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久しぶりの飢えた感覚のない目覚めに、ようやくヒートが終わったのだと、由莉はほっと息を吐いた。
結局、東条が服を脱ぐことも、由莉の項を噛むこともなく終わったヒート期間。
ただ痴態を晒して迷惑をかけただけの四日間のことを、由莉は早く謝りたかった。
こんなことをしても、なんのお礼にもならないかもしれない。それでも、せめて今の自分に出来ることをしようと、由莉はベッドから足を降ろす。
昨日まで酷使していたせいで、本当はまだ身体が重たい。
だけどヒートが終わった後まで東条に甘え、疲れているからなんて言い訳をして世話を任せるわけにはいかなかった。
ベッドから全てのシーツを外し、使っていたタオル類もまとめて抱える。
勝手に使って申し訳ないけれど、これくらいはいいだろう。そんな言い訳を頭の中で並べ、持っていた物をまとめて洗濯機に放り込んでボタンを押した。
お風呂に連れて行って貰うときに、洗濯機の場所を確認しておいてよかったと心底思う。
洗濯機はどこにありますかと質問するためだけに、東条を起こすのは申し訳ない。
リビングやキッチンも、食事をする時に何度か足を踏み入れたし、入室が禁止されている場所ではないので入っていいだろう。
ヒート中は料理する時間も体力もあまり無かった為、そのまま食べられるパンやゼリー飲料、果物なんかが主な食事だった。
きっと、二人で調理して食事をするつもりで東条は用意していたのだろう。冷蔵庫の中には、買ったまま開封されていない食材がいくつも入っていた。
そうだよなぁ、と思う。
普通はこういう食材を使って私が用意して、二人で食卓を囲むと思うよね。一人暮らしで自炊しているって以前話したし、そういう想像をするのは普通のことだ。
まさかそのまま口にできるものしか食べられない状態になるなんて、そんなこと思わないだろう。
幸い、まだ朝の六時である。
東条は自室で眠っているようで、起きてくる気配はない。
せめて最後の朝くらい、ちゃんとしたものを用意しよう。食材を無駄にするのも勿体ない。
とりあえず久しぶりにご飯を食べることにしようと決め、お米を研いで炊飯器にセットする。
朝食らしいメニューを考えながら冷蔵庫から食材を取り出し、味噌汁を作りながら別のコンロで鯖と卵を焼いた。
味噌汁には、痛むのが早そうな野菜と豚肉を適当に切って入れておいた。いつからあるのか分からないけれど、火を通せばまだ大丈夫だろう。
広いキッチンの使いやすさに感動しながら洗い物まで済ませ、東条が起きてくるのを待つ間にソファで一息つく。
こういう普通の同棲みたいなこと、ちゃんと出来たらよかったのに。
性処理という世話をしなくて良い分、普通に動物の世話をする方がまだマシなんじゃないかと思う。
自分がしていたこと、思い出したら泣きたくなってきた。
泣いたところで、東条さんに気を遣わせるだけだから泣かないけど。
ピーピーと洗濯機が仕事を終えた事を知らせ、シーツを干しに行こうとソファから立ち上がる。
両手にシーツやタオルを抱えながら脱衣所から出たタイミング、急に目の前に立ち塞がった人影に、由莉は思わず足を止めた。
「お……はようございます?」
「いきなりこんなことして、身体平気なの?」
この家の中にいる人物なんて、自分を除けば東条しかいない。
おはようの挨拶も返されず、呆れたように顔を歪めた東条に、由莉は無意識の内に一歩後退る。
「ヒート終わったみたいで……もう大丈夫です」
「そう。それならいいけど」
言うと同時に腕の中にあった洗濯物を丸ごと奪われ、そのまま去ろうとする東条を慌てて追いかける。
「あああ、あの、いいですほんと、自分でするので」
「キッチンにご飯まで用意してあったし、急にそんな色々しなくていいよ。君のヒート中にやってたの俺だし」
だから、少しでもその期間の分を挽回するためにやりたいのに。
色々と言ったが結局洗濯は任せてもらえず、由莉が東条を手伝う形で二人で干すことになった。
全て終えてからリビングに向かい、先ほど用意したばかりの食事をテーブルに並べて席に着く。
こうやって向かい合って食事をするのは、ヒートに入る前日以来だ。
ヒート中は行儀悪くベッドでゼリー飲料を飲んだり、ソファで東条に凭れ掛かりながら果物を食べさせてもらっていた。食事の仕方が完全にペットの犬である。
久し振りに人間らしく。
いただきますと手を合わせ、少し気まずい空気の中で食事の時間が始まった。
「美味しい。ありがと、用意してくれて」
「いや、そんな……! 本当に簡単なものだけで、こんなの何のお礼にもならない……」
「そう? 俺は嬉しいけど」
重たい身体を引き摺りながらでも用意して良かったと、由莉は胸を撫で下ろす。
東条にしてもらった事に比べたら、本当に大したことではないけれど、心なしか東条の纏う雰囲気が柔らかいものに変わった。
この空気の中なら、少しは会話がしやすい。
「それで、あの……ヒートが終わったので、今後のことなんですけど」
「……うん。何?」
まだ食事中なのに、嫌なことを思い出させてしまっただろうか。
微かに温度をなくした東条の声に、一瞬怯んでしまいそうになった。
しかし別に怒らせる話をするわけではないからと、由莉はすぐに言葉を続ける。
「次のヒートは自分でどうにかするので、もう大丈夫です」
「は?」
「私の体の都合で東条さんをこんなに長期間縛るのもどうかと思うし、忙しいのは知って……」
「君のヒートに合わせてスケジュールの調整は完璧にしてるし、トラブルがあった時の手配もしてきてる。君が気にする必要はない」
由莉の言葉に被せるように言い切った東条に、番でもない相手にそこまでする必要はないと、思わず言い返しそうになった。
こんな当て付けみたいな皮肉が言いたいわけではないし、喧嘩をしたいわけでもない。
ちゃんと言葉を選ばなきゃ。
「でも……東条さんにあんなのさせるのは、やっぱり嫌だなって……」
「今回は初めてで色々準備が足りなかった。次からはもっと上手くやるから、それでいい?」
「……抑制剤があれば自分でどうにか出来るんです。東条さんが私のヒートに付き合う必要がありますか?」
無理に付き合う必要はないと、気を遣ったつもりだった。
それでも嫌味のような言い方になってしまったのは確かで、絶対に気を悪くしてしまった。
言った瞬間、東条の表情がスッと消える。
「……あのさ、君って俺の婚約者なんだよ。放っておいて、万が一でも他の奴の前でああなったらどうするの?」
痴態を晒すなと、そう言っているのだろう。
まだ番ではないけれど、仮にも私は東条さんの婚約者だ。
あんな姿を誰かに晒したら、そのまま私の恥が東条さんの恥になる可能性がある。
「ちゃんと気を付けるし……迷惑、かけないようにします」
「迷惑なんて俺は一言も言ってないけど?」
「今回のヒートで、東条さんの番になれないって分かりましたし、婚約も東条さんの好きにしてくださって構いませんから……」
「は? 何言ってるの?」
東条さんが好きだから、迷惑になるようなことはしたくない。
婚約だって、番になりたくもないオメガなんかとする必要はないのだ。
私と結婚したところで、東條ホールディングスに利益があるわけでもない。
私はオメガっていう特徴があるだけで、家柄が良い訳でもないのだから。
東条さんだって、好きでもないオメガと結婚するのは苦痛だろう。
「私は、ただオメガってだけで……」
「そうだよ。君は俺だけのオメガで俺の番。だから無いだろ、手放すなんて選択肢」
「……っ」
オメガは希少、優秀な子供を産める胎。
だからきっと、珍しいオメガをただ手放すのは惜しい。
だけど私に対して良い感情を持っていないから、そう簡単に結婚や番という契約を結びたくはないのだろう。
一度番にしてしまったら、色々と面倒が付き纏う。
しばらくは様子見で、その間にもっと良いオメガが見つかったらそっちに鞍替え。見つかるまではとりあえずキープしておきたいとか、そういうことだろうか。
もしかしたら、お前も優秀な跡取りを残せとか、そういった類のことを両親に言われてオメガを手放せないのかもしれない。
婚約が決まるまですごく早かったし、私が知らないだけでそういう裏もあるのだろうか。
社長だって、今後の東條ホールディングスを継ぐ優秀な跡取りは欲しいはずだ。
「……今すぐに、無理矢理どうこうしたいって思ってるわけじゃない。時間をかけたら変わる事もあるだろ。一回だけで勝手に決断出すな」
時間をかけて、東条さんの気持ちが変わることはあるんだろうか。
いくら普段のデートの時に繕っても、ヒートの度に好感度がマイナスになってしまうのに。
番の契約はアルファがオメガの項を噛むことで結ばれる。
アルファが欲しいと思ってくれないと、いくらヒート中に一緒にいたところで番にはなれない。
番になりたいって私から求めるのは我儘だ。
東条さんは時間を掛けて歩み寄ろうとしてくれているんだから、私だって我慢しないと。
今、東条さんに気持ちを伝えても、ただ重たいと思われるだけだ。
「……気持ち変わったら、言ってください」
「君も、思ってることあったらちゃんと言えよ。どうにかするから」
その言葉に曖昧に笑いながら頷いて、完全に冷めてしまった焼き魚を口に運ぶ。
大きな会社の跡取りの番なんて、ドラマみたいな設定なのにね。内心、そんな皮肉めいたことを呟く。
これがドラマだったら、すぐに両思いになってそのまま番になるのだ。
現実のオメガは、あんなに綺麗な女優さんとは違う。
運命の番のはずなのに愛してなんてもらえなくて、ヒートになったらあんな恥ずかしいだけの行為にアルファを付き合わせないといけない。
ロマンチックなことなんて、創作の中にしかない。
オメガに生まれて良いことなんて、やっぱり何にもないんだよ。
結局、東条が服を脱ぐことも、由莉の項を噛むこともなく終わったヒート期間。
ただ痴態を晒して迷惑をかけただけの四日間のことを、由莉は早く謝りたかった。
こんなことをしても、なんのお礼にもならないかもしれない。それでも、せめて今の自分に出来ることをしようと、由莉はベッドから足を降ろす。
昨日まで酷使していたせいで、本当はまだ身体が重たい。
だけどヒートが終わった後まで東条に甘え、疲れているからなんて言い訳をして世話を任せるわけにはいかなかった。
ベッドから全てのシーツを外し、使っていたタオル類もまとめて抱える。
勝手に使って申し訳ないけれど、これくらいはいいだろう。そんな言い訳を頭の中で並べ、持っていた物をまとめて洗濯機に放り込んでボタンを押した。
お風呂に連れて行って貰うときに、洗濯機の場所を確認しておいてよかったと心底思う。
洗濯機はどこにありますかと質問するためだけに、東条を起こすのは申し訳ない。
リビングやキッチンも、食事をする時に何度か足を踏み入れたし、入室が禁止されている場所ではないので入っていいだろう。
ヒート中は料理する時間も体力もあまり無かった為、そのまま食べられるパンやゼリー飲料、果物なんかが主な食事だった。
きっと、二人で調理して食事をするつもりで東条は用意していたのだろう。冷蔵庫の中には、買ったまま開封されていない食材がいくつも入っていた。
そうだよなぁ、と思う。
普通はこういう食材を使って私が用意して、二人で食卓を囲むと思うよね。一人暮らしで自炊しているって以前話したし、そういう想像をするのは普通のことだ。
まさかそのまま口にできるものしか食べられない状態になるなんて、そんなこと思わないだろう。
幸い、まだ朝の六時である。
東条は自室で眠っているようで、起きてくる気配はない。
せめて最後の朝くらい、ちゃんとしたものを用意しよう。食材を無駄にするのも勿体ない。
とりあえず久しぶりにご飯を食べることにしようと決め、お米を研いで炊飯器にセットする。
朝食らしいメニューを考えながら冷蔵庫から食材を取り出し、味噌汁を作りながら別のコンロで鯖と卵を焼いた。
味噌汁には、痛むのが早そうな野菜と豚肉を適当に切って入れておいた。いつからあるのか分からないけれど、火を通せばまだ大丈夫だろう。
広いキッチンの使いやすさに感動しながら洗い物まで済ませ、東条が起きてくるのを待つ間にソファで一息つく。
こういう普通の同棲みたいなこと、ちゃんと出来たらよかったのに。
性処理という世話をしなくて良い分、普通に動物の世話をする方がまだマシなんじゃないかと思う。
自分がしていたこと、思い出したら泣きたくなってきた。
泣いたところで、東条さんに気を遣わせるだけだから泣かないけど。
ピーピーと洗濯機が仕事を終えた事を知らせ、シーツを干しに行こうとソファから立ち上がる。
両手にシーツやタオルを抱えながら脱衣所から出たタイミング、急に目の前に立ち塞がった人影に、由莉は思わず足を止めた。
「お……はようございます?」
「いきなりこんなことして、身体平気なの?」
この家の中にいる人物なんて、自分を除けば東条しかいない。
おはようの挨拶も返されず、呆れたように顔を歪めた東条に、由莉は無意識の内に一歩後退る。
「ヒート終わったみたいで……もう大丈夫です」
「そう。それならいいけど」
言うと同時に腕の中にあった洗濯物を丸ごと奪われ、そのまま去ろうとする東条を慌てて追いかける。
「あああ、あの、いいですほんと、自分でするので」
「キッチンにご飯まで用意してあったし、急にそんな色々しなくていいよ。君のヒート中にやってたの俺だし」
だから、少しでもその期間の分を挽回するためにやりたいのに。
色々と言ったが結局洗濯は任せてもらえず、由莉が東条を手伝う形で二人で干すことになった。
全て終えてからリビングに向かい、先ほど用意したばかりの食事をテーブルに並べて席に着く。
こうやって向かい合って食事をするのは、ヒートに入る前日以来だ。
ヒート中は行儀悪くベッドでゼリー飲料を飲んだり、ソファで東条に凭れ掛かりながら果物を食べさせてもらっていた。食事の仕方が完全にペットの犬である。
久し振りに人間らしく。
いただきますと手を合わせ、少し気まずい空気の中で食事の時間が始まった。
「美味しい。ありがと、用意してくれて」
「いや、そんな……! 本当に簡単なものだけで、こんなの何のお礼にもならない……」
「そう? 俺は嬉しいけど」
重たい身体を引き摺りながらでも用意して良かったと、由莉は胸を撫で下ろす。
東条にしてもらった事に比べたら、本当に大したことではないけれど、心なしか東条の纏う雰囲気が柔らかいものに変わった。
この空気の中なら、少しは会話がしやすい。
「それで、あの……ヒートが終わったので、今後のことなんですけど」
「……うん。何?」
まだ食事中なのに、嫌なことを思い出させてしまっただろうか。
微かに温度をなくした東条の声に、一瞬怯んでしまいそうになった。
しかし別に怒らせる話をするわけではないからと、由莉はすぐに言葉を続ける。
「次のヒートは自分でどうにかするので、もう大丈夫です」
「は?」
「私の体の都合で東条さんをこんなに長期間縛るのもどうかと思うし、忙しいのは知って……」
「君のヒートに合わせてスケジュールの調整は完璧にしてるし、トラブルがあった時の手配もしてきてる。君が気にする必要はない」
由莉の言葉に被せるように言い切った東条に、番でもない相手にそこまでする必要はないと、思わず言い返しそうになった。
こんな当て付けみたいな皮肉が言いたいわけではないし、喧嘩をしたいわけでもない。
ちゃんと言葉を選ばなきゃ。
「でも……東条さんにあんなのさせるのは、やっぱり嫌だなって……」
「今回は初めてで色々準備が足りなかった。次からはもっと上手くやるから、それでいい?」
「……抑制剤があれば自分でどうにか出来るんです。東条さんが私のヒートに付き合う必要がありますか?」
無理に付き合う必要はないと、気を遣ったつもりだった。
それでも嫌味のような言い方になってしまったのは確かで、絶対に気を悪くしてしまった。
言った瞬間、東条の表情がスッと消える。
「……あのさ、君って俺の婚約者なんだよ。放っておいて、万が一でも他の奴の前でああなったらどうするの?」
痴態を晒すなと、そう言っているのだろう。
まだ番ではないけれど、仮にも私は東条さんの婚約者だ。
あんな姿を誰かに晒したら、そのまま私の恥が東条さんの恥になる可能性がある。
「ちゃんと気を付けるし……迷惑、かけないようにします」
「迷惑なんて俺は一言も言ってないけど?」
「今回のヒートで、東条さんの番になれないって分かりましたし、婚約も東条さんの好きにしてくださって構いませんから……」
「は? 何言ってるの?」
東条さんが好きだから、迷惑になるようなことはしたくない。
婚約だって、番になりたくもないオメガなんかとする必要はないのだ。
私と結婚したところで、東條ホールディングスに利益があるわけでもない。
私はオメガっていう特徴があるだけで、家柄が良い訳でもないのだから。
東条さんだって、好きでもないオメガと結婚するのは苦痛だろう。
「私は、ただオメガってだけで……」
「そうだよ。君は俺だけのオメガで俺の番。だから無いだろ、手放すなんて選択肢」
「……っ」
オメガは希少、優秀な子供を産める胎。
だからきっと、珍しいオメガをただ手放すのは惜しい。
だけど私に対して良い感情を持っていないから、そう簡単に結婚や番という契約を結びたくはないのだろう。
一度番にしてしまったら、色々と面倒が付き纏う。
しばらくは様子見で、その間にもっと良いオメガが見つかったらそっちに鞍替え。見つかるまではとりあえずキープしておきたいとか、そういうことだろうか。
もしかしたら、お前も優秀な跡取りを残せとか、そういった類のことを両親に言われてオメガを手放せないのかもしれない。
婚約が決まるまですごく早かったし、私が知らないだけでそういう裏もあるのだろうか。
社長だって、今後の東條ホールディングスを継ぐ優秀な跡取りは欲しいはずだ。
「……今すぐに、無理矢理どうこうしたいって思ってるわけじゃない。時間をかけたら変わる事もあるだろ。一回だけで勝手に決断出すな」
時間をかけて、東条さんの気持ちが変わることはあるんだろうか。
いくら普段のデートの時に繕っても、ヒートの度に好感度がマイナスになってしまうのに。
番の契約はアルファがオメガの項を噛むことで結ばれる。
アルファが欲しいと思ってくれないと、いくらヒート中に一緒にいたところで番にはなれない。
番になりたいって私から求めるのは我儘だ。
東条さんは時間を掛けて歩み寄ろうとしてくれているんだから、私だって我慢しないと。
今、東条さんに気持ちを伝えても、ただ重たいと思われるだけだ。
「……気持ち変わったら、言ってください」
「君も、思ってることあったらちゃんと言えよ。どうにかするから」
その言葉に曖昧に笑いながら頷いて、完全に冷めてしまった焼き魚を口に運ぶ。
大きな会社の跡取りの番なんて、ドラマみたいな設定なのにね。内心、そんな皮肉めいたことを呟く。
これがドラマだったら、すぐに両思いになってそのまま番になるのだ。
現実のオメガは、あんなに綺麗な女優さんとは違う。
運命の番のはずなのに愛してなんてもらえなくて、ヒートになったらあんな恥ずかしいだけの行為にアルファを付き合わせないといけない。
ロマンチックなことなんて、創作の中にしかない。
オメガに生まれて良いことなんて、やっぱり何にもないんだよ。
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