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29 今後のことについて

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 花奈は夕翔の腕枕で目を覚ました。

「ん……そろそろご飯の時間?」
「まだ時間はあるよ。ギリギリまでこうしていていい?」
「うん」

 夕翔は花奈の返事を聞くとキスをし、ぎゅっと抱きしめる。

「どうしたの?」
「花奈がちゃんと自分のそばにいることを実感したくて」

 犬神山の一件で花奈が急にいなくなってしまうのではないか、と夕翔は不安になってしまっていた。

「安心して。これからはずっと一緒だよ」

 花奈は夕翔を強く抱き返す。

「うん」





 伊月の書斎。

「——夕食はもう少し広い場所で、と思ったのですが……。この部屋の方が何かと都合が良かったので。申し訳ありません」

 伊月は、部屋に迎え入れた花奈と夕翔に謝罪した。

「気にしないよ。ねえ、ゆうちゃん?」
「うん。異世界に来たばかりだから、3人だけの方が気楽かな」
「そう言っていただけると助かります。さあ、そちらにお座りください」

 伊月が指し示した4人用のテーブルに3人は座った。
 花奈は机を挟んだ伊月の正面に、夕翔は花奈の横の席につく。
 すでに料理は各自の前に置かれており、夕翔には会席料理のように見えていた。

「では、いただきましょう」

 伊月の言葉で3人は食べ始めた。

「この煮物、おいしいですね~。俺の国と味がかなり似ています」
「お口に合ってよかったです」

 伊月は夕翔に微笑みかけた。

「でも、ここにはカップラーメンとか、ピザとか……そういうものがないんだよねー」

 花奈は不満げに唇を突き出した。

「確かに、この国の料理は薄味ですね。私も夕翔様の世界の料理を食べた時は衝撃でした。他国と積極的に交流すれば、似たような食材が手に入るかもしれませんよ?」
「犬神国は他国と交流を避けてるんですか?」

 夕翔の質問に伊月は眉根を寄せる。

「避けているというか……避けられているのですよ。妖術はこの国の者しか使えませんから」
「妖術が危険視されているのですか?」
「そうなんだよー、ゆうちゃん。歴代の国王がそれを武器にしてちょっと圧力かけた時があってね……それ以来嫌われちゃって……」
「その対策はすでに考えておりますよ。担当は姉上にお任せするつもりですので」
「え!? 花奈、大丈夫なのか?」

 夕翔は慌てて花奈の方を見た。

「まあ、こんな性格だからね~。犬神国のことをよく理解してて、誰とでも気楽に話せるのは私くらいだから」

 夕翔にとって、再会した当時の花奈の印象が悪かっただけに不安を感じずにはいられない。

「夕翔様、ご心配なく。姉上は国民から最も好かれている人物、と言っても過言ではないですから」
「そうなんだ……。花奈、あんまり強引な手口は使うなよ? 引くべきとことはちゃんと引かないと——」
「——わかってるって~」

 花奈は適当に返事をし、口いっぱいに料理を放り込む。

「心配だな……」
「ふふふっ。夕翔様、本当に問題ありませんよ。姉上は私よりも国王に適している人物ですから。姉上が国王にならなかったのは、『国王になりたい』という気持ちが全くなかったからです」
「伊月さんがそう言うなら……」

 夕翔はまだ疑うような目で花奈を見ていた。

「他国との交渉はあくまでも補助的な役目だよー。私が重点的に取り組む仕事は、この国の教育だから」
「え? 学校はあるよな?」
「うん。でも、妖術教育は全くされてなかったの。犬神家と貴族の特権を守るためにね」
「平民たちも妖術の才能はあるの?」
「全員が才能を持ってるわけじゃないよ。でも、使えるようになったらいいでしょ?」
「まあね。でも、凶悪犯罪とか増えない?」
「夕翔様、それもご心配なく。正しく使ってもらうために色々な規制を設けるつもりですから」
「そうですか……」

 ——なんか、2人で話を進めているように聞こえるけど……前国王のお父さんはどうしたんだ? わざとその話を避けてる? 聞かない方がいいかな?

 犬神家が複雑な事情を抱えていることを知っているだけに、夕翔は2人の両親について質問できなかった。

 その後、伊月と花奈は今後の政策についてヒートアップし、夕翔は横で聞いているだけになってしまう。

「——それにしても、伊月は他国の制度をちゃんと勉強してたんだね?」

 数日で思いつかないような政策を次々に伊月は挙げていたので、花奈は感心していた。
 指摘された伊月は少し顔を赤くする。

「はい。どうしても犬神国のやり方に納得できなくて……。ですが、いろいろやることが多すぎて完遂できるかどうか……」
「まあねー。国王は5年の任期付きにするから全部は難しいかも。やり足りないと感じたら、その時は国王に立候補すればいいのよ。選挙で民に選んでもらえれば、気兼ねなく国王を続けられるでしょ?」

 伊月は顔を曇らせた。

「いいのでしょうか? 犬神家の者はこれ以上国政に携わるべきではない気が——」
「——責任を感じるのは理解できるよ。でもね、独裁の怖さを間近で見ていたからこそ、気づけることがたくさんあると思うの。真摯に務めれば、民は自然とあなたを選んでくれる」
「姉上……。その言葉を胸に刻み、私は民のために全力を尽くします」
「うん。頑張って」

 ——いい姉妹だな。互いに心から信頼していることが俺にも伝わってくる……。

 夕翔は2人のやりとりを見て胸を熱くしていた。





 夕食後、花奈の寝室。

 2人は入浴後、布団の中でくつろいでいた。

「——ゆうちゃんにまだ言ってなかったけど……父上と義理の母上は、式神のせいで最近亡くなったの」

 義理の母・凛花の部屋には生贄の術を使った痕跡が残っていたので、すでに亡くなったと伊月は結論づけていた。

「そっか……」
「すぐに言わなくてごめんね」
「謝る必要はないよ。やるべきことが山積みだったんだし」
「うん……」

 花奈は涙を流しながら夕翔の胸に顔を埋め、夕翔は強く抱きしめた。

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