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しおりを挟むもともと透くんは、少し心配性な性格だったと思う。と言っても、束縛が激しいとか、なんでも監視されるといったことは今までに一度もなかった。
ただ、残業で遅くなりそうだと連絡したら職場まで迎えに来てくれたり、一人暮らしの私の部屋の防犯対策をしてくれたり、デートの日は必ず自宅まで送り迎えをしてくれたりと、そんな感じだ。そんな透くんのお陰で、十日前のあの時も、いろいろ無事に終わったのだと思う。
――十日前の深夜。透くんがシャワーを浴びている最中に生理になっていることに気付き、手元にナプキンがなかった私は近くのコンビニまで買いに行くことにした。
向かう場所は歩いて三分もかからない距離だが、たとえ数分でも勝手に居なくなるのはよくないだろう。透くんが心配しないように浴室の扉越しに「ちょっとコンビニ行ってくるね」と声を掛け、そのまま返事も聞かずにマンションを出た。
ぱぱっと買い物を終わらせて、本当にすぐ帰るつもりだったのだ。危機感がないと確かに普段から透くんに言われてはいたけれど、あんな短い距離で何かが起こるなんて考えてもいなかった。
コンビニに向かう途中、道に停められていた車の近くを通ろうとした瞬間のことだ。車内から出てきた男に腕を掴まれて連れ込まれそうになり、状況を理解するのに数秒の時間を要した。直ぐにこれはヤバいと気付いて抵抗したが、本気の男に力で勝てるわけがない。後部座席のシートに膝がついてしまい、もう駄目だと思った瞬間。目の前の男の顔面に拳が入り、凄い力で身体が後ろに引っ張られる。
私を庇うようにしてそこに立っていたのは、髪が濡れたままの透くんだった。
そこからは本当に慌ただしく事態は進み、呼ばれて数分後にやって来た警察にいろいろと事情聴取を受けたりもしたが、車内にいた男達は全員無事に警察に引き渡されることとなり、とりあえずは収拾した。
今になって事件のことを改めて思い出し、はぁっと大きく息を吐く。
怖い思いはしたけれど、それは本当に数秒だ。今でも怖かった瞬間がフラッシュバックする……なんてことは微塵もなく、それどころか、助けに来てくれた時の透くんのことばかりを思い出してしまう。
透くんがあまりにも格好良くて、その衝撃で恐怖は驚くほどに薄れてしまった。一緒にマンションに戻ってからも、恐怖のドキドキよりも透くんに対するドキドキの方が大きくて、透くんが好きだという気持ちが更に募っていく。
ただ、そんな事があって平気だったのは私だけなのだろう。私が襲われかけた現場に遭遇したその日をきっかけに、多分、透くんはぶっ壊れた。
警察署から帰って早々、玄関扉が閉まると同時に強く抱きしめられ、浅く息を吐いた音が私の耳元で落ちる。背中に回された腕は少し震えているようにも感じて、彼に大事にされているみたいで嬉しくなってしまった。
「あの、透く……」
「無理。外に出すのもう嫌だ」
「え……?」
「本当に怖かった。あんな思いするくらいなら、もう一生ここから出したくない」
そう言われてキュンとしてしまうなんて、さすがに不謹慎だろうか。こういうことがあったからこその感情の吐露で、一生出さないなんてきっと本気ではないだろう。
それでも透くんがそこまで私のことを思ってくれたのだと思うと嬉しくて、ゆっくりと透くんの背に手を回した。
もう大丈夫だよと伝えたくて、私の方からも強く透くんを抱きしめ返す。
こんなことを言ってもらえる私はきっと特別な存在なのだと、呑気に浮かれたことを考えながら一緒に眠りについたその日の夜。お急ぎ便の通販で頼んだらしい小さな段ボール箱が、注文したその日のうちに透くんの家に届けられた。
中から取り出されたのは金属の足枷で、自分の足に細い鎖が繋がれた時にようやく私は、透くんが口にした「一生ここから出したくない」が本気なのだと悟ったのである。
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