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第三章
25.正体④
しおりを挟む「取引相手が女性であれば、ブランデーを出せば大抵上手くいくし、俺もブランデーを見て色々と勉強させてもらっているよ」
「え……じゃあやっぱり照れるブランデーさんを見て、カシスと重なったのはそういうこと?」
「多分そうじゃないかな。あの恥ずかしがる姿は、効果抜群だからね」
他人の表情を見て自分に落とし込むなんて……早々できないだろう。
「恐るべしカシス……」
「褒め言葉として受け取っておくよ」
ニコニコと笑うカシスを前に、それ以上は何も言えなくなる。
「まあそんなブランデーも、一度ヘマをしたけれど」
「うっ……」
カシスの一言に、ブランデーさんの顔色が変わる。
「ヘマ……?」
「知らないうちに誰かにつけられていて、正体がバレそうになったらしいんだ。結局相手の尻尾は掴めたの?」
「申し訳ありません……未だに行方がわからず」
私はブランデーさんにつけられていても全くわからなかったのに……そんなブランデーさんを上回る相手なんて、一体何者だろう。
「それにしても……まさかフィズの裏にいるのがカシスだったなんて。じゃあブラッド様に言えないなあ」
もし正体がカシスだと知れば、より険悪なムードになってしまうだろう。
これ以上二人の間に亀裂が走っては困る。
「どうして? 君のためなら、いくらでも囮になるよ」
「ダーメ。そんな危険な真似、させられないよ」
「君は危険な真似をしようとしたのに?」
「うっ……それは」
「俺、言ったよね。悪い男に捕まって、悪いことをされても知らないよって」
なんだか嫌な予感がして、一歩後ろに退く。
「カシスは悪い男の人じゃないでしょう?」
「俺は今、どうしたら君が危険な真似をしなくなるか考えているけれど……辱めるのが一番早い気がするんだ。どう思う?」
カシスの言葉に全力で首を横に振る。
「そ、そんなことをしなくてもちゃんと反省します……!」
さすがにブランデーさんの前で迫られるのは恥ずかしい。
もちろん人前じゃなければいい、ということではないけれど。
「そ、そもそもブランデーさんをつけたた相手ってジェランダ公爵家の人たちじゃないの?」
「ああ、それは違うと思うよ」
「どうして言い切れるの……?」
「ブラッド・ジェランダにね、フィズの正体をチラつかせたらすぐ食いついてきたんだ。もしジェランダ公爵家にバレていたら、こんな誘いに乗らないだろうし。早速今日会うことになっているのだけれど、時間的にそろそろだね」
「なっ……!」
あまりの急展開に頭が追いつかない私をよそに、カシスは話を続けた。
「もちろん俺の正体は明かしていないよ。今日は相手の真意を探るのが目的で、ブランデーに対応してもらう予定なんだ。俺たちは隠れて話を聞いていよう」
「えっと、じゃあもうすぐブラッド様が来る……? その、ここで争いが起こったりしない?」
「一人で来るのを条件にしているから大丈夫じゃないかな。相手の方が圧倒的に不利だからね」
いったいそこまでしてブラッド様が敵対するフィズに近づきたい理由は何なのだろう。
気になったが、話を聞かない限りはわからない。
「じゃあブランデー、頼んだよ」
「承知いたしました」
その後すぐにブランデーさんは着替え、あとはブラッド様を待つだけとなった時、タイミングよく彼がやって来た。
私とカシスはうまく隠れてブランデーさんとのやり取りを聞く。
「本当にお前がこの組織のトップなのか?」
ブランデーさんと対面するなり、ブラッド様は警戒しながら口を開いた。
「はい、そうです」
ブランデーさんは微笑みながらサラッと嘘を吐き、その姿もどこかカシスと重なる部分があった。
(それにしても……本当に大丈夫なのかな)
ソワソワしながら見守っていると、ブラッド様が突然剣を抜いてさブランデーさんに襲いかかる。
すぐに反応したブランデーさんと剣が交わり、甲高い音が部屋に響いた。
「いきなり襲いかかるのは無礼ではないでしょうか」
さらに剣術はブランデーさんの方が上手だったようで、ブラッド様を押していた。
(カシスがそばに置くだけあって、実力は本物なんだ。強くて格好良いのに、小説に出てこないのが不思議なくらい……うん?)
ここでふと違和感を抱く。
カシスは恐らく小説の続編で、悪役キャラとして登場する。
しかしカシスは一人でフリップ様の行く手を阻むのかと。
(もし小説でもフィズという裏組織が存在して、ジェランダ公爵家が倒れた後に裏社会を牛耳っていたとしたら……)
止まらない妄想劇。
小説の続編でカシスは裏社会のトップに君臨し、右腕が今と同じブランデーさんだとしたら。
それはもうフリップ様にとって最大の敵となるだろう。
(やっぱり続編も読みたかった! まさかブランデーさんも悪役側になるなんて……)
ブランデーさんはブラッド様をいつの間にか力で圧倒していて、彼の首元に剣を突きつけていた。
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