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第一章
27.婚約②
しおりを挟む「どうされたのですか?」
「メアリー……」
お母様はどこか躊躇いがちに私の名前を呼び、お父様の手には一枚の手紙があった。
「今回の件を聞きつけ、借金の肩代わりすることを条件に貴女に結婚の申し出があったのだけれど……」
「ほ、本当ですか⁉︎ 私で良ければ喜んで……」
「その、相手が……」
お母様の口から名前を聞いた私は、思わず家を飛び出さずにはいられなかった。
向かった先はもちろん、その相手の元だ。
(どうして……どうして、カシスが……!)
お母様の口から出た名前は、カシスだった。
カシスとの結婚を条件に、ヴィクシム公爵家が肩代わりしてくれるのだと。
けれど結婚など建前に過ぎず、きっとカシスが私の家を助けるために提案してくれたのだろうと。
「メアリー、急にどうしたの?」
「カシス……!」
事前の連絡もなく会いに行ったが、すぐ中に案内してくれ、カシスが来てくれた。
「もう聞いたんだね」
「ど、どうしてこんなこと……私なんかのために」
「伯爵家の話を聞いて、いてもたってもいられなかったんだ」
「だからって自分を犠牲にして……!」
「何も理由なく支援したら、二つの家には上下関係ができてしまって、今まで通り接することができないだろう? 君との関係が変わるのは嫌だと思って……だから結婚という形になってしまったけれど、君は嫌じゃない?」
「それはカシスに聞きたいよ! だってカシスには心に決めた人がいるのに、私なんかのために……」
「君を助けられるなら喜んで手を貸すよ、俺は」
「カシス……」
感謝の気持ちが込み上げ、思わずカシスに抱きつく。
「ありがとう、カシス。本当にありがとう。大好き……ごめんね、私のせいで」
「……ああ、そういう意味か」
突然カシスの口からゾッとするような冷たい声が出て、ぱっと顔を上げる。
「メアリー、どうしたの?」
けれど、カシスはいつも通り穏やかな笑顔を浮かべていて、先程の冷たい声は気のせいかと思った。
「いや……聞き間違い、かなって……けれど、『そういう意味か』って、なんの話……?」
「ほら、君は前にも『好き』って言葉にしていただろう? その意味が理解できたって話」
カシスの話を聞いて、つい勢いで『好き』と言っていたことに気づく。
そういえば前にもカシスに言っていたような……?
推しに対して息をするように『好き』と言う感覚と同じで、カシスに向けても無意識のうちに伝えていたようだ。
「けれど、これからは軽率に呟かない方がいいかな。他の男が勘違いして、君に手を出してしまうかもしれないから」
「わかった、気を付けるね。 あ、けれど……」
ふと思い返してみると、カシス以外の人に好きだなんて口にした記憶がない。
「今まで『好き』だなんて言葉、カシスにしか言ったことないや。そう考えると恥ずかしいね」
少し照れくさかったけれど、軽率に言う訳ではないことを証明したくて話した。
「俺に、対してだけ?」
「うん、そうだよ。カシスに対してだけ……カシス?」
ふとカシスを見ると、手で口元を隠し、私から視線を逸らしている。
カシスらしくない反応だ。
「そっかあ、俺だけか……うん、俺って単純だなあ」
「カシス、どうしたの?」
「ううん、こっちの話だから気にしないで。けれど、そうだな……気分が良いからこの件は許してあげる」
「……ありがとう?」
何に対して許してくれてるのかわからなかったが、私とカシスは結婚することになった。
とはいえ伯爵家はまず家の立て直しから始めないといけず、公爵家の気遣いで正式に結婚するのは立て直しの目処が立ってからになった。
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