ブレインダイブ

ユア教 教祖ユア

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弐章・選ばれし勇者編

2-10 42 緋色視点 第四位を目覚めさせた龍

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次は春斗の番だ。

「………春斗は…何時になったら………思い出すと思いますか…?」

鶴ちゃんが緋色に尋ねる。

「………どうだろう。でもさ、夏希のことは思い出さずとも……自分の…無力さ位は…此処で思い出せたらいいね。あいつは若干、香露音の事を覚えていたし。」

「そ…そうなんですね………」

「本人が無能力者じゃあ弱いって思ってる。だから、能力を手にしたいって心の底から思ってる。………でも…能力を手にした所で…また先を欲するだろうよ。」

「…………それって………緋色先輩もですか…?」

「…そうだよ。」

春斗は上手く基礎能力を使い、アーチャーの攻撃を避けている。

「縮地(小)………」

アーチャーの隙をついて、そのまま攻撃に転じる。

観客は、無能力者の春斗に対し

「すげーーーぞー!!無能力者ーー!」

「初めての無能力者資格所持者ー!応援してるぞー!」

との声が聞こえたが、

「おい!アーチャー!無能に負けてんじゃねーぞ!!」

という野次もある。

「……何か……性格悪いね………」

「素直に応援出来ないのかなぁ…?」

と、後輩はそれぞれ不平を言っている。

本人はどんな気持ちでそこに居るのか。

気にしていないと言うが…本当に大丈夫だろうか。

(心配できる程自分に余裕は無い…か…)

少し時間が経ち、香露音は3回戦を行く。

相手は氷結だ。そして、世界は天空の決闘場に変わる。

「絶氷・裂傷(中)!」

氷結が先に攻撃する。

「電光石火(中)………!」

氷の氷山を華麗に避け氷結に接近する。

絶氷・裂傷は当たれば苦痛を伴う。

だから、当たらないようにしなければ、次の動きに支障が出る。

「水球(中)!」

水球が凍りつき氷の球になる。

「隼(中)。」

剣で斬り刻み氷の破片が飛び散った。

その破片が光に反射し、美しく光る。

香露音の美しい戦いで観客を魅了していく。

(映えるよなぁ…やっぱり、香露音は美人だね。)

戦いは止まらない。

「絶氷・氷柱(大)………」

「縮地(中)!」

氷結の攻撃を正面から受ける。

「騎士の激励(中)…!」

防御を貼りそのまま突っ込んでいった。

それでも香露音は止まらない。氷柱を破壊し氷結の元に行く。

「隼(中)…!」

しかし、簡単には死んでくれない。

「絶氷・裂傷(大)!!!」

隼の一太刀めを剣で防ぎ、もう一太刀を振るう前に大地を凍てつかせた。

「縮地(中)…!」

香露音は直ぐに後ろに下がった。

反応速度が前回よりも早くなっている。

「絶氷・吹雪(中)…!」

視界が悪くなり、触れるだけで痛みが走る雪が降りはじめた。

 「ふぅ………」

気配察知が出来ない香露音はこの状況は不利である。

勿論、相手が気配察知が使えれば更に状況は劣勢の道を辿る。

しかし、それでも勝ってもらわないと困る。

「…その程度…………」

香露音は構える。

「どうってこと………無いわ…騎士の喝采(中)。」

吹雪が一斉に香露音の元に降り注ぐ。

「挑発を使ったら……貴方が不利になるだけよ………!絶氷・雪崩(大)!」

本来であれば、氷結にもダメージを負う大技だ。

それを香露音一人が請け負う事になる。

凍てつく冷気が香露音を襲った。

しかし、全ての技を出し切った後でも、世界は壊れていない。

「雪は晴れたようね。」

「な!?」

香露音はそこから動く事なく立っていた。

「制裁の時よ。正義の審判(大)。」

耳の奥が鳴るほどの爆音を立て、大地を削る爆発が起こった。

「………私の…………勝ちね。」

世界が元に戻る。

派手に勝ってくれたようだ。

「先輩格好いい!!」

と、後輩達は喜んでいる。

(あれができるって…単に余裕があるって事ね。)

吹雪で全く見えなかったが、気配察知で何が起きていたか予想がつく。

香露音はたったの一発で絶氷・雪崩を相殺した。

(正義の神罰…威力が上がったなぁ…私の能力なんてそんなもんが無いからね…私なんて、ほぼ対人向けの能力だし。)

そもそも、香露音自身は前回の世界でも、個人の資格が取れるレベルだったので、2回目など楽勝なのかもしれない。

それにしても暇だ。自分のやる事がもう終わってしまった。

前回の世界の個人の資格を取ってから物凄く忙しかった気がする。

何もしないと、こうも暇なのかと思う。

春斗が今度は試合に出るが、相手の持続型のブーストを使われたが、カウンターをして一瞬で終わった。

銃弾に簡単に反応出来る人だからこその反応の早さではある。

緋色も出来ない事も無い。勿論やりたくない。

そんな数秒のズレで死ぬ様な博打は打ちたくない。

…そんな賭けを春斗は簡単に出来てしまう。

勝てるという自信がある。

そして、そうまでしないと勝てないと思っているからだ。

命しか賭けれないと、ここまで狂うのだろう。

(私も…春斗も………どっちも歪んでるよ……)

そういえば…前回で3回戦が終わったくらいに休憩時間があるのではなかっただろうか。

そう緋色が思い出したタイミングでアナウンスがなった。

丁度いいタイミングだ。

後輩達を連れ待機室に行く。気配察知をして二人の居場所を特定する。

たまたま二人は近い場所にいた。

「香露音ー」

呼ぶと、彼女は振り向いた。後輩達がそこに群がった。

ついでに春斗も呼ぶ。

「やっほー春斗ー」

「…あ…樫妻先輩。」

やはり元気が無い。前回はそんな事無かったが。

「…どうなったの?」

「ああ、完璧にやらかしたよ。」

「……………え?…樫妻先輩……何やったんです…?」

香露音と春斗は冷や汗を流している。

「そういえば、春斗は言ってなかったね。実は…」

と言う事で今までの経緯を話した。

後輩達も聞いていたので、全員ドン引きしている。

「…………馬鹿ですか?」

最初に言葉を発したのは春斗だ。

「うん、春斗、よく思うけど私の事先輩だと思ってないね。」

「いや、馬鹿でしょ。」

「えぇ…」

「大地の涙に喧嘩売る阿呆がどこにいるんですか…」

「緋色先輩に言ってると思うけど、棚見も思い切りそうだよ。」

「え!?五十嵐さん!?久しぶり…??というか…何で?」

「大地の涙に対して、お肌がガサガサですよ。厚化粧ババア。何でてめえの犬になんだよ!って………」

「春斗、なんてこと言うの!アハハ!」

私より阿呆がここに居た。

流石緋色の後輩だ。

「……そんな事言った記憶無いんですけど…?……以前僕は何をやらかしたんですか………」

「で?話を戻して…緋色、如何するの?」

「取り敢えず…1週間後に私は洗脳されるだろうね。」

「されるだろうね…?」

「でも、私は洗脳されない。」

「なんの確証があって…」

「私の精神世界には…絶対に殺られない私がいる。…それに……」

(万が一そいつが死んでも、それだけじゃあ…私は洗脳されない。)

緋色は心の中で思った言葉を隠し違う事を話した。

「私は…洗脳された事が今まで一度も無い。」

「でも、前回吐血したんじゃなかったっけ?」

「直接されたけど…前回よりは多分私本体が強くなってるから、それに比例して精神世界の緋色あっちも強くなってる。」

「で?じゃあそこは問題じゃないんですね。」

「よく分かったね。春斗。そう…そこの問題なんて段差の無い場所で躓くような位の問題なんだよ。…実際、洗脳されるかもしれないと考えた方が弱くなる。」

「もう…考えたくない………はぁ…どうせ、こう言いたいんでしょう。『私以外の誰かも巻き込まれる。』って。」

「正解だよ。香露音。」

一番怖いのはそれだ。

大地の涙はただのブレインダイブでは無いだろう。

能力者の域を超えて超能力者と言ってもいい。

「確かに、確定演出としては私は洗脳されに来るだろうけど…私の周りが洗脳されない確証はない。」

「…私ね。一番の可能性として浮かび上がるのはまず私よ。」

「そうだと思う。それに、鶴ちゃんも例外じゃない。」

「……私…ですか……?」

「今回は、三人は団体戦の試験を受けるんでしょう?」

「はい。」

智花ちゃんが頷く。

「だったら…多分大丈夫。私は試験を受けないから。試験場を巻き込んでするとは思えない。」

「でも、大地の涙は普通の洗脳じゃ効かないって知ってるよ。」

「……そう、私は洗脳如きじゃあ屈しない。」

「ブースト…………ってことですか。」

そう。ブレインダイブのブーストは深く抉ってくる。

ついでに食らった人がまともな訳が無いので情報が無い。

死人に口なしと言ったところか。

本当に恐ろしい能力だ。能力のデメリットなど存在しないに等しい。

「簡単にはいかないだろうけど…大地の涙は何か知ってる。勿論死神についても。」

「……!!!それは…本当なの!?」

やはり、一番食いついてきたのは香露音だ。

「………し…に……神……?」

頭を抑える。やはり、思い出すのは時間の問題だろう。

勝手に思い出す。忘れたくとも忘れられない様な地獄を。

「棚見…?」

「………何とも無いよ。大丈夫。」

少しふらついたが鶴ちゃんの声で意識がはっきりしたようだ。

「確実に知ってる。確実に言える。」

緋色はきっぱりと言う。

「……分かった。緋色と一緒に行く。」

香露音は覚悟を決めたようだ。

「洗脳なんてされてやらない……!」

緋色はニヤリと笑う。それ位の覚悟は持たなければ夏希を救えないだろう。

「そうこなくっちゃね。」

「私も…………行きます……………私も…戦います。それが…どんな相手でも。」

鶴ちゃんも腹を括ったようだ。

「わ、私も!」

「頑張って、資格を取ります!」

「皆で…戦いましょう…!」

後輩達も次々と言う。

すると終わりのアナウンスが鳴った。

緋色は後輩達を連れて元の席に戻った。

………春斗の決意を聞けないままで。

このまま直ぐに二人の4回戦が始まった。

香露音も春斗も簡単ではなかったが二人は勝ち上がったようだ。

何だったら、春斗に関しては5回戦も普通に勝ち上がっていた。

…春斗はどうしたら元気を取り戻せるのだろう。

それよりも、香露音の5回戦が問題だった。

「…………!!!!」

「…どうかしましたか…?緋色先輩…?」

「い、いや………何でもないよ。」

5回戦の対戦相手は、執行者の緋色を目覚めさせたあのドラゴンスレイヤー禿だった。

…春斗の一件もあり不安しかない。
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