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第一章
12.交流②
しおりを挟む「何度かお会いしたことがありますが、挨拶程度の関係でして……王都に来たのも今年が初めてなので、これからみなさんと交流を深めていけたらなと思っています」
幸い、令息も参加する交流の場でカシスと出会したことはない。
もしいつものように接したら、きっと注目の的だし令嬢たちの嫉妬の対象になってしまう。
ヒロインが嫉妬の対象になるのは避けきれない事象だが、それは推しとの恋愛の時だけにしてほしい。
カシスは本当にただの友人だし、やましいことは何一つないのだから。
(今度カシスに相談しよう)
できるだけ早い方が良さそうだなと思っていると、私からカシスのことが聞けないと判断したのか、それ以上令嬢たちに問い詰められることはなかった。
「はあ、私もカシス様のようなお方と関わりがあればなあ……」
「諦めてはダメよ。ほら、今度カシス様のお誕生日でしょう? その時に何かプレゼントしてはどう?」
「きっと多くのご令嬢がカシス様に贈り物をするでしょうね」
令嬢たちは未だにカシスの話をしていたが、私はその話を聞いて衝撃のあまり手を滑らせてカップの中身をこぼしてしまう。
「メアリー⁉︎ 大丈夫⁉︎」
「あっ、ご、ごめんなさい!」
クラスタはすぐに使用人を呼んで対応してくれたけれど、頭の中では別のことを考えていた。
「メアリー、どうしたの?」
「な、なんでもない。ごめん、ぼうっとしていて……それより、カシス様の誕生日って?」
声が震えないように気をつけ、先程の会話を続きを求める。
「あら、メアリー様も知らなかったのですね」
「ではやはり先程の話は本当でしたのね」
聞いていない……そんなの、カシスの誕生日だなんて!
衝撃の事実に震えてしまう。
私の時はわざわざ家まで来て祝ってくれたというのに、危うくカシスの誕生日をスルーしてしまうところだった。
「私も何か贈ろうかしら」
「カシス様の目に留まって欲しいですわね」
楽しそうに話していたが、私はそれどころではなかった。
「あ、メアリー! ドレスがシミになってしまうわ。急いで着替えましょう」
「え、クラスタ?」
「少し席を外しますね」
クラスタは私の腕を引っ張り、その場を後にした。
「大丈夫? 顔色が悪かったけれど……」
どうやらドレスのシミは口実で、私の様子を心配して連れ出してくれたようだ。
余計な心配をかけさせてしまって申し訳ない。
「心配してくれてありがとう。でも大丈夫、ちょっと個人的な悩みがあって……」
「大丈夫ならいいけれど、何かあったらいつでも相談してね」
「クラスタ……ありがとう!」
まだ出会って間もないが、気遣ってくれる姿を見てじんと心が温かくなる。
「でもドレスを口実に部屋を出てきてしまったし……せっかくだから私のドレスを着てみるのはどうかしら。ついでにそのドレスも洗うよう使用人に頼んでおくわ」
「ありがとう。じゃあそうさせてもらおうかな」
私とクラスタは笑い合って、早速ドレスルームへ移動している時、突然窓の外からキインと甲高い音が聞こえてきた。
「あら、お兄様だわ。確か今日はご友人と一緒に剣の手合わせをすると……って、ええ⁉︎」
「クラスタ? どうした……の」
クラスタと共に窓の外に視線を向けると、そこには銀色の髪を揺らす見慣れたシルエットがあった。
「あ、あれはカシス様ではなくって⁉︎」
クラスタも友人が誰なのかは聞いていなかったようで、興奮している。
私も驚いたけれど、その反面カシスにも友人がいたんだと嬉しくなった。
「い、行きましょう! カシス様に会いに! これは絶好のチャンスだわ……ハッ、彼女たちには絶対にバレないようにしましょう。きっと大変なことになるわ」
「私たちも行かない方がいいんじゃないかな……ほら、手合わせ中みたいだし、迷惑になるかも」
「……メアリー?」
ここはお茶会の場に戻るのが最善だと思った私の言葉を遮るように、優しい声が私の名前を呼んだ。
どうやらカシスが私に気づいたようで、こちらを見ていた。
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