お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました

群青みどり

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6.一筋の不安

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 いつから公爵様……いや、セピア様は私のことが好きだったのだろう。
 過去を思い返しても、セピア様に働いた不敬ばかりが頭に浮かぶ。

「あの、セピア様」
「どうした?」

 セピア様と婚約が結ばれてから一週間が経った。
 セピア様は仕事が忙しいようで屋敷にいない時間が多かったが、それでも毎日必ず時間をとって私に会いに来てくれた。

「無理に時間を作って会いに来てくださらなくて大丈夫ですよ……? それよりもセピア様のお体が心配です」

 セピア様が不在の時は、屋敷で何かをする……わけでもなく。
 不安になるくらい、毎日自由に過ごさせてもらえていた。

「私の心配してくれるのは嬉しいが、君との時間が一番の安らぎだから」

 そう言って私の肩を抱き寄せ、頭にキスされる。
 日に日にセピア様のスキンシップが増していて、その度にドキドキしていた。
 まさかここまで積極的な人とは思っていなかった。

「……どうかしたのか?」

 一緒に過ごすことで、私の知らなかったセピア様の一面が増えていく。
 今だって恥ずかしがる私の反応を見て楽しんでいて、意地悪な一面もあるのだなと思った。

 そんなセピア様の積極的な姿に押され、一週間経った今でも婚約破棄に向けた良い案が全く思い付かないでいた。
 それにこの屋敷での生活があまりにも快適すぎるのも、理由の一つだったりする。
 使用人のみんなも優しくて、ご飯も美味しくて……幸せだなあって。

 チラッとセピア様に視線を向けると、愛おしそうに私を見つめていた。
 こんな風に誰かに愛されることは初めてで戸惑う部分もあるけれど……なんだかくすぐったい気持ちになる。

「いえ、なんでもありません」

 それと同時に罪悪感が私を襲った。
 私はセピア様に隠し事をしている。
 それは私が本物の聖女である、ということだ。

 セピア様を信じていないわけではない。実際に何度も話そうと思った。
 けれど本当のことを話したところで、聖女として生きていくつもりはないのだとセピア様が知った時に幻滅されるかもしれないと思うと怖かった。
 だってセピア様は国一番の魔導士として、この国を守るために動いている。力があるのに国のために動こうとしない自分が余計惨めに感じるのだ。

「怪我はどうだ?」
「え……あっ、はい。この通りほぼ完治しています!」

 額に傷痕こそ残っているけれど、前髪で隠せるし何の問題もない。
 そのため婚約破棄にしてくれて構わないのに。一度この話をしたら見事にスルーされてたけれど、改めて話したら考え直してくれるのでは──

「……っ、」

 もしそれで本当に考え直してくれたら?
 婚約が無事に破棄されたら?
 そう考えると、なぜか言葉に詰まってしまう。
 あれだけ婚約破棄を目指していたのに……と、今の自分にモヤモヤしていると、突然ふわっと全身が何かに包まれた。

「……え」
「すまない、苦しい思いをさせて」

 どうやら私はセピア様に抱きしめられたようだ。
 罪悪感に満ちた声で謝罪され、私が傷痕を気にしていると勘違いしているのだろう。

「セピア様! 私、怪我の痕を気にしているわけではありませんよ?」
「……無理をする必要はない」

 やはりセピア様は勘違いしている。
 罪悪感を煽ってしまって申し訳なかったけれど、これ以上何を言っても自分を責める気がして黙ることにした。

「だがこれだけは伝えさせてほしい。この傷も、私にとっては愛おしいのだと」
「なっ……」

 セピア様は額にある私の傷にキスを落とす。
 まさかあの堅い求婚から、ここまで甘い生活が待っているとは思っていなかった。

 さらにセピア様のキスは続き、額の次はまぶたに、頬に、耳に……と場所を変えて繰り返される。
 今日はいつも以上に攻めが続き、ドキドキしすぎて心臓が壊れてしまいそうだ。

「セピア様、もうこれ以上は……」
「もう限界なのか?」

 セピア様はむしろ物足りなさそうにしているけれど、私の身が持ちそうにない。

「申し訳ありません……」
「まあ、時間などこれからいくらでもある。ゆっくり慣れていけばいい」

 慣れていくって、セピア様のキスにってことだろうか?
 絶対に慣れる気がしない。

「セピア様がここまで甘いって聞いてません……!」
「今まで我慢してきたんだ。多少のことは目を瞑ってくれ」

 多少ってことは、セピア様にとって今のキスは軽いという判断なのだろうか。
 つまり、今後もっとすごいことをされるということでは……。

 その時は私の心臓が持たない気がする。
 けれどセピア様の色っぽい笑みを前に、私は何も言えなかった。



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