ブレインダイブ

ユア教 教祖ユア

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肆章・緋の休息地編 

4-2 94 春斗視点 近付くな

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俺は最近イライラしている。

何もかも上手くいかない。

生温い温室に居るような窮屈感と、他人の鎧を着たような不愉快さ。

この二つで腹が立つ。

俺は昔から、口が悪くて態度も悪くて…それでも、お姉ちゃんやお母さんには尊敬してたから、家族の言う事はちゃんと守ってた。

だから、あんまり面倒事は起こしてない。

まあ、態度も口調も悪いけどさ。

でも、俺の口調と態度は無能力者という弱者の象徴により不釣り合いになってきた。

もしかしたらら、嫌がらせはこれのせいかもしれない。

でも態度を改めるつもりはない。

理由はプライドとかじゃない。

…面倒い。ただただ面倒い。本当にそれだけ。

俺の性格を変えれるのは、俺がよっぽど変えるべきだと思う人しか居ない。

その人と…俺はいつか…会わなかったか?

いや…それだったら覚えてる。

「…暇だな。」

最近、俺に対する虐めが少ない気がする、去年のネモフィラである能力者が基礎能力だけで能力者をボッコボコにした挙句、黄金の王も基礎能力以外も使ったけど勝ったらしい。

順位にその人が載っていないらしいので、ただの八つ当たりだとか何とか。

だから、無能力者でも能力者になってボッコボコにされるのを恐れて、俺に攻撃するのを止めたのだろう。

何か腹立つ。

誰だろう。そい…その人。

それに、去年の記憶がまるで無い。

殆ど覚えてない。

その時のネモフィラは何があったのだろう。

俺はその想像も全く知らない。

一応、その学年の元担当の先生が俺の学年の担当の先生になってるから、聞いてみようか?

何をやってるんだ…俺は。暇人過ぎだろ…

「…先生。」

「…?お、おう…どうした?」

そりゃ、吃驚するよな。俺だって吃驚するよ。

まあ、そんなにあからさまにするのは止めてほしいけど。

「去年の栄光賞…唯一、黄金の王を倒した能力者いますよね。」

「ああ。そうだな。」

あれ?元無能力者だから、物凄く嫌な顔すると思ってた。

…何で俺は此奴が嫌な顔をする前提だったんだ?

「それって誰なんです?順位に載ってないので俺は分からなくて。」

俺ってこんなに丁寧な口調言えたっけなぁ…?

「お、おう。それはな…樫妻 緋色。…執行者だよ。」

「執行者…?」

「ま、初耳で当然だ。あいつしかいないからなぁ。今の所は。…俺だって騙された…黄金の王まで、無能力者のフリを続けてたんだ。」

何故そんな事を?

と思ってたのが感づいたのか、それに答える。

「本当に急だったよ。…個人の資格を持ってた時点で気付けたのに、アナライズが上手くて、先生騙されちゃったよ。ただ単に、無能力者で馬鹿にされてたから、無能力者の状態で仕返ししたかったんじゃないかって先生は思うよ。」

「滅茶苦茶よく喋りますね。」

「まあ、君も同じだろう。境遇は割と似てると思ってね。あの先輩と仲良くなってたら、君のその素行の悪さも何とかしてくれるかなって思ってさ。」

「は?」

「おお…怖い怖い。僕も無能力者だけど…君達全員に勝てる自信があって教師になってる。…君もそうする事だね。」

「…………………」

何か…この感じを俺は知ってる?


「だったら、能力者を倒せる位強くなりましょう!学園に行くまでの間、強くなれば、きっと何かが変わってくれます!」


存在しない筈の記憶。


こんなきっしょい喋り方をしてるのは誰だ?…俺か?マジかよ。

それにこれは誰に言ってる?

もしかしたら…その…樫妻 緋色って人なのか?

そう考えてると結局馬鹿共が俺をサンドバッグの代わりにしようとしてきた。

「付いてこいよ。」





「ガハッ…!」

「オラオラ、その程度か!?」

痛い…気がする。苦しい…気がする。

こんな事になったのは誰だろう。お前のせいか?それとも俺のせいか。

無能力者が能力者を倒せるくらい強くなるのは可能だろうか。

何故俺はそんな事無理難題とも言えることを言ったのだろうか。

あまりにも…無責任なんじゃないか。

俺が言えた事だろうか。

それとも、そんな事を全部分かった上でこんな事を言ったのだろうか。

だったら俺は…この人に何を思ってるんだ…!?

この人は俺の何だ…?

俺が…苦しくなっても…!それでも言ったんだろ…?

そこまでの人を俺は何で知らない!

「ガハッ…!!」

「殴ってもつまんねえなぁ…オラよ!」

「グゥ…!」

そろそろ考えるのが限界になってきた。

頭が回らない。

すると、聞きなれない声が聞こえた。

「…………何してるの?」

「………五十嵐さんじゃないか。如何したんだ?」

去年程に転校したらしい、五十嵐さんという人が来たようだ。

ま、此奴もこの奴等と一緒だよ。

コイツ等の味方になるか、俺を捨てるか。

「…質問を……質問で返さないでよ。」

少々強い口調で言う。

何で…五十嵐さんは…こいつらをゴミの様な眼で見てる?

「…見たらわかるだろう?サンドバックで特訓中だよ。」

「……ああ…サンドバックって…棚見君の事?」

「ああ。そうだよ。」

「じゃあ…その特訓は私が引き受ける。…実践の方が…練習になる。………少なくとも……練習相手になれる程の実力は自覚してるつもり。」

此奴は…俺を助けようとしてるのか?

「え…いやぁ…」

「…?どうしたの?」

「お、俺はサンドバックで十分だよ…」

「…?ああ…動けない物を標的にしてやっと攻撃を当てれるのね…………夏祭りの射的程度の能力って事?」

物凄く煽るなぁ…この人。

「…………それも練習だと…思って…やってみよ…?」

という事で圧倒的な力でねじ伏せられた。

…五十嵐さん…暗殺者か…確かに強くて当たり前か…

と思ってたが、そういえば基礎能力しか使ってなかったなぁ。

「大丈夫?…棚見君。」

「ああ。」

さっさと帰ろうとした時、五十嵐さんは止める。

「口調、何でそんなに悪いの…?」

「あ?…元からだよ。悪いかよ。」

「…でも…感謝ぐらいは言ってよ………」

「…お前に、助けろと言われた覚えはな…………」

最後まで言う前に五十嵐さんの殺気に気づく。

いや、確かに、助けられた自覚もあるけどさ…いや本当に、俺、意識飛びかけたから、やばかったタイミングでラッキー!とは思っちゃったけどさ…怖えよ。

五十嵐さんこんなに怖えの?

「俺が感謝の言葉を口に出来る様な人間じゃない。見ただけで分かるだろ。それに…俺はお前みたいに強くな…」

と言ったら思いっ切り蹴り飛ばされた。

あいつより強い蹴りを食らわされた。

「いってえ…急に何を…!」

「だって………腹立つから…」

「ああ?それで全力で蹴ることないだろ!」

「だって…全力で蹴る機会がこれくらいしかなくて。」

コイツ…やべえ…

「棚見君は、私と違う。私は暗殺者だけど、棚見君は違う。一緒にしないで。比べる相手を間違えてる。俺はお前みたいに強くない?ッチ。何もやってない人に言われたくない。…暗殺者っていう能力になったからって………サボって無いの!」

思いっ切り俺をぶん投げた。

いってえ!何なんだよ!

本当に変な奴に絡まれた!

「本当に………棚見君って守りたい人が居ないと…こんなにも………弱くなる。」

「なんだよ!お前も無能力者って…」

「違う。………違う。そんな弱さじゃない。…力で弱いんじゃない。棚見君は根本的な部分が弱い。」

というか、こんなにも…?

「ッチ。俺の何が分かるんだよ…こんなにも…?俺の何を語ろうとしてんだ?」

「………棚見君が一番知ってるでしょ…忘れてるだけの癖に。全部全部…忘れてるだけ…」

俺が………忘れてる…?何を…?

その疑問に応えるかのように、樫妻 緋色という名前が浮き出る。


「どっちも外の資格を取って…外の世界に行ったら……フフ。もしかしたら、君が助けて~って言うかもしれないね!」

「こっちの台詞ですよ。もし樫妻先輩が危機的状況になってたら助けてあげますよ。」


樫妻…先輩…?俺が先輩呼びする事あるのか?

それに…樫妻って人に…面識があるんじゃ…?


「何で上から目線なんだよ……………先輩が後輩を守るんだから、素直に守られとけよって。」

「そんな事言ったって後悔しますよ~?…助けて欲しい時は僕の名前を呼ぶんですよ。樫妻先輩。どーせ、無茶するんですから。」


俺は…僕は…そんな事を…言ってて…そんな事を…忘れていた…?


「分かったよ。その代わり、私の助けが要るなら言いなよ。」


そう言って…樫妻先輩は笑った。

あまり見ない心の底からの笑顔を見て、僕はあの時安心した。

「…樫妻…先輩…?…あの…ネモフィラは…僕が消えてた時に…」

五十嵐さんは思い出した様な僕を見て安心した声でいう。

「………はぁー…………思い出したぁ………………」

やべぇ…よくよく考えたら、僕の今までの態度…全部黒歴史なんだけど…!?

恥ずかしくなってきた…

うっわ…やってしまった。…しかも五十嵐さんにやってしまった。

「五十嵐さん。…何で、樫妻先輩の事、覚えてないって気付いたの?」

「…緋色先輩が……棚見の事…覚えてなくて…」

「……………あんまり言いたくないけど…」

僕がまあまあヤバかったように…

「それってヤバくない?…俺よりヤバくない?」

「だから………棚見の方を先に思い出すように、夏希先輩に頼まれた。」

急がないと…あの人消えてしまわないか?

「…あの人が何処にいるか、知ってる?」

「…うん…知ってる……学校の放課後…………時計台の屋上の縁に座ってる…らしい………」

「分かった。…僕が樫妻先輩を思い出させるよ。」

取り敢えず、のびている阿呆を置いて部屋を出た。
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