俺のペットは異世界の姫

香月 咲乃

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12 対決

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 夕翔と花奈が体の契りを結んだ後、2人の胸元に5枚の花びらの模様が浮かび上がった。

「——ゆうちゃん、ここ見て」

 花奈は夕翔の左胸付近に人差し指を当てる。

「いつのまに……花のアザ?」
「うん、私の紋章なんだよ。契りを結ぶと一生体に刻まれたままなの。妖力も共有できるんだよ」

 夕翔は花奈の右胸の模様を親指で優しく撫でる。
 初めて味わった高揚感を抱きながら。

「俺の体全てが花奈のものになったって感じだな。今まで俺が主人みたいだったけど、立場が逆転したっていうか」
「ふふっ、ちょっと優越感。ゆうちゃんは花奈のもの~」

 花奈は幸せに満ちた笑顔を浮かべた。

 ——花奈って本当に綺麗だな……。

 夕翔はその笑顔に胸を熱くし、抱きしめる。
 誰にも渡したくない、という欲求に駆られてしまっていた。

「花奈、これからどうなるかわからないけど、俺とずっと一緒にいてほしい」
「喜んで」

 2人はキスをした。
 すると——。
 夕翔は意識を失うように深い眠りについてしまう。

 ——ゆうちゃん、私が一生守ってあげるから。

 花奈は体を起こし、床に落ちた服を急いで着る。

『みんな、迎え撃つわよ。イチ、ゆうちゃんを守りなさい』

 イチは夕翔のネックレスに変身し、夕翔の体を結界で囲んだ。
 フウ、ミツ、ヨツは花奈の首、両手首に巻きつく。

『イチ、よろしくね』
『姫様、お気をつけて……』

 花奈は3体の式神とともにその場から消えた。





「——見つけたわよ」

 外に移動した花奈は、夕翔の家の近くをうろついていた男の背後に立ち、そう話しかけた。
 夕翔には見せたことのない氷のような表情を向けている。

「まさか、姫様から声をかけていただけるとは……」

 男はゆっくりと振り返り、うやうやしく礼をした。

「お初にお目にかかります、我が次期主人様。私は狛犬葵と申します」

 ——狛犬……やはり、父上の式神だったのね。

「その体、どこで手に入れたの? その人を解放しなさい」
「そう言われましても……。こうでもしないと、姫様と意思疎通が取れませんから」
「じゃあ、力づくでいかせてもらうわ」

 花奈はそう言い終わる前に葵の体全体をピンク色の花嵐で覆い尽くした。

「やれやれ、この世界でこれだけの力を……。さすが未来の主人様、美しい妖術です」

 視界を完全に封じられた葵は、うっとりとその花嵐を見つめながら呟いた。

「……ですが、私は式神ですので拘束は無理かと——」

 葵は花奈の背後へ瞬間移動し、光の鎖で花奈を拘束する。

「——遅いわね」

 花奈は瞬時に体を防御壁で覆い、それを跳ね返した。
 葵は何度も鎖で防御壁の貫通を試みるが、全く手応えがない。

 ——固すぎる。これほど長い期間この世界にいるというのに……いったい、どこから妖力を得ている?

「あなたの力では無理よ」

 花奈は微動だにせずにその鎖を粉砕した。

 ——そうか、妖力源は……。

「姫様、まさかとは存じますが……あの男と契りを結んだのですか?」
「そうよ、私たちはもう一心同体」

 花奈は服の襟首をぐいっと下げ、左胸の花の紋章を見せた。

「左様でございますか……」

 男は焦りで歯ぎしりをする。
 体の契りを結んだ花奈は、高妖力保持者の夕翔といつでも妖力吸収・供給が可能だった。
 妖力供給源がない今の葵は、完全に不利だ。

「これ以上、あなたには何もできないわ。父上にもそう伝えておきなさい。ついでに、結婚相手はもう決定した、ともね」
 
 ——あの男の形跡が消えたのは、つい先ほどだった……。一足遅かった、ということか……。

「現状は部が悪いと存じます。、ここで引き下がらせていただきます」

 葵はそう言うと、憑依していた男の体を捨てて消えてしまった。

 花奈は急いでその男の元へ。

「はあ、よかった。命に別状はなさそうね……」

 花奈は倒れている男の意識を戻した後、気づかれる前にその場から消えた。





 翌朝。

 夕翔はベッドの上で目を覚ました。
 
 ——あれ……花奈は?

 横で寝ていたはずの花奈はいなかった。

 ——まさか、帰ったんじゃ……。

 夕翔は慌てて1階へ駆け下りた。

「ゆうちゃん、おはよ~」

 花奈はキッチンのカウンター越しから笑顔を振りまいていた。

 ——よかった……。

 ホッとした夕翔はキッチンへ行き、後ろから花奈を強く抱きしめる。

「ゆうちゃん!? なにこのご褒美!」

 ——最後の言葉は口に出すなよ……。そういう素直なところが可愛いけど。

「起きたらいなかったから。帰ったのかと思って焦った」
「驚かせてごめんね。お腹すいちゃったから。おにぎりと味噌汁作ったけど食べる? 卵は……ぐちゃぐちゃでよければ」
「ありがとう。全部食べる。運ぶよ」
「うん!」

 2人は横に並んで座り、手を合わせた。 

「いただきます」
「いただきまーす」

 花奈は夕翔が食べる様子をドキドキしながら見つめる。

「味噌汁も卵も味つけばっちりだよ。いつのまに覚えたんだ?」
「よかったー。ゆうちゃんが仕事に出かけてる時、ネット見ながら練習してたの」
「レトルトばっかり食べてると思ってた」
「いいところ見せて驚かせたかったの。惚れ直した?」

 夕翔は頑張る花奈の姿を思い浮かべ、胸をキュンとさせる。

「可愛すぎて惚れ直した」

 夕翔はそう言うと、花奈の頬にキスをした。
 花奈は不意打ちのご褒美に顔を真っ赤にさせる。

 ——甘々ゆうちゃん最高!!!

「でも、あんまり無理するなよ。異世界での生活は大変だろうから」
「ありがとう。ゆうちゃんのそういう優しいところ、大好き」

 花奈は夕翔に抱きついた。

 ——このまま、この世界で平和に暮らせたらいいのに……。

 叶いそうにない夢を抱く花奈は、ずっと胸騒ぎを覚えていた。 
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