ブレインダイブ

ユア教 教祖ユア

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弐章・選ばれし勇者編

2-6 38 香露音視点 2度目の個人戦

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とうとうこの日が来た……と言っても、この光景は2回目だ。

この前、緋色と何が前回と変わったことかを確認した事がある。

「今回の個人戦で変わらない事は、春斗が無能力者で、香露音も出場する事。」

「変わる事は…緋色が出ない事。でも案外これが一番不確定要素になるよね。」

「前回は、大地の涙のとばっちりを無事に受けたしね~今回、大地の涙とまともな会話が出来ると良いんだけど。」

「全然無事じゃないけどね…あの時は棚見君と、鶴ちゃんと、夏希が洗脳されなかったし、緋色も何故か洗脳解除出来たからなんとかなったんだよね?」

「そうみたいだね~…え…?洗脳解除って普通に出来ないもんなの?」

今、緋色は気付いたようだ。

「当たり前でしょ…?本来は洗脳された人を解除するには、かけた本人もしくは、また別のブレインダイブがその人を洗脳の上書きをして、解除する。…勿論前提であそこまで洗脳されない事自体が、普通じゃないんだよ…ブレインダイブである夏希は兎も角。」

「え!?そうなの…!?」

「逆にこっちが驚きたいよ。…何で、自覚が無いの……」

香露音はもう呆れてしまった。

「…あ、そうそう。話は変わるけど………多分、10人以内に上がってくる知り合いが居る。」

「ふ~ん……でも、強いんだね。その子。」

「能力は烈火の華。…私の小学園には、卒業するまでの3年の間に称号がある。………称号の中でも、栄光賞…私等はネモフィラって言ってるけど…」

「聞いた事ある…気がする。」

ある学園は、得た称号によって成績の点に加算されるらしい。

…あの時、蒼学園についてもうちょっと調べておけば良かったと後悔する。

「それを、あいつは3つ取ってる。…9回位チャンスがある内ね。しかも、それって能力者としての実力が上位3割を切っとかないと取るのは難しいやつなんだよ。あれ。」

「それ程の実力が…」

「それぐらい強いから多少人が変わっても、上がってくる。それ程の実力があれにはあるんだよ。…でも…どうしてもなんだけど…あいつだけには勝ってほしい。」

香露音が上位10人以内に上がるという前提で言う。

その力を持っていると緋色は分かっているからだ。

「あいつに外の世界に行って欲しくない。」

「何で?」

緋色の不器用な優しさかと思ったが逆だった。

「私の邪魔しかしないから。あれ、事あるごとにケチつけてくんだよ。」

「…あ…そう…」

「もう、私は小学園の人間じゃないし出来るだけ関わりたくない。」

そこまで嫌悪感を示す程の何かが緋色にはあるのだろう。

「…自分で、なんとかしないの?」

と聞くと、

「…した。とばっちり受けた。」

と、短く返された。

とても不機嫌そうな顔になったので、もうこれ以上は詮索しないでおく。





「はぁ………とうとう始まった……」

開会式が終わり、待機室で待つ。

やはり、今回も二つ名の朱い流星と大地の涙がいた。

「…何か…鳥肌立った………?」

よく分からないが、もしかしたらこれが大地の涙の仕業だろうか。

今回は棚見君とは10人以内に入らないと当たらない。

緋色が以前言っていた、烈火の華も同様だ。

(……?この人…………)

緋色との会話には出ていなかったが、何か知っている気がする人がいた。

5回勝てば10人以内になる。

此処には棚見君も居るらしいが前回同様に全く会わない。

あの時は緋色と一緒にいたようだが、今回はどうしているのだろうか。

それに、明らかに先輩後輩の仲では無いだろうと思う。

鶴ちゃん曰く棚見君の方も否定していたらしいので、緋色の言う通り違うのだろう。

「…次は私か…」

少し緊張するが問題無い。

夏希を取り戻す為に頑張った。

決闘場に着いて相手を見る。オドオドしている様子だ。

(……動揺を隠せてない………)

世界が変わる。天空の決闘場だ。

「火球(乱数ラムダ)…!」

5個ほどの、火の玉が香露音を襲う。

(……一瞬。)

「隼(小)…」

一瞬の内に消し去った。

「縮地(中)…」

一瞬の内にウィザードに近付いた。

「悪いわね。」

香露音は一瞬で首を跳ね飛ばした。

世界が元に戻る。香露音は2回戦を待つ。

待っている間に、決闘が見れる場所に行く。

香露音は気配察知が出来ない。

開眼する前から練習していたが、今でも一欠片もそれが使えない。

夏希も同様に使えないらしいが、本人は全く練習していなかったらしい。

夏希は戦う事を放棄していた。

外の世界に行く事を選択肢の中に入れていないようだった。

夏希がブレインダイブに開眼してから物語が始まるように、色んなものが変わった気がする。

そう思っていると、決闘には棚見君が戦っていた。

「…縮地(小)…!」

攻撃が防がれ、反撃を食らうかと思われたが気配が消える。

そして、彼が見えない間に銃弾が相手の眉間に撃ち込まれていた。

しかし、英雄の開眼していない棚見君は強いのだろうか。

緋色は、

「ああ…大丈夫。あいつは強いよ………能力なんかが開眼しなくてもね。…彼はそう思ってなさそうだけど。」

と、言っていた。

確かに棚見君は無能力者の中ではトップクラスの実力がある。

しかし、前回はドラゴンスレイヤーにやられている。

だからあまり強いとは思えない。

緋色が圧倒的な力でねじ伏せたというのが大きいかもしれないが。

(あれは…本当に緋色だったのかな…?確かに緋色だけど…緋色じゃない気がして…)

以前、夏希から緋色の精神世界は人と違うと聞いたことがある。

それと何か関係しているのかもしれない。

「あらあら~さっきから知らない言葉が貴方から何回も聞こえるわ~」

すると、突然大地の涙が現れた。

「こ、こんにちは。」

「貴方の名前は何ていうのかしら~?」

「羽柴士 香露音と言います。」

「羽柴士さんって言うのね~覚えたわ~…さっきから、前回だの、以前だの…本来であればこういう事が起きたと知っていたみたいね~」

(ここの中を読めるの………?)

「ええ、そうよ~だって私はブレインダイブだもの~」

「………そうなんですね。」

隠し事は出来ないらしい。ならば、緋色に向けさせるように香露音が動かした方がいい。

「……前回、以前………ですか。……そうですよ。私達はこの先を少し知っています。」

「…へぇ…」

「知りたいのであれば、私では無く、樫妻 緋色に聞いては如何でしょう?」

「それは…どんな子かしら~?」

「貴方にとって…面白い人かもしれませんよ。だって……洗脳が効きませんから。」

「…私の洗脳でもかしら~?」

「はい。言ったでしょう。私達は…この先を知っている。」

初めて会う人に、それも二つ名に、更にブレインダイブ持ちに。

こんな事を言うのは少々気が引ける。

「フフ。良いわ…その子に会ってあげるわ。…でも、どうなっても知らないわよ~」

(…でしょうね。)

そう思った。

もしかしたら、心の中でそうなる事を分かっていたのかもしれない。

いや…緋色はこうなる事が分かってしている。

「…大丈夫ですよ。緋色は多分大丈夫です。」

「あらあら~自信が無いのね~…やっぱり私に洗脳されるのが不安かしら~?」

「…いや…洗脳されるのが不安じゃないです。…貴方をボコボコにし過ぎないか不安なだけですよ。」

満面の笑顔で答える。

「…………そう。…楽しみね~」

そういって気配が消えた。

怖い。怖い怖い怖い怖い怖い。

本当に何をやっているのだろうか。

本当に自分は馬鹿なんじゃないかと思う。

しかし、ちゃんと理由があって、前回の世界で夏希が洗脳されない為のコツを聞いたことがある。



「簡単に言えば、強ければ強いほど洗脳しにくいよ。…強い定義はちょっとむずいけど…簡単に言えば、実力もそうだけど、精神的な方が意味合いが強いかな。」

「精神的な方…『絶対に洗脳されないんだー』みたいな事?」

「それに似てるかもしれない。『もしかしたら洗脳されるかもしれない…』少しでもそんな事を思えば、弱さに漬け込まれ簡単に引き摺られるだろうね。」

「じゃあ、緋色が大地の涙に偉そうだったのは…」

「多分そういうこと。分かっていても、普通は出来ないよ…まぁ、勿論、そんな事しなくても、され難くなる方法もあるよ。」

「何?」

「別のブレインダイブが近くにいる事。…私が居れば、香露音もきっと大丈夫。」



思い出し、夏希がいない現状に不安になる。

洗脳されても浅ければ、自分で何とかなる場合もあるらしいが…

「…それでも………ね。」

…此処には夏希は居ない。自力でしなければ。

洗脳されない様に。自身を強く持たなければ、夏希を取り戻せないだろう。

緋色に連絡し伝える。

「もうすぐ、大地の涙がそこに来る。」

と。

「私の…出番ね。」

決闘場に向かった。
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