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結婚生活③

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◇ ◇ ◇

 半信半疑ではあったけれど、そこから一週間もしないうちに、本当に森下グループから恭弥くんへの縁談は取り下げられたらしい。
 だからといって加賀庵が何か不利益を被ったかというとそうでもなく、今後もなにかあれば協力していきましょうと、そういう話に落ち着いたようだった。

 ――本当に、いまだに何が起きたのか分からなくてびっくりしてしまう。

 祖母に聞いても「昔の知り合いなのよ」と流されただけであったし、真相がよく分からない。
 日中は恭弥くんの報告を聞くだけで、ああ良かったと単純に安心するだけで終わってしまったけれど、やはり考え出すと止まらなくなってしまう。
 その後もずるずると考え続けてしまった私は、結局その日の夜になってから、今さらな問いを恭弥くんに投げることになってしまった。

「あの……今さら聞くことではないかもしれないんだけど、私のおばあちゃんって何かすごい人だったりしたの……?」
「本当に変なタイミングで聞くね。それって今じゃないと駄目な話?」

 一人でいろいろと考えた挙句、どうしても知りたくなって投げかけた質問。本当にどうしてこのタイミングなのかと、恭弥くんには困ったような笑顔で返されてしまう。

「う……あの、ごめんね? 考えてたらやっぱり気になって……」

 なんの心配事もなく恭弥くんとこういう時間を過ごせるように、祖母に協力をお願いしたのかなぁ……と。そう考え始めて、また止まらなくなってしまったのだ。
 恭弥くんに抱かれている最中にずっと考え事をしているのも嫌で、つい口から出してしまった。
 謝る私に「まあいいけど」と返しながらも、恭弥くんは手を止めるつもりはないらしい。
 私の服を脱がすことをやめないまま、恭弥くんは話を続ける。

「僕も詳しいことは知らないけど、過去に経営が傾いていた時に援助してもらったから恩があるとか、そういう関係らしいね」
「なんか、今の規模で考えても仕方ないのかもしれないけど、森下グループを援助って言われても正直あんまりピンとこないね……」

 銀行、鉄道、不動産と、パッと思いつくものだけでも多くの子会社を抱えている大企業だ。そこの会長が恩を感じていると言われると、どれだけの援助をしたのか見当もつかない。

「小さな呉服屋だと思ってたけど、昔はもっと大きな事業とかしてたのかな……」
「若菜のお祖母さん、あの辺一帯の地主だよ。呉服店の方とは別事業だから、あんまり公にしてないみたいだけど」
「へ……?」

 そこまで話を聞いたところで、最後の一枚まで恭弥くんに脱がされてしまった。
 ベッドの下に私のショーツが落とされ、恭弥くんも自分の服を脱いでいく。

「え? あ……え?」
「なに? まだ何か聞きたい?」
「だって、私はそんなの知らなくて……。えっと、恭弥くんはそういうの知ってたのに、どうしてもっと早い段階でおばあちゃんに相談しようって言わなかったの?」
「若菜が僕と別れたがってるかもしれないって状態で、そんな話できないよ。式の時点で若菜が僕に不信感持ってたのは気付かれてたみたいだし、違う形で婚約の話を利用されたら僕の方が困る」

 お互い裸になった状態で覆い被さられ、私の足を割るようにして恭弥くんが身体を入れた。
 今から触ってくれるのだと意識するだけで、私の身体は分かりやすく恭弥くんを受け入れる準備を始める。

「あ、ぅ、恭弥くん……」
「順調に式の準備進めて、あと少しで結婚式って時期なのに若菜の表情どんどん暗くなっていくから、若菜の身内はみんな心配してただろうね。婚約破棄する言い訳にされるかもしれないって考えたら、協力して欲しいなんて話せなかった」
「んっ……、あ」
「まあ、僕が思ってたよりもずっと昔から、若菜は僕のこと好きでいてくれたみたいだけど」

 言いながら私の胸に恭弥くんが舌を這わせ、それだけで甘えるような声を漏らしてしまう。
 私も随分この行為に慣れたと思うけれど、何回目であっても恭弥くんの前戯は丁寧だ。
 キスをして、肌に触れて、焦らすように胸を弄ばれた後、とろとろに濡らしてしまった秘所を舌と指でゆっくりと慣らしてくれる。
 私の弱点は全て恭弥くんに知られてしまっていて、それが分かっているからこそ、軽い触れ合いの時点で私の身体は期待するように濡れてしまうのだ。
 今日もたくさん上半身だけで焦らされ、中心に指が触れた時には、もうドロドロになっていた。

「は……本当、これだけで凄い濡らしてくれるようになったね。嬉しい」
「っあ、指……そこ入って、あ……んん、ぁ、きもち、っは、あぅ……」
「声我慢しないでいっぱい聞かせて。若菜がイキそうになってる時の声、すごく好き」
「あっ、あぁ、っん……っあ、それ、い、ぃく……っも、恭弥くんのそれ、きもち、っア」

 達しそうになる直前でキスを落とされ、唇を塞がれた状態で絶頂を迎えてしまう。
 指はまだ抜いてもらえず、気持ち良い感覚が継続したままで恭弥くんの指を締め付けてしまった。
 少し動かされるだけで、またイキそうになってしまう。酸素をうまく取り込めない状態で達したせいで、いつも以上に頭の中が真っ白だ。
 内側から刺激される膣内だけでなく、理性ごと食べるように絡み合う舌も怖いくらいに気持ちいい。

「はっ、あ……はぅ、ん、んぁ……っはぁ」
「いっぱい濡れて、もう凄いことになってるね。今ここに挿れたらすごく気持ち良さそう。ね、若菜。挿れていい?」
「んっ……うん。恭弥くんの、ここ、挿れて……」
「はー……可愛い。今日はゴムしないで挿れてみようか」

 イッたばかりで頭がふわふわする。
 恭弥くんに言われた意味が分からないわけではないけれど、断る理由は一つもなかった。
 分かったという意味を込め、一度頷く。ナカにあった指が抜かれ、一瞬寂しくなったそこに、今度はまた違うものが埋められていく。

「っん……あ、ふぁ、あぁ、っん」
「は……っん、あー……きもち」

 普段とは全然違う恭弥くんの声に反応してしまい、それだけで私のナカがきゅうっと狭くなった。それと同時に恭弥くんの口から、は、と短く息が落ちる。
 気持ち良さそうな声が艶っぽくて、酷く扇情的に感じる。私よりもずっと色気がある気がして、こんな恭弥くんを見せられているだけで頭がおかしくなりそうだ。
 いつまで経っても、こんなの見慣れる気がしない。

「は……若菜、ナカまた狭くなった。それ、本当にやばいんだけど」
「あっ、ん……うそ、ぁ、奥きちゃ……っあ」
「あー……駄目だ。動きたい」

 一度ギリギリまで抜かれて、そのまま再び奥に打ち付けられる。両手で腰を押さえつけられ、逃げることもできなかった。

「っひ、あ、恭弥く……あっ、や、も……またイク、っん、んぁ、っはぅ、んっ」
「可愛い。はっ、それ、もっとして……」
「ンッ」

 ぱちゅぱちゅと腰を打ちつけられながら舌が絡み、どうにもできずに息が乱れる。
 二人分の呼吸が交じり、またすぐに達してしまいそうな気配に背中が震えた。気持ち良さに脳が支配され、指先にぎゅっと力が入る。

「っはぁ、あ、奥くる……、や、だめっ、きちゃうっ……!」
「は……っほんと、やば……」
「またイッちゃ、あ、あっ、ああっ……」

 恭弥くんの肩を掴む手に、思わず力が入ってしまう。
 口の端から垂れる唾液も汗ばむ肌も、もう気にしてはいられなかった。腰を逸らせて達してしまい、その瞬間の呼吸さえ恭弥くんに食べられる。

「は……っ、ぐ」

 一度唇が解放され、至近距離で恭弥くんの呻くような低い声を聞いた。
 その瞬間に恭弥くんも絶頂を迎えたのだと分かり、お腹の中に熱が広がったのを感じる。
 ああそういえば、と。今夜の恭弥くんは避妊具をつけていなかったことを思い出した。
 しばしの間を置いたあと、恭弥くんと視線が絡む。私の中に入ったままのコレをどうすればいいのか聞きてくて、おずおずと口を開いた。

「ぬ、抜く……?」
「……はぁ、うん。少しだけ待ってくれる?」

 恭弥くんのゆっくりとした喋り方が耳に残り、私も息を整えるために浅く呼吸を繰り返す。
 イッたのは恭弥くんだけでなく、私も達したばかりなのだ。まだ少しだけ頭の中がふわふわしている。
 今日はこれで終わりなのだろうか。そんなことを考えているとずるりと恭弥くんの性器が抜かれ、ふ、と小さく息を漏らしてしまった。
 過去に見た動画のように、抜かれたから瞬間に精液が零れ落ちてくるということはない。しかし、何かが出された感覚はちゃんと中に残っていて、下手な立ち方をしたら垂れてきてしまいそうだと思った。
 意味もなくベッドを汚さないためにも、これは早く下着をつけた方がいい気がする。
 視線だけを動かして、落とされたショーツの場所を確認する。怠さの残る四肢を動かし、ゆっくりと上体を持ち上げた。

「あれ、もう服着るの?」

 衣服に手を伸ばそうとしたところで、恭弥くんに声をかけられる。頷くことで返事をすると、優しく私に向けて微笑んだ恭弥くんが立ち上がり、そのまま床に落とした服を拾って渡してくれた。

「寒い? 眠る前に部屋の温度もう少しだけ上げようか?」
「ううん、大丈夫。下着履いてないと、垂れてきそうで心配だなって思っただけだから」

 こうやって気持ち良いことをしても、恋人のような触れ合いをしても、それはすべて生活の延長線上だ。
 今から寝る場所のことを気にしてしまうし、少し時間を置いて頭がクリアになってくると、明日の朝の予定まで考えてしまう。
 ――それすらも、私にはなんだか幸せなことに思えるけれど。

「ああ、そっか。……ごめんね、そこまで気が回せてなかった」
「え? あ、別につらいとか苦しいとかじゃないから、恭弥くんが謝らなくても大丈夫だよ」
「……そう? 変な感じ残ってたりしない?」
「うん。そういうのは本当に全然ないかなぁ」

 へらっと笑ってそう言うと、伸ばされた手が私の頬に触れる。
 優しく唇が触れた瞬間、私の胸の中で、じんわりと温かいものが広がっていった。
 
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