上 下
12 / 86
第一章

12.交流②

しおりを挟む

「何度かお会いしたことがありますが、挨拶程度の関係でして……王都に来たのも今年が初めてなので、これからみなさんと交流を深めていけたらなと思っています」

 幸い、令息も参加する交流の場でカシスと出会したことはない。
 もしいつものように接したら、きっと注目の的だし令嬢たちの嫉妬の対象になってしまう。
 ヒロインが嫉妬の対象になるのは避けきれない事象だが、それは推しとの恋愛の時だけにしてほしい。
 カシスは本当にただの友人だし、やましいことは何一つないのだから。

(今度カシスに相談しよう)

 できるだけ早い方が良さそうだなと思っていると、私からカシスのことが聞けないと判断したのか、それ以上令嬢たちに問い詰められることはなかった。

「はあ、私もカシス様のようなお方と関わりがあればなあ……」
「諦めてはダメよ。ほら、今度カシス様のお誕生日でしょう? その時に何かプレゼントしてはどう?」
「きっと多くのご令嬢がカシス様に贈り物をするでしょうね」

 令嬢たちは未だにカシスの話をしていたが、私はその話を聞いて衝撃のあまり手を滑らせてカップの中身をこぼしてしまう。

「メアリー⁉︎ 大丈夫⁉︎」
「あっ、ご、ごめんなさい!」

 クラスタはすぐに使用人を呼んで対応してくれたけれど、頭の中では別のことを考えていた。

「メアリー、どうしたの?」
「な、なんでもない。ごめん、ぼうっとしていて……それより、カシス様の誕生日って?」

 声が震えないように気をつけ、先程の会話を続きを求める。

「あら、メアリー様も知らなかったのですね」
「ではやはり先程の話は本当でしたのね」

 聞いていない……そんなの、カシスの誕生日だなんて!
 衝撃の事実に震えてしまう。
 私の時はわざわざ家まで来て祝ってくれたというのに、危うくカシスの誕生日をスルーしてしまうところだった。

「私も何か贈ろうかしら」
「カシス様の目に留まって欲しいですわね」

 楽しそうに話していたが、私はそれどころではなかった。

「あ、メアリー! ドレスがシミになってしまうわ。急いで着替えましょう」
「え、クラスタ?」
「少し席を外しますね」

 クラスタは私の腕を引っ張り、その場を後にした。

「大丈夫? 顔色が悪かったけれど……」

 どうやらドレスのシミは口実で、私の様子を心配して連れ出してくれたようだ。
 余計な心配をかけさせてしまって申し訳ない。

「心配してくれてありがとう。でも大丈夫、ちょっと個人的な悩みがあって……」
「大丈夫ならいいけれど、何かあったらいつでも相談してね」
「クラスタ……ありがとう!」

 まだ出会って間もないが、気遣ってくれる姿を見てじんと心が温かくなる。

「でもドレスを口実に部屋を出てきてしまったし……せっかくだから私のドレスを着てみるのはどうかしら。ついでにそのドレスも洗うよう使用人に頼んでおくわ」
「ありがとう。じゃあそうさせてもらおうかな」

 私とクラスタは笑い合って、早速ドレスルームへ移動している時、突然窓の外からキインと甲高い音が聞こえてきた。

「あら、お兄様だわ。確か今日はご友人と一緒に剣の手合わせをすると……って、ええ⁉︎」
「クラスタ? どうした……の」

 クラスタと共に窓の外に視線を向けると、そこには銀色の髪を揺らす見慣れたシルエットがあった。

「あ、あれはカシス様ではなくって⁉︎」

 クラスタも友人が誰なのかは聞いていなかったようで、興奮している。
 私も驚いたけれど、その反面カシスにも友人がいたんだと嬉しくなった。

「い、行きましょう! カシス様に会いに! これは絶好のチャンスだわ……ハッ、彼女たちには絶対にバレないようにしましょう。きっと大変なことになるわ」
「私たちも行かない方がいいんじゃないかな……ほら、手合わせ中みたいだし、迷惑になるかも」
「……メアリー?」

 ここはお茶会の場に戻るのが最善だと思った私の言葉を遮るように、優しい声が私の名前を呼んだ。
 どうやらカシスが私に気づいたようで、こちらを見ていた。

しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

ヤンデレお兄様から、逃げられません!

夕立悠理
恋愛
──あなたも、私を愛していなかったくせに。 エルシーは、10歳のとき、木から落ちて前世の記憶を思い出した。どうやら、今世のエルシーは家族に全く愛されていないらしい。 それならそれで、魔法も剣もあるのだし、好きに生きよう。それなのに、エルシーが記憶を取り戻してから、義兄のクロードの様子がおかしい……?  ヤンデレな兄×少しだけ活発な妹

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

乙ゲーの主人公になって喜んでたら、ヤンデレ、メンヘラ、サイコパスに囲まれた病みゲーでバッドエンディングの予感しかしませんっっ!!

奏音 美都
恋愛
交通事故に遭って転生した先が乙女ゲーム、しかも自分がその主人公だと知って喜んでたわけだけど……なにやらおかしいことに気付いてしまった。 ヤンデレの弟、メンヘラな幼馴染、サイコパスな転入生……攻略キャラが病みすぎる。 こんな乙ゲー、ハピエンになるはずがねー!

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

義弟の為に悪役令嬢になったけど何故か義弟がヒロインに会う前にヤンデレ化している件。

あの
恋愛
交通事故で死んだら、大好きな乙女ゲームの世界に転生してしまった。けど、、ヒロインじゃなくて攻略対象の義姉の悪役令嬢!? ゲームで推しキャラだったヤンデレ義弟に嫌われるのは胸が痛いけど幸せになってもらうために悪役になろう!と思ったのだけれど ヒロインに会う前にヤンデレ化してしまったのです。 ※初めて書くので設定などごちゃごちゃかもしれませんが暖かく見守ってください。

ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)

夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。 ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。  って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!  せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。  新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。  なんだかお兄様の様子がおかしい……? ※小説になろうさまでも掲載しています ※以前連載していたやつの長編版です

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

処理中です...