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第一章
14.誕生日
しおりを挟むカシスの誕生日が近づく中、残念なことにいいプレゼントが思いつかなかった。
「お母様……ご令息へのプレゼントって何がいいと思いますか?」
「カシス様への、でしょう?」
お母様は頭を悩ませている私を見て何やら嬉しそうに笑っている。
「そうです、カシスの……ですが絶対にカシスはたくさんプレゼントを貰うじゃないですか。何を買っても被るような気がして……!」
何かいい案は……そう、前世の知識を使ってでも。
「ああ!」
そうだ! と思いついた。
プレゼントは別に物でなくてもいい。
手作りの! お菓子というのはどうだろうかと!
喜んでくれるかはわからないけれど、カシスなら何を渡しても笑顔でお礼を言ってくれるだろう。
「お母様、私決めました!」
「あら、それは良かった。何にするの?」
「お菓子を作ります! 手作りのお菓子です」
私の答えが予想外だったのか、お母様は驚いていたが、怪我に気をつけることと料理長の付き添いを条件に、厨房使用の許可が降りた。
この世界で初めてのお菓子作りということもあり、ここは無難にクッキーを選ぶ。
「甘いもの、苦手じゃないかな……聞いてから作るべきだった……?」
誕生日当日。
私はソワソワしながら公爵邸へと向かう。
まだ社交界デビュー前ということもあり、カシスの誕生日パーティーは小規模らしく、ほぼ身内のみのようだ。
それは良かったと心のどこかで安心するが、ふと疑問に思った。
それはここ最近、交流の場で面倒くさい高貴な令嬢たちを見かけなくなったなと。
社交的な彼女たちとの遭遇率が高かったけれど、会うどころか問題行動の話すら聞かない。
むしろ何故か屋敷に籠っているらしいというおかしな噂もあった。
一時的なものかもしれないけれど、このまま大人しくしてくれたらカシスとは友人ですと堂々と公開できるなと思ったり。
「カシス! お誕生日おめでとうございます!」
「メアリー、来てくれてありがとう」
早速屋敷に到着するなり、私とカシスは親の計らいで二人きりになった。
誰かに見られてこのプレゼントを渡すのは恥ずかしかったため、ちょうど良かった。
「あの、これ……喜んでもらえるかわからなくて、きっと他の方の贈り物の方が良いと思うのですが……プレゼント、もらってくれますか?」
「君からもらえるなんて俺は幸せ者だね」
「そんな、大袈裟です。物じゃないのであまり期待しないでほしいです……」
恐る恐るクッキーの入った袋を差し出す。
「これは……」
「あ、安心してください! 私が作りましたが、料理長の助言もあったので……!」
「君が作ってくれたの?」
カシスはなぜか嬉しそうに話し、早速食べてくれる。
ドキドキしたけれど、彼は笑顔で「おいしい」と言ってくれて安心した。
「良かったあ……」
「本当に嬉しいよ。このまま取っておきたいくらいだ」
「それは腐ってしまうので食べてください……! それに、カシスのためならいつでも作ります」
もしかして、私のお菓子って意外と好評?
推しの胃袋掴む作戦でも良さそうな気が……と思った時、突然部屋のドアが開く。
そこから現れたのはカシスと同じ銀髪に、瞳の色は赤い少年だった。
そこには私がよく知り、大好きな推しの面影があり……すぐに推しのフリップ様だとわかる。
(お、お、お、推しがついに目の前に……! ま、まさかまさかの……ていうか超可愛いのだけれど! 待って! 心の準備が……)
なかなか推しと会えなかった私は、最近では会えることすら諦めていた。
そんな時に限ってこんな簡単に会えるだなんて!
「メアリー? どうし……」
「兄上」
「……フリップ。部屋に入る時はノックはしないとダメだろう?」
「ご、ごめんなさい」
カシスに注意され、しゅんと落ち込んでしまう私の愛おしい推し。
いや可愛すぎる。これは鼻血ものだ。
小説では復讐に燃え、鋭く恐ろしい目つきの推しのイラストが多かったため、こんな……こんな純真な姿に出会えるなんて!
今すぐがっつきたいところだが、儚いヒロインに一目惚れしてもらわないといけないため、お淑やかな少女を演じる。
「えっと、カシス。その方は……?」
興奮で声が震えてしまわないように、必死で平静を装う。
「紹介するよ。俺の弟のフリップだ」
「あっ。もしかして、この方が俺に会いたがってる人ですか?」
私の存在が認知されている……? 推しに⁉︎
そう考えると今すぐ空をも飛べそうだ。
「お初にお目にかかります。メアリー・ジョゼットと申します」
ここは控えめな挨拶をするが、内心ドキドキして心臓が壊れてしまいそうだ。
「俺はフリップです。貴女が兄上の友人ですか?」
可愛い。質問の仕方がもう可愛い。
小説での格好いい姿からは想像できないほど可愛い。
これが闇堕ちする前の推しなのかと思うと、永遠にこの可愛さを守りたい。
「はい、そうです。いつも仲良くしてもらっています」
「……いいなあ」
ボソッと羨ましそうに吐いた後、再び推しはしゅんと落ち込んでしまう。
苦しい、胸が苦しい……! こんな可愛い姿を見せられて平静を保つ方が難しい。
「フリップ様のお兄様は、友人のいない私に手を差し伸べてくれたんです。とても優しいお方ですね」
「……! そう! 兄上は誰にでも優しくて、いつも笑顔で、みんなに慕われているんです!」
自慢の兄です! と公言しているようで、兄弟愛の強さに卒倒してしまいそうだ。
「はい、とても素敵な方です」
「あ、でも女の人の友人を見たのは初めてです」
「そうなんですか?」
「こら、フリップ。余計なことは言わない」
軽く怒られる推し可愛い……萌えの塊だ。
「それより、ここには何の用で?」
「あ、母上たちが二人を待っていて……ゆっくりで構わないって言っていたけれど、兄上のためにたくさん準備してきたから……来て欲しいです」
かーわいいのだが。
こんな可愛くお願いされて聞かない人間なんていないだろう。
「もちろんです! すぐ行きますね! 行きましょう、カシス」
「……そうだね」
私たちは推しの後をついていくように、会場へと向かった。
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