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 どろどろのぐちゃぐちゃにされた翌日も、シオンは何食わぬ顔でユノの寝床にやって来た。
 翌日も、その翌日も。ユノが何度達しようが中途半端には止めてもらえず、シオンが満足するまでユノは行為に付き合わされたのだ。
 シオンを早くイカせるために口での奉仕も覚えたし、ユノが上に跨って腰を振らされたこともあった。
 ぐちゃぐちゃに汚れた寝具を毎日洗わなくてはいけないくらい抱かれているのに、シオンが猫の姿に戻る力はなかなか溜まらない。
 結局、皇帝が帰ってくる直前まで、シオンとの行為は続けられることになった。
 皇帝が本宮に戻る前夜、いつも通りにぐちゃぐちゃにされたあとで、「間に合ってよかったな?」と楽しそうに笑うシオンに言われたことは忘れない。
 翌朝目を覚ますとシオンはしれっと猫の姿に戻っていて、とりあえずは無事に皇帝とシオンを会わせることができたのだった。

 そして、皇帝が帰ってきたことで、ようやくシオンとの夜の行為から解放される――そんな風にユノが思えた日常は、ほんの数日で終わってしまった。
 皇帝が本宮に戻って五日目の夜、「定期的に力を溜めておかないとまずいだろう?」と、人間の姿になったシオンがユノの部屋に訪れ、そのまま身体を重ねることになってしまったのだ。
 中途半端な責任と、一度協力してしまった負い目。
 正しい拒み方も分からないまま、今でも不定期にこの生気の供給は続いている。


「んっ、あ……ふっ、ぅあ」

 声が我慢できていたのは、一体いつまでだっただろうか。
 シオンの舌に陰核を転がされ、嬌声を漏らしながらユノは腰を浮かせる。
 随分と簡単に快楽を拾う身体に変えられてしまった。恥ずかしいと思う気持ちは変わらないのに、シオンが気持ち良いことしかしないと知っているから、少し触られただけでも期待して身体が疼く。
 初めての時も普通に気持ち良かったけれど、今ではもう口付けの段階で濡れてしまっているのだからとんだ淫乱だ。
 シオンに力を分け与えるために……なんて、今の蕩けきった状態のユノを見て、一体誰が信じてくれるのだろう。自分でもなんのために抱かれているのか、もう分からなくなっている。

「こら、足を閉じるな」
「あっ、やあっ、んぁ……あ、いく、それイッちゃうから、も、うぁっ……」
「はは、知ってる。気持ちいいよなぁ、ここ」

 ここと言われたところを舌で転がしながら、シオンの手がユノの内腿を押さえた。
 絶頂が近くなると、足を閉じてしまう癖を知られている。少しでも快楽から逃げようと、腰を浮かせてしまう癖を知られている。
 行為中のユノの動きは全部シオンに把握されていて、すぐに感じてしまう弱いところも知り尽くされているのだ。そのせいでシオンの思う通りに、最後まで行為が進められていく。

「あ、イく……イくの、イくっ……っん! んんっ、はぁ……」
「はは、かわいーなぁ。どんどん感じやすくなる」
「んぁ、あ……っんん」

 数回達した後にシオンのものが挿れられて、その後もユノは散々喘がされることになる。
 いろいろと抑えが効かなくなったのは、何度もこの行為を重ねて慣れたせいもあるのだろう。どうせ誰もこんなところを通らないし、今まで一度も気付かれていないのだ。そう思っているうちに、いつからかユノは声を抑える努力をしなくなった。
 それに、ユノが声を我慢していると、シオンは楽しそうにユノが我慢できなくなるまで弱いところを弄ぶのだ。余計なことをして、これ以上体力を削られたくない。
 そして厄介なことに、これが心から嫌なわけではないのだ。もしかしたら自分には、少しだけ被虐趣味でもあるのかもしれない。そう考えると嫌になる。

(結局今日も、シオンに好き勝手にされちゃってる……)

 こんなの良くないと反省しても、次に活かせた試しがない。
 そもそもシオンを部屋に入れなければいい話なのだろうが、ユノにその選択権は与えられていないのだ。
 皇帝が寝てから、瞬間移動のような力を使ってシオンは勝手にユノの部屋に訪れる。何もないところから現れたシオンを初めて見た時、本当にシオンが人ではないのだとユノは実感した。
 しかしそんな驚きさえも、数分後には快楽に溺れて頭の中から消えてしまったし、一度押し倒されてしまうと抜け出す事は難しい。口吸いされると力が抜けて、シオンに抱かれている最中はまともに頭が働かなくなる。
 本当に、麻薬みたいな行為だ。
 都合よく使われているだけだと分かっているのに、ただただ気持ち良い行為だから最後まで応じてしまうし、最終的にはユノからも求めてしまう。
 朝起きたらシオンはいつの間にか部屋からいなくなっていて、日中は猫の姿でユノの前に現れるのだから頭がおかしくなりそうだった。
 優雅に本宮内を歩く可愛い猫が、昨夜あんなにいろいろとしてきた男と同一だとはとても思えない。

(どんどん駄目な方向に流されていってる気がする……)

 不定期とはいえ、少なくとも週に三回はシオンとそういう行為をするようになってしまった。
 どんどん身体がおかしくされていくようで、あまりにも簡単に感じてしまう自分が嫌になる。
 昨夜も散々シオンに抱かれたはずなのに、初めての時のような倦怠感はもう全く感じない。たとえ二日連続だろうと問題なく行為ができるだろうし、すぐに感じて気持ち良くなれる。
 なんだか、酷くいやらしい体になってしまったような気がする。自分がこんな人間だったなんて気付きたくなかった。

 日が沈み皇帝の就寝時間が近付くと、今夜もまた心が落ち着かない時間の始まりになる。
 シオンが来る日は決まっていないし、何か約束のようなことをしているわけでもない。ただ、シオンが来たらすることは決まっているから、一人でそわそわと待っているような状態になる。
 無視して早めに寝ていたとしても、シオンが部屋に来たら何もせずに去ってくれることはないのだと、過去に身を以って教えられた。
 来るとしたら、今から三時間以内。それ以上経ってもシオンが部屋に来なければ、今日はそういうことは無しだと受け取ってもいい。
 昨日したから来ない可能性も高いけれど、最近はどんどん部屋に来る間隔が縮まっている感じがするし、連日でもおかしくないのだ。
 今夜はどっちになるのだろう。そわそわした気持ちのまま室内で家事を片付けていると、閉じていた扉が開く音がして視線を向ける。
 そこに立っていたのがあまりにも意外な人物で、ユノの動きが一瞬まった。

「え……?」
「おや、一人ですか?」
「あ、え、はい……? こ、こんばんは……?」
「ええ、こんばんは」

 不機嫌そうな無表情のまま、皇帝の側近であるヤンが玄関に足を踏み入れる。
 こんな時間にヤンが離れに来たことは今まで一度もなく、急な訪問にユノはどうしもて身構えてしまう。
 ――苦手なのだ。どうしても。
 硬くて厳しい話し方や、常に怒っているような表情。誰に対しても同じような態度だから、ユノが特別嫌われているわけではないのだろう。
 ただ真面目で、口調がきついだけなのだ。
 仕事熱心で部下からの信頼も厚く、悪い人ではないということはユノだって分かっている。
 それでも、村にいた頃にシオンのことで何度も責められた記憶は消えていないのだ。苦手意識が残ってしまうのも仕方がないだろう。

(私が苦手なだけで、女性からはかなり人気があるって聞いたことはあるけど……)

 若くして皇帝陛下の側仕えをしている優秀な人であり、知的で整った容姿。女性からかなり人気があるのに浮いた話の一つもないから、男色家なのではないかと噂もあった。
 そんな失礼なことを思い出してしまった気まずさもあり、二人の間の空気が少しだけ重くなる。もともと、楽しく会話をするような間柄ではないのだけれど。

「お一人なようで安心しました。上がっても構いませんね?」
「え? あー……その、もちろん構いませんけど、こんな夜中に何か……?」
「見回りですよ。不審者が彷徨いていないか本宮内を歩いていただけです」
「不審者……あ、女一人だから心配してくれたんですか? だからわざわざここまで?」
「まさか。そいつが身を隠すならここだろうと思っただけです」
「へ……?」

 扉が閉められ、室内に上がったヤンが荷物を床に下ろした。
 その荷物の中に縄のようなものが見えてぎょっとする。あまり武闘派には見えないけれど、もし不審者を見つけたら一人で捕まえる気でいたのだろうか。

「たとえ陛下に害を為す気がなくとも、正式な手続きをせずに本宮内に人を入れるのは重罪だと知っていますか?」
「ぞ……存じております」
「分かっていて外からの者を手引きしていると?」

 言われた意味を理解した瞬間、ぐらりと足元が揺れたような気がした。
 一体どこまで、何を知られているのだろうか。
 恐らくヤンが言っている不審者とはシオンのことで、この離れの近くで誰かがシオンを目撃でもしたのだろう。
 たとえ顔をしっかり見ていなくとも、髪色だけでシオンは十分に目立つのだ。皇宮の関係者でないことなんて誰が見ても明らかである。

「あ、え……その……」
「男を買っているのか恋人なのかは知りませんが、頻繁に誰か呼んでいますね。最近になって寝具を頻繁に……念入りに洗うことが増えているようですし、汚すような行為をする相手ということでしょうか?」

 ヤンにそう言われた瞬間、ユノの頬がカッと赤くなる。
 いやもう本当に洗っている理由は勘ぐられている通りであり、言い訳のしようがない。だからといって正直に肯定するわけにもいかず、下手くそな言い訳が思わずユノの口をついた。

「あ、う……その、布団を洗っているのは、熱くなってきたので寝汗が……」
「ほぉ。昨夜ここを通りかかった時、いくいくいくと悲鳴のような貴女の叫びを聞きましたが?」
「……っ」

 寝具には汗も染み込んでいるし、言ったことは決して間違いではない。
 しかしそこまで把握されているとなると、これ以上は何を言っても無意味だろう。
 自分の顔が真っ赤になっていることなんて鏡で確認しなくても分かった。

「……っその、なんと説明すればいいか……」

 頭の中がぐちゃぐちゃで、上手く口が回らない。
 不審者を本宮内に引き入れているわけではないし、皇帝に何かをするつもりもない。借りている場所を汚していることは申し訳ないと思っているし、その件に関してはシオンに話して対策を考える。
 しかしその説明をするには、まずシオンのことを話さなければならないのだ。
 しかしこんな話、どう言えばちゃんと伝わるというのだろうか。
 シオンは人間の姿になることができて、猫の姿を維持する力を供給するために抱かれているだなんて、あまりにも現実離れしていて嘘のような話だ。
 ヤンが信じてくれるとは到底思えなかった。

「……っあの、不審者を引き入れているつもりはなくて、そもそも私の部屋に来ているのは内部の人間で……あ、人間ではないかもしれないけど、信じてもらえないかもしれないですが、最初は猫で……」
「いいです。聞くだけ無駄なので」

 冷たい声で咎められ、その瞬間にユノはぐっと押し黙る。
 正直に話しても、嘘をついて真実を誤魔化そうとしているようにしか聞こえないだろう。上手く説明できていないことは、ユノ自身もよく分かっていた。

「……ご、ごめんなさい。でも、あの」
「言い訳は不要です。こっちを見た方が早い」
「きゃっ!」

 急に伸ばされた手に襟元を引っ張られ、ユノの首筋と胸元がヤンの前で晒される。
 目の前の男はただ静かに、ユノの肌を冷めたような目で見下ろしていた。

(……どうしよう。最悪だ)

 ユノの身体には、シオンに残された鬱血痕や噛み跡がある。少しでも服を乱されたら見えてしまうそれは、首にも胸にも広がっているのだ。
 どういう時につく痕なのかなんて、考えなくても分かるだろう。
 こんなの、誤魔化しようがない。

「そんな身体で、よく嘘がつけましたね?」
「……っ、その、本宮の外から男性を連れ込んだわけではないんです。本当です」
「ああ、もう結構ですよ。言い訳を聞きにきたわけではないので」

 そう言われても、誤解されたままではヤンのことを帰せない。
 どうにか説明をしようとユノが頭の中で文章を組み立てているなか、ヤンが持参した荷物を無表情でユノに手渡す。

「……え?」

 これは、開けろということなのだろうか。
 説明もなしに渡されたけれど、わざわざヤンが持ってきたということは、最初からユノに渡す予定だったのだろう。
 ただ呆れたような顔をしているヤンの前で、ユノはゆっくりと紺色の包みを開いた。
 説明くらいしてくれてもいいのにと、そんなことを思いながら中身を確認し、真っ先に目に入ったものにヒュッとユノの喉が鳴る。
 他にもいろいろと入っていた気がするが、そこまで確認する余裕はない。見てはいけないものを見てしまった気がして、ユノは慌てて包みの口を閉じた。
 一体どういうつもりでこれを手渡されたのか、全く理解が出来ない。
 包みの中、いくつかある物の中で一番大きく、真っ先にユノの目に入ったもの――それは、男性器を模したような金属の道具だった。

「な、なんですか。これ……」
「連れ込まれるのは問題なので、一人で処理できる道具を用意しておきました」
「は……?」
「素直にこれまでのことを謝罪して、二度としないと言うなら一度見逃そうとは思いました。ですがお前は言い訳してまで続ける気のようですし、理性というものがないのでしょう。どうしてもいやらしいことが我慢できないようなので」

 あまりにも酷いヤンの言い方に絶句する。
 自分が性欲も我慢できない獣のように見られているのかと思うと、情けなくて泣きたくなった。

「我慢できないとか、そんなんじゃありません……」
「ハッ、よく言う。本宮内に男を連れ込むなんて大胆なことをしておいて、恥ずかしくないと? こうやって道具を与えられても、自分で処理する気はないんですか?」
「だから、こんな……渡されても困ります! 使ったこともないし、使わなくても……」
「ああ、そうですね。使い方を教えます。どうぞ、脱いでください」

 ニコリとも笑わずに言うのだから、本当にこの男は冗談が似合わない。
 いや、冗談などではないのだろう。だけどもう冗談だと思って流さないと、とても冷静ではいられない。

「い……いいです、本当に。そんなの……」
「今後も連れ込まれたら困るんですよ。陛下はシオン様が関わると判断が鈍りますし、どうせお前も見逃されるでしょう。だから来てやったんです。教えてやるから早くしろ」
「……っや」

 腕を引かれて足がもつれる。
 寝具の上でもないただの床に転がされ、柱の前でユノは尻餅をついた。

「いった……」
「ああ、すみません。言い合いするのも時間の無駄なので」
「は……?」
「一度始めればどうせすぐその気になるでしょう。それならさっさと始めさせてください」
「まっ、やだ……ちょっと、……っ!」

 ユノを丁寧に扱う気など、ヤンには微塵もないのだろう。彼の動きはあまりにも乱暴で性急だった。
 服を脱がされたというより、乱されたと言う方が近い。胸や下半身を覆う部分がはだければ、どんな状態でも構わないのだろう。無理に引っ張られ下ろされた衣服は、ユノの腕や足首に中途半端に引っ掛かったままだった。
 服を剥かれた状態で両腕を掴まれ、後ろに纏めるようにして紐で縛られる。その腕が動かせないように柱に固定されると、座ることさえ許されないのだとユノは悟った。

「や、やめてください、こんなの……」

 ユノの発する声が震える。
 裸に近い状態で動きを封じられ、目の前には自分よりずっと力の強い男がいるのだ。怖くて怖くて堪らない。
 今から自分が何をされるか容易に想像できるからこそ、ここで流されるわけにはいかなかった。
 ヤンはユノのことをよく思っていないどころか、自分の性欲のために部外者を本宮内に手引きするとんでもない女だと思っているのだ。いつ陛下に害を加えるか分からない存在に対して、ヤンが手加減をしてくれるとは思えない。
 どこまで酷いことをされて、無様な姿を晒すことになるのか。そんなの、考えたくもなかった。

「あの……ちが、ちがいます。ほんと、何もしてません私……まって、いやです。聞いてください。本当に私は何も、本宮内に部外者を引き入れたりだとか……」
「ですから、お前のその身体に残っている痕が何よりの証拠でしょう。こんな状態で言い訳なんて必要ありませんよ」

 自由に腕を動かすことができず、こんな格好では服を直すこともできない。
 話を聞いてくれる気も全くないようで、ヤンの視線がユノから包みの中に移される。
 すぐに見えないように閉じてしまったけれど、あの中には何が入っていただろうか。
 拘束用の縄以外には張形くらいしか思い出せず、何を使われるか分からない恐怖で、ユノの心臓がバクバクと嫌な音を立てる。
 ヤンがこの離れを訪れた時は、まさかこんな展開になるなんて思っていなかった。
 手にしている包みの中に、性処理に使う道具が入っているなんて思うはずがない。一体ヤンはどんな顔でそんな道具を用意したのか。

「やめてっ、お願いです。やめてください!」
「ほら、大人しく開きなさい」
「やっ、嫌です! 解いてください、ひっ……」

 足が閉じられないように押さえられ、恥ずかしいところがヤンから丸見えになる。
 閉じられない状態のまま紐で縛り付けられ、暴れようとする度にユノの脚に紐が食い込んだ。

「も、やだ……。いやだ……ちがう、ちがうのに……」

 シオンには散々見られているけれど、それとこれとは別の話だ。
 尋問されて吐くようなこともなければ、罰を受けるようなことを自分がしたとも思えない。
 確かに、どこかで人間姿のシオンを見かけた人がいるのなら、誤解しても仕方ない行動をユノはしていたと思う。
 自分が怪しい行動をしていたのはちゃんと認める。だけど、こんなことをする前にちゃんと話を聞いてほしい。

「やめ、あの……解いてください。こんなのおかしいです」

 どれだけ必死に訴えても、ユノの声などヤンにはまるで聞こえていないようだった。
 ユノに一瞥もくれず、ヤンが再び包みを開く。中から取り出されたのは、小さな洗濯挟みのようなものだった。

「とりあえず、先ずはこれから」
「やっ、やめて! いやっ!」

 本当に道具の使い方を教えているつもりなんだろうか。こんなことをされて、まともに説明が頭に入るわけがないのに。

「あ、だめっ……やだ、やだぁ……」

 両胸の先端が道具で挟まれ、いやいやとユノは必死に首を振る。
 紙や洗濯物を挟む道具と、これは別物なのだろう。挟む力はそれほど強くもないし、思っていたような痛みはない。
 ただユノの敏感なところを、軽く摘まれているような感覚だった。

「うっ、外して。いやです、胸いや……っ」

 ただ胸を摘まれているだけとはいえ、これで何も感じないわけがない。
 心底嫌なはずなのに、どうして反応してしまうのか自分でも分からなかった。

「ああ、本当にこんなのでいいんですね」
「っも……ちがう。見ないで、やだ、取って……」

 しばらくすると胸への刺激によって、ユノの陰核がぷっくりと膨れてしまう。
 ヤンは最初からそうするつもりだったのだろう。摘みやすくなった陰核にも同様に道具が付けられ、あまりにも間抜けな自分の姿に、ユノの瞳に涙が浮かんだ。

「うっ、ひぅ……んっ……」

 これは一体どういう罰なのだろうか。
 身動きの取れない状態で卑猥な道具を使われて、同じ人間として扱われているとは到底思えなかった。
 悪い夢なら早く覚めて欲しい。

「あ、っひ……!」

 ユノが声を上げても、ヤンの方はただ軽蔑するような視線をユノに向けるだけだ。
 ヤンの視線も気になるけれど、正直ユノはそれどころではない。
 道具の中に、おそらく何か仕込まれているのだろう。びりびりと軽度の電流のようなものがそこを通り、ユノの手の平に汗が滲んだ。
 痛くはない、けれど、確かな刺激がピンポイントでユノを襲う。
 滲んだ視界で、目の前の男がぼやけて見える。
 びりびりとした刺激が触れるのは、ユノの陰核と乳首だ。こんなの、何も感じずにいられるわけがない。

「っいや、いやぁっ、や、んんっ……くっ、うぅっ、んぁ」

 固定されているせいで、どれだけ腰を引いても気持ち良いのが逃がせない。
 陰核にもう一つ。すでについている道具を上から挟むようにして、追加の刺激がユノの弱点に触れた。

「ひあっ! あ、や、そこに付けるのだめっ、あ、むりっ、むりです。我慢できない……っひぅ!」

 何かが出そうな感覚に襲われて、ユノのひざがガクガクと震える。
 弱いところばっかり連続で弄られて、ずっと我慢するなんて無理だ。
 ただでさえシオンに散々触られて、簡単に快楽を拾うようになってしまった場所なのに。
 ――と、そんなことを考えて、一瞬でもシオンのことを思い出してしまったことがユノに追い討ちをかける。
 舐められて、摘まれるところを思い出してしまった。シオンの姿が脳裏に浮かんで、いつもの感覚まで思い出してしまう。
 ああ、もう駄目だ。くる。きてしまう。

「やだやだやだっ、やだっ、とめて! 取ってください!」
「いやいや言うのは癖ですか?」
「ちが、ちがいます、だめっ、う……いくっ、や、これいっちゃうぅ……」

 足先をギュッと丸めた瞬間、耐えきれない欲が漏れだし、ユノの太腿を伝って床を濡らす。
 いつもなら、ユノが一度達した瞬間にシオンは一度手を止めてくれる。
 しかし、今ユノを襲っているのは意思を持たない道具なのだ。
 ユノの反応を見て力を緩めてくれることなんてあるはずもなく、達したばかりで敏感になっている芽に、変わらず同じだけの刺激を与え続ける。

「うっ、ううぅっ、うぁ、ああっ……ひぐっ」

 シオンに弄られている時とは全然違う感覚だ。
 それでも、ここですぐに達するようにユノは開発されていて、次の波がまたすぐにきてしまう。
 何度も教えられて、身体が覚えているのだ。
 ここで快楽を拾うと気持ちが良くて、簡単に達してしまう。

「っひ、ぁ……ぃく、またいく、いっ、んぁ、あぁぁ……」

 達したばかりはただでさえイキやすいのに、びりびりとした刺激は弱くもならないし、手加減もしてくれない。
 陰核から刺激を拾い、軽い絶頂が何度も続く。

「あ、っあ、ひくっ……もうだめ、やだ、っんぁ、うっ……これやだ、いく、いくのっ、もう外してぇ……」
「はぁ。これだけで善がるのですから、毎晩のように連れ込まないと足りないでしょうね。随分と頻繁に呼んでいたのでは?」
「もっ……ちがうっ、あぁっ、ぅあ、違います……、ひぅっ、ん……ほんと、私は、ッハ、うあっ、部外者を入れたりとか、アッ、んぁ……してな、っです」
「部外者でしょう。皇宮に出入りを許可されている者の中に、あんな白髪の男などいないのだから」
「あっ、やだっ……ひ、っう」
「お前がここに住んでいること自体が分不相応なことなのに、それすら忘れて好き勝手するからこういう目に遭うんですよ」

 性的なことをしているのは同じなのに、シオンに触られている時とは全然違う。
 もともとユノはヤンが苦手だったから、その所為でもあるのだろう。
 今もこうやって言葉で詰られるだけで、心臓の辺りがキリキリと痛んだ。
 自分は規則を守れない最悪の人間で、卑しい平民。この場所に住めること自体がおかしくて、無理やりこんなことをされているのに感じている変態なのだと、そんなことを淡々と言われている。
 本当に嫌なのに。怖いのに。それなのにイクのを我慢出来ない。

「この程度で満足していないでしょう。こっちも用意してきているので、使い方だけ教えておきましょうか」

 取り出されたのは、さっきユノが視界に入れてしまった金属だ。
 男性器を模したそれが、ユノの中心に乱暴に沈む。

「うぁっ、あ、やだ……っ、ん」
「簡単に咥えますね。随分と使い込まれているようで」

 涙や唾液でぐしゃぐしゃのユノの顔に、恥ずかしくて更に熱が溜まる。
 こんな刺激でも当然のように感じてしまう自分が嫌で、耳を塞ぎたいのにそれすら出来ない。
 張形を出し入れされる度にぐぷっ、ぐちゅっと卑猥な音が響く。抜き差しされると足がガクガク震えて、お腹の奥まで犯されている気がした。

「やだっ、あ……シオン、シオンッ……!」
「ああ、恋人か何かの名前を猫につけたんですか? 悪趣味な」
「ちがっ、違います、もっ、あぁっ……や、だめっ、それだめぇっ」
「道具を使う練習だけでなく、声を抑える練習もした方がいいですよ。外まで聞こえる」
「ふっ……うぁ、あぁぁ、っんあ!」

 また、無理矢理イカされる。
 張形が挿れられている今も、乳首と陰核に取り付けられたものはそのままなのだ。
 一気にいろんな場所を責め立てられ、脳が焼き切れそうになる。

「っ抜いて、全部いっしょだめ、だめですっ! イクッ……!」
「ほら、一人でも十分楽しめますね?」
「ちがっ、挟んでるのやだ、やだ、っんん! あっ、そこだめ……っひぅ、弱くて、そこでびりびりされるとイッちゃ、のっ!」

 どれだけ腰を揺らしても逃げることが出来ない。
 背をのけ反らせて絶頂に達するが、道具が外されることはなかった。
 もう何回達したのかも、どこが気持ち良いのかも分からない。
 考えること、全部やめたい。

「やぁっ、や、出る、出ちゃう……イクのくるっ……」

 潮吹きするのが癖になっているのだと、ユノが達する特に面白そうにシオンは言っていた。
 その感覚がまた来てしまうと、ガクガクと震えながらその瞬間を受け入れる準備をする。
 は、とユノが息を漏らしたのと同時。ぎゅぽっといやらしい音を立てて、ユノの中に入っていた張形が抜かれた。

「手を離せ」

 ヤンとは違う、低い男性の声。聞き慣れたその声に、ようやくユノは深く呼吸をすることができた。

「……シ、オン」

 名前を口にした瞬間、ぼろぼろと落ちて止まらなくなった涙がユノの頬を濡らす。
 シオンが何もないところから急に現れるのはいつものことで、ユノは少しも動じていない。ヤンだけは、若干戸惑いの表情を見せた。

「ああ、あとでちゃんと、ぜんぶ忘れるくらい上書きしような」
「うっ……」

 真っ直ぐにユノだけを見つめながら、シオンは優しく笑って甘やかすような声を出す。ゆっくりと目尻に伸ばされた手が、止まらないユノの涙を拭った。
 正直ユノは、自分とシオンがどういう関係なのか分からない。
 だから今の行為をどう受け取られるのか不安だったのだが、どうやらシオンはそこまで怒っていない様子である。
 望んでしたことではないけれど、まるで不貞の現場を見られたようだと思っていたから、いつも通りのシオンの様子に少しだけ安心してしまった。

「ああ、そうだ。お前――」

 ユノが多少落ち着いてから、ようやくシオンの視線がヤンの方に向けられる。
 よくよく見てみると、ヤンの手首ごとシオンが掴み、張形を抜いてくれていたらしい。それと同時に、ユノの弱点を摘んでいた道具も外してくれたみたいだ。そのおかげで、ユノは落ち着いて二人のやり取りを見ていることができる。
 まあ、後ろ手に柱に括り付けられている状態であることは変わらないのだが、それでもシオンの背に庇われるような形なので、さっきよりは随分と安心できた。

「何をしても簡単に感じて可愛いだろう? 触っていて楽しかったかもしれないが、不快だからもう二度としないでくれよ。次はない」
「今、一体どこから……」
「ああ、それとなぁ、この子が何をしても痛がらずに濡れるのは、俺のために身体を作り変えてる最中だからだ。決してお前のことを好ましく思っているからじゃないからな」

 口調は軽いし、形のいい口元も笑みを携えている。
 それなのにシオンの目は全く笑っていないし、声も厳しく怖かった。
 誰が聞いても分かるくらい、シオンは決して機嫌が良いわけではないのだろう。
 小馬鹿にしたような、呆れるようなシオンの表情は、きっと自分に向けられたら腹の立つ表情だ。ヤンの問いかけに答えるつもりもさらさらないらしく、言いたいことだけを喋っている印象を受ける。
 それなのに、薄らと笑うシオンの姿は、思わず溜息が出てしまいそうなくらいに綺麗で目が逸らせない。
 美しい表情を貼り付けたまま、シオンがヤンに笑いかける。

「まあ、道具しか使っていないことだけは褒めてやる。途中で他の男のものが入り込むと、色々と面倒だからなぁ」

 静かに、ヤンが短く息を吐く音だけが聞こえる。
 あんなにもネチネチと言葉でユノを詰ってばかりだった人間が、シオンの前では何も話せなくなっているようだった。
 この光景はどこか異様だ。

「この子は何も悪いことはしていないし、どんな理由があろうと手を出したら許さない。俺が彼女のところに通っていることを他言しないなら今は見逃してやる。さっさと出ていけ」

 シオンが、言葉だけで人を操っているように見える。
 何も発さないまま息を飲んだヤンは、一度小さく頷くとふらふらとした動きで部屋から出て行った。
 ヤンが部屋からいなくなり扉が閉められた瞬間、シオンの纏う雰囲気がまた少し変わったような気がする。

「シオン……?」
「はは、そそられる格好させられてるなぁ。アイツの手でされたのかと思うと、全く面白くはないが」

 ユノだって、何一つ面白いとは思っていない。
 助けに来てくれたことはありがたいけれど、そもそもこうなった原因はシオンにあると思う。
 じとりとユノが睨むと「分かってる」と軽い調子で言われ、シオンが縄を解いてくれた。
 拘束を解かれてすぐ、とりあえず肌を隠すように衣服を簡単に正す。きっちり着たわけではないけれど、シオンの前でなら多少は乱れた格好でも構わないだろう。
 それに今は、服装を整えるよりも先に、シオンに聞いておきたいことがあった。

「……ねえ、シオン」
「ん?」

 さっきのヤンとの会話の中で、シオンは少しおかしなことを言っていたような気がする。
 ユノの身体を作り変えているとかどうとか、そんな話。もしそれが言葉通りの意味だとしたら、このまま黙っているなんてできない。
 いつもしていることはシオンの力を溜めるためで、ユノが生気を与える行為なのだと、そう聞かされていたはずだ。
 自分の身体が作り変えられているだとか、そんな話は聞いていない。

「……シオンって、私に何かしているの?」
「うん? 何かっていうのは?」
「なんか……私の身体を変えてるとか、そういう話をしていたから……」

 そこまで言われて、シオンもようやく先ほどの自分の言葉を思い出したのだろう。
「ああ」と返事をくれたと思ったら今度は軽く吹き出し、楽しそうに笑い始めた。

「ふっ、はは。なんだ、そんなことか」
「な、なんで笑うの?」
「いや。真剣な顔で何を言うかと思えば、それだけかと思ってな」

 ユノの方は真剣に話しているつもりなのに、こんな風に笑われるなんて解せない。
 再度シオンの名を呼ぶと、すぐに笑うのは止めてくれた。紫色の瞳が楽しそうに細められ、ゆっくりとユノの方へ向けられる。

「はは……本当、可愛いなぁ。こんな行為で力が溜まるなんて、君は本気で思っていたのか?」
「っ、だって……あんなに恥ずかしいの、後処理とかも面倒なのに頻繁にするし、する必要があるからだと思ってて……」
「恥ずかしいのに付き合ってくれて偉いなぁ。君が協力的で俺も助かってる」

 話が噛み合わず、褒められているはずなのに何にも嬉しいと思えない。
 ただ、ユノに黙ってシオンは何かをしているのだろうと、シオンの雰囲気でそれだけは肌で感じた。
 
「私がシオンに協力してるのは、定期的に力の供給をしない所為で前みたいに猫に戻れなくなったら私も困るからだよ。……必要がない行為ならしたくない」
「ははっ。俺はあの姿になれなくても別に困りはしないし、そろそろこの場所から去ってもいいと思っているが?」
「は……?」
「俺が君を抱いてるのは、君を連れていく準備だからなぁ」

 伸ばされたシオンの指がユノの腹に触れ、ゆっくりとした動きでそこを撫でる。
 ぞわりとしたものがユノの背中を駆け、思わず一歩身を引いてしまった。

「相当な量を君の中で出してるんだ。俺のが混じって、少しずつ君の身体が作り変えられていっても不思議じゃないと思わないか?」
「待って、なに……」
「君がヒトじゃなくなった方が、俺としてはいろいろと手を出しやすい」
「本当に待って。わ、分かんないよ……」

 シオンの言っている意味が本気で分からない。
 自分の姿を変えることも、空間を移動することも出来ないのだ。シオンと同じようなことは何一つできず、ヒトじゃなくなっていると言われても、ユノにはまったく自覚がない。

「ああ、さっきので分からなかったか? 少し乱暴にされても特に痛みは感じず、無理なく受け入れることができるんだ。君だって、少しは変化を感じているだろう?」
「は……」

 そんなの、何度もシオンと身体を重ねているから、ただ慣れていってるだけなのだと思っていた。
 少しずつ慣らされて、広げられて、だから奥まで入っても苦しくないのだと、そう思っていたのだ。
 初めての時と比べたら、随分簡単に奥まで入るようになった。今日ヤンにされたことも、だから痛くないのだと思い込んでいた。
 しかし、シオンに言われて少しだけ思い出す。
 切り傷や、擦り傷。日常の中でついた小さな傷の治りが、確かに以前よりもずっと早くなっている。

「何のために、そんなの……」
「最終的に君を連れて帰るつもりだった。ただの人の身だと入れない場所なんだが……まあ、そろそろ大丈夫だろう」
「シオン……?」
「本当は、もう少しここに居てやってもいいと思っていたんだがなぁ……。もう無理だ。気が変わった。連れていきたい、今すぐ」
「え? え、あ、なんで……?」
「はっ、他のに君が触られて、俺が平気でいるとでも思ったのか? 俺は君をここに置いておくのが心底嫌になった」
「んっ……」

 シオンの唇が重なり、開いた隙間から舌が差し込まれる。
 その瞬間に浮遊感に包まれた気がして、ユノはぎゅっと目を瞑った。
 ――なんとなく、どこかに移動したのだろうと感覚で思う。
 恐る恐る目を開くと、目の前に広がっていたのは見たことのない景色だった。

「……なに、これ」

 どこまでも続く広い水の上に大きな縁側が浮いているような、そんな場所にユノの足がついている。
 今までいた場所とは空気がまるで違い、夜のようなのに明るい空の色が、ユノの目の前に広がっていた。
 人の声や生活音は何もなく、風だけが柔らかくユノの髪を靡かせる。
 隣には変わらずシオンが立っていて、触れた体温だけがいつも通りだった。

「……っえ、あ……ここ、どこ?」
「んー……君らで言うところの、天とか空とかその辺りか?」
「天……」

 本当に人間の住めない場所にシオンはいたのだと、今更ながらに実感する。
 ここを通って空間を移動していたのだというシオンの話は、ユノの耳をそのまま通り過ぎていった。
 ふわふわとした夢のようで、あまりにも現実感がない。

「さて、ここに君を連れて来られたってことは、君はもう俺に近い体なんだ。人間ほど脆くない。手加減してやらないから覚悟しろよ」
「え……?」
「とりあえずは他の男に触られた分、たっぷりと上書きさせてもらおうか」

 首筋をシオンの指でなぞられ、ぞくりとしたものがユノの背中を駆ける。
 自分の中に生じた気持ちを比較して、ユノはただ混乱した。
 ユノの話を聞かず、無理やりであることに変わりはない。
 それなのに、ヤンに襲われそうになった時と今。困ったことに、感じるものが全然違うのだ。
 シオンに触られるのは嫌じゃないし、むしろ早くそうして欲しかった。そんなことを考えてしまった自分に驚き、小さく震えながらユノはシオンをじっと見つめる。

「シオンが作り変えていってるのって、私の身体だけ……?」
「どういう意味だ?」
「その……感情のコントロールというか、心を操ったりとか……」
「そこまで干渉できるわけないだろう。俺ができるのは君の生態を自分に近づけることくらいだ」

 きっと、その言葉に嘘はないのだろう。
 ほっと胸を撫で下ろし、ユノは再びシオンの瞳をじっと見つめる。
 この気持ちが作られたものじゃないのなら、今から言う自分の気持ちも、きっと一つも嘘はない。

「……私、シオンのことが好きなんだと思う」
「は?」

 ここに連れてこられた時点で、それはプロポーズのようなものだと受け取ってしまった。
 だからこそ、シオンのこんな反応は予想外だ。意味が分からないとでも言いたげに眉を寄せられ、ユノは一瞬言葉に詰まる。
 好きって言えば喜んでくれるんじゃないだろうかと、無意識のうちに考えていた自分に恥ずかしくなった。
 告白みたいなことを言ってしまったけれど、シオン的にはそういうつもりじゃなかったのだろうか。

「め、迷惑……?」
「はは、まさか。君がそう言ってくれて、俺は普通に嬉しいが?」
「……本当に?」
「でもまあ、俺の方はそんなに可愛らしい言葉で済む感情じゃないけどなぁ?」
「へ?」

 シオンに抱き上げられると同時に部屋の奥へと連れていかれ、初めて入るその部屋の中心でユノは下ろされる。
 大きなベッドに座らされている現状に、今から何をするのかなんて考えなくても分かった。

「まあ、君が嫌がっていないなら俺としても助かる。どうせもう帰せないんだ。ゆっくりと時間をかけていいから、俺と生きる覚悟を固めてくれ」

 嬉しそうな顔を向けられると愛しくて、胸の辺りが苦しくなる。
 人間じゃなくなったはずのユノの心臓が、きゅうっと小さく悲鳴を上げた。

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