57 / 86
第二章
26.誓いのキス③
しおりを挟む時が流れ、指輪が完成したという連絡が届いた。
私はすぐカシスと会う約束をして、指輪を受け取りにいく。
「わっ、とても素敵……!」
完成した指輪を確認し、試しにつけるとサイズもぴったりだった。
それを受け取った後、私たちは店を後にする。
「じゃあ今から指輪交換しよう……と言いたいところだけれど、馬車だと雰囲気がないよね……屋敷でするべきか」
「本来ならどこで交換するの?」
「チャペルっていうところで……あ、いや、礼拝堂? がメインなのだけれど……」
チャペルという言葉もこの国には存在しないため、簡単に説明する。
「礼拝堂か……じゃあ今から教会に行こう」
「教会に?」
「うん。王都の外れに教会があるのだけれど、そこだと礼拝に来る人は少ないから、周りの目を気にせずにいいかなって」
「いいね。そこに行こう!」
少しでも雰囲気のある場所でやりたいと思い、早速カシスと向かう。
教会の人は快く礼拝堂を貸してくれた。
「教会でやるなら、白いドレスを着てくればよかったな。少しでも雰囲気が出るかなあって」
「君は何を着ていても綺麗だから大丈夫だよ」
「またそんなこと言って……」
私の不安を拭うだけではなく、ベタ惚れされて少し恥ずかしい。
照れくささを隠すように指輪を取り出す。
「じゃあ私から言うね」
少し緊張したが、カシスと向き合って口を開く。
「病める時も、健やかなる時も──命ある限り、真心を尽くすことを誓います」
カシスは誓いの言葉を完璧に暗記してくれたようで、私の後に続く。
「──限り、真心を尽くすことを誓います」
最後まで言い終えた後、今度は指輪を交換する。
前世で特別な意味の込められていた左手の薬指に。
(指輪交換が終わると次は……誓いのキスだけれど! 改めて考えると恥ずかしい!)
ここに人がいなくて助かった。
目を閉じて軽く顎を上げる。
(顔が熱い……今の私、顔が赤くなっていないかな……なっていたら恥ずかしい)
緊張のあまり、キスまでの時間が長く感じる。
そんな私の肩にカシスの手がそっと置かれた。
直後、唇が重なり……軽く触れるだけだったが、時間が長く感じた。
「……これで終わり?」
「うん、終わりだよ」
カシスは普段通りの様子で少し悔しい。
私だけが感情を掻き乱されている気分だ。
けれど私にはまだやりたいことが残っている。
ここは羞恥心をグッと堪え、再びカシスを真っ直ぐ見つめた。
「ねえカシス」
「うん?」
「私は誓いの言葉の通り、一生カシスのそばにいるって決めたの。だからこれはその始まり。カシスを止める止めないとか、王太子殿下に言われたからなんて関係ない。それ以前から私の心は決まっていたの」
そう言ってカシスの手を握る。
「もちろんカシスには真っ当に生きて欲しいと思っているから、私なりにわかってもらえるよう頑張るつもりだよ。けれどもし今後、カシスが悪いことに手を染めて堕ちていくなら……その時は私もついていくから」
カシスを導くためには、生半可な気持ちでは許されない。
だからこれは私の覚悟だ。
必ずカシスに真っ当な道を歩んでもらい、国に必要不可欠な存在だと証明すると決めた一方で、もし止められなかった時は……その時は、私も一緒についていこうって。
堕ちるところまで一緒に堕ちて、カシスが孤独に苦しまないように。
「もうカシスは独りじゃないよ。これからは何があってもずっと一緒」
「メアリー……」
カシスの目が輝いて見える。
無事に私の気持ちが伝わったようだ。
「俺が何をしてもメアリーはそばにいてくれるの?」
「うん、そばにいるよ」
「そっか……そっか」
カシスが顔を綻ばせたかと思うと、私を抱きしめてきた。
「何だろう、この気持ち……胸の奥がくすぐったい」
いつもより力強く抱きしめられて少し苦しかったが、カシスの感情が強く現れてるようで何だか嬉しい。
「忘れないでね、カシス。今日交わした誓いのこと」
「絶対忘れないよ。それに、君との思い出はずっと心に残っているから」
今は不安以上に、カシスとの幸せな未来に期待を膨らませる。
今日の誓いは私たちにとって、まだ始まりに過ぎなかった。
《第二章 完》
427
お気に入りに追加
1,505
あなたにおすすめの小説
わたしのヤンデレ吸引力が強すぎる件
こいなだ陽日
恋愛
病んだ男を引き寄せる凶相を持って生まれてしまったメーシャ。ある日、暴漢に襲われた彼女はアルと名乗る祭司の青年に助けられる。この事件と彼の言葉をきっかけにメーシャは祭司を目指した。そうして二年後、試験に合格した彼女は実家を離れ研修生活をはじめる。しかし、そこでも彼女はやはり病んだ麗しい青年たちに淫らに愛され、二人の恋人を持つことに……。しかも、そんな中でかつての恩人アルとも予想だにせぬ再会を果たして――!?
ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない
斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。
襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……!
この人本当に旦那さま?
って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ヴァルプルギスの夜が明けたら~ひと目惚れの騎士と一夜を共にしたらガチの執着愛がついてきました~
天城
恋愛
まだ未熟な魔女であるシャナは、『ヴァルプルギスの夜』に一人の騎士と関係を持った。未婚で子を成さねばならない魔女は、年に一度のこの祭で気に入った男の子種を貰う。
処女だったシャナは、王都から来た美貌の騎士アズレトに一目惚れし『抱かれるならこの男がいい』と幻惑の術で彼と一夜を共にした。
しかし夜明けと共にさよならしたはずの騎士様になぜか追いかけられています?
魔女って忌み嫌われてて穢れの象徴でしたよね。
なんで追いかけてくるんですか!?
ガチ執着愛の美形の圧に耐えきれない、小心者の人見知り魔女の恋愛奮闘記。
ヤンデレお兄様から、逃げられません!
夕立悠理
恋愛
──あなたも、私を愛していなかったくせに。
エルシーは、10歳のとき、木から落ちて前世の記憶を思い出した。どうやら、今世のエルシーは家族に全く愛されていないらしい。
それならそれで、魔法も剣もあるのだし、好きに生きよう。それなのに、エルシーが記憶を取り戻してから、義兄のクロードの様子がおかしい……?
ヤンデレな兄×少しだけ活発な妹
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる