22 / 86
第一章
22.デビュタント①
しおりを挟むデビュタントは貴族たちの間でも一大イベントのため、王城で大々的に行われる。
私はいつもより気合の入ったドレスを着て、カシスと合流して馬車に乗る。
「とても綺麗だよ、メアリー」
「ありがとう。カシスも格好良くて素敵だね」
さすがはヒロインだけあって、少し着飾れば周囲の視線を奪う美少女になったけれど、カシスも主人公の兄ということでキラキラオーラは負けていない。
むしろ私より注目されそうだ。
令嬢たちの間でいつもカシスは話題に上がっているし……そんなカシスの心に決めた相手って気になりすぎる。
今日わかるのだろうか。それとも私より年下?
私の知らないところで愛を育んでいたなんて。
全く気づかなかったのは少し悔しい。
それにしても……。
「あの、カシス?」
「うん? どうしたの?」
馬車の中。いつもは向かい合って座っていたけれど……今日はなぜか私の隣に座っているカシスといつも以上に距離が近い。
気がする、ではなく近いのだ。
「少し、近いような……」
「嫌?」
もちろん嫌じゃないが、圧倒的なオーラを放つイケメンが真横にいられると、さすがにソワソワしてしまう。
「嫌じゃない、けれど……」
「じゃあ構わないね」
そう言って、カシスは私の手にそっと自分の手を重ねてきた。
何だか今日のカシスの様子がおかしいような……いつもより、私に向けての視線が熱い気もする。
(なんか……気まずい)
沈黙が流れ、変な空気感になる。
いつも通りに接しようと思い、必死で話題を探した。
「そ、そうだ! フリップ様はお元気ですか?」
あれからフリップ様も歳を重ね、十四歳になった。
あと二年経てば小説本編のフリップ様と同じになる。
家族が生きているおかげで、フリップ様は幼少期と変わらず明るく元気な少年に育っていった。
それはもちろん嬉しいのだけれど……正直なところ、そんなフリップ様と恋愛するイメージが湧かない。
小説では家族が殺されて闇堕ちし、復讐に燃えるフリップ様と、部屋に篭もりがちだったが外に憧れるメアリーが、互いに寄り添って惹かれ合う。
その時のフリップ様は感情が乏しく、どこか大人びていて少年とは言いがたかった。そのせいか、今の明るい少年らしいフリップ様との恋愛を想像できないでいる。
とはいえ可愛いフリップ様も大好きだし、フリップ様が成人して大人になったら自然と惹かれ合って小説とは違う形の恋愛ができるはずだ。
「フリップ? 元気にしているよ。たくさん友人もいるみたいで、よく交流しているよ」
「さすがはフリップ様。フリップ様にしかない魅力がたくさんあるからね」
きっと人の心を掴むのが上手いのだろう。
未来の約束をしていなければ、フリップ様が他の令嬢に惚れてしまうのではと心配するところだった。
「……君はいつになってもフリップを気にかけているね」
「えっ、そ、そうかな? た、多分弟のように思えて気になっちゃうのかも」
そう、今のフリップ様に対する感覚はまるで弟を愛でているようなものかもしれない。
もちろんこれから変わっていく予定だけれど。
咄嗟に濁してしまったが、カシスも私に心に決めた相手を隠しているのだ。まだ話すタイミングではない。
そうこうしているうちに、王城へと到着する。
私とカシスは二人で会場入りを果たした。
(すごいたくさんの人……豪華な会場!)
いかにも高価な装飾品ばかりの会場は、まさに貴族たちのデビュタントにピッタリである。
ついそちらに意識が向いていたが、すでに会場入りしていた人たちの視線が一斉に集まるのを感じた。
440
お気に入りに追加
1,506
あなたにおすすめの小説
転生したので猫被ってたら気がつけば逆ハーレムを築いてました
市森 唯
恋愛
前世では極々平凡ながらも良くも悪くもそれなりな人生を送っていた私。
……しかしある日突然キラキラとしたファンタジー要素満載の異世界へ転生してしまう。
それも平凡とは程遠い美少女に!!しかも貴族?!私中身は超絶平凡な一般人ですけど?!
上手くやっていけるわけ……あれ?意外と上手く猫被れてる?
このままやっていけるんじゃ……へ?婚約者?社交界?いや、やっぱり無理です!!
※小説家になろう様でも投稿しています
転生先が羞恥心的な意味で地獄なんだけどっ!!
高福あさひ
恋愛
とある日、自分が乙女ゲームの世界に転生したことを知ってしまったユーフェミア。そこは前世でハマっていたとはいえ、実際に生きるのにはとんでもなく痛々しい設定がモリモリな世界で羞恥心的な意味で地獄だった!!そんな世界で羞恥心さえ我慢すればモブとして平穏無事に生活できると思っていたのだけれど…?※カクヨム様、ムーンライトノベルズ様でも公開しています。不定期更新です。タイトル回収はだいぶ後半になると思います。前半はただのシリアスです。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
婚約破棄したい悪役令嬢と呪われたヤンデレ王子
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「フレデリック殿下、私が十七歳になったときに殿下の運命の方が現れるので安心して下さい」と婚約者は嬉々として自分の婚約破棄を語る。
それを阻止すべくフレデリックは婚約者のレティシアに愛を囁き、退路を断っていく。
そしてレティシアが十七歳に、フレデリックは真実を語る。
※王子目線です。
※一途で健全?なヤンデレ
※ざまああり。
※なろう、カクヨムにも掲載
転生したら避けてきた攻略対象にすでにロックオンされていました
みなみ抄花
恋愛
睦見 香桜(むつみ かお)は今年で19歳。
日本で普通に生まれ日本で育った少し田舎の町の娘であったが、都内の大学に無事合格し春からは学生寮で新生活がスタートするはず、だった。
引越しの前日、生まれ育った町を離れることに、少し名残惜しさを感じた香桜は、子どもの頃によく遊んだ川まで一人で歩いていた。
そこで子犬が溺れているのが目に入り、助けるためいきなり川に飛び込んでしまう。
香桜は必死の力で子犬を岸にあげるも、そこで力尽きてしまい……
ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)
夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。
ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。
って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!
せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。
新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。
なんだかお兄様の様子がおかしい……?
※小説になろうさまでも掲載しています
※以前連載していたやつの長編版です
逃げて、追われて、捕まって (元悪役令嬢編)
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で貴族令嬢として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
*****ご報告****
「逃げて、追われて、捕まって」連載版については、2020年 1月28日 レジーナブックス 様より書籍化しております。
****************
サクサクと読める、5000字程度の短編を書いてみました!
なろうでも同じ話を投稿しております。
執着系逆ハー乙女ゲームに転生したみたいだけど強ヒロインなら問題ない、よね?
陽海
恋愛
乙女ゲームのヒロインに転生したと気が付いたローズ・アメリア。
この乙女ゲームは攻略対象たちの執着がすごい逆ハーレムものの乙女ゲームだったはず。だけど肝心の執着の度合いが分からない。
執着逆ハーから身を守るために剣術や魔法を学ぶことにしたローズだったが、乙女ゲーム開始前からどんどん攻略対象たちに会ってしまう。最初こそ普通だけど少しずつ執着の兆しが見え始め......
剣術や魔法も最強、筋トレもする、そんな強ヒロインなら逆ハーにはならないと思っているローズは自分の行動がシナリオを変えてますます執着の度合いを釣り上げていることに気がつかない。
本編完結。マルチエンディング、おまけ話更新中です。
小説家になろう様でも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる