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 はやくイキたい。気持ちよくなりたい。
 東条に触れられる度に、その思考だけで由莉の脳内が占められていく。

 胸くらい自分で触ったことがある。
 だけどその時は、こんなに気持ち良くなったりしなかった。
 さっきまで自分で引っ掻いていた部分も、東条が触れるだけで頭の中がビリビリして、我慢ができず勝手に声が漏れる。

 はしたない自覚はある。
 媚びるような嬌声は耳障りで、出来るならこんな自分の声は聞きたくない。
 だけどどう頑張っても耐えることが出来なくて、達する度に一際大きな嬌声が室内に響いた。

「……っ、あ、ごめなさ、んっ……ひぁ、も、きもちぃ、の……これ」
「うん。分かった、これね」
「あ、あ、あっ……! それまた、イッちゃ……くぅ、んぁ、あ……」

 何回イッた? 何回出した?
 自分でも数え切れない醜態を晒していることは分かっているのに、未だに収まる気配がない。
 どこに置けばいいのか分からない手でぎゅっとシーツを握り、達する度に強く皺を作る。

「あ、東条さ……っひ」
「落ち着いた? 一旦休憩できそう?」
「ん……っ」

 汗を舐めとるように首筋に舌が這い、それだけでまたゾクゾクしたものが背中を駆ける。
 どうしよう、全然、このままじゃちっとも落ち着かない。

「もっと……ちゃんとしたやつ、したい……」

 まだ、指しか入ってない。
 それだけでこんなにイッているのだから十分気持ち良いのだけど、それだけじゃやっぱりダメなんだ。
 触ってもらう度に、もっと欲しいって思う。
 多分これはアルファに挿れてもらわないと、ずっとずっと落ち着かない。

「お、おねがいします、ほしい……」
「……っ、あー……ごめん、ちょっと無理、かも。少し……すぐ戻る。待ってて」
「え……」

 熱に浮かされているとはいえ、勇気を出して誘ったつもりだった。
 絶対に応えてもらえるものだと思っていた。
 それなのに東条は一旦部屋から出て行き、戻ってきたと思ったら、手に持っていた革の首輪を由莉の首へ装着する。

「これ、ちゃんとしたカラー用意しておいたから。つけて」
「へ……」
「今は処方されたシール貼ってるだけだろ? それじゃ駄目だ」

 本気で、意味が分からない。
 今はシールで項を隠してはいるが、それだってヒートになったら外すつもりだった。
 カラーなんて、ヒートが近付いた時やアルファが多い場所に行く時に、オメガが念の為にと着けるものだ。
 今から番になろうとする行為の最中に、わざわざ着けるものではない。

「か……噛まない、の?」

 今日、東条さんの番になれるのだと思っていた。
 ヒート中にセックスして、項を噛まれて、それで正式な番にしてもらえるのだと思っていた。
 どうしてこんな物を用意しているの。

「……は、そんな簡単に許しちゃ駄目だろ」

 その言葉に、さっきまで欲に塗れていた脳がぐらりと揺れた。

 つまりは、許されてないし、認められていないのだろう。
 運命の番という事実に、私は楽観視しすぎていたかもしれない。
 いくら運命が決めた番であっても、東条さん本人が欲しがってくれないと何の意味もない。
 番になる契約は、アルファにしてもらわないといけないのだから。

「ん、似合ってる。危ないから絶対外すなよ」
「……っ」

 危ない、なんて。酷い言い方だと思う。
不意に噛んで望んでもないのに番になったら困ると、そういう意味だろうか。

「返事は?」
「……うん、外さない」

 由莉の返事に満足したように頷いて、首輪から東条の手が離れる。

 快楽に溺れていて気付かなかったけど、どうして東条さんは平気なんだろう。
 いつも通りで、ほとんど息なんて乱れてなくて、私だけが服を脱いでいる。

 ヒート中のオメガが目の前にいるのに、フェロモンを感じて理性が揺れたりしないんだろうか。
 私はまだ、東条さんが目の前にいるだけで体が疼いて仕方ないのに。

「……ごめんなさい。つづき、してください……」

 ヒートが終わったら自分の気持ちを伝えて、東条さんの気持ちも知りたいって思っていた。
 だけどそんなの、聞くまでもなく分かってしまった。

 運命の定めた番だと分かったって、それだけ。
 東条さんは私の事なんて、なんとも思っていないんだ。
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