ブレインダイブ

ユア教 教祖ユア

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序章・対の戦い編

1-19 19 緋色視点 もうすぐ

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緋色は直ぐに退院した。

しかし、麻酔が全く効いておらず激痛だ。今も、力を入れると痛みが走る。

「っち…また力んじゃった。いててて…」

あと2日で団体戦の試験が始まる。

資格が欲しいが傷口が開くと春斗に怒られるので今回は辞退する。

香露音と夏希は団体戦の試験を受けるみたいだ。

もう一人もちゃんと準備出来ているとのこと。

(まあ…試験やるんだったら、外は後回しにする予定だったけど…怪我あるしな…)

大抵は外に出ても基本は帰ってこれる。

慣れてくると調子乗って奥に行き過ぎて怪物に殺されるという話はよくある。

最初はビビって手前付近で終わっている。だから生きて帰ってこれる。

今日は三日後の予定である、外に行く準備をしなければならない。

緋色はメモを取り出す。

(少々アナログだなぁ…まぁ、仕方無いか。)

外の滞在期間は1日だけで朝の8時~夜の8時の予定だ。

それ以降は家族から言い訳が出来づらい。

資格を貰える時に無料で支給される鞄があるのだが、まあまあ使える。

勿論、外に行き慣れて居るお金持ちはもっと使い易い高い鞄はある。

しかし、創造者クリエイターの発明により見た目の割に沢山入れられる鞄が作られてから、外に出る人の必需品だ。

(大体…鞄に3分の1位埋めて、それ以外は怪物の素材かな。)

必需品の内にロープはあるが、武器生成で糸を作れるので必要はない。

「必要なのは食糧と水。あとは…マッチか…」

ふと、柊の事を思い出す。あれの能力を使えばまあまあ便利だと思う。

緋色が買い出しに行っている間、契約の説明が必要だと思うのでしておく。



契約…契約を破った場合に罰を受ける。

契約中はアナライズで確認出来るが、上級者ぐらいがやっと確認出来る。

契約は、期間、定義、罰で作られる。

そして、暗黙のルールとして契約の内容と違反した場合の罰の重さは同じでなければならない。

そして、期間も出来るだけ少なくしないといけない。

そもそも、無期限にする事は法律違反でもある。

しかし、たちの悪い奴らはその暗黙のルールをガン無視する。

緋色は3年間、1秒でも遅刻したら罰、罰は四肢骨折という契約を無理矢理させられた。

長期間、定義が厳しい、罰が重い…という中々のブラック契約をされた。

そして、契約は自身の血を相手の身体に塗り付けると結ばれる。

基本は手の甲に付ける。

以前、個人試験の時に10人(一人例外)に契約した内容は緋色は強制しない事を契約し、残りは洗脳を解かれた事を公言する…というもの。

期限は1日(一人例外で、3日)で、罰は戦闘で緋色に殺された記憶、つまり死因を言うというものだ。

別に物理的な執行はないので大した契約では無い。恥は晒すが。

別にそんな契約をしなければならない程では一人除けば無かったが、一応保険をかけた。

「すみませーん。これ下さーい。」

緋色は必要な物を買い、店を出た。鞄の中身を見るも大丈夫そうだ。

外の世界では天から水や氷の結晶が降ったり、建物より大きい木が生えてたりするらしい。

(というか、濡れない為に服を更に着ないといけないとか…面倒だなぁ…)

シャワーを浴びているようなものらしいが、外に出た人はあまり話したがらない。

言いたくないほど金のニオイがする場所なのか、言いたくないほど恐ろしい場所なのか…

確定していることと言えば、外には人間以外のモンスターがいる…とのこと。

出来れば信じたくないが、その素材によってこの街や武器が発展してきてたのだから信じるしかない。

家に帰る。

「緋色。今日の晩御飯は豆腐ハンバーグね。」

「ハンバーグでは駄目なの?」

「私のお腹が死ぬわ。弱いんだから。退院祝って事で。」

「どうも~」

よく豆腐ハンバーグは普通の日でも食べている。気にしたら負けな気がする。

美味しいご飯を食べてノートを開く。

「お金がなぁ…お金が稼げる程行かないし…もうちょい強くなってからかなぁ…」

お金の事を愚痴りながら緋色の事を考える。

自分の事は自分がよく分かっている。

決して強くない。精神世界の緋色と繋がって強くなっているように見えるだけだ。

柊と戦った時も子供の緋色を呼んだ。

元資格所持者の時もブチギレ緋色を呼んだ。

つまり、その程度なのだ。

緋色は…未だ弱者から抜け出せていない。

お金の出費を書き終わり眠りについた。


「ふぁ~~~もう朝かよぉ…」

試験の前日は学園は休みになってくれるので、今日は暇だ。

(試験、見に行くかなぁ…)

緋色は服を着替え、朝食も食べて家を出た。

引きこもりの姉から、

「こんな朝早く、出掛けるの珍しいね。試験見に行くの?」

「うん。暇だし。」

「どうせあんたは友達いないんだから、見てもつまんないよ。どうせすぐ帰ってくるだろうね。行ってらっしゃい~」

「そんな事言ってるから、あんたは友達いねーんだよ。」

そう吐き捨て緋色は家を出た。

(友達…ね。表面上くらいならいくらでもいる。)

そう思いながら試験会場に向かった。

到着すると、既に開会式が終わっていた。

観客席に座る。すると、声が聞こえた。

「あらあら~お久しぶりねぇ~あ、警戒しなくていいわよ~今回は絶対にしないから~」

この声と喋り方で分かる。大地の涙だ。

しかし、周りを見渡しても大地の涙は見えない。

「ブレインダイブの応用よ~凄いでしょ~何でも出来るの~」

緋色は目付きを変えずに言う。

「…用件は何ですか?」

「…貴方。精神世界に干渉出来るわね…?貴方なら理解している筈よね?精神世界とは言ってるけど…あれは魂の情報で作られた世界って事を。」

「何となく…ですけど。」

「簡単に言えばね~精神世界に干渉出来るってことは…魂に干渉出来るという事なのよ~」

「それが…どうかしましたか?」

緋色自身にはあまり自覚は無いが、言っている意味は分かる。

「別に干渉出来るという事は何一つ問題無いわ~でも…使い道に問題があるのよ~」

「使い道?」

「自分だけならいいのよ~干渉し過ぎると身を滅ぼすけどね。」

「………やっぱり…あの時…」

「そうね~私を無理矢理追い出した時も、自分の魂に干渉して無理して私を殺したわね。でも、あれをやり過ぎると、死ぬわね。肉も残らないわ~」

さらっとやばい事をしていたのか…と緋色は思った。

「自業自得だからそれは如何でもいいのよ~でも…」

「他人の魂に干渉も出来るってことですか?」

「そうね~流石にブレインダイブみたいには無理ね~精神世界には行けないわ~だけどね~…」

「洗脳くらいは解けるんじゃないですか?」

「悔しいけど~そうね~否定は出来ないわ~正解では無いけど~はっきり言ってそれくらいなら問題無いわ。だけどね。これだけは言っておくわね。他人の魂に干渉し過ぎるな。ってね~」

「何でそれを…」

「してしまったらその時ね~貴方が、貴方達が…そういう運命なだけね~でも、そうする以外選択肢が無くなるような世界に、外に貴方は行くでしょ?だから、応援と忠告よ~」

「……どうも。」

「じゃあね~また、貴方を洗脳に来るわ~この世界に…見えない人間が居るのが悔しいの~」

そう言って大地の涙は消えた。最後の一言が一番止めてほしい。

「あ…香露音と夏希と…誰?」

三人は結局出場していた。

(二人の息はまあまあだけどね…もう一人がもう個人戦みたいになってる…まあ…皆強いから勝てるんだけどね…)

普通に30分すると、すんなり勝っていた。

知り合いが全く居ないので暇だ。緋色は暇つぶしで試験会場の周りを散策する。

「あ…緋色~!久しぶり~!」

聞いた事のある嫌な声で振り向いた。

「……柄上さん…」

柄上 月からかみ つき小学園ゴミ箱の同期だ。

「その陰湿なその表情、変わってないね~!」

一応、柊とは仲が悪いらしいが、だからといって緋色と仲が良い訳ではない。

「…そっちも…目の細さは変わってないね。アイプチでもしたら?」

緋色は軽く嘲笑う。

「……私を、怒らせないでよ。緋色。また虐めたくなっちゃう。」

「良いよ。決闘しても。」

「そう?」

柄上は意外そうな顔をしている。しかし、ちゃんとあとからゴミのように下品な顔をしていた。

性格の悪さでいうと柊と同類だ。対して変わらない。

世界が変わった。

(こいつの能力はブレイカー。小学園の時の時点で団体戦の資格は持ってた。私が見ていないだけで個人も持ってるかもね…ワンチャンブーストも使えるかも。)

ブーストは2種類ある。持続型と必殺型。

名前の通りで持続型は全てのステータスが飛躍的に向上する。

それぞれの倍率は能力によって異なるが、全体的の倍率は変わらない。

必殺型は名前の通りだ。

しかし、必殺型に関しては人によって違う。

ある人は攻撃に重きを置くし、ある人は支援に徹している。

習得の早い方は人による。イメージがしやすい方が早くモノにできるが、持続型の方が難しくはない。

でも、必殺型の方がイメージしやすい。

そういう理由により、人によって違ったりする。

「緋色…?貴方は逃げっぱなしだったわね。ウフフ…今はどうするの?」

柊と違う部分はただただねちっこく無いということか。

死ぬ恐怖をただただ味わえさせたいだけだと思う。

結局は性格悪いところは何一つ変わらない。

「そろそろね…貴方だって、何時までも無能のままでは居られないわよね!縮地(中)!」

一瞬で緋色の元に詰め寄る。

「さあ!貴方は私をどれくらい楽しませるの!」

抜刀するのが恐ろしく早い。

「縮地(小)…武器生成(小)!」

後ろに引いてから武器生成する。そうしなければ身体を引き裂かれる。

「逃げちゃ駄目でしょう?破壊の剛(中)!」

「唐傘(小)!」

尽く防御が破壊される。

緋色は上に飛んだ。

「縮地(中)!」

上から剣を柄上に叩きつけた。

「う…!(中)…!?貴方も…とうとう、雑魚から脱却したのね!緋色!」

「死線誘導・乱舞(中)!」

死線が張り巡らさせる。柄上の腕を貫通する。

「…!!!…見た事無いわね…!斬鉄剣(中)!」

完全に死線が緩み緋色の元に戻っていく。

(ブレイカーと執行者…相性悪いな…)

「緋色!能力者になったのね!もっと、見せて!破壊の突(中)!」

「死線誘導・回帰(中)!」

死線を留まらせても意味が無いので、一気に攻撃に転じる。

柄上を中心に死線を円状に張って、一気に柄上に向けた。

「良いわ!つまんなくないわね!斬鉄剣(小)!」

攻撃を変えて最低限の力で緋色の攻撃を振りほどき縮地で上に飛んだ。

「でも、それじゃあ…私に勝てないでしょ!破壊式・一閃!」

(必殺型のブースト…!というか、私どっちも使えないんだって!)

能力の種類が切り裂くか、骨を折るかしかない。陰湿な攻撃だ。

(初見でもやってやる……!)

「……死線誘導・蜘蛛の巣(大)!」

唐傘を大量に張り、その上に死線を蜘蛛の巣状に張る。

理論上は唐傘の防御は高くなった。

唐傘を重ねて張ってもあまり強くはならない。

それを死線で縫い合わせるようにすることで防御が高くなる。

緋色の防御と柄上の攻撃がぶつかり合う。

やはりその場しのぎの防御では完全に防ぐ事は出来ないようだ。

唐傘の部分が徐々にヒビが入っていく。

「っ…!」

完全に割れ、柄上が上に降ってくる。しかし、威力は大分落ちている。

「輪廻(小)!」

「きゃあ!?」

攻撃を思いっきり受け流した。自分でも上手くいったと思う。

そして、死線が床に歪んだ蜘蛛の巣状に伏せている。

柄上はその上に床に叩きつけられた。本来なら頭を打つはずが器用に受け身を取っていた。

「縮地(小)…」

緋色は上に飛んだ。そして死線を握り締める。

「死線誘導・折損(大)!」

広く垂れた死線は柄上に絡みつき、斬鉄剣をさせる暇なく関節を折った。




世界が元に戻っていく。精神世界に繋がらずに勝ったのだ。

「いっ…!?」

お腹の傷が痛む。少し血が上った。外に行った時傷口が開かないか心配だ。

柄上はポカンとしている。負けないと思っていたのだろう。

「私が…負けた…私が…?」

大分ショックを受けているようだ。発狂するかと思っていたら態度が違った。

「私…資格持ってるから負けないって思ってたんだけどな…やっぱり………」

「…?やっぱり?」

「緋色は…昔から強かったんだね…」

そう言い、深々と頭を下げた。

「小学園の時………ずっと酷い事ばかりしてました。ごめんなさい。」

「……!」

緋色は思ってもみない言葉を言われ固まった。

「能力者が、無能力者とか戦闘系ではない能力者を守る事は当然の摂理。それにも関わらず私は貴方にずっと罵声を浴びせた…!そして緋色は、無能力者でも強かった。守られる必要がない程に…」

「……………」

「緋色は…本気を出せてたら…あの時の私に勝てた。…でも…小学園は…本気を出せなかった。私はそれを分かってた。それでもあの時…私は本気を出さない貴方がとてつもなく腹がたった。」

今思うと、八つ当たりのように見えたあの罵声は本気を出さない緋色に対する怒りだったかもしれない。

「私に勝っていたら…少なくとも柊の野郎から守れたから。そう思っていたから…!」

「じゃあ…最初から…!」

「……そうね。私はそんな事思っていたのが間違いだった。最初から!守るべきだった…!私の弱さが原因よ。本当にごめんなさい…!」

緋色が顔を上げてと言うまでその頭を上げることは無かった。

「何で…急に…」

「外に…行ったの。」

よく、外に行く人は価値観が変わったとか言う。

「価値観が変わったの?」

「行っただけで変わる様なやつはとっくに喰い殺されてるわ。…でも…そうね。やっぱり…目の前で殺されたら…その時ね。その人の最期の言葉が…ごめんなさい…だったの。」

「………」

「でも、そんな事言ったって…届かない。だから…届く今言わないと…」

「何で私の所に来たの。」

「小学園の時みたいにしたら…貴方と決闘出来ると思った。もう、緋色は自由だから…本気を出してくれるかなって…だから…決闘は二の次でしかなかった。本気で勝てると思ってたから。私が…死ぬ前に謝らないと…後悔するから…」

柄上は腕を捲った。

「契約しなさい…!私と!貴方の恨みを全て、私の腕に!内容は問わない。」

何でもいい…と言う事の重さを柄上は知っている。

その上で罰を受けようとしている。勿論、柄上の腕は震えている。

柊とこういうところが根本的に違う。仲が悪いのが頷ける。

「じゃあ…もう二度と、誰にもしないでね。したと私が確信した時点で契約違反よ。したら…街の中心部で200人に意味が通じるまで、大声で自分が私にした事を全て喋ってもらうわ。」

「え………?」

自分が思うよりも易しい契約だと思う。

「貴方の謝罪を信用してあげる。」

「…!ありがとう。…あと…」

「なに?」

「柊に…何かした…?」

思ってもみない言葉が更に帰ってきた。

「学園…同じなんだけど…試験に行ってから、緋色の話題を言わなくなったの。言ったら言ったで、態度が豹変するし…」

やはり、学園の時も緋色の事を馬鹿にしていたようだ。

「その時に対戦したよ。」

「…そう。資格は取れたみたいだけど。清々するわ。それだけよ。じゃあね。」

さっぱりと帰っていった。

緋色も試験会場に戻っていった。
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