ブレインダイブ

ユア教 教祖ユア

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参章・昇りし太陽編

3-28 85 智輝視点 命賭し

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「良いな、良いなぁ!久し振りで心が踊るぜ!」

と言いながら鬼塚は闇の波動ウェーブ・オブ・ダークネスをぶっ放す。

「まじかよ…勘弁してくれよ…」

さっきから派手にやってくれているお陰で大量にモンスターが寄ってきている。

鬼塚を止めようと、若木に頼ろうとした。

「おい、あいつを…」

「良いわね!私もワクワクするわ!」

と言いながら、更にエンブレススター(大)をぶっ放し辺りを蹴散らしてくれる。

「本当に止めてくれよ…」

「良いだろ?橋本。あともう少しだから!」

「と言いながら、かれこれ30分はそう言ってる!…何時までもう少し言うんだよ!」

「ケチだなあ、橋本ー!」

「俺がケチなんじゃねえよ、お前らが好き勝手やってるだけだ!」

もうブチ切れそうだ。

すると、精神感応テレパシーで如月さんの声が聞こえた。

「…大丈夫…?」

「あ?ああ………ああ…」

全然そんな事無い。無駄に心配させてしまった。

「……多分、俺等のせいだ。…ちょっと、久しぶりに大型モンスターに遭遇してはしゃぎ過ぎた…」

やっと止まってくれたか。

本当に勘弁してくれ。こっちはお前らが暴走すると困るんだ。

「悪い、如月さん。…鬼塚と若木の馬鹿が、形振り構わずやってて…俺じゃ、歯止めが効かねえんだ。…馬鹿だから。」

あまりのイライラで、毒を吐く。

「…………わ、分かった…………頑張って…」

如月さんも気の毒そうに言ってきた。 

可哀想な人が1人此処で頑張ってるもんな…そりゃ言いたくなるよな!

「橋本!?誰が馬鹿だって!?」

若木が突っかかってくる。

「止めろと言って、止めない奴のことを馬鹿と言うんじゃないのか?此処には俺がいるんだ。それに、別に外の世界でモンスターと戦いに来た訳じゃない。それで、不必要なモンスターを呼び寄せて、俺等だけに被害が被るんだったら良い。まだマシだ。でも、他の奴らがお前らが呼び寄せたモンスターと遭遇する可能性もあるんだぞ!」

「…………………」

「それで、誰かが怪我をしたらどうする!?…その時はお前らの責任だ。その責任の取り方はどうするんだよ!」

「…それは…………」

「…殺られたらその時は弱い奴が悪い。」

「…鬼塚…!」

「…そうか…鬼塚。お前はそう堂々と人前でそんな愚行を働かせる馬鹿か。…はぁ。…良いか、鬼塚。外の世界は同じケースなんて滅多に無い。…強敵レベルの大型モンスターが出現して、そこで何とか倒せても、その後は…!?体力的にも限界はあるし、そこでサル共でも来てみろ…無傷で済むか?それに、確かにお前は強いよ。…でも、強いのはお前じゃない。…お前の能力だ。」

「…何だと…?」

「お前の能力はモンスターを大量に殲滅できる。…まあ、火力が高い能力だから当たり前だが。…それで殺しきれなかったら?…何だったら、その火力のせいで味方に被弾する可能性もある。」

「何が言いたい?」

「殺られたらその時は弱い奴が悪い…その言葉はおかしいんだよ。……時と場合と条件によって、俺達は誰でも弱くなる、不利になる。…お前が死ぬ直前まで、お前がさっき言った言葉を吐けるのか見ものだな。」

少し頭に血が上っている気がする。深呼吸して落ち着いてから、いつもの調子を取り戻す。

「もう暴れるのは勘弁してくれよ。さあ、行くぞ二人とも。」

「………おう…………………………」

「わ、分かった…」

ここまで言ったんだから、二人も分かってくれるだろう。

そう思ったのが馬鹿だった。

と、痛感したのが、約五分後の大型モンスター出現の時だった。

何でこいつ等は学習しないんだろう?

すると、精神感応で声が聞こえる。

皆、安全のようだ。この馬鹿共率いるこのチーム以外は。

「俺等のところは、明らかにピンチなんだが主にこの2人馬鹿が。」

「…うん…橋本…頑張れ……一番まともなんだから。…うん…頑張れ…」

「樫妻…諦める様に言うの辞めてもらっていいか?」

「だって諦めてるもん。」

「…はぁ………」

溜息しか出ない。

「安心しろって橋本。…俺等は強いからさ。」

「…はあ…ああ。そうだな。強いよ。…本当に強いよ。…違うんだよ、そういう事じゃないんだよ…」

本当に呆れる。

すると、急に攻撃を受ける。

「…っ…!?…嘘だろ…!気付かなかった!」

それは、この三人全員だった。

「…俺達もそうだ…!」

(見えない…!どこに居る…!?…気配察知で分からない!さっきの攻撃がどこから来たのかさえも分からなかった…マズイな…)

更に攻撃が来る。それも、全方位からだった。

銃弾のような弾幕が大量に襲う。

「ぐぅ…!?」

「花嵐(中)!!」

「きゃあ…!?」

誰の仕業か分からないから動きようがない。

空気が変わる。…来る…!

「ピアシスラ…」

目視できた瞬間、若木が突進の餌食になっていた。

「若木!!!!!!!」

「止まれ…!盆東風ぼんごち(大)!!!」

モンスターの真横に暴風をぶつけて横に倒す。

「最高火力なんだが…よろける程度かよ…!」

「若木!生きてるか!」

「死んだ!!」

「生きてるじゃねえか!」

しかし、見ると骨折しているようだ。

早く応急処置を済まさないと。その為には此奴を倒さないといけない。

若木が怪我をした時点でこのグループは樫妻達の協力は出来ない。

だから、せめて全滅する前に中の世界に帰らないといけない。

「俺達で勝てると思うか?」

鬼塚に言う。

「ああ?勝てるじゃなくて、勝つんだよ。」

「勿論、その前提で聞いてる。勝てるのか?」

「………………無理だな。俺達二人はキツイ。早いし強いし。」

精神感応で繋ぐが………駄目だ。

攻撃を必死に避けながら、会話する。

「無理だな。」

「…何で…!?」

「どうやら、如月さんグループも同じ感じだ。大地の涙がそっち行ってるらしい。一番近いのは如月さんグループだから無理だ。樫妻呼んでも、俺達は保たない。」

「じゃあ如何するんだよ…!」

仕方無い。死ぬ訳にはいかないから切り札を使う。

「鬼塚!お前一人でどれくらい保つ?」

「1分は絶対に耐えれる!それから30秒ずつで死ぬ確率上がる。」

こいつは自分の実力とモンスターの強さを天秤にかけれる人だ。

馬鹿だが、戦闘に向いている。

「…1分半。…1分半…耐えてくれるか…!」

「…フッ。ギリギリを攻めるのも悪くねえな。…やってやるよ!」

「頼む。………疾風式・狂飆!」

必殺型のブースト。

これを使った後は歩くのに精一杯になる程の疲労と、1分程度の隙を生じる。

絶対に死なない。絶対に死なせない。

俺は…まだ、樫妻に謝ってない。


何で…!今言うの!今死ぬの!橋本!!!


俺が死ぬ寸前に、泣きながら叫ぶ樫妻の言葉を思い出す。

ああ、その通りだ。普通に生きている時に言うべきなんだ。

死ぬ直前に謝るなんて、虫が良すぎるんだ。

樫妻。お前は俺を恨んで当たり前だ。

恨むなとも、恨めとも俺はどっちも言える権利はない。

恨まれて当たり前の事をした。それが俺が謝る十分の理由なんだ。

俺も皆も糞野郎だ。

でも、そんなの樫妻にはどうでもいい。その事実だけが全てなんだから。

生きて、謝る。

俺は、彼女に誠心誠意謝らないといけないんだ。

許される為じゃない。

彼女がいつか、俺を許せる日が来る様に、許せる理由を作るだけの事。

遅くなってもいい。言えばいい。

彼女は誰も死なない世界を目指してる。

だから、俺は絶対に何時かは言える。

でも、ここで死んでしまったら、たまたま世界をやり直せても彼女の苦痛は更なる悪化を辿る。

だから!!!!今ここで…!俺がここに居る俺が守れる全てを!

「今だ…橋本!」

「ああ…良く耐えてくれたよ!」

俺の全てをぶつける。

…風は…全てを貫き、切り裂いた。

「ガハッ…!」

反動で吐血した。体の至る所が痛い。視界がぐるぐると回っている。

そりゃそうだよな。

本当の切り札として考えたのが、ハイリスクハイリターンのこれだったんだから。

俺が、これを使う必要が無いように、強くなった。

疾風の旅人は本来、アタッカーとは言える程火力は無い。

それでも、俺がソロでやって来れたのは、このブーストのお陰だった。

自身が死にかけになるレベルまでの反動が来るこの必殺を使う時は、恐らく、何かを守りたい時だって。

そう思っていたから、分かっていたから、使う必要が無いように今まで頑張ってきたんだ。

「…ハァ…ハァ…!」

俺が放った風で木々が切り倒され道が出来ていた。

「…やべえな…お前。」

まともに立てなくなって膝を地面についた。それを見た鬼塚は、俺に対し言う。

「ボロボロのお前に言われたら、どんな意味で取ればいいか分かんねえよ…」

鬼塚もボロボロで血だらけだ。

取り敢えず報告しないと。如月さん達も心配だ。

鬼塚に若木の応急処置を頼んでこちらは精神感応で報告する。

「………そっちは大丈夫か?」

「うん。大地の涙が来たから。」

「……橋本君?…大丈夫かしら……………?」

「全く。大型モンスターに出会して…若木が足折って、鬼塚もボロボロ…」

最後まで言えずに咳き込む。

血の味が口の中に広がり物凄く不快感を生じる。

「俺達は…もう無理だな。これ以上行けねえ。」

「…そう。死亡者が居ないのが御の字ね。」

「ああ。…本当に。」

「ああ、あと、俺達だけで帰れるから。…後は頼む。」

「…分かったわ。…中の世界に無事戻れたら精神感応を切って頂戴。」

「了解です。」

そして、ボロボロの鬼塚に肩を借りて出発した。

必殺型のブーストのお陰なのか、モンスターが出現せず、とても静かだった。

だから、帰るまでに一度も遭遇せずに帰れた。

「……………………絶対に死ぬなよ……………………………」

俺はふと独り言のように呟き、精神感応を切った。
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