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第三章

16.近づく①

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 アンディー侯爵家主催のパーティーでは、普段会わない貴族たちもチラホラ見かけられた。
 そのほとんどがジェランダ公爵家サイドの貴族で、派閥が顕著に現れている。

(感じる……なぜ私たちが参加しているのだという視線を!)

 周囲からかなり怪しまれていたが、公爵家の次期当主であるカシスを無碍に扱えず、相手方から挨拶されていた。
 カシスがそれに応えている間、私は隣でブラッド様を探す。

(……いた!)

 ブラッド様は少し遅れて会場入りした。
 隣には見目麗しい令嬢がいるが、おそらく今回のパートナーだろう。
 じっと目で追っていると、視線に気づいたブラッド様が私の方を見た。

(ここは興味を持ってもらうように……)

 私はブラッド様に向けて余裕があるような笑みを浮かべ、頭を下げる。
 正直、仮面舞踏会の一件もあって本当なら避けるのが普通かもしれないが、仲良くなるにはこちらから歩み寄らないといけない。
 そんな私を見てブラッド様は目を丸くしていた。

「カシス、行ってくるね」

 恐らくブラッド様の興味を引けた。
 あとは……と思い、私はカシスから離れてバルコニーで一人になる。
 相手はすぐに姿を現した。

「俺に何か用か?」
「ブラッド・ジェランダ様。お会いできて嬉しいです」
「まさか自ら会いに来るとはな。避けられるだろうと思っていたが、案外ヤワじゃないらしい」
「何のことでしょうか」

 シラを切り、笑顔を浮かべる。
 言い逃れするつもりはないが、仲良くなるためには過去の件を水に流す必要があるだろう。

「はっ、まあいい。用件を言え」
「用件などありません。ただ……ブラッド様とお話しできたらと思っていました」

 冷静な私の態度が気に食わなかったのか、ブラッド様が眉を顰める。

「俺と話を? そんな話、信じると思うのか」
「どう思っていただいても構いません」
「はっ、馬鹿馬鹿しい」

 ブラッド様は全く信じる気がないようで、鼻で笑う。

「俺は別にまたお前を攫ってもいいんだぞ。お前はあの男が唯一見せた弱味だからな」

 あの男とはカシスのことだろう。
 敵対しているのが見てわかる。

「では今から私を攫いますか? その道中でお話するのはいかがでしょう」
「正気か?」
「ええ、もちろんです」

 だって私が攫われても、カシスが必ず助けてくれる。
 その自信が私にはあった。

「どうやら俺は舐められているらしい」
「そのようなつもりはありません。ただ私はブラッド様と友人のような関係を築けたらと」
「お前と友人だと? 笑わせるな。まあ、そうだな……体の関係なら持ってやってもいいが」

 突然のクズな発言だったが、ブラッド様は女性関係であまりいい噂を聞かない。
 社交の場では毎回違う令嬢と参加しているという情報も出回っている。

「どうする? 受け入れるか?」

 ブラッド様の手が私の髪に触れようとした時、タイミング良くカシスが現れた。

「俺の婚約者に気安く触らないでくれますか?」
「カシス……」

 カシスは笑顔を浮かべていたが、目が笑っていない。
 怒りのオーラ漂うカシスはすぐさま私のそばにやってきた。

「相当惚れ込んでいるようだな」
「ええ、そうです。彼女のことが好きで好きで堪りませんが、それが何か?」

 平然と言ってのけるカシスに対して、聞いている私が恥ずかしくなる。

「メアリー嬢は俺と友人とやらになりたいらしい。お前はそれで構わないのか?」
「彼女の願いなので、当然受け入れますよ」

 全く、カシスはさらっと嘘を吐くのだから。
 最初はヤンデレ全開で、聞き入れてくれなかったのに。

「だったら触れても良いだろう。メアリー嬢も受け入れていたからな」

 ブラッド様まで自然に嘘を吐くのか。
 まあカシスが信じるわけがない……と思ったが、カシスから殺気を感じてゾッとする。
 恐らくブラッド様に向けられてのものだったが、このままでは溝が深まるばかりだ。
 慌ててカシスの袖を軽く掴み、声をかける。

「カシス……!」
「……あまり俺の婚約者を困らせないでいただけますか」

 カシスなりに耐えてくれたようで安心する。
 しかしブラッド様と友好な関係を築ける道のりは、果てしなく長そうだ。

「行こう、メアリー」
「あ、待ってカシス……ではブラッド様、またお会いしましょう!」
「は? またって……」

 ブラッド様はもう関わって来ないだろうと思っていたのか、私の言葉に対して驚いていた。
 もちろん今回のことは始まりに過ぎない。

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