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第二章

5.監禁未遂①

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 私が令嬢たちを牽制しているという噂が原因となり、より一層カシスを幸せにしてくれる相手探しは難航していた。

「はあああ……」
「メアリー様、どうされたのですか?」

 ある日の朝。
 ライラは私の髪を櫛で梳かしながら、大きなため息を吐く私を心配そうに見つめていた。

「最近上手くいかないことが多くて……」
「お噂は耳に届いていますよ。カシス様が大好きなのですね」

 社交界の噂はすぐ両親の耳に届き、お母様には『やり過ぎには注意するように』と言われたが、その時のお母様の顔はとてもニヤニヤしていて嬉しそうだった。

「そう見える……?」
「え、違うのですか?」

 ライラに本当のことを話そうかと思ったが、万一両親の……特にお母様の耳に入っては困る。

「ううん、なんでもない」
「メアリー様……そうだ、今日は予定など特になかったでしょうか?」

 何かを思いついた様子のライラにそう尋ねられる。
 今日は一日部屋でゴロゴロする予定だった。

「うん、ないよ」
「でしたら息抜きに外出するのはいかがでしょうか」
「息抜き……」

 確かに家でゴロゴロしても余計なことを考えてしまい、心が休まらない気がする。
 それなら外に出てパーッと買い物したり、美味しいものを食べて息抜きした方が良いかもしれない。

「よし、決めた! 今日は外出しよう!」
「かしこまりました。では一度、カシス様をお誘いしてはどうでしょうか?」
「今日はライラと一緒に行きたいな……ダメ?」

 どうやらライラは、最近私がカシスと会えておらず、落ち込んでいると勘違いしているらしい。

「本当に私でよろしいのですか?」
「もちろん! 今日はライラと一緒に出かけたい気分なの!」

 そう言って、私は早速外出の準備を始めた。



◇◇◇

 建国祭のような特別な日でなくても、王都はいつも人で賑わっていて、その空気感がとても新鮮だった。

(貴族たちの集まりだと、どうしても気を張ってしまうからな……)

 周りの目を気にせずにめいいっぱい遊ぶのは楽しい。
 今日はライラに提案してもらって良かった。

「はあ~楽しい」

 今日のお出かけは急遽決まったため、さすがにカシスも現れないだろう。
 これで現れたらもう絶対つけられていることが確定である。

(けれど……本当に、これでいいのかな)

 今はカシスの相手探しに専念しているが、仮にカシスを心から愛する人が現れたとして、カシスがその相手と同じ気持ちになるとは限らない。
 カシスは私のことをとても好いてくれているようだし……そんなカシスと向き合って、受け入れるべきではないかとも思う。

 けれどカシスの『好き』と私の『好き』は意味合いが違う。
 生半可な気持ちで受け入れようとしては、カシスを余計に傷つけるだけである。
 そのままバッドエンドに……という可能性もゼロではない。
 現時点で私がカシスを避けていても、監禁や精神支配といった予兆は見られないが、カシスの本性を知った時は色々と危うく、恐怖すら感じていたのだ。
 それが私の中でいつまでも不安要素として残っている。

(まあ、積極的ではあるけれど……色々と)

 思い出しただけで顔が熱くなりそうだ。
 距離の詰め方が大胆になったし、触れてくるようになったし、心臓が持ちそうにない。

「あー……!」

 今の自分の考えがうまくまとまらず、頭が痛くなりそうだ。

「メアリー様、大丈夫ですか?」
「あ、うん。大丈夫!」

 ライラに声をかけられ、すぐに笑顔を浮かべる。
 いくら悩んでも仕方がない。
 いつまでも避けてばかりではなく、一度カシスと話してみるべきかもしれない。

(最後にカシスの目を見て話したのはいつだろう……)

 あの一件以来、カシスとまともに目を見て話したことがないのを思い出す。
 私はカシスのことを何も知らなかったし、本当の姿を知ってからも、その真意を汲み取ろうとしなかった。

「……よしっ」

 私は覚悟を決める。
 一度、カシスと話そうと。

「ねえライラ。私、やっぱりカシスの元に行こうと……あれ」

 振り返ると、なぜかライラの姿がなかった。
 人ごみに紛れてしまったのかもしれない。

「ライラ? どこに行ったの?」

 すぐにライラの姿を探すが中々見つからない。
 きっとまだ遠くに入っていないはずなのに。

「ここはさすがにいない……よね」

 探すのに夢中で、気づけば人通りの少ない道に来ていた。

「いったいどこに……ふっ⁉︎」

 もう一度表通りに戻ろうとした時、突然背後から布のようなもので口元を塞がれる。

(な、なに……すごい力……!)

 息が全くできなくなり、意識が徐々に遠くなっていく。

(……う、誰か)

 声を発することもできないまま、私は目の前が真っ暗になった。


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