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第二章
24.誓いのキス①
しおりを挟む社交シーズンが終わってからも、私は王都に滞在していた。
カシスも領地には帰らないと聞いていたため、迷いはなかった。
お父様は寂しからダメだと反対されたが、お母様が賛成してくれたおかげで、無事に王都へいられることになった。
(一刻も早くカシスとの関係性をどうにかしないと……)
このままではカシスとの心の距離が遠ざかる一方で、恐れている未来がやってくるかもしれない。
今までの自分の行いに反省しながらも、早速カシスとの関係修復のため動いていた。
「サプライズでカシスに渡す……いや、きっとバレるだろうし……指のサイズもわからない……一緒に行くべきか」
「メアリー様? 何をされているのですか?」
私は自室に籠って作戦を練っていると、お茶を用意してくれたライラに声をかけられる。
「これは……指輪、ですか?」
「そうだよ」
私は結婚指輪を作ろうと考えていた。
この国には前世のように、結婚の証となる指輪という概念が存在しない。
指輪とはアクセサリーの一種であり、それ以上の意味はないのだ。
それを利用し、私はカシスと前世の方法で契りを交わそうとしていた。
あくまで結婚の約束という意味合いにはなってしまうが、私の気持ちを伝える手段にぴったりだと思った。
(私はもう、カシスと生涯共にすると心に決めている。その気持ちを伝えたい)
そう心に決め、まずはある程度デザインを決める。
刻印は二人の名前のイニシャルを入れてもらおうか。そうすると特別感が増すだろう。
(けれど、これでもカシスに伝わらなかったらどうしよう……)
先日の舞踏会で冷たく見下ろされた時は悲しくなり、胸が痛んだ。
(きっとカシスも、私が避けたり逃げたりした時は同じように苦しかったんだろうな……)
いくら気弱になっても未来が変わるわけではない。
自分なりに全力で挑んでカシスにぶつかる勢いでいこうと思った。
◇◇◇
王都にある貴族御用達のアクセサリーショップの予約が済み、ようやく準備が整った。
カシスと約束を取り付け、舞踏会の日以降初めて会うことになった。
「カシス、お待たせ!」
カシスが迎えに来てくれ、馬車に乗る。
先日の冷たい目は何処へやら、カシスはいつものように温かな笑みを浮かべて私を迎え入れた。
「会いたかったよ、メアリー」
「時間が空いてごめんね」
「ううん。君が何かしようとしているのはわかっていたから大丈夫」
やはり私の行動がお見通しのカシスに、もう驚かなくなった私も私だ。そろそろ感覚が鈍ってきたらしい。
「アクセサリーが欲しいの? 好きなだけ買ってあげるよ」
「ふふっ」
「……どうして笑うの?」
「カシス、私の目的まではさすがにわかっていないでしょう?」
きっとカシスは私がアクセサリーを欲しく、カシスに買ってもらおうとしていると思っているのだろう。
「目的?」
「そう、目的! アクセサリーが欲しいわけじゃなくて……いや、欲しいのは欲しいのだけれど」
たまにはカシスを驚かせたくて、すぐには話さず黙っておくことにした。
「また俺が思いもよらないことを考えているの?」
「じゃあカシスも予想してみて。一緒に答え合わせしよう」
私がカシスの想像を超える動きをした時といえば、全て前世に絡むことである。
今回も前世の知識をフル活用のため、きっとカシスもわからないことだろう。
「楽しそうだね」
「たまにはカシスをあっと驚かせたくて」
やけに上機嫌な私を見て、カシスは笑みをもらす。
もっと気まずい空気が流れると思っていたが、問題なさそうで安心する。
だからといってあの時のカシスの言葉が嘘とも思えず、本気だということは重々承知だ。
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