26 / 32
26 決断
しおりを挟む花奈、夕翔、伊月は、リビングで今後のことを話していた。
「——このまま放っておけば、時空が歪んで2つの世界は崩壊するかもしれない」
花奈の言葉に夕翔は背筋を凍らせた。
「花奈、解決策は?」
「私たちの世界から完全に閉じればなんとかなる」
「それは……」
伊月はどういう意味なのかをすぐに理解し、口ごもる。
「ゆうちゃんもこの言葉の意味、わかるよね?」
「もう二度と、2つの世界を行き来できないようにするんだな?」
「うん。ゆうちゃんは……どうしたい?」
花奈は『一緒に来て欲しい』とどうしても言えなかった。
夕翔の世界より複雑な事情を抱えており、苦労する可能性が高い。
愛しているからこそ、辛い思いをして欲しくなかった。
「もちろん、花奈と一緒に行くよ。前にも言っただろ? もう離れないって。あの契りはそういう意味もあるだろ?」
夕翔は何の迷いもなく言った。
「ゆうちゃん……ありがと」
花奈は目に涙を浮かべていた。
夕翔は花奈を抱き寄せ、頭を優しく撫でる。
伊月は2人を見て、幸せな気持ちになる。
「大変そうだけど……花奈がいてくれれば何とかなるかなって思う。モモもいるし」
「私もできる限り助力いたします」
「ありがとう、伊月さん」
夕翔は伊月に向かって頭を下げた。
「花奈、この世界にはどれくらいいられるの?」
「1日かな。準備があるから、伊月に手伝ってほしい」
「はい」
「ゆうちゃんは1日でこの世界を離れる準備はできそう? 早く閉じないと大変なことになるから……」
「うん。どうにかするよ」
「荷物は最小限にしてね」
「わかった」
*
犬神山。
花奈と伊月は、必要な物を集めに来ていた。
「——姉上、少しお話が……」
「作業しながら聞くよ」
花奈は特定の植物を妖術を使って集めていた。
伊月はその後ろで地面に魔法陣を描いている。
「犬神家の分家にあたる戸塚家をご存知ですか?」
「聞いたことないなー。分家があったなんて初めて聞いた」
「実は、国王の式神から聞いたのですが……あの5体の式神は戸塚家の者だったそうです」
「まさか……」
花奈は手を止めて伊月の方へ振り向く。
「あの5体は生贄の末に式神になった者たちです。彼らは本家よりも妖術に長けていたようで……危機感を抱いた初代国王と2代目国王が手にかけ、その者たちの強大な力を得たとか……」
「自分を手にかけた者の式神になるなんて……地獄ね」
花奈は眉間にしわを寄せていた。
「はい。ですが腑に落ちません。式神は過去の記憶を引き継ぎませんし、主人に従属するはずです。あの5体はあらゆる制限がなかったように見えましたし、ましてや主人を操るなど……ありえません」
「推測だけど……主人が次々に変わったことが原因かも。その度に犬神家と全く関わりのない者の体を利用して存在を維持してたみたいだから。きっと記憶はなかったはずだけど、何か戸塚家に関する記録が残っていたんじゃない?」
「なるほど……」
「犬神家は国を治めるべきではないけれど、国王が死んだ今、混乱は避けられない。あなたが国王になって国を変えなさい。犬神家の尻拭いは私も手伝うから」
「姉上……わかりました。姉上が側にいてくれるのであれば安心です」
*
翌朝。
花奈たちは大量の荷物を抱えて夕翔の家に帰ってきた。
「花奈!? この臭いはいったい……」
夕翔は鼻をつまんで青い顔をしていた。
「伊月の妖力回復に1番良さそうな草を摘んできたの」
花奈は得意げに答えながら、臭い草がパンパンに詰め込まれた大きめのビニール袋を1つ、キッチンへ運ぶ。
「伊月はこの草を全部食べないといけないんだけど、ゆうちゃん調理できる?」
夕翔は軽いめまいを起こした。
「嘘だろ……。どんなにアレンジしても臭いを消せる気がしない……」
「お手数をおかけして申し訳ありません。簡単にできるもので構いませんので……」
伊月は深々と頭を下げた。
「ゆうちゃん、それが終わったら私も回復してね~」
花奈はそう言うと、夕翔に抱きついた。
「臭っ!? 花奈、すぐに風呂入ってきて!」
「え!? ひどい!」
「マジで勘弁して……。これだけは花奈でも無理。っていうか、2人ともなんで平気そうにしてるの?」
夕翔は怪訝な表情を浮かべていた。
「あ、ごめん。妖術で臭いがわからないようにしてた……」
「最初にそれを俺に発動するべきだろ……」
「ごめんよ~」
花奈はそう言いながら、臭いを感じない妖術を発動した。
「じゃあ、私たちはゆうちゃんの指示通り、お風呂に入ってくるね~」
「はいはい……。はあ」
夕翔は草を見て、大きくため息をついた。
*
浴室。
2人は向かい合って湯船に浸かっていた。
「姉上とお風呂に入る日が来るとは思いませんでした」
「そうねー」
「姉上、本当によかったですね。夕翔様と再会できて」
「うん」
花奈は微笑む。
「お互いに心から愛し合っていること、この短い時間でたくさん伝わってきました。2人を見ているだけで幸せな気分になります」
「伊月……。もう、本当にいい子なんだから~」
「あっ!?」
花奈は伊月を抱き寄せ、強く抱きしめた。
「伊月、大好き。伊月が私の妹で本当に良かった。ずっと、それを直接言いたかったの」
「姉上……私も姉上が大好きです。ずっとこうやって甘えたかった……」
「これからは、いつでも甘えていいよ。私の前では泣き言も愚痴も……なんでもいいから言いなさい。全力で支えるから」
「ありがとうございます」
しばらく抱き合った後、花奈は伊月を体から離した。
「それにしても伊月、大人になったのに全然成長してないね」
花奈は伊月の小さな胸を両手で揉み始めた。
「姉上!? いくらなんでもこれはダメです!」
伊月は顔を真っ赤にし、慌てて両腕で胸を隠した。
「姉上はずるいです……」
伊月はうらめしそうに花奈の大きな胸を見る。
「えへへ~」
花奈は腰に手を当て、胸を軽く揺さぶった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる