上 下
67 / 86
第三章

10.変化④

しおりを挟む
「ねえ、メアリー……」

 一方でカシスは目を丸くしていて、フリップ様の言葉を上手く理解できていない様子だった。
 あのカシスも光に照らされ、戸惑っているようだ。

「今、フリップは俺の力になりたいと言わなかった?」
「うん。言っていたよ」
「どうして?」
「フリップ様がカシスを尊敬して慕っているからだよ。そんなカシスを支えたいって」
「君がフリップを構っていた時、俺は脅したんだ。恐怖心を煽るように叔父上の件も話したし、ジョゼット伯爵家の没落についても俺が仕組んだものだって話した。その時のフリップは俺を異常な人間と認識して、明らかに怖がっていたんだ。それに、今も少し避けられているはずなのに」

 カシスはフリップ様がなぜ支えたいなどと言ったのか、理解し難いようだ。

「メアリー、どうしてフリップは俺にあんなことを言ったんだと思う?」

 自分で答えが見つけられず、カシスは私に尋ねる。

「ねえカシス。カシスはね、自分が他の人とは違うって自覚している分、誰にも受け入れられないと思っているでしょう? 実際、私の時もそうだったように」
「……うん」
「けれどカシスのような人もいれば、私のような人もいる。もちろんフリップ様にはフリップ様の考えがあって、カシスを理解して寄り添おうとしていし支えたいって。愛されているね、カシス」
「愛されている?」
「フリップ様はカシスを受け入れた上で力になりたいと言ったんだよ。カシスのことを慕っていないと、早々できないよ」

 信じられないとでも言いたげだったが、それが事実である。
 フリップ様は覚悟を決めてカシスに宣言したのだ。

「独りじゃないんだよ、カシス」
「俺はフリップに、許されないことをしたのに……」

 カシスはそう言いながらも、どこか嬉しそうだ。
 私以外の理由でこのような自然な表情は初めて見た気がする。

「今の感情、忘れちゃダメだよカシス」
「……うん」

 カシスは私の言葉を素直に受け入れるくらいには、心地の良い感情だったようだ。

「ふふっ、さすがはフリップ様だなあ」

 まさに主人公と呼ぶにふさわしい人だ。

「……俺の前でそれを言うんだね」
「え……あ、いや! 特に下心はなくて……! それにフリップ様にはもうシェリー様という素敵なお相手がいるでしょう?」

 先程の明るい表情は何処へやら、私が少しフリップ様を褒めた途端、カシスの顔色が変わる。

「まさにお似合いだったよね!」
「……シェリー・ティルシアか」
「カシス……?」

 シェリー様のフルネームを口したカシスの声はいつもより低く、嫌な予感がした。

「……潰そうか」
「なっ、何言ってるの⁉︎」

 さらりと怖いことを言われて、すぐ突っ込みを入れる。

「君を跪かせて屈辱を味わせたんだよ? 許されると思う?」
「あれは私が勝手に判断して跪いただけの! ほら、身分の高い方に対して敬意を払うのは貴族社会の基本でしょう?」

 シェリー様やフリップ様にこれ以上迷惑をかけたくない。

「今まで君が身分の高い相手に跪いて挨拶しているところ、見た記憶がないのだけれど」

 その言葉にギクッとする。
 明らかに怪しまれていた。

「と、とにかく! もしシェリー様に何かあったら、絶対許さないからね! 圧力もかけちゃダメだよ!」
「……君がそう言うなら」

 どうなるかと思ったが、カシスは私の言葉を渋々受け入れた。

「信じてるからね、カシスのこと」

 どうしても私を愚弄されたと思い、怒ってくれているようだ。
 私のために……という点では嬉しいが、それで誰かが傷つくのは嫌である。
 私としては今後、シェリー様と仲良くなりたいなと思っていた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたしのヤンデレ吸引力が強すぎる件

こいなだ陽日
恋愛
病んだ男を引き寄せる凶相を持って生まれてしまったメーシャ。ある日、暴漢に襲われた彼女はアルと名乗る祭司の青年に助けられる。この事件と彼の言葉をきっかけにメーシャは祭司を目指した。そうして二年後、試験に合格した彼女は実家を離れ研修生活をはじめる。しかし、そこでも彼女はやはり病んだ麗しい青年たちに淫らに愛され、二人の恋人を持つことに……。しかも、そんな中でかつての恩人アルとも予想だにせぬ再会を果たして――!?

×一夜の過ち→◎毎晩大正解!

名乃坂
恋愛
一夜の過ちを犯した相手が不幸にもたまたまヤンデレストーカー男だったヒロインのお話です。

ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない

斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。 襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……! この人本当に旦那さま? って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

ヴァルプルギスの夜が明けたら~ひと目惚れの騎士と一夜を共にしたらガチの執着愛がついてきました~

天城
恋愛
まだ未熟な魔女であるシャナは、『ヴァルプルギスの夜』に一人の騎士と関係を持った。未婚で子を成さねばならない魔女は、年に一度のこの祭で気に入った男の子種を貰う。 処女だったシャナは、王都から来た美貌の騎士アズレトに一目惚れし『抱かれるならこの男がいい』と幻惑の術で彼と一夜を共にした。 しかし夜明けと共にさよならしたはずの騎士様になぜか追いかけられています? 魔女って忌み嫌われてて穢れの象徴でしたよね。 なんで追いかけてくるんですか!? ガチ執着愛の美形の圧に耐えきれない、小心者の人見知り魔女の恋愛奮闘記。

ヤンデレお兄様から、逃げられません!

夕立悠理
恋愛
──あなたも、私を愛していなかったくせに。 エルシーは、10歳のとき、木から落ちて前世の記憶を思い出した。どうやら、今世のエルシーは家族に全く愛されていないらしい。 それならそれで、魔法も剣もあるのだし、好きに生きよう。それなのに、エルシーが記憶を取り戻してから、義兄のクロードの様子がおかしい……?  ヤンデレな兄×少しだけ活発な妹

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

処理中です...