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第二章

26.誓いのキス③

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 時が流れ、指輪が完成したという連絡が届いた。
 私はすぐカシスと会う約束をして、指輪を受け取りにいく。

「わっ、とても素敵……!」

 完成した指輪を確認し、試しにつけるとサイズもぴったりだった。
 それを受け取った後、私たちは店を後にする。

「じゃあ今から指輪交換しよう……と言いたいところだけれど、馬車だと雰囲気がないよね……屋敷でするべきか」
「本来ならどこで交換するの?」
「チャペルっていうところで……あ、いや、礼拝堂? がメインなのだけれど……」

 チャペルという言葉もこの国には存在しないため、簡単に説明する。

「礼拝堂か……じゃあ今から教会に行こう」
「教会に?」
「うん。王都の外れに教会があるのだけれど、そこだと礼拝に来る人は少ないから、周りの目を気にせずにいいかなって」
「いいね。そこに行こう!」

 少しでも雰囲気のある場所でやりたいと思い、早速カシスと向かう。
 教会の人は快く礼拝堂を貸してくれた。

「教会でやるなら、白いドレスを着てくればよかったな。少しでも雰囲気が出るかなあって」
「君は何を着ていても綺麗だから大丈夫だよ」
「またそんなこと言って……」

 私の不安を拭うだけではなく、ベタ惚れされて少し恥ずかしい。
 照れくささを隠すように指輪を取り出す。

「じゃあ私から言うね」

 少し緊張したが、カシスと向き合って口を開く。

「病める時も、健やかなる時も──命ある限り、真心を尽くすことを誓います」

 カシスは誓いの言葉を完璧に暗記してくれたようで、私の後に続く。

「──限り、真心を尽くすことを誓います」

 最後まで言い終えた後、今度は指輪を交換する。
 前世で特別な意味の込められていた左手の薬指に。

(指輪交換が終わると次は……誓いのキスだけれど! 改めて考えると恥ずかしい!)

 ここに人がいなくて助かった。
 目を閉じて軽く顎を上げる。

(顔が熱い……今の私、顔が赤くなっていないかな……なっていたら恥ずかしい)

 緊張のあまり、キスまでの時間が長く感じる。
 そんな私の肩にカシスの手がそっと置かれた。
 直後、唇が重なり……軽く触れるだけだったが、時間が長く感じた。

「……これで終わり?」
「うん、終わりだよ」

 カシスは普段通りの様子で少し悔しい。
 私だけが感情を掻き乱されている気分だ。
 けれど私にはまだやりたいことが残っている。
 ここは羞恥心をグッと堪え、再びカシスを真っ直ぐ見つめた。

「ねえカシス」
「うん?」
「私は誓いの言葉の通り、一生カシスのそばにいるって決めたの。だからこれはその始まり。カシスを止める止めないとか、王太子殿下に言われたからなんて関係ない。それ以前から私の心は決まっていたの」 

 そう言ってカシスの手を握る。

「もちろんカシスには真っ当に生きて欲しいと思っているから、私なりにわかってもらえるよう頑張るつもりだよ。けれどもし今後、カシスが悪いことに手を染めて堕ちていくなら……その時は私もついていくから」

 カシスを導くためには、生半可な気持ちでは許されない。
 だからこれは私の覚悟だ。
 必ずカシスに真っ当な道を歩んでもらい、国に必要不可欠な存在だと証明すると決めた一方で、もし止められなかった時は……その時は、私も一緒についていこうって。
 堕ちるところまで一緒に堕ちて、カシスが孤独に苦しまないように。

「もうカシスは独りじゃないよ。これからは何があってもずっと一緒」
「メアリー……」

 カシスの目が輝いて見える。
 無事に私の気持ちが伝わったようだ。

「俺が何をしてもメアリーはそばにいてくれるの?」
「うん、そばにいるよ」
「そっか……そっか」

 カシスが顔を綻ばせたかと思うと、私を抱きしめてきた。

「何だろう、この気持ち……胸の奥がくすぐったい」

 いつもより力強く抱きしめられて少し苦しかったが、カシスの感情が強く現れてるようで何だか嬉しい。

「忘れないでね、カシス。今日交わした誓いのこと」
「絶対忘れないよ。それに、君との思い出はずっと心に残っているから」

 今は不安以上に、カシスとの幸せな未来に期待を膨らませる。
 今日の誓いは私たちにとって、まだ始まりに過ぎなかった。



《第二章 完》

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