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第二章
15.迫る①
しおりを挟む翌日の朝は、ここ最近で一番穏やかな目覚めとなった。
「メアリー様、おはようございます」
「おはよう、ライラ」
ライラが部屋を訪れ、いつものように髪を梳かしてもらっていると、突然ライラの手が止まる。
「メアリー、様……」
「ライラ……? どうしたの?」
鏡越しに目が合ったライラはなぜか照れていて、少し顔が赤くなっている。
「いえ……昨夜はカシス様とパーティーに参加されていたのですよね……?」
「そうだけれど……」
ギクッとしたが、昨日はカシスが家まで送ってくれたため、仮面舞踏会に参加したことはバレていないはず。
だったらライラのこの反応はどうしたのだろうかと気になった。
「そう、ですよね……特にカシス様とは何もありませんでしたか……?」
「ライラ? さっきからどうしたの?」
「もしかして……メアリー様、気づいていらっしゃらないのですか?」
「何の話?」
気になって振り返ると、ライラは顔を赤くしながら私の首元を指差した。
「ここを見ていただければ、わかるかと……」
「ここ?」
ライラに言われた通り鏡で確認した直後──
「……きゃあ⁉︎」
思わず立ち上がり、大きな声をあげてしまう。
なぜなら私の首元がほんのり赤くなっていたからだ。
(こ、これってキスマークでは……⁉︎)
考えられるのは、昨日の舞踏会でカシスにつけられたものだろう。
首筋から始まり、キスを繰り返されていたが……まさかその時につけられていたなんて!
(そういえば昨日、帰ってきた私を見てお母様は『まあ』と声をあげてニヤニヤしていた……絶対気づかれてる!)
一気に顔が熱くなる。
鏡に映る私は顔が赤くなっていて、余計に恥ずかしさが増した。
「カシスのバカ……」
「カシス様は、その……大胆な方だったのですね」
「い、言わないで! 恥ずかしいから……!」
朝からカシスのせいで散々だ。
これも昨日の罰というのなら、何も言えないが……いや、さすがにこれについては文句を言いたくなってきた。
「ライラ、決めた」
「はい?」
「今日カシスに会いにいく」
これから正式に婚約者になるのであれば、ある程度ルールを決めておかないと。
「え……連絡はしているのですか?」
「その点については大丈夫だから」
だってカシスは私をつけているのだ。
いつどこで誰が見ているのかわからないが、私がカシスに会いにいく情報もきっとすぐ本人に伝わることだろう。
そうして何食わぬ顔をして私を出迎えるのだ。
早速準備をして公爵邸へ向かう。
「申し訳ありません。カシス様は現在、公用で外出されていまして……」
しかし、まさかのカシスは不在だった。
引き返そうとしたが、なぜか使用人に止められてしまい、中へと案内されていた。
(昨日ちゃんと話したから、もう監視はやめてくれたとか……?)
もしそうだとしたら、カシスのヤンデレ化が止まったに等しいのでは? と思ったり。
「本日はお越しいただきありがとうございます」
つい考え込んでいると、使用人に声をかけられハッと我に返る。
「いえ、そんな……! むしろカシスがいないのに、案内していただきありがとうございます」
「私にお礼を言われる筋合いはありません。メアリー様を案内したのは、少しでもカシス様にお会いしていただきたいという私のわがままなのですから」
「え……?」
使用人は何やら深刻そうな顔をしていた。
「最近、カシス様は今まで以上に忙しくされていて……人前では決して疲れているそぶりを見せませんが、夜は遅くまで起きて朝も早く、カシス様の体調が心配なのです。早くお休みになってくださいという我々の言葉も、笑って誤魔化されるのです。ですがメアリー様のお言葉であれば、カシス様も聞いてくださるのではと思い……」
その話を聞いて罪悪感に苛まれる。
(カシスが寝る間も惜しんでいたのって、多分私のせいな気がする……通常の当主としての仕事にプラスして、逃げようとする私を阻止するために動いていたんだろう)
これは私が責任を取らないといけない。
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