ブレインダイブ

ユア教 教祖ユア

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参章・昇りし太陽編

3-31 88 大地の涙視点 最大の敵は自分だった

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黒い煙によって私が孤立してしまった。

…大丈夫かしら…他の皆は。

大丈夫だという事を信じるしかないわね。

それよりも、一番私が危険な身にあっているもの。

此処は知ってるわ。

…私が、過去に来た場所だもの。

私が裕貴が開眼する為に、この建物の中で模索した場所。

そう。

だから…此処にはがいる。

あの…私が。

狂人の私が。

「あらあら…何故私が居るの。」

は銃を私に突き付けた。

「…貴方とは違って人助けよ。」

「アハハハ!人助け!?…息子より其方の方が優先かしら!?」

「いいえ。もう終わったわ。全部終わらせて、人助けしてるの。」

「…へぇ…じゃあ、さしづめ貴方は未来の私なのね。未来の私はどうやら幸福そうね。」

本来なら普通の人はそこで喜ぶわね。

だって、何時かは息子の自殺を止められるという希望が生まれるのだもの。

でも、は違う。

「有り得ない…私とは違って…!全てを終わらせてるなんて!」

自分以外の成功は許せない。

「許せない…!有り得ない!絶対におかしい!」

「見苦しいわよ。」

「私はこんなにも頑張っているのに!…何で!」

「…簡単に終わる訳が無いでしょう。…所詮、私の自己満足なんだから。…本当に哀れね。…あなただってそうでしょう。一度も…一度たりとも息子から助けを呼ばれたこと無いくせに。…死ぬ間際に追い込まれた時でさえも…私に何も言ってくれなかった。…彼の虐めが分かった時も…彼からの言葉じゃない。しかも、この問題が解決した時なんて、私の夫が主にしてた。」

「…黙れ…!!!」

彼女の手から靄が溢れていく。

「………ここまで来れば化物ね。」

彼女は黒い霧を…人をモンスターにするこの霧を操れる。

私だって完全に操れないにしても、私のブーストの一部となる霧とほぼ同じだから、そのモンスターにする毒素を抜くぐらいは操れる。

「殺してやるわ…!」

私は銃を取り出し、銃弾を武器生成で作り出す。

「例え私を殺しても意味無いけどね!」

精神掌握を使う。

私に激痛が走る。

「…私に精神掌握を使ったら…自身にもダメージが入るのかしら!」

痛いとの同時に自身にも精神掌握をかけられているようなものだから、悪夢殺しを使えるのは私だけじゃないみたい。

私達は銃弾を撃ち合う。

銃弾の軌道を読んで避けて相手の動きに合わせてトリガーを引く。

「しぶといわね!私よりも老けてるくせに!」

「私よりも経験が浅いからよ。」

チャンスを掴み右腕を撃ち抜いた。

「ウウ…!?」

「死になさい。」

脳天を目掛けてトリガーを引こうとした瞬間、声が聞こえた。

「止めてくれ!」

「裕貴…?何でここにいるの…!?」

そこには裕貴がいた。

「そんな事止めてくれよ!」

「…っ…!」

「殺し合いなんて駄目だ!」

この私から先にけしかけたなんて死んでも言えない。

「お母さん!ずっと、俺の為にやってくれたんだろう!?」

「……!」

「知ってるよ、俺が死なないようにしたんだろ?」

「………何で…」

「分かってるって。お母さん。」

「裕貴…」

私は裕貴の元へ歩く。

「裕貴…!」

そして裕貴は私を抱き締める。

「だから…俺は生きてるんだ。…だから………」

「…?」

「お前の自己中に振り回される俺の身にもなってみろよ。」

「……!!!!」

体中に激痛が走る。

至る所に血が吹き出る。

「あらあら~…同じブレインダイブの癖に洗脳に気付かないなんてね~哀れね~」

「…この…」

何も動けない。

私は壁に凭れる事しか出来なかった。

私の周辺の床は血で真っ赤に染まっている。

私は…このまま死ぬのか。

何も出来ずに死ぬのか。

裕貴は如何なるのか。

私が死んでも生きれるだろうか。

何故、こんなにも…私は弱みに漬け込まれ易いのか。

悲し過ぎる。

すると、知っている声が微かに聞こえた。

その声が私を生の方向へ引き寄せる。

「あ!葵里さん!」

「…あら!そこに居たのね~」

違う。それは私じゃない。

「探しても全く見つからなくて焦ったわ~」

違う。貴方は探してなんていないでしょう…!

「本当ですか?二つ名を持つ葵里さんが?」

「あら~…誰でも焦る時はあるわよ~」

気付いて。

その声が届いたのか、は態度を変える。

「……………あら…?あらあら~?バレたかしら~?」

「やっぱり…………葵里さんじゃない…」

「それは違うわ~…確かに貴方の言う大地の涙じゃないわ~でもね~私はちゃんと大地の涙よ~」

良かった。

二人は気付いてくれた様で。

「…ウフフフ。貴方達は邪魔ね~私は私でやる事があるの~」

「…っ…!」

「こっちの知ってる葵里さんは何処?」

すると、彼女はニヤリと嗤った。

「ああ、これかしら~?」

私をこれ呼ばわりして来た。

…許さないわね。

一度勝ったくらいで良い気になるなよ…!

「これも私なのに…私より幸せなんて有り得ないわね~」

「葵里さん!?」

「…まだ…死んでない…!」

緋色さんは分かっていたようだ。

自分でも生きている事に驚いている。

「自分を躊躇いなく…!」

「そうね~…頭イカれてるかしら~?…私はそうは思えないけれど~」

すると心臓を握られたような痛みが走る。

「うっ…!?」

まさか…二人も…?

「………貴方達も死んで欲しいわね。実験体はあの人達だけで良いもの。」

「実験体……まさか…!」

「私はね~…ただ一人守れたら…死ななければ良いのよ~…貴方達はそうじゃないかもしれないけどね~?」

駄目。

絶対に私がここに居るのに死なせる真似はしない。

「私のペット…今回は上手く機能してくれるといいけど~」

「モンスターを洗脳して…!?」

「ええ、そうよ~」

すると、体中に激痛が走る。

「あぁ…!?」

「いっ…!」

悪夢殺しをするつもりね…!

動きなさい…私…!!!!

「ウフフフフ。アハハハハハ!…ここで死んで己の弱さを自覚しなさい。悪夢殺…………」

「…………させ……………ない………!」

精神掌握を叩き壊す。

「緋色、香露音…行きなさい。」

私はよろけながら立つ。

「…葵里さん!」

「行きなさい…!!!」

何度も言わせないで頂戴。…そんな元気はもう無いのよ。

「行くよ、香露音!」

緋色さんは香露音さんの腕を掴み走った。

さあ、これで二人っきりに戻ったわね。

「どうせ逃しても変わらないわよ。」

は霧を操る。

蔦が急に伸び始め、部屋全体を包む。

恐らく緋色さん達の辺りにも生えていくでしょうね。

この蔦は、黒い霧で成長する植物。

蔦の近くにいると、早かれ遅かれモンスターに変化してしまう。

それは困るわ。

私の手から黒い霧を出した。

久し振りね。

もう二度と使う事が無いと思っていたのに。

「………奪え…」

私の方が扱いは上よ。

私の霧の方が濃いもの。

どうせそろそろ死ぬ命。

全部吸い取ってあげましょう。

蔦が枯れ始める。

「小癪な真似をするわね…!…でも、あの先は行き止まりよ。扉の鍵を壊さないと出れない。…それにはブレインダイブレベルの貴重な能力じゃないと壊せないわね。」

ああ、どうやら出来ないと思っているのだろうか。

「…それなら安心ね………………ヒーローは遅れてくるものよ……?」

木端微塵になる前に、英雄君が来る事を祈るわ。

「何を言って…うう…!?」

もう一度精神掌握を使う。

やっぱりね。

に精神掌握を使えば私にもダメージが来る…って事は反対も然り…と思って自分にやってみたけど…間違ってなかったわ。

「…何を…まさか…!止めておきなさい。私を殺しても、モンスターは元の強さに戻るだけよ!寧ろ、彼女達を危険に晒すのよ?」

「それだけ?」

「それだけですって?」

「あの子達を甘く見過ぎね。…私は今上手くやれば良いなんて思ってない………………私は…その先を……見ているの…………」

最後の一発を銃に込める。

「私は…自身の命を…全うする……………………!運命も…使命も…この身全てを捧げるわ…!」

ねえ…

貴方は知らないでしょう。

この先の希望を。

この先の絶望を。

トリガーを引く。

更に霧の力を使う。

魂に干渉する霧と私の能力で決して逃さない。

「この…!」

悪夢殺しナイトメアイーター(大)…!」

体に激痛が走る。

銃はあの一撃で壊れる位の力で能力が放たれる。

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!いやあああああああああああ!」

全ての蔦が枯れ落ちた。

私は吐血をする。

思考が出来ない。

ああ…私は…死ぬのね…………

彼女達は名前を思い出す事ができるかしら…?

ああ……ごめんなさいね………裕貴。

貴方に…なんにもしてあげられなかった。

貴方が死ななかった代わりのように、夫が死んで…私は世界をやり直す選択肢を取れなかった。

ごめんなさい………息子を殺せるような母を持ってしまって…

私は裕貴に………普通に愛してると…言いたかった…

間違いじゃないの。この気持ちは嘘偽りの無い本物なのよ…

だから…知られたくないの。この事実を。

幾ら裕貴に嫌われようとも。




「…ああ……………あ…なた……………今……行くわね……」







私は緋色さん達に希望を託して逝きます…
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