俺のペットは異世界の姫

香月 咲乃

文字の大きさ
上 下
14 / 32

14 モモの正体

しおりを挟む
 夕翔と花奈だけでなく、花奈の式神たちもモモの発言に驚いていた。

「……花奈、モモは俺たちのこと、パパとママって言ったよな?」
「うん……なんでだろう? ちょっと、私の式神たちに聞いてみるよ——」

 花奈は念話しようとするが——。

『——犬がいっぱいいるー』
 
 花奈が式神に話しかける前に、モモは近くにいた花奈の式神3体を次々に抱きあげ、両脇に抱えた。
 見えていないと思っていた式神たちは慌てふためく。
 その直後、触られた式神たちは夕翔にも見えるようになり、夕翔はギョッとする。

「モモ!? どこから犬を捕まえてきたんだ!?」

 夕翔は見開いた目を花奈に向ける。

「え!? ゆうちゃん、私の式神が見えるようになったの?」
「あ、そうか! 前に見た式神か!?」

 混乱中する夕翔を見て花奈は苦笑し、イチに念話で指示をする。

『イチもモモに触ってもらって』
『姫様、畏まりました』

 唯一モモに捕まっていいなかったイチは、ネックレスから元の犬の姿に戻り、モモへ寄っていった。

「あ、もう1匹いるー!」

 モモは嬉しそうに抱き寄せた。

「あ、もう1体見えるようになった」

 夕翔の報告に花奈は頷いた。

「よくわからないけど、ゆうちゃんはモモのおかげで私の式神が見えるようになったみたいね。式神のミツにモモとゆうちゃんを調べさせたいんだけど、いい?」
「いいよ。俺も気になるから」
「ありがとう。ミツ、お願い」
『畏まりました~』
「うわっ!?」

 ミツは夕翔の腹から体の中に飛び込んだ。

「大丈夫。なんの害もないから」
「よかった……。まあ、入られても何も感じなかったしな……」

 夕翔は不思議そうに腹をさすった。

 ミツの分析が終わるまでの間、花奈と夕翔は花奈の式神たちを追いかけるモモを笑いながら眺めていた。

『——姫様、分析が終わりました~』

 ミツはモモの中から出てきて、夕翔と花奈の前にちょこんと座った。
 その可愛らしい姿に、夕翔はなでなでの衝動にかられる。

「ありがとう、説明してくれる?」
『畏まりました。夕翔様の体内にあったイツが消えていました——』

 モモ以外は驚きで言葉を失った。
 一方のモモは、夕翔の膝の上でミツ以外の式神を撫でている。

『——イツの要素がモモの半分を占有しておりました。このことから、『モモの半分はイツでできている』と言えます』
「ゆうちゃんの妖力だけで召喚したのに……。それに、私の式神に干渉できるわけがない……。イツは卵のままで生涯を遂げるはずだったよね?」

 花奈の質問にミツは頷いた。

『左様でございます。夕翔様と花奈様が契りを結んだことが原因かもしれません』
「そんなことあるの?」

 ミツは顔を横に振った。

『奇跡としか言いようがございません』
「——もしかしたら、俺が原因かも……」

 2人の会話を聞いていた夕翔は、自信なさげに口を挟んだ。

「ゆうちゃん、どういうこと?」
「花奈と契りを結んだ時、いつか俺たちの子供ができるのかもしれないな、とふと思ったんだよ。その時、俺の体内にいる式神の卵はこのまま産まれてこないのはかわいそうだな、とも思って……。それで式神を召喚する時、いつか産まれる自分の子供とその卵の式神が合わさったような式神がいいなって考えたんだよ」

 花奈は思いもよらない夕翔の発想に驚いていたが、次第に夕翔の想いがじわじわと心に響き、目に涙を浮かべる。
 夕翔を救うためにイツを犠牲にしたことは後悔していないつもりだったが、全くないとは言い切れない自分がどこかにいたからだ。

「モモは式神ではあるけど、ゆうちゃんの思いが形となって私たちの子供でもあるんだね。すごく嬉しい……」

 ——イツ、これからよろしくね。ゆうちゃんと一緒に大切にするから。

 花奈はモモの頭を優しく撫でた。

「ついでに言うと、娘だったら花奈にそっくりな子がいいな、と思ってたんだ。花奈の小さい頃、可愛かったし」

 ——ゆうちゃんにここまで愛されてるとは思わなかったな。幸せすぎるよ……。

 花奈は今まで溜め込んでいた寂しさが一気に吹き飛び、感動して涙を溢れさせる。
 夕翔は花奈を抱き寄せ、モモと一緒に優しく抱きしめた。





「——さて、気を取り直してモモと一緒に妖術を学んでもらいまーす」
『はーい!』

 モモは夕翔の膝の上で高々と手を挙げた。

「先生、よろしくお願いします」
「2人ともいい返事! 最初は結界の練習です! まずは本の最初のページを開いてくださ~い」

 夕翔は言われた通り本を開くと、そこには魔法陣が描かれていた。
 一緒にモモも眺める。

『ママ、理解できた~』
「おお! さすが私の娘ね~」
「ちょっと待って……。俺はまだ何も読んでないぞ……」
「式神は渡した本の魔法陣を読み取って知識を吸収するんだよ。ゆうちゃんは地道に読まないとダメなんだー」

 夕翔は肩を落とした。

「なんか、俺だけ効率悪すぎだな」
「ふふっ、まあ、ちょっと先生気分味わいたかったからこんな時間設けたけど、ゆうちゃんもモモみたいにすぐに知識を得られるよ」

 顔を曇らせていた夕翔の表情がパッと明るくなる。

「本当?」
「うん! 私と契約しててよかったね。今から、私の持ってる知識全てをゆうちゃんに渡すよ。式神全員の意識を一時的にとめまーす!」

 花奈はモモを含めた式神全員をその場で硬直させた。

「何するんだ……?」

 夕翔は怯えながら息を飲んだ。

「大丈夫、怖くないよ。先生、優しくするから——」

 花奈は夕翔のシャツの下から手を入れる。

「花奈……?」

 夕翔は顔を真っ赤にする。

「大丈夫だって。触るだけだから」

 花奈は色っぽい笑みを浮かべ、夕翔の左胸の花の印に手を当てる。

「目を瞑って」
「わかった……」

 夕翔はドキドキしながら目を瞑った。
 花奈は手に妖力を込め、一気に夕翔の花の印に自分の記憶全てを放出した。

 すると——。

 夕翔の中に花奈が必死に詰め込んだ知識や妖術の扱い方、夕翔との思い出、そして、花奈の辛い生い立ちの記憶が全て流れ込んできた。

「——終わったよ」

 夕翔の目から、涙がこぼれ落ちていた。
 花奈の悲しい過去を聞かされていたが、実際に見た時、あまりの辛さに夕翔は耐えられなかった。
 胸が締め付けられ、息が苦しい。

「花奈……」

 夕翔は花奈に抱きつく。

「花奈を絶対に悲しませないように頑張る。俺、花奈を大切にするから」
「ありがとう、ゆうちゃん」

 2人は唇を交わし、体を合わせた。


***


 その日の夜。

 高層駅ビルの屋根に1人の男が立っていた。
 まるで誰かと会話しているように独り言をブツブツと言っていた。

『——楓、助かった』
『気にするな、葵。僕も必要だったから』

 式神の葵は、同じ国王直属の式神である狛犬楓の力を借りて妖力供給源の人間を獲得していた。
 憑依能力を持たない楓は、その人間のピアスの中に入り込んでいる。

『我らが2人いれば、姫様の捕獲はどうにかなるだろう』
『しかし、気をつけろよ。姫様は契りを結んでいる。一筋縄ではいかないだろう。入念に計画を立てねば……』
『そうだな』
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

今宵、薔薇の園で

天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。 しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。 彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。 キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。 そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。 彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。

人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?

石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。 ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。 ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。 「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。 扉絵は汐の音さまに描いていただきました。

粗暴で優しい幼馴染彼氏はおっとり系彼女を好きすぎる

春音優月
恋愛
おっとりふわふわ大学生の一色のどかは、中学生の時から付き合っている幼馴染彼氏の黒瀬逸希と同棲中。態度や口は荒っぽい逸希だけど、のどかへの愛は大きすぎるほど。 幸せいっぱいなはずなのに、逸希から一度も「好き」と言われてないことに気がついてしまって……? 幼馴染大学生の糖度高めなショートストーリー。 2024.03.06 イラスト:雪緒さま

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?

春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。 しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。 美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……? 2021.08.13

処理中です...