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第三章
27.初めての感情①
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最後にフリップ様が目撃された現場には、ジェランダ公爵家の紋章が入った指輪が落ちていたという。
この件は国の混乱を招きかねないため、公にはなっていない。
「これは宣戦布告だろうね」
フリップ様の知らせを受けた数日後に、私とカシスは初めて会った。
本当は会うのを控えるつもりだったが、お母様伝いでキャロル様から『カシスが心配だから元気付けてあげてほしい』と頼まれ、すぐに会いに来たのである。
ヴィクシム公爵家の屋敷内はまるで嵐の前の静けさのような、思わず緊張が走るほど落ち着いていた。
「宣戦、布告……」
「あの家がこんなヘマするわけないからね。フリップを攫って、ヴィクシム公爵家に不利な条件を押し付けるつもりだろう」
「そんな……」
「まあ、その条件は簡単に呑ないと思うよ。最悪の場合はジェランダ公爵家に乗り込む可能性もあるだろうけれど、多くの血が流れることになるから、リスクが高すぎる。ジェランダ公爵家の兵力も把握しきれていない今、ヴィクシム公爵家も下手な動きはできない」
もしジェランダ公爵家の謀反が起こってしまったら、国は混乱に陥ってしまう。
それは避けたいだろう。
「陛下にこの件は……」
「すでに伝えてあるよ。けれどすぐ対処できないくらい、あの家は力を持っているからね。この件はかなり慎重にならないといけない」
「そんな……」
このままではフリップ様が危ない。
小説でジェランダ公爵家に拐われるのはヒロインのメアリーだったが、私が展開を大きく変えてしまったせいで誘拐の標的がフリップ様になってしまったのだ。
「私のせいだ……」
「メアリー?」
「私が……っ」
思わず口をつぐむ。
私がこの世界の人間ではないなんて馬鹿らしい話を、誰が信じてくれるのだろう。
それに今フリップ様のことを最優先にするべきなのに、私の話なんて不必要だ。
「ううん、何でもない。ごめんなさい」
すぐ冷静になり、口を閉じる。
それでも私が原因でフリップ様の身に何かあったらと思うと耐えられない。
「安心して、メアリー。俺が何とかするから」
「カシス……?」
「フィズの組織を解体して裏社会から手を引くことを条件に、フリップの解放を求めるつもりなんだ」
「え……」
「ジェランダ公爵家の力が大きくなってしまうだろうけれど、また対策を考えればいい話だし。これだけ派手な動きをしたんだ、国に警戒されてしばらくは大人しくなると思うから、その間に対抗する術を講じたらいい」
カシスはすでに決心した後なのだろう、とても落ち着いていた。
「それって……カシスの正体を明かすってことでしょう?」
「一応隠すつもりだけれど、きっとバレるだろうね」
「相手とどうやって接触するの?」
「直接しかないかなあ」
「そんなのカシスが危ないじゃない!」
フリップ様を人質に取られている手前、下手な動きはできないだろう。
それにカシスの正体を明かされ、立場が危うくなるかもしれない。
「不思議だよね。一時は家族が死のうが構わないって思っていたのに、フリップを助けるよう動いているんだから」
「カシス……」
「大丈夫だよ。上手くやるつもりだから」
カシスが私を安心させるように笑いかけ、触れようと手を伸ばした時、前触れもなく部屋のドアが開いた。
「その必要はない」
部屋に入ってきたのは、険しい表情をしたヴィクシム公爵と今にも泣き出しそうな暗い顔をしたキャロル様だった。
二人とも外出中だと聞いていたが、今帰ってきたのだろうか。
けれど今の言い方は……私たちの話を聞いているような感じだった。
「……いつから聞いていたのですか?」
カシスも聞かれていたとは思っていなかったのか、驚いた様子だった。
「カシス。お前と腹を割って話そうと思ってな。メアリー嬢には申し訳ないが、君を利用させてもらった」
「それって……」
お母様から聞いた、キャロル様の伝言のことだろうか。
私がカシスに会いにくるよう仕向けたということ……?
「やはりフィズの裏側にいた人物はお前だったか」
ヴィクシム公爵は確信しているようだった。
恐らく今の会話以外にも、疑わしい箇所があったのだろう。
「正直ラシカの話を聞くまで、お前が怪しいなど思ったことはなかった」
ラシカとは、カシスとフリップ様の叔父の名前だ。
すでにヴィクシム公爵夫妻を殺そうとして断罪されたはず。
「ラシカを尋問した時、あいつの口からお前の名前がたくさん出てきた。最初は違和感を覚える程度だったが、調べて行くうちにある可能性が浮上した。カシス、お前がラシカをけしかけたのではないかと」
すでにヴィクシム公爵は答えにたどり着いていた。
この件は国の混乱を招きかねないため、公にはなっていない。
「これは宣戦布告だろうね」
フリップ様の知らせを受けた数日後に、私とカシスは初めて会った。
本当は会うのを控えるつもりだったが、お母様伝いでキャロル様から『カシスが心配だから元気付けてあげてほしい』と頼まれ、すぐに会いに来たのである。
ヴィクシム公爵家の屋敷内はまるで嵐の前の静けさのような、思わず緊張が走るほど落ち着いていた。
「宣戦、布告……」
「あの家がこんなヘマするわけないからね。フリップを攫って、ヴィクシム公爵家に不利な条件を押し付けるつもりだろう」
「そんな……」
「まあ、その条件は簡単に呑ないと思うよ。最悪の場合はジェランダ公爵家に乗り込む可能性もあるだろうけれど、多くの血が流れることになるから、リスクが高すぎる。ジェランダ公爵家の兵力も把握しきれていない今、ヴィクシム公爵家も下手な動きはできない」
もしジェランダ公爵家の謀反が起こってしまったら、国は混乱に陥ってしまう。
それは避けたいだろう。
「陛下にこの件は……」
「すでに伝えてあるよ。けれどすぐ対処できないくらい、あの家は力を持っているからね。この件はかなり慎重にならないといけない」
「そんな……」
このままではフリップ様が危ない。
小説でジェランダ公爵家に拐われるのはヒロインのメアリーだったが、私が展開を大きく変えてしまったせいで誘拐の標的がフリップ様になってしまったのだ。
「私のせいだ……」
「メアリー?」
「私が……っ」
思わず口をつぐむ。
私がこの世界の人間ではないなんて馬鹿らしい話を、誰が信じてくれるのだろう。
それに今フリップ様のことを最優先にするべきなのに、私の話なんて不必要だ。
「ううん、何でもない。ごめんなさい」
すぐ冷静になり、口を閉じる。
それでも私が原因でフリップ様の身に何かあったらと思うと耐えられない。
「安心して、メアリー。俺が何とかするから」
「カシス……?」
「フィズの組織を解体して裏社会から手を引くことを条件に、フリップの解放を求めるつもりなんだ」
「え……」
「ジェランダ公爵家の力が大きくなってしまうだろうけれど、また対策を考えればいい話だし。これだけ派手な動きをしたんだ、国に警戒されてしばらくは大人しくなると思うから、その間に対抗する術を講じたらいい」
カシスはすでに決心した後なのだろう、とても落ち着いていた。
「それって……カシスの正体を明かすってことでしょう?」
「一応隠すつもりだけれど、きっとバレるだろうね」
「相手とどうやって接触するの?」
「直接しかないかなあ」
「そんなのカシスが危ないじゃない!」
フリップ様を人質に取られている手前、下手な動きはできないだろう。
それにカシスの正体を明かされ、立場が危うくなるかもしれない。
「不思議だよね。一時は家族が死のうが構わないって思っていたのに、フリップを助けるよう動いているんだから」
「カシス……」
「大丈夫だよ。上手くやるつもりだから」
カシスが私を安心させるように笑いかけ、触れようと手を伸ばした時、前触れもなく部屋のドアが開いた。
「その必要はない」
部屋に入ってきたのは、険しい表情をしたヴィクシム公爵と今にも泣き出しそうな暗い顔をしたキャロル様だった。
二人とも外出中だと聞いていたが、今帰ってきたのだろうか。
けれど今の言い方は……私たちの話を聞いているような感じだった。
「……いつから聞いていたのですか?」
カシスも聞かれていたとは思っていなかったのか、驚いた様子だった。
「カシス。お前と腹を割って話そうと思ってな。メアリー嬢には申し訳ないが、君を利用させてもらった」
「それって……」
お母様から聞いた、キャロル様の伝言のことだろうか。
私がカシスに会いにくるよう仕向けたということ……?
「やはりフィズの裏側にいた人物はお前だったか」
ヴィクシム公爵は確信しているようだった。
恐らく今の会話以外にも、疑わしい箇所があったのだろう。
「正直ラシカの話を聞くまで、お前が怪しいなど思ったことはなかった」
ラシカとは、カシスとフリップ様の叔父の名前だ。
すでにヴィクシム公爵夫妻を殺そうとして断罪されたはず。
「ラシカを尋問した時、あいつの口からお前の名前がたくさん出てきた。最初は違和感を覚える程度だったが、調べて行くうちにある可能性が浮上した。カシス、お前がラシカをけしかけたのではないかと」
すでにヴィクシム公爵は答えにたどり着いていた。
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