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時が欠ける少女

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ガッチャァァァンッ!!

床に叩きつけられた腕時計の断末魔が部屋中に響き渡る。

「あ、あぁ…。い、いやぁぁぁっ!?」

悲鳴を上げる妹は、弱々しくしゃがみ込むと、時計だった部品を手繰り寄せながら大泣きした。

…こうなったきっかけは、些細な喧嘩だった。
言い争いがどんどんヒートアップし、気づいた頃にはテーブルの上に置いてあった妹の腕時計に手が伸びていた。

それは、去年亡くなったおばあちゃんから妹が貰ったものだった。
おばあちゃんっ子だった妹はそれをすごく大切にし、出かけるときはいつも身につけていた。

……『やってしまった』と思う頃にはもう全てが遅い。

「ちょっとっ!今の音なにっ!?」

2階から大急ぎで降りてきた母からは、“きついお仕置き”を言い渡されることになった。



「ゆめ、…覚悟は出来てるわね?お尻百叩き、始めるわよ」

「…はい」

わたし達から事情を聞いた母は、お仕置き用のヘアブラシを持ってくると、わたしのスカートとパンツを足首まで脱がせた。

突然すぎて反応が鈍ったわたしは、そのまま膝の上に連行され、現在に至っている。

もう中学生になったのに、こんな恥ずかしいお仕置きを受けるなんて…。
剥き出しの下半身にスースーと空気が当たる感覚が、わたしの頬を赤く染めていく。

妹はしゃがんだ姿勢のまま、わたしのことをじっと睨んでいた。

バヂンッ!

「い、いちっ!」

お尻の真ん中に叩きつけられるヘアブラシが痛々しい音を部屋中に響き渡らせる。
久しぶりの鋭い痛みに、呼吸が少し乱れるのを感じた。

「喧嘩して物に当たるなんて、恥ずかしいことだと思わないのっ!」

バヂンッ!

「にいぃぃぃっ!!ご、ごめんなさいっ!」

「ののが大事にしてる時計を壊して、ちゃんとののに謝ったのっ!?」

バヂンッ!バヂンッ!

「さんっ!しぃぃっ!!…のの、ごめんなさいぃっ!!」

お尻の痛みが重なる中で、わたしは妹の方を見て精一杯謝罪する。

ののは、わたしを睨みながら「…ぜったい、ゆるさない」と小さく呟いた。

バヂンッ!バヂンッ!バヂンッ!

「ごぉっ!ろくぅっ!ななぁぁっ!!」

間髪入れず、お尻にヘアブラシが叩きつけられ、わたしの意識はののから離れていった。



バッヂィィンッ!!

「ひゃ、ひゃくうぅぅっ!!」

ようやく百叩きが終わる頃には、お尻は全体的に赤く腫れあがり、所々に痣が浮かんでいた。

「これに懲りたら、もう二度と物に当たらないことね」

「はい、…ごめんなさいでしたぁ」

「…もう一回ちゃんとののに謝りなさい」

このお仕置きのせいで汗や涙で酷くなった顔を妹に向ける。

「のの、…ごめんなさい」

「…ゆるさない、…ぜったいゆるさない……お姉ちゃんなんて、一生おしおきされてればいいんだ」

ののの頬から落ちる涙が、手に持つ時計の残骸に落ちる。
…その瞬間、部品全体が赤く光り出した。

「えっ!?」

わたしはつい眩しさから、目を閉じてしまう。

…。

再び目を開けると、ののは変わらずわたしを睨んでいた。

「ゆめ、…覚悟は出来てるわね?お尻百叩き、始めるわよ」

「……は?」

今聞こえた言葉が理解できず、母の方を見る。

「その返事は何っ!あんた本当に反省する気があるのっ!?」

「だ、だって、お仕置きは今終わったばかりでしょっ!?」

「何言ってんのよっ!まだ一発も叩いてないでしょっ!!素直にお仕置き受けれないなら、数を増やすわよっ!?」

「そ、そんなっ!だって…」

わたしは恐る恐る自分のお尻に触れると、先ほどまでの痛みは消えていた。
それどころか、お尻に熱すら残っていない。

「な、なんで…」

さっきのお仕置きは、夢だったの?
…いやっ、そんなわけがない、あの“痛み”は本物だったっ!

「ゆめ、お仕置き前にお尻を庇うなんて、いい度胸ね。」

「ち、違うのっ!これは…」

「反省する気持ちがないなら、数を二百発に変更しなきゃね。さあ、早くその手をどかしなさい。お尻叩き二百発よっ!」

「な、なんでよぉっ!」

わたしはもう投げやりになりながら手を戻す。

バヂンッ!

「いだいっ!」

すかさず入る鋭い痛みに、目から涙が溢れ出した。
なんで、なんで?…なんでなのっ!?
さっきお仕置き受けたんじゃないのっ!!

「ゆめっ、数はどうしたのっ!一発目からやり直しっ!」

バヂンッ!

「あぁっ!い、いちぃぃぃっ!」

もはやヤケクソになったわたしは、怒りに任せ、その後のお仕置きを受け続けた。



バッヂィィンッ!!

「に、にひゃぐうぅぅぅっ!!」

二百発が終わる頃には、お尻は痣と内出血で覆われていた。
反省が足りないとして途中から太ももも叩かれ、その部分にも痣が出来ている。

先ほどの百発を足せば、合計三百発だ。

…今までのお仕置きで、ここまで数が膨れ上がったことは無かった。

「はあ…はぁ…」

「これに懲りたらもう二度と物に当たらないことね」

「…。」

「…もう一回ちゃんとののに謝りなさい」

「のの、ごめんなさい」

わたしはののを睨みつけながら渋々呟いた。
本心は謝る気など、さらさら無い。

「ちゃんと謝りなさいっ!!」

バッヂィィンッ!!

「んぎゃぁぁぁっ!?ののっ、ごめんなざぁいいっ!!」

すでに限界を迎えているお尻に叩きつけられる痛みから、わたしの喉から勝手に声が絞り出される。

「まだまだゆるさない……お姉ちゃんなんて、一生おしおきされちゃえ」

「はぁっ!?あんたいい加減に…」

これ以上にお仕置きが増えそうな予感がして怒鳴りつけようとした時、また時計が赤く光り出した。

『ま、まさかっ!?』

…。

その光の強さから目を閉じ、再び開けると、今度はののが薄く笑ってこちらを見つめていた。

「ゆめ、…覚悟は出来てるわね?お尻百叩き、始めるわよ」

「あ、あぁ…」

わたしは咄嗟に自分のお尻に手を当てる。
さっきまでの鋭い痛みや熱は、…無いっ!?

「ゆめ、お仕置き前にお尻を庇うなんて、…いい度胸ね。」

「も、もういやぁぁぁっ!?」



それからもわたしのお仕置きは何度も何度も続いた。

「の、のの様、お願いじまずっ!もうゆるじてぐだざいっ!!」

「……ゆるさない」

「いやぁぁぁっ!!」

…そしてまた世界が戻される。

……それからわたしが許されることは、本当に無かった。


「完」
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