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第一章
15.危機回避①
しおりを挟むそれから三年の月日が流れ──
「カシス、成人おめでとう!」
「ありがとう、メアリー」
ついにカシスが十六歳の成人を迎えた。
この年にヴィクシム公爵夫妻は殺され、カシスは濡れ衣を着せられて死ぬことになっている。
けれど今はスパイを取り除き、叔父も警戒しているため、大丈夫だろうと思っていた。
「あーあ、一足先にカシスが大人になっちゃったなあ……」
今まで歳の差を感じたことはなかったけれど、カシスが成人になった途端に大人と子供の壁を感じた。
この三年でカシスとの仲はさらに深められ、今では親よりも心を許せる相手になっていた。
それが急に遠く感じてしまい、少し寂しい。
「成人しても君との関係は変わらないよ」
「でもこれからカシスは社交界デビューして、今以上にたくさんの人たちと関わるようになるでしょう?」
そこでかけがえのない友人や、愛する人を見つけるかもしれない。
「嫉妬してくれてるの?」
「疎遠になりそうな気がして寂しいの」
私にとって一番の友人でも、カシスにとって違うと思うと寂しいものだ。
「メアリー、俺に耳貸して?」
「耳? どうして?」
今日は成人祝いでカシスの家に来ていたため、色違いの耳飾りをつけていた。
それはカシスも同じで……いや、カシスに至っては私と会わない日もつけているようだった。
そんな私の耳飾りをカシスは外したかと思うと……またすぐ重みを感じて顔を上げる。
「うん、綺麗だ」
「今、何をつけたの……?」
カシスの手には私がつけていた耳飾りがあった。
じゃあ私の耳についているのは……?
気になって姿見の前に移動すると、碧色の宝石が輝く耳飾りがついていた。
今までつけていたものとは明らかに輝きが違い、本物だとすぐにわかる。
「こ、これ……どうしたの?」
「君にプレゼントだよ。いや、お祝いしてくれたお返しかな」
「こんな高価なもの、お返しで貰えないよ……!」
「実は俺の分もあるんだ。ほら」
そう言ってカシスは嬉しそうに小さな箱の中身を開けて見せてくれる。
そこには、私がつけているものと同じ形だったけれど、碧色ではなく黄色の宝石が輝く耳飾りがあった。
「もちろん今の耳飾りも大切にとっておくけれど、これなら成人してからも気にせずつけていられるかなと思って」
「カシス……」
そんなに耳飾りを気に入ってくれていたなんて。
確かに今までつけていた耳飾りは、成人してからもつけるのには抵抗があるだろう。
「そうだ。せっかくだからメアリーが俺につけてくれる?」
「もちろん! 痛かったら言ってね」
私は耳飾りを受け取り、そっとカシスの耳につける。
それにしても本当に綺麗な顔だ。この三年で一気に大人びて、色っぽさすら感じられる。
「できた! カシス、とても似合ってるよ。素敵!」
「ありがとう、メアリー」
この笑顔……本当に眩しい。
令嬢たちの間でもカシスの人気は上がる一方で、未だに相手のいないカシスを射止める令嬢が誰になるのか、大注目らしい。
「そういえば、カシスは結婚とか考えたことないの?」
「結婚? どうしたの、急に」
「令嬢たちの間で、カシスの相手が誰になるのか話題になっていて……婚約者候補もいないの?」
「そこに君は含まれてる?」
ふとカシスの声のトーンが落ちた気がして顔を上げたけれど、彼はわざとらしいほどにっこりと笑顔を浮かべていた。
どうしたのだろう……少し様子がおかしいような。
「カシス……」
その時、会話を遮られるように部屋のドアがノックされた。
「あ、メアリー嬢! やっぱり来ていたんですね」
「フリップ様! お久しぶりです」
部屋に入ってきたのはフリップ様だった。
そう、成長して十二の歳になった推し!!
まだ目に光があり、純粋な笑顔は初めて会った時と変わらない。
ここから家族の死が原因で闇堕ちし、復讐のために生きていく姿は想像しただけでも胸が苦しい。
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