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第8章 謎の侵入者

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 ガンダルは目の前でツカサが息絶えて行く様を見つめていた。自分がティスコフに向けて放った《死の呪文》の効果が、まさか、ティスコフの抵抗呪文、《身代わりの呪文》によって、ティスコフからツカサに魔法の対象者が変わってしまったことに気づいた時には、すでに呪文の効果が表れ、終わりを迎えようとしていた時だ。

 闇の中、その場に崩れ落ちていくツカサの姿。幽霊とはいえ、ガンダルの目の前でツカサの表情は、ツカサの思いは暗い闇の中ではわからない。

 ガンダルは動かなくなったツカサの体に近寄る。暗闇の中、わずかな光でツカサの死の寸前までの表情が凍りついたままでいる。ツカサ自身、自分に何が起こったのか理由も知らないまま、死んでしまった。

 ガンダルはゆっくりとツカサの体を抱き抱える。そして・・・。

「ウオォォォォォーーー!!」

 今までこれほどまでに声を出したことが無いほど、全身で声を挙げ叫んだ。その叫びは悲痛なまでに悲しい声だった。

「《リターン・ホーム》」

 ガンダルは帰還の呪文を唱え、ツカサの体と共にロストアビ―城に戻った。

 偉大なる賢者、ガンダルの悲痛な雄たけびを間近で聞いていたシナリオは、事の次第を理解するのに時間を要したが、今自分がしなければならない事に気づくと、手にした魔法石の灯りで奥へと進んだ。

 崩落が始まった鍾乳洞は危険だ。前後左右、逃げられる場所が無いほど崩れ落ちてくる岩盤や鍾乳石を何とかよけながら、奥の部屋へと飛び込んだ。

 シナリオが飛び込んだその部屋だけは、唯一、崩落が始まっていなかった。

 シナリオが魔法石の灯りで部屋を照らす。すると、足元に見た事のある人影が倒れていた。

「ティスコフ!」

 シナリオはティスコフの名を呼ぶと、傍に駆け寄る。

「おい!ティスコフ。大丈夫か?おい!」

 その声に気を失っていたティスコフが静かに目を開ける。

「やぁ・・・、マスター・・・。ここは・・・?」

「わからない。が、あの洞窟の奥の部屋だ」

「奥の部屋・・・・?そうか、ここが・・・」とゆっくりとティスコフが体を起こす。右手で頭を押さえながら左右に振る。意識が朦朧としている頭の中をクリアにしようとしているのだろう。

「そうだ・・・。ガンダルは?奴は・・・」と、膝を立て左手を床につけた瞬間、全身に激しい痛みが走った。

「ウガァァ・・・」

 悲鳴のような声を挙げたティスコフは、そのまま激しく後頭部を床にぶつけ、倒れた。

「大丈夫か、ティスコフ?」

「あぁ・・・。さすが、12賢者最高の魔法使いだ・・・。単なる死の呪文だと思っていたが・・・、付加能力を備えていたとは・・・。体の骨が所々折れているようだ」

「なんだって!」

 シナリオはティスコフの体にそっと手を添えて、折れている箇所を確認しよう優しく触れた。

「大丈夫だ・・・。それより、ここが例の祭壇なら、賢者の守護石があるはず・・・。探してくれ・・・」

 そのティスコフの言葉に、シナリオは立ち上がると魔法石の光を頼りに周りを探した。

「あったぞ。これか?」と、手にした宝石をティスコフに見せた。

「おぉ・・・。滅亡の石と死の石・・・。他は・・・?他は無いのか?」

 ティスコフの問いにシナリオは他の場所を探すが、「これだけのようだ・・・」と答えた。

「なら・・・、それだけでもいい。とりあえず、ここから脱出しよう・・・」

 ティスコフは右手をシナリオに向けて差し出すとシナリオは優しくその手に触れた。

「《リターン・ホーム》」

 ティスコフが唱えた呪文の効果で、二人の体はその場から消えてしまった。



 ロストアビ―城の城内にいた者達全てが、突然の轟音と地響きに驚き城を飛び出した。そして、地響きの続く修練場の向こうの森に視線を向け見つめる。

 森の中からは激しい砂埃が立ち上る。

「なんだ!何が起きているんだ」とロコが不安な声を挙げる。

「見て!」

 モコが砂埃の中から一筋の光り輝く流れ星のような光の球が城に向かって飛んでくるのを見つけた。

 その光が大きく閃光を放ちロコ達の前に落ちた。光の中からはガンダルと動かなくなったツカサの体が現れた。

「ガンダル・・・?」

 ロコの目には、そのしわくちゃな顔が窶れ、疲弊した表情の中に動かなくなったツカサへの思いが込められていた。

「おっさん・・・?おっさん?」

 ロコはツカサの状況を察知すると、ツカサの動かなくなった体に駆け寄った。

 ツカサの体の傍に膝まづき、体を激しく揺する。

「おっさん!おい、ツカサのおっさん?おい!返事しろよ、おっさん・・・」

 ロコの悲痛な声に、モコとうたの目に涙が浮かび始める。

 立ち上がったガンダルは、その場にいるみんなに事情を説明する義務があるとわかると、「とりあえず・・・、ツカサを部屋のベッドに寝かせてあげよう・・・。事情はそれから・・・」と話した。

 執事のゴトンの指示で、カフェインとダージリン、ノンノ、モカカフェに城のお手伝いや給仕が手伝って、ツカサの亡骸を部屋へと運んだ。

 幽霊とは思えない、張りのあるガンダルだったが、今はその名の通り疲弊した顔は幽霊そのものだった。

「奴に向かって言った言葉は、そのままワシ自身への戒めになってしまった・・・」

 応接室に集まったロコモコとうた、それに城内の者達を前にガンダルは話し始めた。

「我が城の西側にある森。あれは《禁断の森》と呼んでいた。あの森には、このパラレルトゥ・ルース誕生のきっかけとなった精霊の守護石と、ヘルトゥ・ルース誕生のきっかけとなった感情の守護石が隠されていた。精霊の守護石は、地水火風それぞれの精霊の力を宿し、滅亡と望みの守護石は死神と神の力を宿していると・・・。一方、感情の守護石は人間の心を表現した力を宿していると言われ、喜怒哀楽の生と死の守護石があった。ワシは《生の守護石》を司る賢者だった。この守護石を使い、それぞれの賢者は己自身で誰も持たない魔法を作り出していた。いわば、魔法の種でもある。この守護石の力は計り知れないほど強大じゃ。ワシら12賢者はこの守護石を守るために存在した。が、平和な日々が続き、やがてドワーフ族とエルフ族、ニンフ族はこの守護石を守る責任を捨て、人間に任せ、自分達は自分達の世界へ閉じ籠ってしまった。この守護石を守るのは人間だけになってしまった結果、いつかはこの守護石を奪いに来る者が現れると・・・。そう感じたワシは、試練と迷いのまじないでこの守護石を地下深くに隠した。しかし、ヘルトゥ・ルースを統一しようとする輩が現れた。闇の魔法使い・・・。奴はこの守護石を狙ってきた。そして・・・。その戦いの中、ツカサを誤って・・・、殺してしまった」

 ガンダルの言葉に誰もが言葉を失い、沈黙し動けなくなった。

「もう・・・、おっさんは生き返らないのか?この前みたいに!生き返るんじゃないのか?」

 ロコの言葉にガンダルは、「念の為に魔法はかけた・・・。しかし、ワシが使った魔法は、命すら破壊する魔法・・・。無事にいるとは思えない・・・」と答えると、肩を落とすだけだった。

「じゃあ・・・、もうツカサさんとは会えないんでうすか?」とうたが聞いた。

 ガンダルは静かに頷く。

 城内に悲しみの声が響いた。
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