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28 封印

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 花奈、夕翔、伊月は時空の狭間に到着していた。
 離れないように夕翔は花奈の左手を、伊月は花奈の右手をしっかり握っている。

「ここが、時空の狭間?」
「そうだよ、ゆうちゃん」
「もう花奈たちの世界の方にいるってことだよな?」
「うん」
「そっか……」

 夕翔は顔を左右上下に動かして辺りを見回す。
 どこを見ても真っ暗で、方向が全くわからない状況だ。
『ここで花奈たちと離れたらどうなるんだ?』と考えるだけで背筋が凍える。
 花奈は平気そうな顔をしているので、夕翔は頼もしさを感じずにはいられない。

「ゆうちゃん、あそこを見て」

 花奈が指差した先には、渦を巻いた暗雲のようなものがあった。
 あまりにも遠いので、夕翔は目を凝らす。

「俺たちはあそこを抜けてきたのか?」
「違うよ。あそこで2つの世界が繋がってはいるんだけど、今はものすごく不安定なの。あそこを通ったら、どこか違うところに飛ばされると思う」
「そうなんだ」

 夕翔は怖くなり、体を震わせる。

「ゆうちゃん、あの穴を閉じるから、力を貸して」
「もちろん」
「じゃあ、私を後ろからぎゅっと抱きしめて」
「え!?」

 夕翔は顔を少し赤くし、ちらっと伊月の方を見る。

「どうぞお気遣いなく。体を密着させた方が妖力供給は効率的なんですよ」
「そうなんだ……」

 一人だけ恥ずかしくしていたので、夕翔は苦笑する。

「じゃ、じゃあ……抱きしめまーす」
「は~い!」

 花奈は嬉しそうに返事をした。

「ゆうちゃん、妖力を一気に使うから覚悟してね。気を失っても伊月が助けてくれるから心配しないで」
「わかった。伊月さん、迷惑かけるけどお願いします」
「お気になさらず。私に任せてください」

 伊月は、花奈をぎゅっと抱きしめる夕翔に微笑んだ。

 ——2人とも、本当に頼もしすぎるな……。

「ゆうちゃん、目を瞑ってた方がいいかも」
「なんで?」
「目に塵が入って危ないから」
「わかった」

 夕翔は目をぎゅっと瞑った。

 花奈と伊月は頷き合うと、移動を開始した。





 花奈たちが暗雲へ近づくと——。

「あ……あー」
「ゔーゔー」
「お゛ーあー」
「あ゛ー」

 暗雲の中心部——渦の穴から、たくさんのうめき声が響いていた。
 花奈と伊月は距離を取りながら覗き込むと、すぐに辛そうな表情を浮かべる。
 そこには、たくさんの人々が張り付いて壁となっていた。
 椿たちが時空の狭間を開ける時、生贄にされたヨウ星の人たちだ。

 ——この気持ち悪い声、なんだ……? 聞きたいけど……花奈の邪魔をしたくないしな……。

 夕翔は質問したい気持ちを抑え込み、口をぎゅっと閉じる。
 どうせ恐ろしいものがいるのだろう、と考え、目を開けようとはしなかった。

「封印を開始するわ」

 花奈は夕翔の家を食べ尽くした拉触刺荒の種をポケットから出し、ガリガリと食べた。

 そして——。

 巨大な暗雲を覆う巨大立体型魔法陣を出現させた。
 
 花奈は両手を魔法陣に向け、妖力を一気に送り込む。
 
 凄まじいスピードで花奈から妖力を吸われる夕翔は、身体中の力が抜けていき、すぐに気を失ってしまう。
 伊月はすぐに夕翔と花奈を横から抱きしめ、離れないように固定した。

 魔法陣は徐々に縮小し、同時に暗雲も小さくなっていく——。

「くっ、伊月、後はよろしく……」

 花奈は妖力の限界ギリギリのところで暗雲を完全に消滅した。
 力をほぼ使い切った花奈は犬の姿になり、伊月の腕の中でぐったりとする。

「姉上、後は私におまかせください」
「お願いね」

 伊月の頷いたところを見届け、花奈も気を失った。





 ——あれ? 誰か私を撫でてる?

 犬型の花奈は目を覚まし、視線を上に向けた。

「花奈、お疲れさま」
「ゆうちゃん! もっと撫でて~」

 夕翔の膝の上で眠っていた花奈は、腹を上に向けてなでなでを要求した。

「よしよし、花奈はふわふわで最高だな~」

 夕翔は久しぶりに犬型になった花奈を撫で回す。
 花奈は気持ちよさそうに目をとろーんとさせていた

「姉上、私も触ってもいいですか?」

 椅子に座り、横から2人を見ていた伊月が声をかけてきた。

「どうぞ~」
「わ~! ふわふわです! 犬型の姉上に一度触ってみたかったのです!」

 伊月は目尻を下げて嬉しそうにしていた。

「そういえば、ここは……私の部屋?」
「そうですよ、姉上」

 気を失っていた夕翔と花奈は、伊月に運ばれて花奈の布団で眠っていた。
 先に目を覚ました夕翔は、なかなか起きない花奈が心配で伊月を呼び出し、膝に乗せて撫で始めたところだった。

「屋敷は混乱してる?」
「そうですね。ですが、すでに収めましたのでご心配なく」
「さすが伊月。頼りになるわね」
「姉上ほどではありませんよ」
「そうだ、ゆうちゃんのことはどう説明したの?」
「遠い国からきた姉上の婚約者だと伝えました。私が次期国王になると発表したので、反対意見は言わせませんでしたよ」

 伊月は笑顔で答えた。

「パワハラだね……」

 夕翔は苦笑した。

「その言葉の意味はわかりませんが、問題ありませんよ」

 伊月はすました顔で言った。

「国王様がそういうなら……」

 夕翔は伊月の圧力を感じ、肩をすくめた。

「さて……」

 伊月は伊月は立ち上がった。

「姉上が無事に目覚めたことですし、私は行きますね。夕食には顔を出せますか?」
「大丈夫だよー」
「では、失礼いたします」

 伊月は花奈の部屋から出て行った。

「ゆうちゃん、部屋の外へは出たの?」
「まだ。1人で出歩くと、いろいろ面倒になりそうだと思って」
「それもそうだね」
「それに、花奈のそばから離れたくなかったし」

 夕翔は花奈の背中を優しく撫でながら見つめる。

「ゆうちゃん……」

 花奈は夕翔の膝の上で人型になり、裸の状態で抱きつく。

「花奈、これからよろしくな」
「うん」

 2人は唇を合わせながら、布団の上にゆっくりと倒れた。
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