪が滲んだ表情をしている。
ぐっと眉間に皺を寄せた険しい顔で、極端に溜息の回数が増える。
どれだけ日常で好感度を上げようとしても、ヒートがくる度にそのメーターはゼロどころかマイナスまで落ちるのだ。
好きになってもらうなんて、そんな夢みたいな事があるわけない。
ベータだったら上手くいっていたのだろうかと、そんな風に考えたりもする。
だけどきっと、ベータの私ではスタートラインにさえ立てなかった。
オメガという性を持っていなければ、東条が由莉を認識することさえなかったと思うと皮肉なものだ。
結局、どう足掻いてもうまくいかない。
どういう性であったとしても、東条に好かれる自分なんて想像すら出来なかった。
仕事にも慣れて後輩だって出来たが、由莉と東条の関係は相変わらずである。
二年の間に大きく変わったことはなく、未だに一度も東条のモノを挿れられたことなんて無いし、最中にキスさえされた記憶がない。
一番汚いところを舐めてはくれるのに、キスは嫌がるのだから悲しくなる。
嫌なら全部やめてしまえばいいのにと思うこともあるけれど、この歪な婚約関係は今でも変わらず続いていた。
近況報告を兼ねた週二回の食事は今でも欠かさず行われているし、ヒート期間は東条の家で過ごす。
ヒートの時に挿れてもらえるのは変わらず玩具と指くらいだが、その扱いに慣れてしまったのか、最初の時ほど東条を求めるような疼きは少なくなった。
いつか我慢ができなくなって、東条の服を無理矢理剥ぎ取り、そのまま自分から上に乗って襲うような真似をしたらどうしようと不安だったから、これは確実に良い変化だと思う。
小さな変化に付け加えると、行為中だけは「東条さん」ではなく「隆一さん」と呼ぶようになった。
外で会う時は相変わらず「東条さん」なのだが、ヒート中は勝手にそう口にするようになってしまったのだから仕方ない。
媚びているようで恥ずかしいのだけど、東条が嫌がらないのでヒート中だけ甘えさせてもらっている。
しかし、これは悪い変化だ。甘えていい関係じゃないのだから、こんな馴れ馴れしい呼び方は本当ならするべきではない。
歪な関係だと、由莉も自覚はしている。
婚約して二年経つのにどうして結婚をしないんだろうとか、まだ番にもなってないなんておかしいとか、色々噂されている事だって知っていた。
由莉だけでなく、東条の方も変に勘ぐられることが増えただろう。
結婚する気がないのなら、早々にこんな関係はやめてしまった方がいい。
そんな事はちゃんと分かっているし、由莉から「婚約やめましょう」と提案した方が、東条も色々と進めやすいのかもしれない。
分かっているけど、それでも。
どうしても、自分からは、手放す勇気が出なかった。
この二年間、好きになっても意味がないと分かっているのに、東条への気持ちが消えることはなかった。
それどころか、少しずつ少しずつ想いは募っていくし、一センチでもいいから私の事を好きになってくれないかなとか、そんな厚かましい事まで考えてしまう。
ヒート中でない時は、一緒にいて楽しいのだ。
東条さんはずっと優しいし、普通に話しているだけで嬉しくて自然と笑ってしまう。
デート中に手を繋いで歩くことも増え、そのくらいの接触なら平常時でも受け入れてくれるのだと思うと、少しは安心した。
人前ではあまりしない、二人きりの時にだけ見せてくれる緩んだ表情が物凄く好きだし、そういう顔を見せてくれる事が純粋に嬉しい。
一応婚約者だからと理由をつけて、誕生日もクリスマスも、イベントごとは東条さんと一緒に過ごしている。
問題なのは、本当にヒート期間だけなのだ。
私は理性が飛んで、東条さんがしてくれる事を受け入れるだけになるし、それに付き合ってくれる東条さんは、ずっと嫌悪が滲んだ表情をしている。
ぐっと眉間に皺を寄せた険しい顔で、極端に溜息の回数が増える。
どれだけ日常で好感度を上げようとしても、ヒートがくる度にそのメーターはゼロどころかマイナスまで落ちるのだ。
好きになってもらうなんて、そんな夢みたいな事があるわけない。
ベータだったら上手くいっていたのだろうかと、そんな風に考えたりもする。
だけどきっと、ベータの私ではスタートラインにさえ立てなかった。
オメガという性を持っていなければ、東条が由莉を認識することさえなかったと思うと皮肉なものだ。
結局、どう足掻いてもうまくいかない。
どういう性であったとしても、東条に好かれる自分なんて想像すら出来なかった。
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