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第三章
13.情報収集③
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「じゃあ俺は外で待ってるね」
「えっ……」
「もう大丈夫だから」
ここでカシスに離れられたら、また男の態度が変わるかもしれない。
不安がる私に続けて声をかけたのは、カシスではなく男だった。
「も、もちろんです! 二度とあの態度は取らないとお約束します!」
「ほらね」
「……うん」
結局カシスは本当に部屋を後にしてしまい、二人きりにされる。
「本日はどういった情報をご所望でしょうか。いえ、それよりまずはお茶でも……」
「調べていただきたい情報があります」
一刻も早くその場を去りたい気持ちが大きく、本題に入る。
「ジェランダ公爵家についてです。裏で何をしているのかも、わかる範囲で構いませんので調べていただきたいです」
「ジェランダ公爵家の情報ですね、お任せください!」
「情報料はいくら必要ですか?」
「とんでもない! あれほど無礼を働いたのです、お代をいただくわけにはいけません!」
一瞬の躊躇いもなくすぐ受け入れてくれた男は、カシスがいなくても相変わらずヘコヘコしている。
「その代わり……先程の方に、私の誠意を伝えていただけませんか」
「誠意……?」
「はい! それはもう協力的で、全身全霊で調べ尽くすと誓ったと!」
「はあ……?」
何だかとても必死だったが、このままだとカシスに殺されるとでも思っているのか。
男の言う通りにするのは少し癪だが、確かに重要な情報源が死なれては困るため、カシスに殺さないよう強く言っておこう。
「外までお見送りします!」
「結構です」
「いえ! 送らせてください!」
何だこいつは……と思ったが、あまりにしつこくて大人しく見送ってもらうことにした。
「……え」
「どうされたのですか?」
しかし男は、先に扉を開けて外に出るなり、なぜかその場で立ち止まってしまう。
何があったのかと思い、私も外を覗いた。
「これ、は……?」
その光景は信じられないもので、状況把握に時間を要す。
私たちが通ってきたはずの道には、黒ずくめの人たちが血を流して倒れていた。
その中心には、カシスが血で染まった剣を手にしながら立っている。
(もしかして、カシスが……?)
どうやら倒れている男たちの息はあるようで、呻き声をあげながらも無理に体を起こそうとする人もいた。
「あっ、メアリー」
そんな男の動きを制しながら、カシスは私に気づいて無邪気な笑顔を浮かべた。
「終わった?」
「……っ」
その綺麗な顔は返り血を浴びていて、さすがの私も少し怯んでしまう。
「じゃあ行こうか……あ」
カシスは私のそばに来て手を差し伸べたが、その手も血で汚れていることに気づき、手袋を外す。
「行こう、メアリー」
「……あり、がとう」
一瞬躊躇してしまったが、カシスの手を取り、その場を後にする。
「カシス、さっきの人たちは……?」
「気づかなかった? 俺たちが来た時から、あの周辺をうろついていたよ」
「そ、そうなの⁉︎ もしかして、私たちをつけていた……?」
「狙いは俺たちではなく、あの情報屋じゃないかな。まるで見張っているようだったから」
「そっか……よかった」
またジェランダ公爵家に狙われていたのかと焦ったが、違ったようで安心したのも束の間。
「情報屋の存在がだいぶ割れているようだから、彼の身が危険に晒されているんじゃないかな」
「そんな……!」
せっかく無事に依頼できたのに、情報屋の男が殺されてしまっては意味がない。
「まあさっきの状況を見て、彼も身を隠すだろうけれど」
「だ、大丈夫かな……いっぱい調べてもらうことがあるのに」
「あんな態度をとられた相手の心配するんだ?」
「貴重な情報源だからね! カシスも殺しちゃダメだよ!」
「君がそう望むなら」
カシスに釘を刺しておいたし、ひとまず安心だ。
それにしても、カシスはやっぱり実力があるのだと思い知らされる。
あの人数に対して一人でやったというのなら、かなりの実力者だろう。
「そういえば、彼らはまだ意識があったようだけれど放っておいてよかったの?」
「ああ、それは上手く処理してくれるから大丈夫だよ」
「処理……あ」
カシスの話を聞いて、ふと思い出す。
以前、公爵家の護衛が身を隠して私たちを守ってくれている、と話していた時があった。
もしかして今回もだろうか。
あの人たちに襲われそうになったカシスに応戦したのであれば、あの人数に勝てたのも納得できる。
その護衛とやらが処理もしてくれるのだろう。
「カシスって噂通り強いんだね」
「君を守るためにまだまだ強くならないとね」
「ふふ、もう十分だよ」
こうして無事に情報を手に入れられそうで、一歩前進となった。
「えっ……」
「もう大丈夫だから」
ここでカシスに離れられたら、また男の態度が変わるかもしれない。
不安がる私に続けて声をかけたのは、カシスではなく男だった。
「も、もちろんです! 二度とあの態度は取らないとお約束します!」
「ほらね」
「……うん」
結局カシスは本当に部屋を後にしてしまい、二人きりにされる。
「本日はどういった情報をご所望でしょうか。いえ、それよりまずはお茶でも……」
「調べていただきたい情報があります」
一刻も早くその場を去りたい気持ちが大きく、本題に入る。
「ジェランダ公爵家についてです。裏で何をしているのかも、わかる範囲で構いませんので調べていただきたいです」
「ジェランダ公爵家の情報ですね、お任せください!」
「情報料はいくら必要ですか?」
「とんでもない! あれほど無礼を働いたのです、お代をいただくわけにはいけません!」
一瞬の躊躇いもなくすぐ受け入れてくれた男は、カシスがいなくても相変わらずヘコヘコしている。
「その代わり……先程の方に、私の誠意を伝えていただけませんか」
「誠意……?」
「はい! それはもう協力的で、全身全霊で調べ尽くすと誓ったと!」
「はあ……?」
何だかとても必死だったが、このままだとカシスに殺されるとでも思っているのか。
男の言う通りにするのは少し癪だが、確かに重要な情報源が死なれては困るため、カシスに殺さないよう強く言っておこう。
「外までお見送りします!」
「結構です」
「いえ! 送らせてください!」
何だこいつは……と思ったが、あまりにしつこくて大人しく見送ってもらうことにした。
「……え」
「どうされたのですか?」
しかし男は、先に扉を開けて外に出るなり、なぜかその場で立ち止まってしまう。
何があったのかと思い、私も外を覗いた。
「これ、は……?」
その光景は信じられないもので、状況把握に時間を要す。
私たちが通ってきたはずの道には、黒ずくめの人たちが血を流して倒れていた。
その中心には、カシスが血で染まった剣を手にしながら立っている。
(もしかして、カシスが……?)
どうやら倒れている男たちの息はあるようで、呻き声をあげながらも無理に体を起こそうとする人もいた。
「あっ、メアリー」
そんな男の動きを制しながら、カシスは私に気づいて無邪気な笑顔を浮かべた。
「終わった?」
「……っ」
その綺麗な顔は返り血を浴びていて、さすがの私も少し怯んでしまう。
「じゃあ行こうか……あ」
カシスは私のそばに来て手を差し伸べたが、その手も血で汚れていることに気づき、手袋を外す。
「行こう、メアリー」
「……あり、がとう」
一瞬躊躇してしまったが、カシスの手を取り、その場を後にする。
「カシス、さっきの人たちは……?」
「気づかなかった? 俺たちが来た時から、あの周辺をうろついていたよ」
「そ、そうなの⁉︎ もしかして、私たちをつけていた……?」
「狙いは俺たちではなく、あの情報屋じゃないかな。まるで見張っているようだったから」
「そっか……よかった」
またジェランダ公爵家に狙われていたのかと焦ったが、違ったようで安心したのも束の間。
「情報屋の存在がだいぶ割れているようだから、彼の身が危険に晒されているんじゃないかな」
「そんな……!」
せっかく無事に依頼できたのに、情報屋の男が殺されてしまっては意味がない。
「まあさっきの状況を見て、彼も身を隠すだろうけれど」
「だ、大丈夫かな……いっぱい調べてもらうことがあるのに」
「あんな態度をとられた相手の心配するんだ?」
「貴重な情報源だからね! カシスも殺しちゃダメだよ!」
「君がそう望むなら」
カシスに釘を刺しておいたし、ひとまず安心だ。
それにしても、カシスはやっぱり実力があるのだと思い知らされる。
あの人数に対して一人でやったというのなら、かなりの実力者だろう。
「そういえば、彼らはまだ意識があったようだけれど放っておいてよかったの?」
「ああ、それは上手く処理してくれるから大丈夫だよ」
「処理……あ」
カシスの話を聞いて、ふと思い出す。
以前、公爵家の護衛が身を隠して私たちを守ってくれている、と話していた時があった。
もしかして今回もだろうか。
あの人たちに襲われそうになったカシスに応戦したのであれば、あの人数に勝てたのも納得できる。
その護衛とやらが処理もしてくれるのだろう。
「カシスって噂通り強いんだね」
「君を守るためにまだまだ強くならないとね」
「ふふ、もう十分だよ」
こうして無事に情報を手に入れられそうで、一歩前進となった。
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