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第一章

21.パートナー探し②

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「もう諦めてお父様と行くしかないのか……」
「そんなに落ち込んでどうしたの?」

 その日の夜。
 私はため息を吐きなが独り言を呟いていると、お母様は心配そうに声をかけてくれた。

「実はデビュタントのパートナーが見つからなくて……お父様と行こうかなあと思っています」

 私の言葉にお父様は嬉しそうにしたが、お母様は怪訝そうな顔をしていた。

「何を言っているの? 貴女のパートナーは決まっているでしょう」
「えっ、誰のことですか……?」
「今更しらばっくれないの。キャロルから聞いているわよ。成人したら婚約するって」

 お母様は機嫌良く話していたが、まだ推しは成人を迎えていないため、パートナーにはなれない。

「ですが……事情が事情なので」
「何を弱気になっているの。きっと相手から来てくれるわ」

 お母様はニコニコと笑っていたが、その理由がわからないまま時が流れ──

「メアリー、成人おめでとう」

 十六歳の誕生日。
 カシスが伯爵家まで足を運んで祝ってくれた。
 十歳の誕生日から毎年欠かさず祝いに来てくれる。

「ありがとう、カシス」

 これほど大切に祝ってくれるのは、カシスと両親だけである。

「ようやくメアリーも社交界デビューの日を迎えるね」
「そうなの! やっとカシスに追いついた気分だよ」

 大人と子供の壁は大きく、ようやく近づけた気がする。
 とはいえ肝心のパートナーが決まっておらず、中々落ち着けない。

(そういえば、カシスには心に決めた人がいるんだよね……今年社交界デビューする令嬢の中の一人なのかな?)

 ふと気になって尋ねようとしたけれど、その前にカシスが口を開いた。

「俺も、ずっとこの日を待っていたよ」
「え……どうして?」
「メアリー。今度の君のデビュタントで、俺をパートナーに選んでくれないか?」

 カシスはあまりにもいつも通り穏やかな表情で話すものだから、理解するのに時間を要した。

(デビュタント……カシスがパートナー⁉︎)

 カシスがパートナーなんて、考えたことがなかった。
 今でもずっと私たちの関係を周囲に隠しているため、自然とパートナー候補から外していた。
 令嬢たちの嫉妬が怖いし面倒だから……という理由だったが、最近はカシスとの関係を聞かれることがあっても、あからさまに嫉妬されることはなくなっていた。
 みんな心も大人になっている証拠だろう。
 成人を機に、カシスとの関係を公にしてもいいかもしれない。
 ただ──

「いいの? その、周りに勘違いさせてしまうかもしれないし……」

 心優しいカシスのことだ、きっとパートナー探しに難航している私に手を差し伸べてくれたのだろう。
 しかしカシスには本命の相手がいて、パートナーはその人だと決まっているはずだ。
 私のパートナーになってくれたことで、本命の相手に勘違いされては困る。

「今回に限ってどうして弱気なの? 俺たち、同じ気持ちなのに」
「そう、だけど……」

 そっか。
 もし勘違いされても、お互いに心に決めた相手がいるのなら、いずれ噂など消えていくだろう。 

「じゃあ……その、私のパートナーになってくれる?」
「喜んで」

 まさかカシスが相手になってくれるとは思わなかった。
 驚きと同時に嬉しさが訪れる。

「良かったあ。このままだと私、お父様と参加しようと思っていたの」
「遅くなってごめんね。けれど、君が成人するまで待っていたかったんだ」
「ううん、嬉しい。ありがとうカシス。大好き!」

 ひとまずデビュタントは何とかなりそうだ。

「……俺も好きだよ、メアリー。先に言われちゃったな」
「そういえば、好きって言い合うのは初めてだね」

 友人として互いに心を許していたけれど、こんな風に言葉にしたことはなかった。
 勢いで言った部分もあるが、互いの絆を再確認できて良い機会になったかもしれない。

「私、カシスと出会えて良かったって心から思うの」

 小説では全く関わりがなかった分、前世の記憶がある私だからこそここまで関係を築けた気がして、本気でそう思った。

「やけに積極的だね。俺もそのつもりだったけれど……先を越されてばかりだな。ああ、ただ俺の方がきっと気持ちが大きいと思うよ。メアリー、俺と出会ってくれてありがとう」
「私の方こそありがとう、カシス」

 改めて関係の強さを確認でき、思わず抱きついてしまう。
 カシスは私をそっと受け止め、頬に軽くキスを落とされた。

(いま、頬にキス……キス⁉︎ この世界では、挨拶的な設定だっけ⁉︎)

 少し照れくさくて焦ってしまったけれど、挨拶的な意味合いということで落ち着いた。

「ふふ、カシスのおかげでデビュタントが楽しみになってきたなあ」

 一時はどうなることかと思ったけれど、無事に楽しめそうだ。
 こうして私はデビュタントの日を迎えた。

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