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第三章
17.近づく②
しおりを挟む「あの、カシス……?」
「……なに」
「なんでもないです……」
ブラッド様との接触に成功し、今日の目標は達成したということで、私とカシスは帰っていた。
その馬車内で、カシスに絶賛抱きしめられ中だ。
思わず声をかけたが、あまりに不機嫌な声で返されたため、何も言えなくなる。
(私がブラッド様と関わろうとするの、すごく嫌なんだろうな……けれどきっと、カシスなりに我慢してくれてる)
口にはしないが、態度にはしっかり表れている。
正直とても可愛い。最近カシスが可愛く見えることが多くて感情が大忙しだ。
ここはカシスを落ち着かせるためにも、大人しくする。
「メアリー」
「どうしたの、カシス」
「彼が君に触れようとした時、受け入れたっていうのは嘘だよね?」
信じたいが不安で仕方がない……という負の感情が伝わってくる。
「もちろん嘘だよ。私はそんな関係を望んでいるんじゃないから」
「……うん」
「他にも何か不安なことがあるの?」
カシスは安心するどころか、さらに表情が曇っていく。
「彼は……」
「ブラッド様が、なに?」
「多くの令嬢と、関係を持っているんだ」
「うん、そうみたいだね」
「あの容姿は令嬢たちの間で人気らしいし、相手の心を掴むのが得意で、すぐ令嬢たちは気を許してしまうようで……」
カシスはさっきから何を伝えたいのだろう。
話の内容はブラッド様の女性関係のことばかりだ。
「カシス? いったいなんの話をしているの?」
「俺なんかより……彼の方が、女性にとって魅力的だろう? だから、いつか君が彼に心が傾くかもしれないと思うと怖い」
「……はい?」
カシスの言葉に驚くあまり、固まってしまう。
突っ込みどころ満載だったが、カシスは本気でそう思っているようだ。
(いや……いやいやいや。『俺なんかより』って何? カシスは自分よりブラッド様の方が人気だとでも思っているの?)
私たちの世代で圧倒的人気を誇っているのはもちろんカシスだ。
ブラッド様も一定の支持があるかもしれないが、令嬢たちの間でいつも話が出ていたのはカシスしかいない。
「カシスはもっと自分がどれだけすごいか自覚した方がいいと思うよ? こんな紳士的で優しい人、他にいないよ。カシスはみんなの理想の的だったからね?」
「……ありがとう」
全く信じていなさそうなカシスのお礼は、むしろ気遣ってくれてありがとうの意味合いで受け取れる。
「言っておくけれど、今ブラッド様が人気なのは婚約者の座が空いているから! カシスには私がいて、互いに愛し合う仲だから誰も入り込めないって諦めてるの」
今では私とカシスの仲が理想だと言われているぐらいだ。
「昔はもう令嬢たちから数え切れないぐらいカシスに関する話を聞いていたよ……みんなカシスを狙ってたから。カシスの誕生日の時だって……」
自己肯定感を上げようと頑張っていると、私を抱きしめる力が強まった。
「カシス……?」
「そんな言葉が欲しいわけじゃないよ」
チラッとカシスを見ると、今度は拗ねているように見えた。
「早く俺を安心させて、メアリー」
「……っ」
そういうことかと、ようやくカシスの狙いがわかる。
「私が心に決めた人はカシスだけだよ。こんな風に私に触れていいのもカシスだけ」
「……俺のこと、好き?」
「うん、好きだよ。大好きカシス」
私の言葉に満足したのか、カシスは顔を綻ばせた。
日に日にカシスは感情を隠さなくなっている気がして、良い変化である。
(同時に甘え上手にもなったけれど……)
欲しかった言葉を聞けたカシスは、私にキスを落とし始める。
私は抵抗することなく、されるがままになっていた。
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