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19 3人の再会
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深夜、犬神山。
花奈と夕翔は家に帰らず、山小屋に滞在していた。
それぞれ寝袋に入り、厚手のマットの上で寄り添って眠っている。
——ようやく、来たみたいね。
何かに気づいた花奈はゆっくり体を起こし、夕翔を妖術で深い眠りにつかせる。
式神たちもすでに花奈の肩に座り、準備を終えていた。
——ごめん、1人で出かけてくる。ゆうちゃんはここで疲れを癒してて。
花奈は夕翔の頬にキスをした後、寝袋から出て黒いスニーカーを履き、赤いダウンコートを着た。
そして、足元に置かれた荷物を抱えてある場所へ転移した。
*
犬神山、柴狗神社。
山の中腹に建てられた神社に、和服風の服着た女性——伊月が立っていた。
——こっちは冬か……。誰もいないみたいね……。
伊月は寒さで体を丸めながら辺りの様子を窺う。
「——伊月、久しぶり」
「え!? 姉上!?」
伊月は誰もいないと思い込んでいたので、思わず大きな声を出し、慌てて口を押さえる。
花奈は、伊月が花奈の魔法陣を使ってこの世界に来た場合、知らせが来るように魔法陣に仕掛けを施していた。
「驚かせてごめん。気配を消してたから。寒いでしょ、これ着て」
花奈は抱えていた黒のロングコートとヒールのないショートブーツを手渡した。
「ありがとうございます。その服はこちらの世界のものですか? 動きやすそうですね」
伊月はコートを羽織りながら、花奈の服を上から下までまじまじと見る。
「あとで下に着る服もあげるよ。結界が張られた場所まで案内するから、付いてきてくれる?」
「はい。あの、お話があるのですが——」
「——ここは目立つから、もう少し山の中に入ってからにしてくれる?」
「はい……」
伊月は焦る思いをどうにか抑え、花奈の後ろについて歩き始めた。
2人は鳥居を抜けた後、舗装された山道から外れて茂みに入っていく。
「——姉上、そろそろ私の話を聞いていただけないでしょうか? 急ぎお伝えしたいことが」
「なに?」
花奈は前を向いたまま返事をした。
「嗣斗様がこちらの世界へ渡ったようなのです」
「——じゃあ、嗣斗もこの近くにいるのね……」
花奈は冷静に答えた。
伊月は花奈の返答に戸惑う。
「どうしてこの場所に来るとお思いに?」
「先に質問に答えてくれる?」
「はい……」
伊月は首を傾げながら返事をした。
「何を願ってこの世界に来たの?」
「……嗣斗様と結ばれることです」
花奈は口角を上げた。
「それが伊月の質問に対する答えだよ」
「え?」
「『伊月が願った内容に1番関係する人物がいる場所』へ伊月が来れるようにしておいたの。もし、国王になりたいと願ったのなら、私のところに来ることになってただろうけど……結果的に同じ場所だったね」
花奈は振り向き、優しい笑みを伊月に見せた。
久しぶりに花奈の笑顔を見た伊月は、張り詰めていた緊張が緩んでしまい、目に涙を浮かべながら花奈に抱きつく。
我慢していた苦痛や悲しみ、嗣斗への想いが溢れ出してしまっていた。
「——姉上……嗣斗様が……」
「どうしたの?」
花奈はすぐに伊月の肩を抱き、心配の表情に変わる。
「私が試作した未完成の魔法陣を使って、嗣斗様がこちらの世界に渡ってしまったのです!」
「どんな魔法陣だったの?」
「妖魔と契約する方法です……。どうしても完全な体で移動できる方法が見つからなくて……」
花奈は眉間にしわを寄せる。
「伊月がそれを使わせたの?」
「違います! 母上がそそのかしたようで……」
「そう……、魂が食い尽くされる可能性が高いわね」
「はい……。ですが、保護系の効果でしばらくは自我を持っているはずです。嗣斗様の妖力が使い切られるまでは……」
伊月は悔し涙を流す。
「なら、急がないと。どれくらい時間が経ったかわかる?」
「同じ時間の流れであれば半日かと」
「ちょっと待って……嗣斗の妖力を探索してみる……」
伊月は懇願するように花奈を見つめる。
「——いた。少し離れた山中を犬型でうろついてる。私の張った結界の外ね」
「行きましょう!」
「うん。捕まって、転移するから」
「はい!」
伊月はしっかりと花奈の左腕に掴まった。
「行くよ——」
花奈は伊月と一緒に嗣斗の元へ転移した。
*
2人は嗣斗の背後に転移した。
「——あれが嗣斗様……?」
嗣斗の変わり果てた姿を見た伊月は、ショックで口を押さえる。
それは、花奈たちの身長と同じくらいの灰色の狼だった。
ただの狼ではない——3つの頭を持ち、妖魔の侵食を示す黒いまだら模様が身体中に広がっている。
完全に妖魔化はしていないが、ほとんど時間が残されていないことは明白だった。
「伊月、私が結界をこの周りに張って嗣斗を拘束する。伊月は——」
「——何をすべきか、心得ております」
伊月の心強い返事を聞いた花奈は口角を上げた。
「お願いね」
花奈は伊月の右肩を軽く叩いた。
「お任せください!」
花奈は瞬時に3人を囲むように結界を張る。
次に、桃色の花の鎖で三頭狼の四肢と三首、胴体を縛り、地面に固定した。
『——グルルルル……ニ……ゲロ』
嗣斗の中央の顔は、おどろおどろしい声で危険を知らせてきた。
——え? 逃げろ?
伊月はその言葉で動きを止めてしまう。
「——まだ話す力を持っていたとは……しぶといですね」
上空から男の声が聞こえた直後、3人を囲っていた結界が突然、パリンと割れた。
そして、次の瞬間——。
嗣斗の体はバラバラに切り刻まれた。
花奈と夕翔は家に帰らず、山小屋に滞在していた。
それぞれ寝袋に入り、厚手のマットの上で寄り添って眠っている。
——ようやく、来たみたいね。
何かに気づいた花奈はゆっくり体を起こし、夕翔を妖術で深い眠りにつかせる。
式神たちもすでに花奈の肩に座り、準備を終えていた。
——ごめん、1人で出かけてくる。ゆうちゃんはここで疲れを癒してて。
花奈は夕翔の頬にキスをした後、寝袋から出て黒いスニーカーを履き、赤いダウンコートを着た。
そして、足元に置かれた荷物を抱えてある場所へ転移した。
*
犬神山、柴狗神社。
山の中腹に建てられた神社に、和服風の服着た女性——伊月が立っていた。
——こっちは冬か……。誰もいないみたいね……。
伊月は寒さで体を丸めながら辺りの様子を窺う。
「——伊月、久しぶり」
「え!? 姉上!?」
伊月は誰もいないと思い込んでいたので、思わず大きな声を出し、慌てて口を押さえる。
花奈は、伊月が花奈の魔法陣を使ってこの世界に来た場合、知らせが来るように魔法陣に仕掛けを施していた。
「驚かせてごめん。気配を消してたから。寒いでしょ、これ着て」
花奈は抱えていた黒のロングコートとヒールのないショートブーツを手渡した。
「ありがとうございます。その服はこちらの世界のものですか? 動きやすそうですね」
伊月はコートを羽織りながら、花奈の服を上から下までまじまじと見る。
「あとで下に着る服もあげるよ。結界が張られた場所まで案内するから、付いてきてくれる?」
「はい。あの、お話があるのですが——」
「——ここは目立つから、もう少し山の中に入ってからにしてくれる?」
「はい……」
伊月は焦る思いをどうにか抑え、花奈の後ろについて歩き始めた。
2人は鳥居を抜けた後、舗装された山道から外れて茂みに入っていく。
「——姉上、そろそろ私の話を聞いていただけないでしょうか? 急ぎお伝えしたいことが」
「なに?」
花奈は前を向いたまま返事をした。
「嗣斗様がこちらの世界へ渡ったようなのです」
「——じゃあ、嗣斗もこの近くにいるのね……」
花奈は冷静に答えた。
伊月は花奈の返答に戸惑う。
「どうしてこの場所に来るとお思いに?」
「先に質問に答えてくれる?」
「はい……」
伊月は首を傾げながら返事をした。
「何を願ってこの世界に来たの?」
「……嗣斗様と結ばれることです」
花奈は口角を上げた。
「それが伊月の質問に対する答えだよ」
「え?」
「『伊月が願った内容に1番関係する人物がいる場所』へ伊月が来れるようにしておいたの。もし、国王になりたいと願ったのなら、私のところに来ることになってただろうけど……結果的に同じ場所だったね」
花奈は振り向き、優しい笑みを伊月に見せた。
久しぶりに花奈の笑顔を見た伊月は、張り詰めていた緊張が緩んでしまい、目に涙を浮かべながら花奈に抱きつく。
我慢していた苦痛や悲しみ、嗣斗への想いが溢れ出してしまっていた。
「——姉上……嗣斗様が……」
「どうしたの?」
花奈はすぐに伊月の肩を抱き、心配の表情に変わる。
「私が試作した未完成の魔法陣を使って、嗣斗様がこちらの世界に渡ってしまったのです!」
「どんな魔法陣だったの?」
「妖魔と契約する方法です……。どうしても完全な体で移動できる方法が見つからなくて……」
花奈は眉間にしわを寄せる。
「伊月がそれを使わせたの?」
「違います! 母上がそそのかしたようで……」
「そう……、魂が食い尽くされる可能性が高いわね」
「はい……。ですが、保護系の効果でしばらくは自我を持っているはずです。嗣斗様の妖力が使い切られるまでは……」
伊月は悔し涙を流す。
「なら、急がないと。どれくらい時間が経ったかわかる?」
「同じ時間の流れであれば半日かと」
「ちょっと待って……嗣斗の妖力を探索してみる……」
伊月は懇願するように花奈を見つめる。
「——いた。少し離れた山中を犬型でうろついてる。私の張った結界の外ね」
「行きましょう!」
「うん。捕まって、転移するから」
「はい!」
伊月はしっかりと花奈の左腕に掴まった。
「行くよ——」
花奈は伊月と一緒に嗣斗の元へ転移した。
*
2人は嗣斗の背後に転移した。
「——あれが嗣斗様……?」
嗣斗の変わり果てた姿を見た伊月は、ショックで口を押さえる。
それは、花奈たちの身長と同じくらいの灰色の狼だった。
ただの狼ではない——3つの頭を持ち、妖魔の侵食を示す黒いまだら模様が身体中に広がっている。
完全に妖魔化はしていないが、ほとんど時間が残されていないことは明白だった。
「伊月、私が結界をこの周りに張って嗣斗を拘束する。伊月は——」
「——何をすべきか、心得ております」
伊月の心強い返事を聞いた花奈は口角を上げた。
「お願いね」
花奈は伊月の右肩を軽く叩いた。
「お任せください!」
花奈は瞬時に3人を囲むように結界を張る。
次に、桃色の花の鎖で三頭狼の四肢と三首、胴体を縛り、地面に固定した。
『——グルルルル……ニ……ゲロ』
嗣斗の中央の顔は、おどろおどろしい声で危険を知らせてきた。
——え? 逃げろ?
伊月はその言葉で動きを止めてしまう。
「——まだ話す力を持っていたとは……しぶといですね」
上空から男の声が聞こえた直後、3人を囲っていた結界が突然、パリンと割れた。
そして、次の瞬間——。
嗣斗の体はバラバラに切り刻まれた。
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