上 下
15 / 30
初恋の人

3-2.明日の約束※

しおりを挟む
 どうしてこんなにも駆け足で話が進んでいるのか分からない。婚約パーティーのドレスを仕立てるためにやって来た仕立て屋を前に、リーシャはぼんやりとそんなことを思った。
 あの日、ダニスが部屋を出てから数分後。着替えを持ってきてくれた使用人にまずは入浴をと勧められ、リーシャはバスルームに連行された。言われるがままに風呂に入れられ着替えを終えると、その時点で随分と時間が経ってしまったらしい。
 食堂に行くとすでに国王陛下と話を終えたダニスに迎えられ、そこで告げられたのが「一ヶ月後に婚約パーティーを開くことになったから」の一言である。
 招待する人の都合や準備を考えると、一ヶ月後というのはかなりギリギリのスケジュールだ。しかし、その話をした翌日に仕立て屋を呼びつける辺り、婚約パーティーの件は冗談などではないのだろう。
 ここまでの出来事を思い返しながら、はぁ、とリーシャは息を落とした。

「ふふ、ダニス殿下の選んだお色、リーシャ様にとてもお似合いです。完成次第すぐにお届けにあがりますので、楽しみにしていてくださいね」

 眼鏡をかけた背の高い女性が、デザイン画とサイズ表をまとめながらそう口にする。この国で一番人気の仕立て屋である彼女――アンネは、ただでさえ忙しいのに、何よりも優先してリーシャのドレスを仕立ててくれるらしいのだ。
 ゆとりのあるスケジュールであればこんなに慌ただしく準備を進める必要なんてないのに、急に決まった婚約パーティーのために忙しくさせてしまうことを申し訳なく思ってしまう。

「本当にありがとうございます。急な依頼なのに、こんなに色々と協力してくださって」
「あらあら、私から立候補したんですよ? まさかあのダニス殿下の恋が実ってご結婚だなんて、そんなの是非その場を飾るのに一役買いたいですもの」

 うふふと笑って言うアンネは、お世辞などではなく本心からそう言ってくれているのだろう。そのことにリーシャは少しだけ安心するが、同時に気恥ずかしくもなった。
 王家お抱えの仕立て屋に所属している彼女は、ダニスのことを昔から知っているらしい。
 ダニスとの婚約が決まってから、子供時代のダニスを知る人に、リーシャは今のようなことを何度も言われている。
 このまま誰とも結婚をしないと思っていた、とか。あまりにも進展しないから好きな相手がいるなんて作り話だと思っていた、とか。そういう類の話だ。
 昔からの顔見知りである人達の中では、幼い頃からダニスは好きな女の子を想って待っているというのが、周知のことであったらしい。
 アンネも幼い頃のダニスを知るうちの一人なのだ。あの時の女の子とまさか本当に結ばれるなんて……と、そんなことを口にしていた。

「さてさて、それでは私は店に戻りますので、ダニス殿下にもどうぞよろしくお伝えください。ご依頼のドレス、来週には仕上げますので、またその時に」

 抱えていた荷物を大きなトランクに詰め終えたアンネが、長いエプロンドレスを揺らしてリーシャに一礼する。
 ありがとうと何度目かになるお礼を伝え、急いで帰っていくアンネの背中をリーシャは部屋から見送った。


*****


 婚約の話をしてからニ週間。
 これまでおこなってきた政務に加え、婚約パーティーの準備も進めなくてはいけないダニスは今まで以上に忙しい。
 そんな中でも、夜はこれまでと同じように時間を空けてくれている。二人でゆっくりと過ごして話ができるこの時間が、リーシャは一日で一番好きだった。

「……少し眠そうだね。今日はしない方がいい?」
「あ、その、今日は少しやることが多くて……でも、ダニス様ほど忙しくはないし元気なので、もう少しだけこうやっていたいです」

 シャツの裾を掴みながら伝えると、リーシャの額にダニスが優しく口付ける。
 最近はソファではなく、こうやって寝室のベッドの上で過ごす時間の方が多くなった。
 婚約しているのだから、リーシャが部屋に戻る必要はないのだ。今ではダニスの部屋で共に就寝することが当たり前になったし、朝早くから動く予定がなければ、同じ時間に起きて一緒に食事をする。
 眠りにつく前に求められたら断る理由もなく、もう何度も体を重ねた。
 ――今夜も、きっとそうなるのだろう。

「んっ……あ」
「それじゃあ少しだけ触ろうか。リーシャが気持ち良くなったらそのまま寝よう」
「あっ、あ、そこ、指でおすの……っや、んん」

 耳元に唇が寄せられ、直接触れるダニスの息にゾクゾクと肌が粟立つ。
 浅いところをダニスの指でナカから擦られ、同時に陰核を虐められるとそれだけで簡単に声が出てしまった。
 ちゅっちゅと耳元で立てられるリップ音と、自分の脚の間から聞こえる粘着質な水の音。リーシャが弱いところなんてとっくにダニスに知られていて、快いところだけを触られると気持ち良くて腰が浮く。
 自分からも擦り付けるように動かしてしまい、意地悪く陰核を引っ掻かれたところでリーシャは一度達してしまった。

「ん、んっ……!」
「あー……可愛い。指で触るの、気持ち良かった?」
「あ、ダニス様……もう……」
「リーシャがイッたから、今日はもうおしまい。今夜は早めに寝て、また明日気持ち良いことしよう?」

 行為を始めるのもやめるのも、ダニスが決めることなのだ。
 欲しくて欲しくて堪らないけれど、こういう言い方をされたら明日まで挿れてくれないことを、リーシャはもう知っている。 
 しかしそれは、裏を返せば明日は絶対に挿れてくれるという意味でもあった。

「……っはい」

 体に残る熱を持て余して、明日ダニスに触れてもらうことを待ち望んで目を閉じる。
 我慢を強いられる夜はダニスのことで頭がいっぱいになって、おやすみのキスをされるだけでもいつも以上に気持ちが良かった。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】国王陛下はずっとご執心です〜我慢して何も得られないのなら、どんな手を使ってでも愛する人を手に入れよう〜

まさかの
恋愛
濃厚な甘々えっちシーンばかりですので閲覧注意してください! 題名の☆マークがえっちシーンありです。 王位を内乱勝ち取った国王ジルダールは護衛騎士のクラリスのことを愛していた。 しかし彼女はその気持ちに気付きながらも、自分にはその資格が無いとジルダールの愛を拒み続ける。 肌を重ねても去ってしまう彼女の居ない日々を過ごしていたが、実の兄のクーデターによって命の危険に晒される。 彼はやっと理解した。 我慢した先に何もないことを。 ジルダールは彼女の愛を手に入れるために我慢しないことにした。 小説家になろう、アルファポリスで投稿しています。

慰み者の姫は新皇帝に溺愛される

苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。 皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。 ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。 早速、二人の初夜が始まった。

初恋をこじらせた騎士軍師は、愛妻を偏愛する ~有能な頭脳が愛妻には働きません!~

如月あこ
恋愛
 宮廷使用人のメリアは男好きのする体型のせいで、日頃から貴族男性に絡まれることが多く、自分の身体を嫌っていた。  ある夜、悪辣で有名な貴族の男に王城の庭園へ追い込まれて、絶体絶命のピンチに陥る。  懸命に守ってきた純潔がついに散らされてしまう! と、恐怖に駆られるメリアを助けたのは『騎士軍師』という特別な階級を与えられている、策士として有名な男ゲオルグだった。  メリアはゲオルグの提案で、大切な人たちを守るために、彼と契約結婚をすることになるが――。    騎士軍師(40歳)×宮廷使用人(22歳)  ひたすら不器用で素直な二人の、両片想いむずむずストーリー。 ※ヒロインは、むちっとした体型(太っているわけではないが、本人は太っていると思い込んでいる)

【R18】寡黙で大人しいと思っていた夫の本性は獣

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
 侯爵令嬢セイラの家が借金でいよいよ没落しかけた時、支援してくれたのは学生時代に好きだった寡黙で理知的な青年エドガーだった。いまや国の経済界をゆるがすほどの大富豪になっていたエドガーの見返りは、セイラとの結婚。  だけど、周囲からは爵位目当てだと言われ、それを裏付けるかのように夜の営みも淡白なものだった。しかも、彼の秘書のサラからは、エドガーと身体の関係があると告げられる。  二度目の結婚記念日、ついに業を煮やしたセイラはエドガーに離縁したいと言い放ち――?   ※ムーンライト様で、日間総合1位、週間総合1位、月間短編1位をいただいた作品になります。

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

最強騎士の義兄が帰ってきましたが、すでに強欲な王太子に調教されています

春浦ディスコ
恋愛
伯爵令嬢のセーラは国内最強騎士であるユーゴが義兄になった後、子爵令嬢から嫌がらせをされる日々が続いていた。それをきっかけにユーゴと恋仲になるが、任務で少しの間、国を離れることになるユーゴ。 その間に王太子であるアレクサンダーとセーラの婚約が決まって……!? ※タイトルの通りです ※タグの要素が含まれますのでご注意くださいませ

姉の夫の愛人になったら、溺愛監禁されました。

月夜野繭
恋愛
伯爵令嬢のリリアーナは、憧れの騎士エルネストから求婚される。しかし、年長者から嫁がなければならないという古いしきたりのため、花嫁に選ばれたのは姉のミレーナだった。 病弱な姉が結婚や出産に耐えられるとは思えない。姉のことが大好きだったリリアーナは、自分の想いを押し殺して、後継ぎを生むために姉の身代わりとしてエルネストの愛人になるが……。

明日の夜、婚約者に捨てられるから

能登原あめ
恋愛
* R18甘めのエロ、タグの確認をお願いします。  物語の世界に転生した私は、明日の夜に行われる舞踏会で捨てられる――。  婚約者のジュリアンはヒロインに正式に告白する前に、私、イヴェットに婚約解消してほしいと告げるのだ。  二人が結ばれるとわかっていたのに、いつの間にか好きになってしまった。  邪魔するつもりはないけれど、彼らが幸せな様子を見るのはつらいので、国を出ようと計画を立てたところ――?   * 頭を空っぽにして息抜きにお読みください。 * 成人年齢18歳の世界のため飲酒シーンがありますが、現実ではお酒は20歳になってから親しんで下さい(念のため) * 8話程度+おまけ未定。Rシーンには※マークつけます。 * コメント欄にネタバレ配慮しておりませんのでお気をつけください。 * 表紙はCanvaさまで作成した画像を使用しております。

処理中です...