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初恋の人
3-2.明日の約束※
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どうしてこんなにも駆け足で話が進んでいるのか分からない。婚約パーティーのドレスを仕立てるためにやって来た仕立て屋を前に、リーシャはぼんやりとそんなことを思った。
あの日、ダニスが部屋を出てから数分後。着替えを持ってきてくれた使用人にまずは入浴をと勧められ、リーシャはバスルームに連行された。言われるがままに風呂に入れられ着替えを終えると、その時点で随分と時間が経ってしまったらしい。
食堂に行くとすでに国王陛下と話を終えたダニスに迎えられ、そこで告げられたのが「一ヶ月後に婚約パーティーを開くことになったから」の一言である。
招待する人の都合や準備を考えると、一ヶ月後というのはかなりギリギリのスケジュールだ。しかし、その話をした翌日に仕立て屋を呼びつける辺り、婚約パーティーの件は冗談などではないのだろう。
ここまでの出来事を思い返しながら、はぁ、とリーシャは息を落とした。
「ふふ、ダニス殿下の選んだお色、リーシャ様にとてもお似合いです。完成次第すぐにお届けにあがりますので、楽しみにしていてくださいね」
眼鏡をかけた背の高い女性が、デザイン画とサイズ表をまとめながらそう口にする。この国で一番人気の仕立て屋である彼女――アンネは、ただでさえ忙しいのに、何よりも優先してリーシャのドレスを仕立ててくれるらしいのだ。
ゆとりのあるスケジュールであればこんなに慌ただしく準備を進める必要なんてないのに、急に決まった婚約パーティーのために忙しくさせてしまうことを申し訳なく思ってしまう。
「本当にありがとうございます。急な依頼なのに、こんなに色々と協力してくださって」
「あらあら、私から立候補したんですよ? まさかあのダニス殿下の恋が実ってご結婚だなんて、そんなの是非その場を飾るのに一役買いたいですもの」
うふふと笑って言うアンネは、お世辞などではなく本心からそう言ってくれているのだろう。そのことにリーシャは少しだけ安心するが、同時に気恥ずかしくもなった。
王家お抱えの仕立て屋に所属している彼女は、ダニスのことを昔から知っているらしい。
ダニスとの婚約が決まってから、子供時代のダニスを知る人に、リーシャは今のようなことを何度も言われている。
このまま誰とも結婚をしないと思っていた、とか。あまりにも進展しないから好きな相手がいるなんて作り話だと思っていた、とか。そういう類の話だ。
昔からの顔見知りである人達の中では、幼い頃からダニスは好きな女の子を想って待っているというのが、周知のことであったらしい。
アンネも幼い頃のダニスを知るうちの一人なのだ。あの時の女の子とまさか本当に結ばれるなんて……と、そんなことを口にしていた。
「さてさて、それでは私は店に戻りますので、ダニス殿下にもどうぞよろしくお伝えください。ご依頼のドレス、来週には仕上げますので、またその時に」
抱えていた荷物を大きなトランクに詰め終えたアンネが、長いエプロンドレスを揺らしてリーシャに一礼する。
ありがとうと何度目かになるお礼を伝え、急いで帰っていくアンネの背中をリーシャは部屋から見送った。
*****
婚約の話をしてからニ週間。
これまでおこなってきた政務に加え、婚約パーティーの準備も進めなくてはいけないダニスは今まで以上に忙しい。
そんな中でも、夜はこれまでと同じように時間を空けてくれている。二人でゆっくりと過ごして話ができるこの時間が、リーシャは一日で一番好きだった。
「……少し眠そうだね。今日はしない方がいい?」
「あ、その、今日は少しやることが多くて……でも、ダニス様ほど忙しくはないし元気なので、もう少しだけこうやっていたいです」
シャツの裾を掴みながら伝えると、リーシャの額にダニスが優しく口付ける。
最近はソファではなく、こうやって寝室のベッドの上で過ごす時間の方が多くなった。
婚約しているのだから、リーシャが部屋に戻る必要はないのだ。今ではダニスの部屋で共に就寝することが当たり前になったし、朝早くから動く予定がなければ、同じ時間に起きて一緒に食事をする。
眠りにつく前に求められたら断る理由もなく、もう何度も体を重ねた。
――今夜も、きっとそうなるのだろう。
「んっ……あ」
「それじゃあ少しだけ触ろうか。リーシャが気持ち良くなったらそのまま寝よう」
「あっ、あ、そこ、指でおすの……っや、んん」
耳元に唇が寄せられ、直接触れるダニスの息にゾクゾクと肌が粟立つ。
浅いところをダニスの指でナカから擦られ、同時に陰核を虐められるとそれだけで簡単に声が出てしまった。
ちゅっちゅと耳元で立てられるリップ音と、自分の脚の間から聞こえる粘着質な水の音。リーシャが弱いところなんてとっくにダニスに知られていて、快いところだけを触られると気持ち良くて腰が浮く。
自分からも擦り付けるように動かしてしまい、意地悪く陰核を引っ掻かれたところでリーシャは一度達してしまった。
「ん、んっ……!」
「あー……可愛い。指で触るの、気持ち良かった?」
「あ、ダニス様……もう……」
「リーシャがイッたから、今日はもうおしまい。今夜は早めに寝て、また明日気持ち良いことしよう?」
行為を始めるのもやめるのも、ダニスが決めることなのだ。
欲しくて欲しくて堪らないけれど、こういう言い方をされたら明日まで挿れてくれないことを、リーシャはもう知っている。
しかしそれは、裏を返せば明日は絶対に挿れてくれるという意味でもあった。
「……っはい」
体に残る熱を持て余して、明日ダニスに触れてもらうことを待ち望んで目を閉じる。
我慢を強いられる夜はダニスのことで頭がいっぱいになって、おやすみのキスをされるだけでもいつも以上に気持ちが良かった。
あの日、ダニスが部屋を出てから数分後。着替えを持ってきてくれた使用人にまずは入浴をと勧められ、リーシャはバスルームに連行された。言われるがままに風呂に入れられ着替えを終えると、その時点で随分と時間が経ってしまったらしい。
食堂に行くとすでに国王陛下と話を終えたダニスに迎えられ、そこで告げられたのが「一ヶ月後に婚約パーティーを開くことになったから」の一言である。
招待する人の都合や準備を考えると、一ヶ月後というのはかなりギリギリのスケジュールだ。しかし、その話をした翌日に仕立て屋を呼びつける辺り、婚約パーティーの件は冗談などではないのだろう。
ここまでの出来事を思い返しながら、はぁ、とリーシャは息を落とした。
「ふふ、ダニス殿下の選んだお色、リーシャ様にとてもお似合いです。完成次第すぐにお届けにあがりますので、楽しみにしていてくださいね」
眼鏡をかけた背の高い女性が、デザイン画とサイズ表をまとめながらそう口にする。この国で一番人気の仕立て屋である彼女――アンネは、ただでさえ忙しいのに、何よりも優先してリーシャのドレスを仕立ててくれるらしいのだ。
ゆとりのあるスケジュールであればこんなに慌ただしく準備を進める必要なんてないのに、急に決まった婚約パーティーのために忙しくさせてしまうことを申し訳なく思ってしまう。
「本当にありがとうございます。急な依頼なのに、こんなに色々と協力してくださって」
「あらあら、私から立候補したんですよ? まさかあのダニス殿下の恋が実ってご結婚だなんて、そんなの是非その場を飾るのに一役買いたいですもの」
うふふと笑って言うアンネは、お世辞などではなく本心からそう言ってくれているのだろう。そのことにリーシャは少しだけ安心するが、同時に気恥ずかしくもなった。
王家お抱えの仕立て屋に所属している彼女は、ダニスのことを昔から知っているらしい。
ダニスとの婚約が決まってから、子供時代のダニスを知る人に、リーシャは今のようなことを何度も言われている。
このまま誰とも結婚をしないと思っていた、とか。あまりにも進展しないから好きな相手がいるなんて作り話だと思っていた、とか。そういう類の話だ。
昔からの顔見知りである人達の中では、幼い頃からダニスは好きな女の子を想って待っているというのが、周知のことであったらしい。
アンネも幼い頃のダニスを知るうちの一人なのだ。あの時の女の子とまさか本当に結ばれるなんて……と、そんなことを口にしていた。
「さてさて、それでは私は店に戻りますので、ダニス殿下にもどうぞよろしくお伝えください。ご依頼のドレス、来週には仕上げますので、またその時に」
抱えていた荷物を大きなトランクに詰め終えたアンネが、長いエプロンドレスを揺らしてリーシャに一礼する。
ありがとうと何度目かになるお礼を伝え、急いで帰っていくアンネの背中をリーシャは部屋から見送った。
*****
婚約の話をしてからニ週間。
これまでおこなってきた政務に加え、婚約パーティーの準備も進めなくてはいけないダニスは今まで以上に忙しい。
そんな中でも、夜はこれまでと同じように時間を空けてくれている。二人でゆっくりと過ごして話ができるこの時間が、リーシャは一日で一番好きだった。
「……少し眠そうだね。今日はしない方がいい?」
「あ、その、今日は少しやることが多くて……でも、ダニス様ほど忙しくはないし元気なので、もう少しだけこうやっていたいです」
シャツの裾を掴みながら伝えると、リーシャの額にダニスが優しく口付ける。
最近はソファではなく、こうやって寝室のベッドの上で過ごす時間の方が多くなった。
婚約しているのだから、リーシャが部屋に戻る必要はないのだ。今ではダニスの部屋で共に就寝することが当たり前になったし、朝早くから動く予定がなければ、同じ時間に起きて一緒に食事をする。
眠りにつく前に求められたら断る理由もなく、もう何度も体を重ねた。
――今夜も、きっとそうなるのだろう。
「んっ……あ」
「それじゃあ少しだけ触ろうか。リーシャが気持ち良くなったらそのまま寝よう」
「あっ、あ、そこ、指でおすの……っや、んん」
耳元に唇が寄せられ、直接触れるダニスの息にゾクゾクと肌が粟立つ。
浅いところをダニスの指でナカから擦られ、同時に陰核を虐められるとそれだけで簡単に声が出てしまった。
ちゅっちゅと耳元で立てられるリップ音と、自分の脚の間から聞こえる粘着質な水の音。リーシャが弱いところなんてとっくにダニスに知られていて、快いところだけを触られると気持ち良くて腰が浮く。
自分からも擦り付けるように動かしてしまい、意地悪く陰核を引っ掻かれたところでリーシャは一度達してしまった。
「ん、んっ……!」
「あー……可愛い。指で触るの、気持ち良かった?」
「あ、ダニス様……もう……」
「リーシャがイッたから、今日はもうおしまい。今夜は早めに寝て、また明日気持ち良いことしよう?」
行為を始めるのもやめるのも、ダニスが決めることなのだ。
欲しくて欲しくて堪らないけれど、こういう言い方をされたら明日まで挿れてくれないことを、リーシャはもう知っている。
しかしそれは、裏を返せば明日は絶対に挿れてくれるという意味でもあった。
「……っはい」
体に残る熱を持て余して、明日ダニスに触れてもらうことを待ち望んで目を閉じる。
我慢を強いられる夜はダニスのことで頭がいっぱいになって、おやすみのキスをされるだけでもいつも以上に気持ちが良かった。
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