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第一章
25.真実②
しおりを挟むデビュタントでの出来事は瞬く間に貴族の間で広まり、両親の耳にも入った。
「メアリー」
「……はい」
「どうしてカシス様と婚約しなかったの?」
なぜか私はお母様の前で正座させられ、怒られていた。
「そ、れは……カシスとは、ただの友人で」
「私たちはね、貴女が社交界デビューしたら二人は婚約すると思っていたの。だって貴女、キャロルにも婚約の約束を取り付けたんでしょう?」
「……え」
「なのにデビュタントでカシス様との関係を否定して? 一応噂では二人が想い合っているのにすれ違っていることになっていたけれど、いったいどういうつもり?」
転生してからこれほどお母様に怒られるのは初めてだったが、その理由がうまく理解できない。
「ま、待ってくださいお母様! 私がいつカシスと婚約の約束を……?」
「何を言っているの? カシス様の成人祝いの日にキャロルに伝えたのでしょう」
「いいえ、違います。確かに婚約の約束を取り付けましたが、私はフリップ様のつもりで……」
「……はい?」
「え?」
お互い目を丸くして見つめ合う。
数秒後、お母様がとても長いため息を吐いた。
「貴女、まさか……フリップ様のことを言っていたの?」
もしかしてお母様はフリップ様ではなくカシスのことだと思っていたのだろうか。
じゃあキャロル様も……?
「あの、お母様……キャロル様もカシスだと思って……?」
「ええそうよ、カシス様の成人祝いの日、私たちが帰る直前にキャロルに教えてもらったの。カシスと貴女は互いに同じ気持ちで、貴女が成人したら婚約するって」
「そんなのあり得ないです! だってカシスにも心に決めたお相手がいるようなので……」
「貴女それ本気で言っているの? カシス様はね、貴女が……いや、言わない方が良さそうね」
「……?」
お母様は途中で話を終えてしまう。
「残念だけれど、フリップ様との婚約は無理よ」
「え……ええ⁉︎ なぜですか!」
「フリップ様のお相手はすでに決まっているそうよ。正式な婚約はまだ結ばれていないけれど」
「そんな……」
フリップ様と結ばれるのはヒロインの私だと信じ込んでいた。
けれど今、フリップ様の家族の死を回避できたことで、未来が変わっている。
そのためフリップ様に婚約者ができてしまったとしたら納得できる。
けれど……そうか、フリップ様は私以外の人と……これからはフリップ様の成長とともに他の令嬢と幸せになる姿を応援する立場になるのか。
(思ったより、ダメージが少ないかもしれない……)
私は今まで小説の展開に縛られ過ぎていたようだ。
フリップ様との恋愛するイメージが湧かなかったのに、心のどこかではフリップ様と恋愛しなければならないとすら思っていたのだ。
けれどフリップ様に私ではない婚約者が決まったことで、その枠から脱出することができた。
これからはフリップ様と恋愛しようと思うのではなく、誰よりも近くで推せばいいのだ。
そう思うと心が軽くなる反面、なおさらカシスに申し訳なくなる。
こうして私は、小説とは違う未来を歩もうとしていた。
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