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初恋の話

4-7.あなたと最後の約束を※

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 どちらが移動しようと言い出したわけでもないのに、そうするのが自然だと思った。横抱きにされて寝室に場所を移し、ベットの上で再度ダニスと口付ける。
 深いキスに応えるためにリーシャからも舌を絡ませると、髪に触れてくれていた手がゆっくりと背中の方に下っていった。
 数分前までは虚しい行為だと思っていたはずなのに、今はこんなにも触れたくて仕方がない。
 心が通じ合った状態で抱いてもらうのはすごく気持ち良くて満たされるものだって、リーシャはもう知ってる。

「っふ……ぁ、ん」
「ん、リーシャ……」

 着ていた服が乱され、今度は首筋にダニスの唇が触れる。毎晩していたはずなのに、久しぶりにダニスに触ってもらっているような気持ちになった。
 肌に直接息が触れ、なんだか少しだけくすぐったい。大きな手に服が抜き取られると、外気に触れた身体が少しだけ震えてしまった。その瞬間、ダニスが不安そうな表情でリーシャの顔を覗き込む。

「……ダニス様?」
「ああ……その、ごめん。どこまでだったら許してくれる?」
「え……?」

 どこまでなんて訊かずとも、いつも最後までしている行為ではないだろうか。
 確かに「毎日しなくても……」なんて拒むようなことを言ってしまったけれど、それは過去のことを聞く前の話だ。ダニスの想い続けていた相手が自分だと分かった今は、むしろ早く触れて欲しいと思ってしまう。
 ベッドに移動したのもそのためで、もともと夜はそういう行為をするための時間だった。

「……私、ダニス様のことが好きなんです」
「そっ……ああ、うん。ありがとう」
「だから、ダニス様の気持ちがあれば、何をされても絶対に嬉しくて」
「駄目だよ。軽率にそんなこと言ったら」
「え……?」

 急に肩を強く押され、背中がベッドシーツに沈んだ。
 押し倒された状態で、下からダニスを見上げる形になる。

「あの……?」
「俺の気持ち全部出したりしたら、何をするのか自分でも分からないのに」
「そんな……えっと、それでも本当に、何をしてもらっても私は大丈夫で……」
「今から俺がすることは、一度リーシャが本気で泣いて嫌がったことだよ。俺のエゴで、君の人生全部奪おうとしてる。あとになって約束した男が現れても、俺は絶対に君を離してあげられない」

 ――そんなの、リーシャだって同じだ。
 きっと、もう無理だと思う。結婚するのもキスをするのも、その相手は全部ダニスがいい。たとえ幼い時にどれだけ親しくしていた相手でも、それがダニスじゃないなら要らないのだ。
 どう言えば、ちゃんと伝えられるのだろうか。
 触れたいと思った気持ちをそのまま伝えるため、持ち上げた手をゆっくりダニスの頬に伸ばす。

「私は、幼い時の約束とか関係なく、今のダニス様を好きになったんです」
「……うん。リーシャが最初にそう言ってくれた時からずっと、俺は君に嫌われたくないなって、そればっかり考えてるよ。婚約なんて辞めたいって言われてからも、一度好きだと思ってくれたなら何かの手違いでまた好きになってくれたらいいのにって、そんなことばっかり考えてた」

 ギシリとベッドのスプリングが軋み、ダニスとの距離がまた少しだけ近くなる。
 唇が触れそうで触れない距離。キスができる寸前まで顔が近付き、呼吸をするのも躊躇ってしまう。
 キスをしたり抱いてもらう度に幸せで、一緒に朝を迎えることが嬉しくて、同時に取り返しがつかないくらい好きになっていくようで怖かった。きっと、そんな感情が分かりやすく顔に出ていたのだろう。

「……私がいつも、抱いてもらう度に嬉しそうにしてたからあんな……その、婚約辞めたいって言ってからも、毎晩してたんですか?」
「まさか、違うよ。リーシャを俺に繋ぎ止めるのに、子供を作るのが一番有効な手段だと思っただけ。酷いことしてるって自覚はあったのに、やめてあげられなくてごめんね」
「え……」
「抱いてる時の反応が全然違うから、好きな男以外に抱かれるのなんて嫌だろうなって分かってた。せめてこれ以上嫌われないようにしようと最低限で抑えてたつもりだけど……多分、今は無理だ。こんな風に受け入れられたら、抑える自信ないよ。俺は」
「っん……」

 唇が触れて、ゆっくりと舌が差し込まれる。深く絡む舌が気持ち良くて、リーシャの瞳がとろんと溶けた。
 口の中を撫でられる度、ぞくぞくしたものが下腹部に響いて疼く。
 
「んっ、ん……あ」
「リーシャのそういう声、久しぶりに聞いた。キスされるの好き?」
「……ん、はい。いっぱいキスしてもらうの、好きです。適当に済ませてるわけじゃないんだって思えて、嬉しくなる」
「……そう。適当に済ませてると思われてたんだ?」
「へ……? んっ、あ……! や、待って、まだそこ……」
「濡れてるね。このまま指、入っちゃいそう」

 言うと同時に指が沈んでいき、リーシャの口から上擦った声が漏れる。
 再び落とされたキスに唇が塞がれて、甘ったるい嬌声ごとダニスに食べられてしまった。
 指で優しくナカを押されているだけなのに、それがたまらなく気持ち良い。無意識のうちに腰が浮いてしまい、物足りないお腹の奥がきゅんと疼く。

「っは……あ、っあ、んぅっ」
「ん、可愛い」
「あっ、あ……きちゃう、も、いっかい指、んっ、とめてくださっ……ぁ、っひぁ、んんっ」

 こんなに媚びるような声を出しておいて、やめてほしいなんて説得力のない言葉だ。ダニスもそれが分かっているからこそ、指を抜いたりなんてしてくれない。

「アッ……ん、んぅ」
「ほら、こんなにいやらしくて可愛いんだから、声抑えなくてもいいのに」
「っあ! ひぅ……んっ、あぁ……」

 下腹部から聞こえる粘着質な水の音がどんどん大きくなっていく。
 ぐちゃぐちゃに濡れていることが見なくても分かって、意識する度にお腹の奥がきゅうっと狭くなった。
 呼吸ごと奪われるようにキスをされて、脳に酸素が回らない。舌が絡む音がいやに大きく聞こえて、リーシャの口から漏れ出る息は、媚びるような熱を孕んでいた。

「あっ、は……ダニス様……んっ」
「……虚しかった」
「え……?」
「同じ気持ちじゃないと虚しいってリーシャに言われて否定して……だけど、どれだけ抱いても全然俺のものになんてなってくれなくて、本当はずっと虚しかったよ。もっとたくさんキスして、リーシャの反応を見ながら触りたかった」
「っん……」

 耳から入った言葉がじわりと脳に溶け、血液と一緒に心臓まで熱が届く。
 ダニスの頭がリーシャの首筋に埋まり、優しく触れる唇の感触に脳がビリビリと痺れた。
 大切にされていると、全部で伝えてくれているみたいだ。
 表情が、声が、触り方が、私のことが好きなんだって、言葉にせずとも言ってくれている。

「はっ……あ、ぅん、あ、そこきもち……」
「うん。声、甘くなってるね。もっと聞かせて」
「あ、あぁ、んっ……そこ、っあ、そこ一緒にするの、っひぁ、あ……や、またすぐイッちゃう……」

 してもらうこと全部が気持ち良くて、ゾクゾクして、驚くほど簡単に達してしまう。
 そのタイミングでまたキスをされ、頭が上手く回らない。

「んっ、ん……はっ」
「挿れたい。いい?」
「ん、はい。してください……。もっといっぱい、ダニス様に触ってほしいです。ダニス様のしたいこと、全部欲しい」

 目の前の金色の瞳が、安心したように優しく緩む。
 この表情が凄く好きだと、そう思った瞬間に硬くて熱いものが泥濘に宛てがわれた。

「は、ぁ……んっ、ぁ」
「うん、いい子。そうやってちゃんと息してて」
「は……っん、あ、奥、きてる……っん」

 ゆっくりと沈んでいき、さっきよりもずっと深くて気持ち良い場所にダニスが届く。お腹の中が熱くて、満たされていく感覚にぶるりと身体が震えた。
 少し動かれただけでまたイキそうになるくらい、もう全部が気持ち良くて怖くなる。
 腰を掴まれお尻が浮くように持ち上げられると、更に深いところまでダニスの先端が届く。逃げられない快感に肌が汗ばみ、最奥を広げられる感覚に思わず腰が震えた。

「あ、そんなの、もっ……ぃあ」
「っは……きもち。ナカ凄いことになってるね。いっぱい濡らしてくれて嬉しいよ」
「あっ、そこも……っひぅ、あ、イキそ、だめ、あっ、イッちゃ……っの、あっ」
「うん。深いところ、ゆーっくり押すの好きだよね。ここ気持ち良い?」

 激しく動かれているわけでもないのに、奥の一点を狙って刺激を与えられると我慢ができない。
 自分の体の弱点が全部ダニスにバレているみたいで、どんどん深いところに落とされていく。
 最近はずっと、こういうセックスはしていなかったはずなのに。それでもちゃんと気持ち良い場所を覚えられていたのかと思うと、これからの行為を考えて目の前が真っ白になる。

「あっ、あ、ああっ……っん、あ、や、いく、イッ……!」

 足先にぎゅっと力が入り、尿道からプシッと液体が放出される。
 何が起こったのか一瞬分からず、盛大に漏らしてしまった感覚だけが身体に残った。
 恥ずかしいとか、それだけで済む問題じゃない。ダニスの体を汚してしまったことが申し訳なくて、泣きそうになりながらリーシャはダニスの胸を押した。

「……何? ねえ、まだ終わってないよ。なんで逃げようとするの?」
「や……だって今、あの、ごめんなさい。一回離れて、も、お願いします……」
「大丈夫だから。俺はまだ離れたくない」
「でも、ごめ……ごめんなさい……あ、やだ、濡らしちゃって、だめです。ほんと……」
「なんで謝るの? リーシャがしてくれること、俺は全部嬉しいのに」
「は……」

 繋がったままの部分が、またぐちゃりと音を立てて奥に入る。いやらしい音が恥ずかしくて、こんな状態なのにまだ気持ち良いと思ってしまう自分が情けなかった。

「あっ、あ……っん、奥に」
「気持ち良くてこうなってくれたなら嬉しいよ。ぐちゃぐちゃになって、気持ち良いの我慢出来なくなってるところもっと見たい」
「い、イッたばっかで、ほんと……っあ、お腹の奥のとこ、押すの、またすぐイッちゃう、ッア、っひく、あぁっ……」

 ダニスの背に回した指先にぎゅっと力が入る。何度目か分からない絶頂と同時に、彼の方も欲を放ったのだとお腹の中の感覚で分かった。

「んっ……」

 抜かれるだけなのにまた少し震えてしまい、入り切らなかった白濁がどろりとシーツに垂れて落ちる。
 後処理もまだ終わっていないけれど、自分ではまだ動けない。呼吸もまだ整わないうちに、額に一度口付けられ、そのままダニスに優しく抱きしめられた。

「あ、あの……」
「……ごめん。なんでもしていいって言われると、本当に止まれなくなる」
「……いいです。全部、ダニス様がしてくれることなら、やっぱり幸せだなって思うので」

 淡々と事務的に進められる行為よりずっといい。
 はしたなくて恥ずかしいとは思うけれど、欲しいと思ってくれることはやっぱり嬉しいのだ。
 どうやったって心は手に入らないのだと、そんなことを思って悲しくなっていたのが嘘みたいに思える。
 思わずへらりと笑みが溢れ、その瞬間に、ダニスが小さく息を吐いた。

「……リーシャ」

 名前を呼ばれて視線を上げると、小さな声で紡がれた詠唱と同時に、ダニスの手の中に小箱が出現する。
 ガラスで作られたケースの真ん中、金色の輪っかが置かれているのが蓋越しに見えた。

「受け取って」
「え……?」
「もっといいのを用意するからって勝手なことを言って放り投げたんだ。……だから、本当は早く渡したかった」
「は……」

 ただの遊びの延長で作った、魔道具の折り紙で作った指輪。記憶の中のそれよりもずっと繊細で綺麗なリングが、ダニスの手の中でキラリと光った。

「リーシャに婚約辞めたいって言われた時、心臓が止まるかと思った。だから約束して欲しい。これから先、俺以外を好きになったりしないで」

 縋るような声に、息が止まりそうになる。
 受け取った指輪が薬指に嵌められると同時に、今度は自分からダニスに唇を合わせにいった。

「……はい。約束します」

 他の人との結婚の約束なんてなくなればいいと思ったのも、この約束が欲しいと思っていたのも、きっとお互い様だった。
 指輪と一緒に新しく結ばれた約束は、永遠に続く契約になるのだろう。
 契約書を交わさない口約束なんて、商談の場ではなんの意味も持たない。だけど、好きな人と交わす大切な約束ならば、これ以上なんて必要ないだろう。
 これからも永遠にあなたと一緒にいたいですと、それさえ分かれば十分だ。
 
 
END
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