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26 決断
しおりを挟む花奈、夕翔、伊月は、リビングで今後のことを話していた。
「——このまま放っておけば、時空が歪んで2つの世界は崩壊するかもしれない」
花奈の言葉に夕翔は背筋を凍らせた。
「花奈、解決策は?」
「私たちの世界から完全に閉じればなんとかなる」
「それは……」
伊月はどういう意味なのかをすぐに理解し、口ごもる。
「ゆうちゃんもこの言葉の意味、わかるよね?」
「もう二度と、2つの世界を行き来できないようにするんだな?」
「うん。ゆうちゃんは……どうしたい?」
花奈は『一緒に来て欲しい』とどうしても言えなかった。
夕翔の世界より複雑な事情を抱えており、苦労する可能性が高い。
愛しているからこそ、辛い思いをして欲しくなかった。
「もちろん、花奈と一緒に行くよ。前にも言っただろ? もう離れないって。あの契りはそういう意味もあるだろ?」
夕翔は何の迷いもなく言った。
「ゆうちゃん……ありがと」
花奈は目に涙を浮かべていた。
夕翔は花奈を抱き寄せ、頭を優しく撫でる。
伊月は2人を見て、幸せな気持ちになる。
「大変そうだけど……花奈がいてくれれば何とかなるかなって思う。モモもいるし」
「私もできる限り助力いたします」
「ありがとう、伊月さん」
夕翔は伊月に向かって頭を下げた。
「花奈、この世界にはどれくらいいられるの?」
「1日かな。準備があるから、伊月に手伝ってほしい」
「はい」
「ゆうちゃんは1日でこの世界を離れる準備はできそう? 早く閉じないと大変なことになるから……」
「うん。どうにかするよ」
「荷物は最小限にしてね」
「わかった」
*
犬神山。
花奈と伊月は、必要な物を集めに来ていた。
「——姉上、少しお話が……」
「作業しながら聞くよ」
花奈は特定の植物を妖術を使って集めていた。
伊月はその後ろで地面に魔法陣を描いている。
「犬神家の分家にあたる戸塚家をご存知ですか?」
「聞いたことないなー。分家があったなんて初めて聞いた」
「実は、国王の式神から聞いたのですが……あの5体の式神は戸塚家の者だったそうです」
「まさか……」
花奈は手を止めて伊月の方へ振り向く。
「あの5体は生贄の末に式神になった者たちです。彼らは本家よりも妖術に長けていたようで……危機感を抱いた初代国王と2代目国王が手にかけ、その者たちの強大な力を得たとか……」
「自分を手にかけた者の式神になるなんて……地獄ね」
花奈は眉間にしわを寄せていた。
「はい。ですが腑に落ちません。式神は過去の記憶を引き継ぎませんし、主人に従属するはずです。あの5体はあらゆる制限がなかったように見えましたし、ましてや主人を操るなど……ありえません」
「推測だけど……主人が次々に変わったことが原因かも。その度に犬神家と全く関わりのない者の体を利用して存在を維持してたみたいだから。きっと記憶はなかったはずだけど、何か戸塚家に関する記録が残っていたんじゃない?」
「なるほど……」
「犬神家は国を治めるべきではないけれど、国王が死んだ今、混乱は避けられない。あなたが国王になって国を変えなさい。犬神家の尻拭いは私も手伝うから」
「姉上……わかりました。姉上が側にいてくれるのであれば安心です」
*
翌朝。
花奈たちは大量の荷物を抱えて夕翔の家に帰ってきた。
「花奈!? この臭いはいったい……」
夕翔は鼻をつまんで青い顔をしていた。
「伊月の妖力回復に1番良さそうな草を摘んできたの」
花奈は得意げに答えながら、臭い草がパンパンに詰め込まれた大きめのビニール袋を1つ、キッチンへ運ぶ。
「伊月はこの草を全部食べないといけないんだけど、ゆうちゃん調理できる?」
夕翔は軽いめまいを起こした。
「嘘だろ……。どんなにアレンジしても臭いを消せる気がしない……」
「お手数をおかけして申し訳ありません。簡単にできるもので構いませんので……」
伊月は深々と頭を下げた。
「ゆうちゃん、それが終わったら私も回復してね~」
花奈はそう言うと、夕翔に抱きついた。
「臭っ!? 花奈、すぐに風呂入ってきて!」
「え!? ひどい!」
「マジで勘弁して……。これだけは花奈でも無理。っていうか、2人ともなんで平気そうにしてるの?」
夕翔は怪訝な表情を浮かべていた。
「あ、ごめん。妖術で臭いがわからないようにしてた……」
「最初にそれを俺に発動するべきだろ……」
「ごめんよ~」
花奈はそう言いながら、臭いを感じない妖術を発動した。
「じゃあ、私たちはゆうちゃんの指示通り、お風呂に入ってくるね~」
「はいはい……。はあ」
夕翔は草を見て、大きくため息をついた。
*
浴室。
2人は向かい合って湯船に浸かっていた。
「姉上とお風呂に入る日が来るとは思いませんでした」
「そうねー」
「姉上、本当によかったですね。夕翔様と再会できて」
「うん」
花奈は微笑む。
「お互いに心から愛し合っていること、この短い時間でたくさん伝わってきました。2人を見ているだけで幸せな気分になります」
「伊月……。もう、本当にいい子なんだから~」
「あっ!?」
花奈は伊月を抱き寄せ、強く抱きしめた。
「伊月、大好き。伊月が私の妹で本当に良かった。ずっと、それを直接言いたかったの」
「姉上……私も姉上が大好きです。ずっとこうやって甘えたかった……」
「これからは、いつでも甘えていいよ。私の前では泣き言も愚痴も……なんでもいいから言いなさい。全力で支えるから」
「ありがとうございます」
しばらく抱き合った後、花奈は伊月を体から離した。
「それにしても伊月、大人になったのに全然成長してないね」
花奈は伊月の小さな胸を両手で揉み始めた。
「姉上!? いくらなんでもこれはダメです!」
伊月は顔を真っ赤にし、慌てて両腕で胸を隠した。
「姉上はずるいです……」
伊月はうらめしそうに花奈の大きな胸を見る。
「えへへ~」
花奈は腰に手を当て、胸を軽く揺さぶった。
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