【完結・R18】初恋相手との愛のない結婚生活が予想外に甘い

堀川ぼり

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初夜④

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「気持ち良かった?」
「……っ」
「ナカでイッてくれると思わなかったな。よかった」

 言われたことを理解して顔全体が熱くなる。
 中も外も分からないけれど、私は相当に恥ずかしいことをしてしまったのではないだろうか。

「挿れていい? もう大丈夫だと思うから」

 は、と小さく息を落とし、恭弥くんの腰元にゆっくりと視線を落とした。
 もう恭弥くんの顔を見ていられない。
 指だけでこんなにもおかしくなった。これ以上に続けられたら本気で心臓が壊れそうだが、挿れないと終わらないのだ。
 何一つ大丈夫ではないけれど、私に選択肢なんてない。

「……ん、して」

 弱々しく言葉を発し、ちらりと恭弥くんの表情を覗き見る。
 ほとんどゼロになった距離で、恭弥くんと視線が絡んだ。
 切れ長の瞳が、その瞬間に優しく細まる。

「ふ、ありがと。痛くならないようにするから、嫌だったら教えて」

 布の擦れる音がやけに大きく聞こえる。ズボンと下着は脱がないつもりなのか、硬くなった性器だけを恭弥くんは取り出した。
 悲鳴を上げそうになって、すぐに顔を逸らす。それでも、初めて男の人のそこを見てしまったことに変わりはない。
 動画だとモザイクがかけられているし、漫画では色も形も曖昧にしか分からなかった。
 保健体育の教科書に書かれていたのはシンプルなイラストだけで、目の前にあるモノがそれと同じだとは思えない。
 淡い肌色で描かれたイラストとは違う、濃い色。太さ、形、匂い。知っている知識なんて、本当になんの参考にもならないのだと身に沁みて分かる。
 私の身体のどこまで入ってくるのだろう。そんなことをぐるぐると考えていると、恭弥くんが避妊具を取り出しパッケージを破る。
 慣れた手付きでゴムを被せる恭弥くんを見て、「え?」と、数秒遅れて間の抜けた声が私の口から飛び出た。

「え、え……? あれ……」
「うん? どうかした?」

 どうして恭弥くんは、コンドームなんて用意しているのだろうか。
 夫婦なのにどうして避妊をするのかと、その理由を考えていくと、嫌なことに気付いてしまう。

 ――セックスをする目的は、人によって様々だ。
 しかし、政略結婚により夫婦となった私達が性行為をする理由なんて、子作り以外にないだろう。
 そして、子供を作ることを目的とするなら、こんなに時間をかけて触れる必要なんてない。
 最低限の露出で、挿れて出して、必要なのはそれだけ。
 胸を触ったり、キスをしたり、お互い裸になったりする必要は一切ないはずだ。そんなことをしなくてもセックスは出来る。
 小さく息を吸い、ゆっくりと吐き出した。うるさかった心臓がすうっと冷えていく。
 子供を作るためじゃないなら、何のために私はこれに耐えていたんだろう。なんて、考えていて虚しくなる。
 性欲処理という四文字が頭に浮かび、耐えきれずに口を開いた。

「っや、やめて……」
「……怖い? 時間あるし、不安ならもう少し指で慣らしても」
「ちが……っ、も、そういうのも、恭弥くん慣れてて、こんな、全部やだ……」

 逃げるように身体を後ろに引き、恭弥くんと距離を取る。胸の前でぎゅっと両手を組んで身体を隠すと、恭弥くんの眉間に僅かに皺が寄った。

「は……?」
「意味ないなら、こんな、我慢したくない。怖いもん、いやだよ。恭弥くんは全然、他の人とだって出来るのに、それなら私はするのいや……っふ」

 噛み付くようにキスをされ、最後まで言わせてもらえなかった。
 再び近付かれた距離のまま、不快だとでも言いたげに恭弥くんが声を出す。

「黙って」
「え、あ……なに、っや」

 無理やり開かされた足の間、そこに触れたものが何かなんて、簡単に想像ができた。
 先端が埋められ、私の膝を押さえたままで恭弥くんが腰を動かす。

「は……、あ、っや、やだぁ」
「結婚したらするって言ったよね。ここまでしておいて嫌なんて聞いてやれない。今さら逃げないで」
「っは、あ……あ、待って! や、っひぅ……」
「は、まだ全然入ってない。奥入れたい、力抜いて」

 指とは比べ物にならない質量に押し広げられ、ぼたぼたと涙が落ちる。
 苦しくて怖い。少し前まで優しかった恭弥くんの声も、今は怖くて堪らない。

「やだ、っひ、ぁ、恭弥く……」
「ちゃんと息して、変に力入れないで。手こっち、……っく、はぁ」

 恋人が繋ぐように指を絡ませ、右手がシーツに縫い付けられる。空いている恭弥くんの手は私の膝を押さえていて、足を閉じることすらできなかった。
 ゆっくりと深いところに沈んでいき、最後まで入ったところで恭弥くんが動きを止める。
 まるで、お腹の中から潰されているみたいだ。入っている形が分かるくらいに狭くて、苦しい。

「……っふ、ぁ、やだ……」
「はー……せま……。はっ、きもち……」

 気持ち良さそうに吐かれた息に、ぞくりと肌が粟立つ。
 こんなの嫌なのに、なんで。嬉しいとか気持ち良いとかそんなのおかしいのに、消えない。早く捨てたい感情を、私はいつまで引きずるつもりなんだろう。

「も、やだ……」
「ん? なにが嫌?」
「もう、これやだ……抜いて、や……ふっ」

 拒絶の言葉はキスで封じられ、全部が恭弥くんに食べられる。
 目を細めて息を吐く恭弥くんの姿が色っぽくていやらしい。
 恭弥くんの顔を見て私はドキドキしているし、気持ち良いとも思ってしまう。
 本当に、惨めで嫌だ。

「きょ、やくん……」
「あー……ごめん、少し動くよ」
「あっ、あ……ぅあ、アッ……」

 指で慣らされた時の何倍もの刺激に眩暈がする。
 頭の中がぐちゃぐちゃで、気持ち良いのが逃がせない。
 キスをして絡む舌も、繋がって擦れる部分も、私の理性を容赦なく溶かしていく。
 一度達して感じやすくなっている私が耐えられるはずもない。

「っあ、ぃく……きちゃう、っん、あ、あぁ……っン」
「はっ……ん、っはぁ……」

 私が達してしばらくしてから、恭弥くんも避妊具越しに精を吐き出した。
 一度抜かれて放心したのも束の間。新しいコンドームに着け変えた陰茎がまた私の中に戻ってきて、その感覚に「ひっ」と小さく悲鳴を上げる。

「ぁ、なに……なんで、いま終わって……」
「まだするよ。やっと馴染んできたから、もっと気持ち良いの覚えて」
「は……」

 一度乾いたはずの涙が、またじわりと視界を滲ませる。
 いつになれば終わるのか分からない行為に指先が震え、乱れた呼吸のままで、また何度も嬌声を上げた。


 子供扱いするのはやめてほしいと、そう言って恭弥くんに縋ったのは、いったい何年前だっただろうか。
 いくつになっても歳の差は埋まらないし、出会ったのは子供の頃。恭弥くんが中学生の時に私は小学生で、恭弥くんが高校生になったら私は中学生だった。
 長い間、相手になんてしてもらえなかったのだ。
 子供だという印象が変わらないままで、恭弥くんは私に対して欲なんて湧かないものだと思っていた。
 しかしいつの間にか、性欲の処理に使える程度には、私の身体は女として成長していたということだろう。
 政略結婚だと割り切ったつもりでいたけれど、やっぱり虚しいと思ってしまう。
 抱ける程度に私が成長したと、ただそれだけのことだ。気持ち良ければ誰でもよくて、同じ家に住んでいるから手軽にできてちょうどいいだけ。
 夫婦になれたからといって、私が恭弥くんの特別になれるはずもない。
 恭弥くんには昔から変わらずに想っている人がいるのだと、私は最近知ったばかりなのだ。
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