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6.進展
しおりを挟むそれ以降、二人の時間は増えていった。
一緒に食事をとったり、寝る前に言葉を交わしたり。
夫婦らしいことは何一つなかったが、ラーニナはロイスと過ごす時間が幸せで堪らなかった。
「ラーニナ。そこで何をしているんだい?」
「あっ、ロイス様!」
アメジスト公爵家の庭園に興味を持ったラーニナは、庭師の指導を受けながら庭の手入れをしていた。
ロイスが屋敷にいる時も今までと変わらず、自由気ままな生活を送っていたラーニナ。
その姿を屋敷の窓から眺めていたロイスが、彼女に声をかけたのだった。
「今は庭の手入れを体験していますの。こちらの庭園が魅力的で、庭師の手腕が気になりまして……」
「では今から一緒に庭園でお茶でもどうかな?」
「まあっ、嬉しいですわ。すぐに用意して参ります」
ラーニナはとてもお茶をできる格好ではなかったため、急いでドレスに着替える。
すでにロイスが待っていて、ラーニナは慌てた様子で声をかけた。
「お待たせして申し訳ありません」
「構わないよ。それより、先ほどの姿とは似ても似つかないね」
(うっ……さすがに好き勝手やりすぎたかしら。ロイス様の誘いに浮かれていたけれど、明らかにロイス様の機嫌が良くない……でも今日も美しいわ)
ロイスの棘のある言い方に、ラーニナは苦笑する。
「この間は馬の世話をしたり、騎士団の鍛錬にも参加していたらしいね?」
「はい!とても楽しかったですわ」
「お菓子作りもまだ続けていると?」
「ええ……あの、ロイス様?」
(やっぱり怒っていらっしゃる……⁉︎早く駆け落ちする準備や子を作れとかって思っているのかしら)
ラーニナは深読みしてしまい、落ち込んでしまいそうになったが、隙を見せないよう気を引き締める。
「怪我でもしたらどうするんだい?もう少し自分の体を大切にしないと」
「え、あっ……そ、そうですわね!わたくしの悪い癖かもしれません」
心配そうに見つめられ、ラーニナの胸が高鳴った。
その表情に騙されてはいけないのに、本心かもしれないと信じたくなった。
「今後は私も同行しよう。ミリア、ラーニナが何かする時はすぐに報告してくれ」
「えっ」
「かしこまりました」
「そんな、ロイス様の時間を割いていただくわけには」
「ラーニナ。私たちは夫婦としてもっと一緒に過ごすべきだと思わないか?お互いのことを知っていこう」
どこか熱い視線に耐えられず、ラーニナは思わず俯いた。
(これが演技だなんて、さすがロイス様……恐ろしいほど魅力的な方……危うくその瞳に吸い込まれそうになったわ)
早く返事をしなくてはと思い、気を取り直して顔を上げる。
「わたくしもそう思います」
「では決まりだね。じゃあ早速、私から君に聞きたいことがあるんだ」
「わたくしに、ですか?」
「君の愛する人の名前、教えてくれないか?」
想定外の質問にラーニナは目を丸くする。
しかしロイスには何か裏があってこの質問をしたのだろうと思い、理由を探ろうとした。
「突然どうなさいましたか?」
「ずっと知りたかったんだ。私は子を奪う側として、その責任はしっかりと負いたい。だから君の相手のことも知っておきたくて……叶うなら、相手とも一度話してみたいな」
(わたくしの愛する人の名前はロイス様ですと言えたら、どれだけ良かっただろう……けれど、それは許されない)
ラーニナは結婚後も、怪しまれないよう嘘の駆け落ち相手と何度か会っていた。
そのおかげで信憑性が増し、責任を負うと言ってくれているのかと彼女は思った。
「相手の名前はマイケル・ダドリですわ」
(まあ、偽名だし身分も偽ってくれているのだけれど)
ここで答えなければ返って怪しまれるかもしれないと、ラーニナは素直に相手の名前を伝えた。
「そうか、教えてくれてありがとう」
ロイスの満足そうな笑みを見て、ラーニナは胸が締め付けられるように苦しくなった。
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