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第一章

13.交流③

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「今、カシス様は貴女の名前を呼ばなかった……?」
「あ、はは……き、気のせいかと」
「妹の隣にいるのが、カシスが話していたご令嬢か!」
「うん、そうだよ」

 しかしクラスタのお兄様の言葉で、もう逃げられなくなってしまう。
 クラスタは強引に私をカシスの元へと連れていく。

「いったいどういうことなのか説明して」
「そ、それは……あの」

 そして私は正座をしながら、早速問い詰められていた。
 チラッとカシスに目配せすると伝わったのか、私たちの間に入ってくれた。

「クラスタ嬢、だよね。君の兄から話を聞いているよ」
「わ、私の名前を覚えてくださっているのですか……⁉︎」
「もちろん、友人の妹だからね。俺が話を聞くから、ひとまずメアリーに迫るのはやめてあげて?」

 そう言ってカシスは私の手をそっと握り、立たせてくれる。

「あの、メアリーとの関係は……」
「周知の事実だと思うけれど、家同士仲がよくてね。俺たちの仲も深いんだよ。ね、メアリー」
「…………はい」

 これはもう認めるしかない。
 それに、クラスタにならバレてもいいかなとも思った。

「貴女、さっきはカシス様と軽い挨拶しか交わしたことのない関係だって言っていたのは嘘だったのね!」

 カシスにはまだ相談していないのに……! と思わず焦ってしまう。

「……へえ、メアリーがそんな風に話していたんだ」

 心なしかカシスの声のトーンが落ちた気がして、ゾッとする。
 これはさすがのカシスも怒っただろうかと不安になったけれど、カシスは目が合うなりニコッと笑ってくれた。

「何か理由があったんだよね」
「カシス……!」

 カシスならわかってくれると信じていた。
 ここはカシスが人気のあまりご令嬢の嫉妬が怖いと、正直に伝える。

「君に俺たちの関係を問い詰めてきた令嬢の名前は覚えてる?」
「それは覚えてますが……」

 今後、なるべく関わらないためにも顔までしっかり覚えた。

「じゃあ俺に教えて?」
「え、何のために……」
「警戒しておくためだよ。それともメアリーはもう俺と関わるのは嫌?」
「い、嫌じゃない! です!」

 これからも友好関係を築いていきたいし、何より推しとの仲を取り合ってもらうためにもここで離れるわけにはいかない。
 ここは素直に令嬢の名前を挙げることにした。

「もうお茶会は終わったの?」
「ううん、まだだよ」
「そっか。じゃあ終わるまで待ってていい?」
「えっ……」
「メアリーと一緒に帰りたいなって」

 そんなの、他の令嬢に見られてしまえば瞬く間に噂が広まってしまう。
 かといってカシスの厚意を無駄にするわけには……。

「お茶会はもうすぐお開きにしようと思っていたから、メアリーは一足先に帰っても大丈夫よ」
「えっ……クラスタ」
「ほら、カシス様と帰りなさい」
「あ、わ、わかった!」

 ある程度交流は深められたと思うし、終わろうと思っているならもう帰っても大丈夫だろう。
 私はクラスタと彼女の兄に挨拶した後、カシスと共に馬車へと向かう。

「お兄様。あの二人、本当に友人だと思いますか?」
「いや、あれはどう考えても違うな。カシスの方は特に」
「そうですよね。あの耳飾りが全てを物語っている気がします」

 私たちを見送るクラスタと彼女の兄が何やら話していたが、内容までは聞き取れず、私はカシスと共に場所に乗り込んだ。

「カシスは剣の手合わせをしていたんですね」
「そうだよ」
「しっかり見れなかったのが残念です……見た限りでは、カシスが相手の剣を弾いていましたよね!」

 見た目によらず、案外強いのかもしれない。
 目を輝かせながらカシスを見た時、ふと彼の耳に視線がいった。
 私と建国祭の時に買った耳飾りをつけていたのだ。

「あれ、カシス……その耳飾り、普段からつけているのですか?」

 正直高価なものではないため、特につける必要はないのに。
 それでもカシスがつけたら絵になるけれど。

「ああ、これ? これをつけていたら、君がそばにいるような気がして落ち着くんだ」
「カシス……」

 もうそれほど心を許してくれているのかと嬉しくなる。
 そんなカシスの誕生日すら把握していなかった自分が恥ずかしい。
 誕生日はカシスに喜んでもらうため、準備を頑張ろうと心に決めた。


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